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映画が大好きです。いつまでも青臭い映画好きでいたい。 記事は基本的にネタバレありです by 真紅 (言葉を探す人)   ★劇場鑑賞した映画は Instagram にアップしています @ruby_red66 ★Stay Blue

映画だと 割り切ることの 難しさ~『ノルウェイの森』 #2

ノルウェイの森4

 承前

 17歳の夏、自殺したキズキ(高良健吾)。彼は直子(菊地凛子)にとって、幼い
頃から身も心も重なり合うように育ってきた恋人であり、ワタナベ(松山ケンイチ)
にとってはほとんど唯一の友人だった。東京偶然再会した直子とワタナベは互
いに惹かれ合うが、二十歳の誕生日の夜を境に直子は心を閉ざし京都の山深
い療養所
に行ってしまう。なすすべもなく、ワタナベは直子に手紙を書き続ける。

 直子の死の理由。彼女はキズキくんのところへ行ったのだと、ずっとそう解釈
していた。ワタナベくん曰く、直子はワタナベくんのことを「愛してさえいなかった」
のだし、直子は元々「キズキのもの」だったのだから。しかし、スクリーンの中の
直子を見つめていると、それだけではないんじゃないか、と思えてきた。

 直子は、ワタナベくんを喪うのが怖かったのだ。キズキくんが死んでから、
んな風に人を愛していいのかわからなくなった
、と直子は泣いた。それは嘘で
はないし、キズキくんへの思いに比べれば、ワタナベくんのことは愛してさえい
なかった、と言えなくもないだろう。彼女が心底恐れたのは、自分が身体を開け
ないことで相手を傷つけ、損ない、喪ってしまうこと
だったのだと思う。もう二度
と、そんなことには耐えられない
と。

 一緒に暮らそう、とワタナベくんは言う。そうできたら、本当にそんなことが
できるならどんなに嬉しいか。結果的に、その言葉が直子を追い詰めてしま
った
。ワタナベくんには、直子を愛することはできても、彼女を理解することも、
救うことも、慰めることさえできなかった
のだ。どうしようもなく悲しいけれど。
(しかしワタナベくんは、直子と暮らすためにあのようなマンションを選んだだ
ろうか? あまりにも薄暗く湿っぽく、閉塞感のある建物だったことが残念。)

 そしてこの映画で唯一にして最大の難点は、レイコさん(霧島れいか)キャ
ラクターに無理がある(全く描けていない)
こと。何故レイコさんが阿美寮で暮
らしているのか、彼女の身に何が起こったのか。直子がどれほどレイコさんを
信頼していたか、レイコさんがどれほど直子を大切に思っていたか。

 そしてそして、レイコさんとワタナベくんによる「直子のお葬式」という、この
物語で一番大切な、美しいシーンが描かれていない! これは、この映画の
決定的な瑕疵だ。これでは、レイコさんを貶めていることになる。レイコさんは
ワインを飲みながら煙草を吸って、ヘンリー・マンシーニ『ディア・ハート』を、
ビートルズ『ノルウェイの森』を、『イエスタディ』を、『ミシェル』を弾かなけれ
ばならない。レイコさんがどうしてワタナベくんと寝なければならなかったのか
それは彼女からの一方的な「お願い」なんかではなくあの時ワタナベくんは
こう言わなければならなかった
のだ。 「僕も同じこと考えてたんです」

 133分という決して短くはない時間を、意識させない佳作だったとは思う。し
かし、原作は原作、映画は映画、と割り切って観ることの難しさを、改めて感
じずにはいられなかった。

ノルウェイの森5
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テーマ : ノルウェイの森
ジャンル : 映画

2010-12-14 : 映画 : コメント : 8 :
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ワタシもめずらしく初日に観にいきました~。
たしかにレイコさんのエピソードはごっそり抜けていましたね。あの美少女との過去をワタナベくんに話した事によって、二人の間には友情ともちがう?強い絆があったはずです。そのエピを抜きにして、しかも悲しくないお葬式もナシにしていきなり寝ようでは、レイコさんがただの欲求不満な人みたいに見えた人も多かったんじゃないでしょうか。
でも映像は小説の空気を上手く表現していたし、菊池凛子さんの演技は(意外にも)とても良かったし、観にいってよかったです。(もう一度行くかも)
小説はたぶん10回以上読み返しているので、セリフとかも覚えていたんですが、映像の中で俳優さんがしゃべることによって、「ああ、このセリフはこういう意味だったんだな~」と今更ながら気づくことができて新鮮でした。
2010-12-15 21:31 : 猫茶園 URL : 編集
猫茶園さん、こんばんは~。キャ~、お久しぶりです~~♪ コメントありがとうございます。
村上春樹お好きなのですね。私も10回以上は読み返しています。 ←大人げなく張り合っている、笑
あの教え子の女の子のエピソードはあまりにも強烈なんですが、だからこそレイコさんという人が何故あの場所にいるのか、、が理解できるんですよね。
終盤急に安物のポル○映画みたいになって、頭を抱えてしまいました。アチャ~
だって、ワタナベくんが「まじっすか?」みたいな態度なんだもん~。ショック!酷過ぎる!!
脚本は村上春樹も相当手直ししたようなんですが、あのラストでいいんですか?!と問いたい気持ちです。
監督は、結局この物語を理解していないんじゃないか、、とまで思ってしまいました。
一人で観たのですが、私ももう一回、誰かを誘って観るかもです。
いっそ、職場でツアーを組もうか、とまで(笑)。
原作を読んでいない方の感想もうれしいのですが、読み込んでいらっしゃる方の感想が聞けてとてもうれしいです。
ありがとうございました。ブログ再開も、秘かにお待ちしております。
(私、猫茶園さんの一ファンですから・・・)
2010-12-15 23:28 : 真紅 URL : 編集
そう!
こんばんは
レイコさんのことはまったく同じように思いました!
自分のブログにも書きましたが、
あの終盤の弔いがあってこそ、この作品のタイトルも
ようやく納得できるはずですしねー
ここはなんとかならなかったのかな。。
脚本にはあったけれど、
尺が長過ぎるとか圧力がかかったとか?
せめてそう思いたいところです。

TBいたしました~
2010-12-19 00:17 : manimani URL : 編集
はじめまして、ふらりとたどり着きました。原作には相当思い入れがあって、がっかりするだろうから観たくない、でも観ないこともできない、ということで前売り買いました。
女優陣が意外と良いというのを読ませていただき、行く勇気がわいてきました。ありがとうございます♪

レイコさんとの場面抜けは、音楽著作権の事情もありますかね?
とにかく時間取れ次第行ってきます。
(すみません、まだ観てないのにコメントして)
2010-12-19 20:42 : ラッコ URL : 編集
manimaniさん、こんばんは! コメント&TBありがとうございます。
そうなんですよ、原作を読まれた方は絶対あそこでガッカリ、ですよね~。
レイコさんの扱いが酷過ぎますよ。。
あのお葬式のシーンは、一番大切なこの小説の肝なのに。。
全曲唄えとは言いませんが、せめてレイコさんがギターを弾く場面は入れて欲しかったです。
だってあのお葬式とワタナベくんとレイコさんの「あれ」はセットなんですから!
はぁ~返す返すも残念です。。

TB、いただきました~
2010-12-20 19:57 : 真紅 URL : 編集
ラッコさん、こんばんは! 拙ブログにお立ち寄り下さり、コメントありがとうございます。
いえいえ、こちらこそネタバレ全開の記事ですみません!
私は菊池さんの直子を一番危惧していたのですが、演技はよかったと思います。
個人的には、もう少し線の細い女優さんに演じて欲しかったのですが、、、。
しかし彼女くらい演技力がないと、演じられない役だったとも思います。
音楽著作権の事情、、なるほど~。
しかし、そこは村上春樹に私財をなげうってでも描いて欲しかったですね。
お葬式のシーンがない『ノルウェイの森』、、あり得ません。。
しかし総じていい映画だったと思います。是非堪能なさって下さいね!
2010-12-20 20:20 : 真紅 URL : 編集
真紅さん、観て来ましたよ!
菊地凛子さんが思ったより全然良かった!ほんとこの人じゃないと演じられなかったかもしれませんね。
弾き語り葬儀のシーンがないのはあらかじめここで教わっていて良かったです。抜けのショックは大きい。
緑とレイコさんはもっとサバサバした江戸っ子みたいなキャラ&キャストが良かったですけどー 監督はどこまでも美しくしたかったのですかね?
いずれにしても、真紅さんのコメントを読んでから観に行ってよかったです。
また時々寄らせていただきますね♪
2011-01-10 11:31 : ラッコ URL : 編集
ラッコさん、こんばんは! 再びのコメントありがとうございます。
そうですね~、菊池さんの演技はとってもよかったですよね?
私はあまり好きな女優さんではないのですが、今回初めていい女優さんなんだな~、と思いました。
トラン・アン・ユン監督って、アジアの湿潤さを表現される方だと思うんですよね。
そんな監督に、サバけたキャラのイメージはなかったかも(爆)。
なんかこうね、、いつも、、じっと~り、してると言うか。。。ハハハ。
まぁ、フランス語訳の問題もありますよね。
こんなネタバレ感想、喜んでいただけてうれしいです、恐縮です!
また遊びにいらして下さいね~♪
2011-01-10 20:06 : 真紅 URL : 編集
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