飲食男女、そして家族~『恋人たちの食卓』
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 アン・リーの初期作品「父親三部作」の最終作である。舞台は台北、主人公は一流
ホテルの料理長である父と、その三人の娘たち。人間の根源的欲求である「食欲」と
性欲」をテーマに、家族とは、人生とは何かを、父と三姉妹の恋愛を通して描いて
ゆく。原題は『飲食男女』。台北の雑踏に被るタイトル・ロゴが印象的だ。

★以下ネタバレします★

 冒頭、父ラン・シャン)の料理する姿にまず引き込まれる。魚をさばき、鶏を
選び、野菜を切る、煮る、揚げる、盛り付けていく。その流れるような手捌きは感嘆
ものだ。彼は日曜の午前(時計は11時20分を指している)から、家族揃っての晩餐の
ため、台所に立っている。

 16年前に母は逝き、以来男手ひとつで娘達を育て上げた父。彼女らが成人してもなお、
娘達を起こし、洗濯をし、皿を洗う父。無口だけれど、娘達への責任と愛情を十分過ぎ
るほど背負っているのがわかる。対して娘達はそんな父をどうしても疎ましく思ってし
まう、これは自然の摂理だろう。
 娘達は父の呪縛から解き放たれたいと思うからこそ、恋をし、新しい自分の居場所へ
と飛び立つことができる。仕事で大成功し、美しい容貌は母から、料理の腕は父から受
け継ぎ、一番選択肢を持ちえた次女が一番巣立ちが遅れたことも皮肉だ。父に反発しな
がらも、誰よりも父と、家への愛着を捨てられなかったのは彼女なのだ。

 このままアメリカ帰りの梁夫人グア・アーレイ)と余生を過ごすのか、と誰もが思
っていた矢先、父は家族を前に意外な告白をする。彼は愛するものと自分の人生を生き
るために、周到な準備をし、覚悟を決めていたのだ。驚き呆れる娘達、観ている誰もが
驚愕する大・どんでん返し! 私は『推手』の監督インタビューでネタバレを聞いてい
たのだが、それでもハラハラしながら観ていた。

自分の人生は自分のもの」。年老いても「食欲」と「性欲」は尽きることが無い、男
がいて、女がいて、飲んで食べる。ただシンプルに、それが人生なんだ。それぞれの道
を行く父と娘達。進む道はバラバラでも、食卓を共にした家族の絆は、いつまでも切れ
ることはないのだろう。

 次女が夕餉を用意し、父と二人きりで囲む食卓。味覚を取り戻し、初めて「お前の料理
の味がわかった」と言う父。最後の最後に味がわかる=作った相手を受け入れるラスト
シーン
、二人を救うアン・リーの、静かなやさしさが見える。

---------------------------------------

父親三部作」を観て、アン・リーという監督が語っていた言葉のいくつかが理解でき
た気がした。「『グリーン・ディスティニー』と『ハルク』、二本の大作で心身ともに
疲れ切ってしまった」という言葉も、これら初期の小さな作品を観れば納得がいく。
アン・リーは、家族(父親)という誰にとっても一番身近で普遍的な存在を、あくまで
等身大に、丁寧に描こうとする人なのだろう。

恋人たちの食卓』では、ウィンストン・チャオグァ・アーレイという、『ウェディ
ング・バンケット
』のキャストが登場し、微笑ませてくれる。そしてやはり、三部作全
てにおいて父を演じたラン・シャン。太極拳や書、料理をこなす「何でも知っている父
として、ずっと心に残るだろう。散歩→ウォーキング→ジョギングと、作品を重ねるご
とに運動が激しくなり、ラン・シャン自身も若返っていくのも観ていて面白かった。
数々の料理は勿論、登場人物たちが蓋つきの湯呑みで飲む中国茶のなんとおいしそうな
こと! カラオケで流れる『男と女』にもちょっとうれしくなる。
 そして何より、これらアン・リーの初期三部作がDVDで観られたのも、彼がアジア人で
初めてアカデミー監督賞を受賞した『ブロークバック・マウンテン効果に間違いないだ
ろう。改めてBBMの監督としてのアン・リーに、敬意と感謝を捧げたい

(『恋人たちの食卓』監督:アン・リー/主演:ラン・シャン
                    ウー・チェン・リン/1994・台湾)
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テーマ:心に残る映画 - ジャンル:映画

[2006/10/18 09:36] | DVD/WOWOW | トラックバック(2) | コメント(10) |
<<平和を祈りたい~『ワールド・トレード・センター』 | ホーム | 子は親を思い、親は子を思う~『ウェディング・バンケット』>>
コメント
こんにちわ!この映画大好きです。
「ブロークバックマウンテン」の記事にTBを
お送りしようとしてみたんですが、全く
受け付けてくれないようでした~;;
自分BBMの感想を読み返すと、この
映画と「ウエディングバンケット」に触れて
いたもんで・・。
とにかく食べ物がおいしそう!という
以前に(笑)この頃まだそんなにアジア
映画観てなかったので、台湾でも
こんなに人物描写が深い映画を撮る人が
いるのかと驚いた作品でした。
[2006/10/18 13:38] URL | kazupon #- [ 編集 ]
kazuponさま、こんにちは。コメントありがとうございます。また来ていただけてうれしいです。
TB、届きませんでしたか?『カポーティ』は頂けたのに(涙)。お手数かけてすみません。
さて。この作品、私も大好きです。「父親三部作」どれも素晴らしいですね。
この作品は映像もとても綺麗でしたし、長回しや俯瞰ショット(?)など、新しいことに挑戦している感じもありました。
でもやっぱり人物描写ですよね。本当に深いと思います。
次女は母親似で、生前の母は父と言い争いばかりしていたんですよね。
ラストで次女が作る料理は母の味付けで、父はその味を受け入れることで死別した妻の思い出も受け入れた、ということなのかなと感想をアップしてから思いました(遅)。
アン・リーの次回作、我らがアジアの影帝トニー・レオン主演。超・超期待してます!
また遊びに来て下さい、私からも伺いますね。ありがとうございました。
[2006/10/18 14:41] URL | 真紅 #V5.g6cOI [ 編集 ]
真紅さん、こんばんは。
いつも遅くなってごめんなさい。
監督ネタバレインタビューにもめげずに、ご覧になれてよかったです。
三部作を締めくくる、いい作品でしたね(同じことばっかり言ってます)。
わたしはレンタルが見つかった順序が逆になったので、『推手』が最後になったので、『推手』を観終わった時に、
改めて、この監督の一貫したテーマをはっきり感じることになりました。
こんな方法で表現できる監督が、同じ時代に居て、今後も作品を観続けて行けることを本当に嬉しく思います。

アジア映画をろくに観たことがないわたしは、
監督の新作の前に、まず、トニー・レオンという人の顔を覚えるところから始めさせていただきます。
[2006/10/18 21:39] URL | 悠雅 #- [ 編集 ]
悠雅さま、こんにちは。コメントとTBをありがとうございました。
遅い、など、とんでもないです! いつもお忙しい中、ありがとうございます!
監督のネタバレにもめげず(笑)、この作品も堪能しました。
アン・リーが疲れ切った一因の『ハルク』を未見なので、これも観なければ・・と思っております。
トニー・レオン主演のアン・リーの次回作は、『色・戒(Lust, Caution)』という中国語映画で、現在撮影中の模様です。
しかし悠雅さま、トニーをご存知ないとは・・。真紅、ショック大!でございます。
私はトニーファンですのでオススメはいろいろございますが。。いきなり『ブエノスアイレス』なんていかがでしょう?
これを機会にアジア映画もいかがですか? うちの店でも各種取り扱っております。
ではまたお伺いしますね。ありがとうございました。
[2006/10/18 22:15] URL | 真紅 #V5.g6cOI [ 編集 ]
真紅さん、また来ました。
トニー・レオン、知らなくてごめんなさいね。ほんと、申し訳ない。
アジア映画を全く観ないので、知る機会もなかったのですよ。
先日、アン・リー監督作品を探すために、初めて「アジア映画」のコーナーに行ったのです^^;
(香港映画は、『燃えよドラゴン』のシリーズを大昔に観ただけ

それにしても、『ブエノスアイレス』って、香港映画とは知りませんでした。
テーマは、何と!そうなのですか。覚えときます。
[2006/10/19 19:52] URL | 悠雅 #- [ 編集 ]
悠雅さま、こんにちは。再びのコメントありがとうございます。
いえいえ、謝っていただいてなんだか恐縮です。
『ブエノス~』を始め、ウォン・カーウァイ監督作品ならすんなりと受け入れられるのではないかと思います。
『欲望の翼』もいいですよ。トニーの出演場面は僅かですが、強烈な印象を残します。
台湾の作品でしたら『悲情城市』のトニーが素晴らしいですよ。作品的にも間違いないと思います。
ただ、ちょっと眠くなるかもしれませんので体調がいいときにご覧下さいね(笑)。
ではでは、またお話できるの楽しみにしております。ありがとうございました。
[2006/10/19 23:39] URL | 真紅 #V5.g6cOI [ 編集 ]
はじめまして。
「恋人たちの食卓」は大好きな作品です。DVDも購入しちゃいました。父親役のラン・シャン氏が渋くて個人的に好きです、「推手」はまだ見てないのですが・・・。
[2006/10/21 16:28] URL | chinen #- [ 編集 ]
chinenさま、初めましてこんにちは。拙ブログにお越しいただき、コメントありがとうございます!
三部作の中では、この作品のラン・シャン氏が一番渋いですね。もちろんどの作品でも素晴らしい存在感の方ですが。
『推手』は新作扱いでしたがレンタルにありますので、是非ご覧になってみて下さい。
アン・リー監督のインタビューも聴けます。三部作について語っておられますよ。
では、またお気軽にいらして下さいね。ありがとうございました。
[2006/10/21 19:26] URL | 真紅 #V5.g6cOI [ 編集 ]
真紅さん、今晩は 
この映画にTBしようとずいぶん探しましたが、まともなレビューを書いているのは真紅さんのものくらいですね。さすがにお目が高い。
中国では外食の時食べきれないくらい注文して大量に残飯を残します。家庭ではそうではないと思うのですが、あの量の多さには圧倒されますね。末娘がマクドナルドでバイトしたくなる気持ちも分かる気がする。
「推手」を観た時以上に小津の世界と共通するものを感じました。深い余韻が残るラストでした。
[2007/02/05 23:21] URL | ゴブリン #2YYP0Fkg [ 編集 ]
ゴブリンさま、こんにちは。コメントとTBをありがとうございます。
いえいえ、私はタダのミーハーですので・・、お恥ずかしいです。
私は中国本土には行ったことがないのですが(香港のみ)、「推手」でも感じた中華民族の逞しさは、「食欲」の旺盛さと多いに関係あるのでしょうね。
小津作品は断片的にしか観たことがないので、この三部作への影響や共通点はわからず、残念です。
後ほどお伺いしますね。ではでは!
[2007/02/06 09:15] URL | 真紅 #V5.g6cOI [ 編集 ]
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恋人たちの食卓
日曜の夜は家族揃って夕食を
[2006/10/18 21:30] 悠雅的生活
恋人たちの食卓
1994年 台湾 1995年6月公開 評価:★★★★☆ 監督:アン・リー 製作:
[2007/02/05 22:05] 銀の森のゴブリン
真紅のthinkingdays


いつまでも青臭い映画好きでいたい。愛おしい映画と、忘れがたき本たち。ときどきカフェとか。 記事は基本的にネタバレあり。 どうぞご贔屓に♪

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