究極の恐怖~『ねむり』
ねむり

 「眠れなくなって17日めになる。不眠症の話をしているわけではない。」

 1989年に書かれた村上春樹の短編小説『眠り』が、イラストレーション付
ドイツで出版された。その出来映えを気に入った著者が日本でも出版し
たいと希望し、いくらか手を入れて「バージョンアップ」、全面的に改稿した
のちにタイトルを平仮名に変え、アートブックとなって出版されたのが本書
である。

 眠れないという本質的な恐怖。それは即ち「不死」への恐怖である。覚醒と
睡眠
は、元来人間活動において一つのセット(対)であるべきもの。「生」と「死」
と同じように。死があるからこそ生がある。睡眠がなければ、覚醒もない。死な
ない人間がいないように、眠らない人間もいない


 本書の主人公は全く眠れなくなっても日常生活に支障を来すことはなく、頭
も身体も冴え渡っている。しかしそれが逆に、主人公に何とも言いようのない
不安
を抱かせる。眠れなくなって見えてきた、自身の人生への不満無意識
に抑え込んでいた本音
が、癌細胞のように彼女を蝕んでゆく。

 そして彼女は危険を侵す。

 叫び出したいような恐怖を感じる小説だった。ひたひたと。リアルに。そして
その恐怖が、今、私のすぐ隣にあるかのように。

 ( 『ねむり』 村上春樹・著/イラストレーション:カット・メンシック/2010・新潮社)
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[2011/01/11 22:55] | 読書 | トラックバック(0) | コメント(0) |
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