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映画が大好きです。いつまでも青臭い映画好きでいたい。 記事は基本的にネタバレありです by 真紅 (言葉を探す人)   ★劇場鑑賞した映画は Instagram にアップしています @ruby_red66 ★Stay Blue

平和を祈りたい~『ワールド・トレード・センター』

20061019140050.jpg

 2001年9月11日火曜日。NYの世界貿易センタービル(WTC)に、ハイジャックされた
民間航空機が衝突した。NY港湾警察に勤務するマクローリンニコラス・ケイジ)、
ヒメノマイケル・ペーニャ)らは、ビルに取り残された人々の救助に向かうが、
倒壊したビルの瓦礫の下敷きとなってしまう。彼らの救出を願う家族と、極限状態に
置かれても希望を捨てなかった人間の真実を描く、実話に基づいたストーリーだ。

 正直、暗い映画館のシートで観ながら逃げ出したいほどの恐怖を感じ、どうしても
五年前のことを思い出さずにはいられなかった。あの日、ニュースステーションから
流れるCNNの映像にずっと釘付けになり、「世界はこれからどうなるんだろう」不安で
よく眠れなかったのを憶えている。この作品にも、世界各地であの日のニュース映像
に見入る人々のシーンが挿入されている。まさしく世界中が目撃者となった、未曾有
の大惨事
だったと思う。

★以下ネタバレします★

 一番印象的だったのは、「愛する」ということの意義。彼ら(アメリカ人)は、
愛する家族はもちろん、同僚にも"I Love You"と呼びかける。自分も死ぬかもしれ
ない救出作業に向かう前にも、「家族に愛していると伝えてくれ」と言う。
"I Love You"、そのシンプルな言葉を聞く度に、涙が流れて仕方なかった。人が最後
に伝えたいことはたった一つ「自分が誰かを愛していた」ということなんだ。救出さ
れた二人の妻が夫を見たとき、ヒメノが妻を見たとき、"Baby"と言うのにも泣けた。
"Honey"でも"Darlin'"でもなく、一番愛しい人は"Baby"なんだ・・。
会いたい誰かがいなかったなら、マクローリンもヒメノも、ずっと早くに生きること
を諦めていたに違いない。

 キャストの演技もよかったと思う。生き埋めの状態で、ヒメノが少し元気すぎるか
とも感じたが、それは瀕死のマクローリンとの対比なのだろう。夫の身を案じる妻
を演じたマギー・ジレンホールマリア・ベロも共感できる演技だったと思う。
マリア・ベロのアイスブルーの瞳と、水色(空色)の衣装がマッチしていて美しい。
  
 そしてもう一つ考えさせられたのは、元海兵隊員のエピソード。彼と『ランド・オブ
・プレンティ
』のポールが重なって見える。9・11後のアメリカを描いたこの作品で、
ヴェトナム帰還兵としてたった一人、母国アメリカをテロリストから守ろうと活動する
ポール。「母国アメリカは今、戦争状態にある」そう言って元海兵隊員も、使命感から
髪を(多分ジャーヘッドに)切り、迷彩服を着込んで単身NYに乗り込む。

 この作品は「政治色は排除されている」ということになっており、それが原因で批評
する向きもあるようだが、全く政治色がないわけではないと思う。元海兵隊員がNYに
向かう前、教会の十字架に「神に導かれている。行かねばならない」と言う下りは宗教
右派
(ブッシュ支持)を連想させるし、ラスト近くには「これからは(自分のような)
ベテラン兵士が必要になるだろう」というセリフもある。「その後彼は復員し、イラク
戦争に従軍した
」という最後に出るテロップからも、これは9・11後、泥沼化したイラク
戦争=報復
を示唆しているように取れる。結果として彼の存在がマクローリンとヒメノ
を救ったことからも、オリバー・ストーンがそれらを肯定的に描いていると見て取れな
いだろうか。

 もちろん、この映画は「一人ひとりの人間は慈愛と勇気に満ちている」と信じさせ
てくれる。だからこそ、9・11後に世界(アメリカ)を覆った国粋主義や、民族差別主義
が悲しい。憎悪の連鎖はどこかで断ち切らねばならない。犠牲者たちの鎮魂
ためにも、ただひたすら平和を祈りたい

(『ワールド・トレード・センター』監督:オリバー・ストーン
        主演:ニコラス・ケイジマイケル・ペーニャ/2006・USA)
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テーマ : ワールド・トレード・センター
ジャンル : 映画

2006-10-19 : 映画 : コメント : 7 : トラックバック : 5
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こんばんは。
観た方の数だけ、多種多様な意見がある作品ですね。
そんな中にあって、わたしは一番単純に、描かれたものをそのまんま観たのだと思います。
政治的な意図があるにせよ、ないにせよ、
それも含めて、観る人に答えを委ねられているのかもしれません。
また、観る時期や立場によっても、大きく異なる感想を持つ作品だと思いました。
2006-10-19 20:07 : 悠雅 URL : 編集
真紅さん、この映画はよく出来た感動劇
だと思いましたけど、個人的にはいろんな事を考えてしまうので、普通に映画として評価するのが難しいと思ってしまいます。
ストーン監督もわざとこういう映画にしている
のかな?と見て取れる部分もありますし・・。
でもいろんな意見が出るからこそ、意義が
あるのかもしれないですね。
2006-10-19 20:19 : kazupon URL : 編集
悠雅さま、kazuponさま、こんにちは。コメントとTBをありがとうございます。コメントレスをまとめさせて下さい。

☆悠雅さま
「観る人に委ねられている」確かにその通りですね。
暗い映画館で観るのと、自宅のソファで観るのとではかなり印象が変わりそうですし、数年たって世界情勢がまた変化したときに観ても、違った印象かもしれないですね。
当事者であるアメリカがこの作品をどう評価しているかも知りたいと思いました。
テロや戦争のない平和な世の中になって欲しい・・、それが世界共通の願いであることを信じたいです。
またお話しましょう。ありがとうございました。

☆kazuponさま
BBMの記事にもTBをありがとうございました。
私も「感動作」と書こうかと最初は思ったのですが、なんだかストレートにそう書くのが憚られてしまいました。
それはやはり、9・11後にアメリカを始め世界がどう変わったか、さらに多くの血が流されたことを知っているから、素直に「感動した」と言えないのですよね。
何十年たっても9・11は風化せず、平和や命の尊さを考えるきっかけにこの作品がなればいいと思います。
そのためにも、いろんな意見があっていいのだと思います。常に自分の頭で考えて、流されないようにしたいですね。
では、またいらして下さい、私も伺いますね。ありがとうございました。
2006-10-19 23:59 : 真紅 URL : 編集
初めまして、真紅さん。長文失礼します。
この「WTC」は賛否両論が大きいと聞きますが、考えさせられる物があるようですね。映画を多角的に見る感性をお持ちのようですね。私はDVDで鑑賞予定ですが、主人公たちにとっての奇跡を観ようと思います。一方で10日まで重要な生還者のロドリゲス氏が来日していました。(下部リンク参照)
http://harmonicslife.net/Blog/2006/JimmyWalterTVAds/comm_william.wmv

ツインタワー崩壊したのは「火災が原因」とする公式報告書が一般認識ですが、計画的な「制御破壊でビルは爆破」されたと言及する、9/11ドキュメンタリー映画「LOOSE CHANGE = ルース・チェインジ」が大人気なのをご存知でしょうか? ディラン・エイブリー青年監督の作品が、世界中で意識変革を起こしています。日本でもようやく10月末にDVD上陸。「無料ネット配信」も決定したとの事。

これを観ると「ハリウッドの911映画」の見方も180度変わってしまうかも知れません…。 最新NYタイムズ+CBS調査では16%のみが政府の911発表を忠実に信じています。「MATRIX」的な要素のある日本語版表記=「ルースチェンジ」の波紋+詳細は下記BBSの「9月21日」を。↓ これがNHKも教えてくれない9月11日のNYでの「犠牲者たちへの鎮魂の為にも真実を求める」デモの4分動画。
http://www.911podcasts.com/files/video/TalkingAboutaRevolution.wmv

尚、投稿内容やリンク先とは利害関係はありません。
http://rose.eek.jp/911/
http://www.mypress.jp/v2_writers/hirosan/idx/?mycategory_id=31024
http://8136.teacup.com/empire/bbs
2006-10-23 23:31 : White・Rabbit URL : 編集
White・Rabbitさま、初めまして。拙ブログにお越しいただき、コメントありがとうございます。
リンク先の紹介もありがとうございました。『ルース・チェンジ』という作品のことは全く知りませんでした。
サンダンスがどういう風に取り上げるのか気になるところですね。
9・11はあれほどの大事件でしたから、真実がどこにあるのかは今後長い年月を経て明らかになるのかもしれません。
しかしこの『WTC』という作品で描かれた人間の姿も、やはり真実の一つには違いないと思います。
現代のような情報化社会においては、報道や風評を鵜呑みにせず、自分の頭で考えることが大事ですね。
2006-10-24 08:47 : 真紅 URL : 編集
真紅さん★私も今日やっとこの映画(WTC)を観てきました。真紅さんがおっしゃるように「教会の十字架がアップになるシーン」や「キリストの幻影が登場するシーン」には私も「ちょっとこれは・・・」と思いましたが、この時期にこのテーマの作品を撮るには、いかにオリバー・ストーン監督であってもいたしかたなかったのかな、と思います。
飛行機が激突したフロアにいたと思われる人の遺体が街の5ブロック先までぶっ飛んでいた、という報道が当時ありました。映画の中でも警察が現場に駆けつける途中、街中に倒れている死体を人々が取り囲んでいるところをマイクロバスの窓から警官達が険しい表情で無言で見つめるシーンは「これから一体何がおこるのだろう」という恐怖と緊張感がよく表されている名場面だと思いました。そして、あの音。確かに私たちは世界同時にあの瞬間を見ていたわけですが、あの「音」だけは現場にいたものでなければわからないものですね。映画の中でリアルに、恐ろしく再現されていて本当に怖かったです。この映画のユーザー・レビューには「たったふたりの救出劇を描いただけでいいのか?」という厳しい意見もありますが、街中、国中が深い絶望の底に沈んでいた中での救出劇、「それでもふたりが生きていた!」という事実は、きっときっとあそこで懸命に救助作業していた人たちに大きな希望と力を与えたことでしょう。

あの日、私も「ニュースステーション」をつけっぱなしにしたまま眠れない夜でした。もう決してあのような日が来ることがないように、真紅さんと一緒に平和を祈りたい、そうあらためて強く思う映画でした★
2006-11-04 20:14 : メグ URL : 編集
メグさん、こんにちは!コメントありがとうございます。
ご覧になったのですね。私もあのキリストが出てくる場面(2回出てきましたよね)、ペットボトルを持っているのが違和感ありました。
せめてコップにしてよ、とも思ったのですが、ヒメノ氏が見た幻影を忠実に映像化したものなら仕方無いですよね。
この作品を「二人だけの救出劇でいいのか」と斬ってしまうレビューには、私も違和感があります。
あれ程の犠牲者を出し、世界が震撼して思考停止するほどの事件だったのですから、あの日の真実を語るのに万人が納得する手法というのも難しい気がします。
この作品のアプローチは、完璧ではないでしょうが私には十分納得できるものでした。
今後も様々な観点の、9・11にまつわる作品が作られるでしょう。それでいいんだと思います。
私もあの「音」は本当に怖かったです。テレビじゃ、伝わらないことも多いですよね・・。
改めて、心から犠牲者の方のご冥福と平和を祈りたいです。
また遊びにいらして下さいね、ありがとうございました。
2006-11-05 06:28 : 真紅 URL : 編集
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