誇り高く生きよう~『酔いがさめたら、うちに帰ろう。』

元戦場カメラマンの塚原(浅野忠信)は、アルコール依存症が原因で漫画家の
妻(永作博美)と離婚。二人の子どもたちとも別れ、実家の母(香山美子)の元で
生活していた。どうしても酒が断てない彼は、大量吐血して病院に担ぎ込まれる。
人気漫画家・西原理恵子氏の元夫、故・鴨志田穣氏(通称カモちゃん)による私
小説の映画化。原作は2007年に読んだ。深刻かつ衝撃的な題材を、飄々とした
文体で(他人事のように)軽々と紡いであるぶん、深く心に残る小説だった。待望
の映画化、監督は東陽一。
塚原を演じる、浅野忠信が激ハマリ。極々自然に、アルコール依存症という病
に侵された一人の男を演じている。せん妄、記憶障害、不眠、様々な合併症に苦
しみながらも、塚原がどこか飄々として見えるのは原作と同じ。鴨志田さんも、き
っと浅野くんくらいいい男だったんだろうな(あの西原センセイが惚れ抜いた男だ
もの)。

断酒目的で精神科病棟に入院した塚原は、かわいい看護師(柊瑠美)に鼻の
下を伸ばしたり、個性的な入院患者たちと交流しながら、ゆるやかに回復してゆ
く。しかし、その先に彼を待っていたのは、残酷な現実だった。「腎臓癌」の告知。
しかも外科治療は「不可能」という、末期の。
塚原の主治医、衣田を演じた高田聖子がとってもいい。包容力があって、患者
に対していい感じで力が抜けていて、何でも話せる雰囲気を醸し出しながらも、
治療する方とされる方の線引きは明確で。こんな先生がいたらな~、って思う。
彼女のやわらかい関西弁も心地よい。
塚原の妻と、彼女のファンであると言う医師(利重剛)との会話だけが引っかか
る。西原氏の名言「一度好きになった人は、なかなか嫌いになれない」だとか、
「悲しさで心が満たされていたら、うれしいんだか悲しいんだかわからない」だと
か、医師との会話にはちょっとそぐわない印象を受けた。言葉だけが綺麗で、
宙ぶらりんな感じ、とでも言うか。。患者(とその家族)の内面に、踏み込み過ぎ
た発言をする医師にも違和感。原作では丁寧に描写された、アルコール病棟に
おける様々なエピソードが、随分とアッサリ流されていたのも残念。

光溢れる、幸福感に満ちたラストシーンに、ラブソングの帝王・忌野清志郎の
歌声が重なる。鴨志田さんの死後、アルコール依存症について啓蒙活動をし
ている西原さん。いろいろあっても、最後は本当に、いい関係が築けた二人な
んだな、って思う。
誇り高く生きよう、君のために・・・。
( 『酔いがさめたら、うちに帰ろう。』 監督・脚本・編集:東陽一/
主演:浅野忠信、永作博美、高田聖子、光石研、香山美子/2010・日本)
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公式サイト。鴨志田穣原作、東陽一監督、浅野忠信、永作博美、市川実日子、利重剛、藤岡洋介、森くれあ、高田聖子、柊瑠美、甲本雅裕、渡辺真起子、堀部圭亮、西尾まり、大久保鷹 ...
2010-12-10 19:53 :
佐藤秀の徒然幻視録
西原理恵子さんの原作が次々と映画化されるので混同しそうになりますが、こちらは西原さんの夫で戦場カメラマンの鴨志田穣さんが自身のアルコール依存症の経験を綴った自伝的小説 ...
2010-12-10 21:29 :
カノンな日々
漫画家・西原理恵子の元夫で戦場カメラマンの鴨志田穣が、自身のアルコール依存症からの立ち直りを綴った同名小説を映画化。主演は『乱暴と待機』の浅野忠信。共演が『人のセックスを笑うな』の永作博美。監督は東陽一。懸命に依存症と戦う主人公と、それを支える家族の姿...
2010-12-10 23:26 :
LOVE Cinemas 調布
酔いがさめたら、うちに帰ろう。アルコール依存症の苦難の中でみつけた“うち”とは家族のこと。内面の苦しさとは裏腹に、ユーモアと穏やかさが感じられる闘病生活が印象的 ...
2010-12-10 23:47 :
映画通信シネマッシモ☆映画ライター渡まち子公式HP
映画 「酔いがさめたら、うちに帰ろう。」
2010-12-11 00:14 :
ようこそMr.G
「酔いがさめたら、うちに帰ろう。」★★★☆
浅野忠信、永作博美、市川実日子、利重剛、藤岡洋介、森くれあ出演
東陽一監督、118分 、2010年12月4日公開、
2010,日本,ビターズ・エンド
(原作:原題:酔いがさめたら、うちに帰ろう。)
...
2010-12-11 11:51 :
soramove
うーーーん、浅野忠信は、いい役者だなー、とつくづく。
・・・先日、映画「酔いがさめたら、うちに帰ろう」を見てきました。
[画像]
これはご存じ西原理恵子の元夫で2007年に亡くなった、鴨ちゃんこと鴨志田穣原作の、ノンフィクションです。
あ、役名がついてるので、半...
2010-12-14 21:28 :
椿的濃縮タマシイ
ことさら「海老蔵事件」があったからというわけではなく、好きな俳優の浅野忠信が出演しているというので、『酔いがさめたら、うちに帰ろう。』を見に、テアトル新宿に行ってきました。
...
2010-12-18 05:44 :
映画的・絵画的・音楽的
戦場カメラマンの塚原安行(浅野忠信)は、アルコール中毒。元家族との外食先で大ジョッキを飲んでぶっ倒れ、実家でも、次に家族に会う時はしらふで、といいつつウォッカをあおって、失禁、大量の吐血。酒にどっぷり漬かった姿は、だらしなくも、ギョットするほどの壮絶さ…
2010-12-26 17:48 :
シネマ大好き
・
戦場カメラマンとして世界各国を巡って活躍したのち、アルコール依存症となり次第に症状が悪化し、意を決して過酷な治療に耐えるものの、がんで他界した主人公と、そんな彼を取り囲む家族の姿を描いた作品。
とにかく良い映画でした。
劇中、利重剛扮する医師から「唯...
2011-02-09 20:44 :
俺の明日はどっちだ
自分が、恋人が、肉親が、難病に侵されて余命いくばくもないことが判ってしまったら、あなたはどうする?
そんなテーマの作品が毎年続々と作られている。園子温監督が余命モノと名付けたこのジャンルは...
2011-02-18 01:09 :
映画のブログ
人気漫画家・西原理恵子の元夫で戦場カメラマンの鴨志田穣が、自身のアルコール依存症の経験をつづった自伝的小説を映画化した人間ドラマ。重度のアルコール依存症になった男と、彼を支え続けた家族たちの日々を、『わたしのグランパ』の東陽一監督が丁寧に描き出す。身勝...
2011-05-22 11:41 :
サーカスな日々
酔いがさめたら、うちに帰ろう。'10:日本◆監督:東陽一「風音」◆出演:浅野忠信、永作博美、市川実日子、利重剛、藤岡洋介◆STORY◆今度こそやめると誓いながら、今日も深酒を重ねる ...
2011-06-01 11:54 :
C'est joli~ここちいい毎日を~
まず。
この映画には原作があって、
どこまで描けたかはともかく実話であるということ。
アルコール依存症の夫と漫画家の妻、
一組の夫婦の物語をダンナのサイドから本人が描いたものが
「酔いがさめたら、うちへ帰ろう」で
奥さんの立場から涙も怒りもちっちゃな喜びも
...
2011-07-20 16:13 :
ペパーミントの魔術師
酔いがさめたら、うちに帰ろう。
元戦場カメラマンが、家族に支えられながら、
アルコール依存症を克服しようとする姿を描く。
【個人評価:★★☆ (2.5P)】 (自宅鑑賞)
原作:鴨志田穣 『酔いがさめたら、うちに帰ろう。』
2011-12-11 13:58 :
cinema-days 映画な日々
☆☆☆(6点/10点満点中)
2010年日本映画 監督・東陽一
ネタバレあり
2011-12-31 11:41 :
プロフェッサー・オカピーの部屋[別館]
コメントの投稿
真紅さま こんにちは♪ お久しぶりです。
サイバラさん、売れてますよね。20数年前、週刊朝日で連載していた「恨ミシュラン」が“良識読者”から散々非難されましたけど、今や時代がサイバラに追いついたというか(笑)。これ、もっと壮絶な話かなと思いましたが、でも主役のふたりは合ってましたね。サイバラの別作品『毎日かあさん』ではキョンキョンが主役なのでそちらも気になります。先月A新聞でのインタビューでサイバラさんが「人ひとり送るのにすごくお金がかかった。夫が死んだときお金があってよかった。お金がなかったら私はきっと夫を恨んだだけだったと思う」ということを言っていて「がんばって生きてきた人だなぁ」と思いました。
ところで、サイバラさんが人気漫画家と対決する『人生画力対決』(小学館)という本、ご存知ですか?その第2巻で少女漫画界の大御所・竹宮恵子先生とサイバラさんが対決しているのですが、代表作『風と木の詩』について竹宮先生が「昔はベッドで男女の足が絡み合ってる絵を描いただけで警察に呼びだされたのよ。じゃぁ、男女がダメなら男男でいけばいいと思ったわけなのよ」と語っていて「なるほど~」と笑ってしまいました。
あ、それから先日真紅さんにちょこっと教えていただいたジェイク・ジレンホールとアン・ハザウェイの共演作について、先々週NEWSWEEK誌にその記者会見の様子の記事が出てました。なんでも最近、ジェイクさんに新しい恋の噂があるそうで、記者の質問がそっちにばかり行ってしまったらアンが「今日はワタシとのことを聞いてちょうだい~」と言ってジェイクを助けたのですって。この二人がいいカップル
だと思うんだけど・・・。映画は日本では公開未定と書いてありました。なんとか公開決定して来年のお楽しみ・・・になってほしいですね。
だんだん朝晩冷え込んで冬らしくなってきました。お体、大切に。
サイバラさん、売れてますよね。20数年前、週刊朝日で連載していた「恨ミシュラン」が“良識読者”から散々非難されましたけど、今や時代がサイバラに追いついたというか(笑)。これ、もっと壮絶な話かなと思いましたが、でも主役のふたりは合ってましたね。サイバラの別作品『毎日かあさん』ではキョンキョンが主役なのでそちらも気になります。先月A新聞でのインタビューでサイバラさんが「人ひとり送るのにすごくお金がかかった。夫が死んだときお金があってよかった。お金がなかったら私はきっと夫を恨んだだけだったと思う」ということを言っていて「がんばって生きてきた人だなぁ」と思いました。
ところで、サイバラさんが人気漫画家と対決する『人生画力対決』(小学館)という本、ご存知ですか?その第2巻で少女漫画界の大御所・竹宮恵子先生とサイバラさんが対決しているのですが、代表作『風と木の詩』について竹宮先生が「昔はベッドで男女の足が絡み合ってる絵を描いただけで警察に呼びだされたのよ。じゃぁ、男女がダメなら男男でいけばいいと思ったわけなのよ」と語っていて「なるほど~」と笑ってしまいました。
あ、それから先日真紅さんにちょこっと教えていただいたジェイク・ジレンホールとアン・ハザウェイの共演作について、先々週NEWSWEEK誌にその記者会見の様子の記事が出てました。なんでも最近、ジェイクさんに新しい恋の噂があるそうで、記者の質問がそっちにばかり行ってしまったらアンが「今日はワタシとのことを聞いてちょうだい~」と言ってジェイクを助けたのですって。この二人がいいカップル

だんだん朝晩冷え込んで冬らしくなってきました。お体、大切に。
2010-12-11 22:07 :
メグ URL :
編集
メグさん、こんばんは。コメントありがとうございます。
「恨ミシュラン」って週刊Aだったんですね。当時は「なんて汚い画なんだ!」と思ってました(爆)。
本作ですが、ブロガーさん皆永作ちゃんを大絶賛なんですけど、私は「かわい過ぎる~」と思いました(笑)。
巧い女優さんなんですけどね。私は高田聖子さんのほうを絶賛したいなぁ。
浅野くんは最高でしたね。。彼の持ち味が生きた役だったと思います。
西原さんは、「金がないのは首がないのとおんなじ!」っていう哲学(?)を貫き、ブレないところが素晴らしいと思います。
私もね~、もっと若い頃にサイバラ教に出逢っていればね。。
でも、今からでも何とか頑張って生きていきたいと思ってます。
『人生画力対決』っていう本は知りませんでした。是非読んでみたいです~。
で、ジェイクの彼女、ですけど、、、。テイラー・スイフトちゃん、二十歳、でしたっけ???
この前来日してましたよね。若い女の子らしい、とってもかわいいコだな~って思いました。
カントリー界では既に大物なんですよね! ジェイク、すごいじゃん!(笑)
10歳くらい離れてるんですよねー。なんか、ど~しちゃったの?!って感じも無きにしも非ず、ですが。。
アン・ハサウェイとの映画はか~な~り~のエロティックコメディ?らしく。
う~ん、観たいですね~。日本でもヒットすると思うんだけどなぁぁ。
アンと言えば、アカデミー賞の司会に抜擢ということで、おめでとうですね。
ホント、映画公開してほしいと私も思います~。
観たい映画がテンコ盛りな忙しい年末ですが、メグさんもご自愛下さい~。
「恨ミシュラン」って週刊Aだったんですね。当時は「なんて汚い画なんだ!」と思ってました(爆)。
本作ですが、ブロガーさん皆永作ちゃんを大絶賛なんですけど、私は「かわい過ぎる~」と思いました(笑)。
巧い女優さんなんですけどね。私は高田聖子さんのほうを絶賛したいなぁ。
浅野くんは最高でしたね。。彼の持ち味が生きた役だったと思います。
西原さんは、「金がないのは首がないのとおんなじ!」っていう哲学(?)を貫き、ブレないところが素晴らしいと思います。
私もね~、もっと若い頃にサイバラ教に出逢っていればね。。
でも、今からでも何とか頑張って生きていきたいと思ってます。
『人生画力対決』っていう本は知りませんでした。是非読んでみたいです~。
で、ジェイクの彼女、ですけど、、、。テイラー・スイフトちゃん、二十歳、でしたっけ???
この前来日してましたよね。若い女の子らしい、とってもかわいいコだな~って思いました。
カントリー界では既に大物なんですよね! ジェイク、すごいじゃん!(笑)
10歳くらい離れてるんですよねー。なんか、ど~しちゃったの?!って感じも無きにしも非ず、ですが。。
アン・ハサウェイとの映画はか~な~り~のエロティックコメディ?らしく。
う~ん、観たいですね~。日本でもヒットすると思うんだけどなぁぁ。
アンと言えば、アカデミー賞の司会に抜擢ということで、おめでとうですね。
ホント、映画公開してほしいと私も思います~。
観たい映画がテンコ盛りな忙しい年末ですが、メグさんもご自愛下さい~。
真紅さん、こんばんは。
心に沁みる美しい映画でした、
西原・原作もの映画「女の子ものがたり」、「パーマネント野ばら」と、
原作は違っても、映画は同じテイストですね。
いずれも痛みと再生の物語でしたが、とても優しい映画。
そういえば、「パーマネント野ばら」の素晴らしいラストシーンも海でしたね。
心に沁みる美しい映画でした、
西原・原作もの映画「女の子ものがたり」、「パーマネント野ばら」と、
原作は違っても、映画は同じテイストですね。
いずれも痛みと再生の物語でしたが、とても優しい映画。
そういえば、「パーマネント野ばら」の素晴らしいラストシーンも海でしたね。
2010-12-16 21:12 :
筆致 刻久 URL :
編集
筆致刻久さん、こんばんは。コメントありがとうございます!
この映画、随分ひっそりと公開されていますが、とってもいい映画でしたよね。
ああ~、そういえば『~野ばら』のラストシーンも海でしたね。気付きませんでした。
もうすぐ『毎日かあさん』が公開です。
こちらはKYON2×永瀬くんの元夫婦共演で話題ですが。。
とっても楽しみです♪
この映画、随分ひっそりと公開されていますが、とってもいい映画でしたよね。
ああ~、そういえば『~野ばら』のラストシーンも海でしたね。気付きませんでした。
もうすぐ『毎日かあさん』が公開です。
こちらはKYON2×永瀬くんの元夫婦共演で話題ですが。。
とっても楽しみです♪
TB有難うございました。
光石研他アルコール病棟の皆に、家族との葛藤や修羅場を経て
ここに流れ着いてきたそれぞれのドラマがあるんでしょうね。
光石研他アルコール病棟の皆に、家族との葛藤や修羅場を経て
ここに流れ着いてきたそれぞれのドラマがあるんでしょうね。
Hiroさん、こちらにもコメント&TBありがとうございます。
この映画、とてもよかったですね。
原作では、アルコール病棟の入院患者さんたちのエピソードがたくさん入っていて興味深かったです。
この映画、とてもよかったですね。
原作では、アルコール病棟の入院患者さんたちのエピソードがたくさん入っていて興味深かったです。