泥に咲く花~『スプリング・フィーバー』
スプリング・フィーバー





 SPRING FEVER

 春風沈酔的晩上


 南京。春三月、啓蟄の過ぎた頃。愛し合うジャン・チョン(秦昊チン・ハオ)
ワン(呉偉ウー・ウェイ)。しかしワンには妻リン(江佳奇ジャン・ジャーチー)
いた。リンは私立探偵ルオ(陳思成チェン・スーチェン)に依頼し、夫を尾行
る。

 大阪上映中止騒動で気を揉んだ本作、シネマート心斎橋での限定上映
立ち見も出る満席となり、無事通常上映が開始された。この件に関しては様
々な意見があるとは思えど、兎にも角にもこの作品を映画館のスクリーン
観られたことに、映画好きの端くれとして純粋な歓びを感じる。関西の映画
ファンの皆さん、本当にありがとう


 中国当局から5年間の映画製作禁止処分を受けた監督がその通告を無視、
家庭用ハンディカメラでゲリラ的に撮り上げ、カンヌ映画祭で脚本賞を受賞
--本作にまつわるこの「枕詞」になるべく身構えず、過剰な期待もせずフラ
ットな気持ち
で鑑賞しようと決めていた。結果、非常に文学的・芸術的であり
ながらもシリアス一辺倒でもなく、笑いどころもある美しい映画だったことに
大満足。これは今年のベストに入れます。監督・キャストの勇気と志に、敬意
を表したい。

スプリング・フィーバー2

 ジャン・チョンという捉えどころのない、魅惑的な人物を中心に、5人の男女
愛憎劇を繰り広げる。嫉妬に狂い刃傷沙汰を起こす女、去ってゆく恋人を思い
ながら、自ら命を絶つ男。恋人がいながら、「女装の歌姫」に惹かれてゆく男、
そんな男を責めることもなく、静かに消えた女。そこに描かれる愛の形は、スト
レート過ぎて品行方正ではない
かもしれない。しかし、この映画はその「愛」
いう掴みどころのない概念を定義づけようとするものではなく、「愛」を生み出す
「人間」そのものを、包み隠さず描こうとしている。家族性差や、国家という様
々な枠組みの中にあっても、人間の感情や欲望は、どこまでも自由なのだと。
それは泥の中に咲く睡蓮の花にも似て・・・。春の嵐に揺られ、彼らは何処へ
向かうのか。

 美しき春が終わる頃。旅の果て、新しい土地で、新しいパートナーと生きるジ
ャン・チョン。を包み込むように、彼は花のタトゥーを彫る。それは彼の、「泥
に咲く花」
として生きる決意のように映る。たゆたい、しがみつかず、真っ直ぐに
上を向いて、美しく咲き誇ろう
と。

スプリング・フィーバー3

 「こんなにもやるせなく、春の風に酔うような夜は・・・」

 ( 『スプリング・フィーバー』 監督:婁ロウ・イエ/2009・中国、仏/
       主演:秦昊チン・ハオ、陳思成チェン・スーチェン、譚卓タン・チュオ
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[2010/12/08 19:44] | 映画 | トラックバック(4) | コメント(6) |
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コメント
真紅さん、こんにちは。
一時はどうなることかと思いましたが、ご覧になれて本当によかったですー。
ハンディカメラが切り取った刹那は、スクリーンで見てこそー。
たまたま「黒沢清、21世紀の映画を語る」を読んでいて、そこに書いてあったことに照らし合わせ、変貌する街の今を切り取ることの映画にとってかけがえのないステキなことであるとかみしめつつ。
これを無許可でゲリラ的にやっちゃうんだから、素晴らしいですよねー。
ロウ・イエ監督って見た目は穏やかそうなのに、たくましいなぁと嬉しく。
[2010/12/09 18:34] URL | かえる #- [ 編集 ]
かえるさん、こんばんは~。コメントありがとうございます。
ホント、今回の騒動では私もかなり心乱されました。。
しかし大きなスクリーンで観られて本当によかったです。
素晴らしい作品でした。監督の置かれた状況を思いながら観ると、感慨もひとしおです。
南京の街の雰囲気もよかったですよね。大都会でもないんだけど、文化的な香りもあり、海と自然が美しく。
監督の志と勇気には脱帽です。どんな状況にあっても、人間は、映画監督は自由なんだっていう確固たる信念。。
これからも応援したいですね。
[2010/12/09 20:39] URL | 真紅 #V5.g6cOI [ 編集 ]
真紅さん、ブログ5周年おめでとうございます♪
今年最後のTBうかがいはこの作品になりました。
ある意味とてもシンプルな愛の物語なのですがなぜか心に深く突き刺さる作品でした。
物語と寄り添うように挿入される郁達夫の小説のフレーズがとても心地よく、
前から読みたいと思っていた彼の作品を絶対に読もう!と改めて思いました。
冒頭の蓮の花と最後にジャン・チョンが胸に刻む刺青の蓮の花・・・
どちらも美しく咲き誇っていましたね。

ところで今年は真紅さんといろいろ映画のお話ができてとても楽しかったです。
日々お忙しいとは思いますが、来年もマイペースで楽しい映画評をご披露くださいね。
来年もいろいろな映画の感想をお話させてくださいませ。
それでは良いお年を!
[2010/12/30 22:53] URL | sabunori #JalddpaA [ 編集 ]
sabunoriさん、こんばんは~。コメント&TBありがとうございます。
そして明けてしまいまして、、本年もどうぞよろしくお願いいたします。

ご覧になったのですね、京都で。。雪が舞っていたのではないでしょうか。
この映画、私も心の奥のほうにスーーーーっと入って来た作品でした。
郁達夫って全く知らない作家だったのですが、sabunoriさんはご存知だったのですね、、さすが。。
実は私も映画を観て読みたいと思い、図書館で探してみたんですが置いてなかったんです(泣)。
大阪中央か、府立図書館でさがしてみよう。。

私も、sabunoriさんといろんな映画のお話ができてうれしかったです。
『カラフル』とか、sabunoriさんの記事を目にしなかったら観逃していたかもしれない作品でした。
新年早々観たい作品が目白押しなので、何とかupdateしていきたいと思っています。
こちらこそ、今後ともよろしくです~。後ほど伺いますね♪
[2011/01/01 01:34] URL | 真紅 #V5.g6cOI [ 編集 ]
お久しぶりです。最近は忙しくて、会社帰りに映画鑑賞ができないので、割引の日にお休みをとって2,3本集中して見るようになってます。やっぱり疲れるけど。
この映画の事は貴ブログを拝見するまで全然知らなかったので、真紅様御推薦ならば面白かろうと実は先月観に行きました。
なんか主要人物5人とも心が満たされないまま結局バラバラになって終わってしまいましたねえ。
というか、2カップルが1人の男に振り回され、ぶっ壊されたというべきか。罪作りな主役の兄ちゃんはちゃっかり別の男つかまえて一緒に暮らしてるというエンディングでしたが、今度も長続きしないような気がする。
ところで二つばかし困った部分がありました。時折見づらい!事情は了解してるし、刹那的な効果もありましたが、え、今の何?誰?もう一つが中国映画見慣れてないせいか、名前が覚えられない!覚えたのはリー・ジンって女の子だけ。いや、だってあの娘かわいかったもんで(←すごく下世話な理由ですね)
しょうもないコメントですみません。でも中国映画というと歴史大作系くらいしか見たことなかった自分には、結構新鮮でした。
[2011/02/23 00:58] URL | garagie #- [ 編集 ]
garagieさん、こんにちは。コメントありがとうございます。
お久しぶりですね。お仕事お忙しいのですね、お疲れ様です!

拙記事を見ていただいてご覧になられたのですか?! うわぁ、嬉しいような申し訳ないような。。
でも、この映画は劇場で観る価値十分にありと信じています。

そうなんです、結局はジャン・チョンっていう捉えどころのない、根なし草のような自由人を巡る心の彷徨が描かれた作品でした。
彼は確かに罪作りですね。。でもそういう人間に惹かれてしまう気持ちはよくわかります。
しかし最後に彼は花の刺青を彫り、亡くなった恋人の朗読してくれた小説の一節を回想します。
浮ついているようでも、彼の心にはしっかりと過去が息づいているのだと感じました。

リー・ジンは堀北真希ちゃん似でしたね。
私も、いつもカッコイイとかかわいいとかの理由でギャーギャー騒いでますから、下世話上等!って感じですよ(笑)。
中国映画もいろいろだと思うのですが、香港映画も台湾映画も含めて大好きです。
と言うか、映画ならどこの国の映画でも好きなんですけどね(笑)。
また遊びにいらして下さい。
[2011/02/23 09:28] URL | 真紅 #V5.g6cOI [ 編集 ]
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いつまでも青臭い映画好きでいたい。愛おしい映画と、忘れがたき本たち。ときどきカフェとか。 記事は基本的にネタバレあり。 どうぞご贔屓に♪

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