名匠アン・リーの原点~『推手』
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 息子を頼り、英語もしゃべれないまま北京からNYへ渡った太極拳の達人ラン
・シャン
)。アメリカ人の妻マーサデブ・スナイダー)と結婚した息子アレックス
ワン・ボーチャオ)と同居するが、在宅でPCに向かう新進作家であるマーサにと
って、朱と二人きりの時間は耐え難いものだった・・。
アン・リー長編デビュー作。「推手」とは太極拳の組み手の一つで、相手の力を利
用しながらバランスを取って相手を倒すこと
。本作で朱を演じたラン・シャンによる
父親三部作」の第一作でもある。

★以下ネタバレします★

 太極拳の稽古をする老人と、金髪のアメリカ人女性。二人が画面に一緒に映り込む
だけで、あまりのギャップに「これはどうしようもない」と思ってしまう。世代、文化、
人種全てが食い違い、言葉も通じない
、未知の国からいきなりやってきた義父と
「うまくやれ」と妻に言うほうがというものだろう。と、私はどうしても妻の立場
から観てしまうのだけれど、一番気の毒なのは間に立っているアレックスだろう。親
の援助を受け、書斎を取り戻すために広い家に越そうと提案する妻、「中国ではこの
広さに4家族は住む、援助を受けたら自由を失う」とはねつける夫。夫婦の間にもや
がて波風が立ち始め、ストレスは身も心も蝕んでゆく。一方朱は、週末に訪れる中国
人学校で出会った陳夫人と心を通わせようとする。

 親のため、とは建前で、本音は「厄介払い」のために、「お見合いピクニック」を
画策する子ども達。故郷を離れ、所在無い立場の親にとっては、子どもの気持ちと自
分のプライドとを量りにかけ、子の元を去る決心をする・・。

 ここで感心したのは、中華民族の逞しさ。世界中、どの都市にでも在るという中華
街に集う老人たちは、ほとんど英語を解さないだろう。それでも文革の荒波を乗り越
え、伝統の食を守りながらコミュニティーを形成し、異国に根を張る彼ら。レストラン
で皿洗いをするからは悲哀が滲むが、やがて彼もチャイナタウンの一角に自分の
居場所を見出していく


 どうしても乗り越えられないギャップもあれば、妥協点を見つけた先のささやかな
幸せ
もあるはず。新しい家に父の部屋を作り「推手のように」結婚生活をやり直そう
とする夫婦、独りアパートを借り、太極拳を教えながら陳夫人と再会し、新しい人生
を歩もうとする朱。家族の間にさえ存在する世代の溝、その中でお互いを尊重しなが
らどう共存していくのか、老いてからどう生きるか。様々な問題提起をしながら柔ら
かく結末を迎え、15年前の作品でありながら全く古さを感じさせない。これが昨年製
作された映画だと言われても、全く違和感無く観れると思う。それだけの普遍性を持
った、どの世代にも共感を呼ぶ優れた作品だと思う。

 朱が披露する見事な太極拳には、とても心惹かれた。ラストで主人公達を救う
アン・リーの、現実的だけれどやさしい視線がうれしい

(『推手』監督:アン・リー/主演:ラン・シャン
           ラン・ボー・チャオ、ワン・ライ/1991・米・台湾)
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テーマ:映画感想 - ジャンル:映画

[2006/10/16 09:45] | DVD/WOWOW | トラックバック(5) | コメント(14) |
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コメント
真紅さん★今回も素敵なご紹介ありがとうございました。単に「アン・リーの長編デビュー作」と思うだけではなかなか見ようとはしませんが、「やさしい視線をもつアン・リー」をさらに優しいまなざしで見つめている真紅さんのこの文章を読むと、本当に私までこの作品がいとおしく感じられます。未見の私は必ずチェックしなければならない作品だと思いました。
おっしゃるように中国人の精神は逞しいですよね。最近はバーレーンでも南アフリカ共和国でもチャイナ・タウンが続々誕生しているというニュースを聞きました。皆、夢を追い求めて母国を離れ新世界をめざすスピリットがあるのですね。ハリウッドで活躍するアン・リー自身がきっとそうであって、数々の彼の作品ににじみでている「優しさ」はその逞しさあってこそ、のものなのでしょうね。

おまけ★真紅店長、先日はアルバイト君との「握手券」ありがとうございました~!「握手だけですよ、ハグはダメですよ」とのことでしたが、実は店長さんの目をこっそり盗んでバイト君の左肩をちょっとだけナデナデしてしまいました(ちゃはははは♪)。だってイニスが頬を寄せたあの左肩ですから・・・なんちゃって。あの左肩に触れるのは「私の夢」です★
[2006/10/16 15:16] URL | メグ #- [ 編集 ]
真紅さん、こんにちは。
真紅さんの記事を読ませてもらって、私もこの映画観たくなりました。
アン・リー監督の人間に対する優しい視線が感じられる作品なのですね。
BBMもそうでしたものね。
「スモーク」がとても好きなので、そんな感じなのかと想像しちゃってます。
[2006/10/16 16:31] URL | lime-fizz #- [ 編集 ]
メグさん、lime-fizzさん、こんにちは。コメントありがとうございます。まとめてお返事させて下さいね。

☆メグさん
この作品、小粒ですがとっても良品でした。
アン・リー自身、外省人家庭の子として生まれ、NYUに留学してずっとNY在住ですから、やはり彼自身のアンデンティティが反映されているのだと思わずにはいられませんよね。
こうしてアン・リーの原点とも言うべき作品がDVDで観られるのも『ブロークバック・マウンテン』効果だと思うとうれしいです。
機会がありましたら是非ご覧になってみて下さいね。
ジェイクの左肩・・・私も触れてみた~い!! でも店長がバイト君にそんなことしたら、セクハラですから止めときます(笑)
ではでは、またいらして下さいね。ありがとうございました。

☆lime-fizzさん
『スモーク』私も大好きですよ!原作も大好きです。
アン・リーは厳しい現実も容赦なく描く方だとも思いますが、人間的なやさしさは絶対に根底にあると思います。
今回、彼の映像作家としてのスタートが知りたくて鑑賞しました。いい作品でしたよ。
機会がありましたらご覧になって、感想を聞かせて下さいね。
また貴宅にもお伺いしますね。ありがとうございました。
[2006/10/16 17:34] URL | 真紅 #V5.g6cOI [ 編集 ]
真紅さん、こんばんは。
いつもTBとコメントありがとうございます。

見つかってよかったですね!案外、置いてないところも多いみたいです。

これを始めとする3部作から山まで、ひとつの源流から湧き出る水が、
いつも監督の中を流れていることを実感できるような、いい作品でしたよね。
山はやはり、監督をこの時期まで待っていたんだと思いました。

『ウェディング・バンケット』『恋人たちの食卓』の感想、
楽しみに待ってますね♪
[2006/10/16 23:34] URL | 悠雅 #- [ 編集 ]
真紅さま、おはようございます♪
TBとコメントをいただき、ありがとうございました。

推手の極意を胸に日々暮らしてみよう・・と単純な私はすぐに決めてしまったのですけど・・(笑)
個の自立という面からも、この物語は秀作でしたね。世代も国も越えた普遍性と、言葉にできない思いを映像にしてみせる監督の手腕に改めて感じ入ってしまう映画でした。
またお邪魔させてくださいね♪
[2006/10/17 08:19] URL | 武田 #v6O6VgHs [ 編集 ]
悠雅さま、武田さま、こんにちは。コメントとTBをありがとうございます! コメントレスをまとめさせて下さい。

☆悠雅さま
そうなんです、レンタル店一軒目では置いてなくて、借りられてラッキーでした!
DVD化を機に、多くの方に観ていただきたい作品ですね。
私、『ハルク』は未見なのですが、監督が「グリーン・・とハルク、二つの大作で疲れきってしまった」とおっしゃったのがわかる気がしました。
このような小品で良質な作品を撮られる方ですから、そりゃ身も心もお疲れだったでしょうね。
でも監督が改めて原点に帰って、BBMという映画を撮られたこと、本当にうれしく思います。
また連日お邪魔すると思います。よろしくお願いします。ではでは、ありがとうございました。

☆武田さま
私も朱老師に太極拳の弟子入りしたいです(笑)。
「個の自立」そうですね~、私も監督は結構個人主義な方なのだな~と感じました。
旧来の家族関係に縛られず、自由な生き方を通させてくれたお父様への感謝も込められているとも感じましたし。。
DVD化されて、観ることができて本当によかったです。
私もまたお伺いしますね。ありがとうございました。
[2006/10/17 09:22] URL | 真紅 #V5.g6cOI [ 編集 ]
真紅さん、またまたお邪魔します。
私もやっとレンタル見つけて鑑賞しました。これ新作扱いなんですね。どおりで「ウェディング・バンケット」や「恋人たちの食卓」と違うところにあるわけだわ。せこい私は新作見るのは9/21のBBMフライングレンタルに次いで今年2度目の経験です。
「推手」が太極拳の事だと知り見たいと思っていたんです。実は「グリーン・ディスティニー」をアクション映画だと思って見た私です。(見たらラブ・ストーリーだったんでびっくり)。勿論「推手」はアクション映画じゃないとわかってましたが。
太極拳はかの大山培達氏が若いころの武者修行で唯一勝利を収められなかった拳法だったんです。流れるような動きで全く力を使わず相手を投げ飛ばす、何て不思議な拳法だろうと。
「推手」で、主人公が手だけで人を軽々と投げ飛ばすのを見てああ私たち(BBMファン)はこんな風にアン・リーの魔法のような手腕によってまんまとお山の麓に投げ飛ばされたんだと、感じました(笑)。
アン・リー監督の映画は優しい語り口で愛を語っているようで、実は今の時代に中々表現する事が難しい、他者にもっと優しくしなさいとか思いやりを持ちなさいと結構強くメッセージを送っているんだと思いました。
父親3部作で描かれる世代間のギャップ。本作ではそこに人種間のギャップが加わります。見ているほうが歯噛したくなるような展開。これが丸く納まるとは思えない、、、けれど前進しようとする意思があれば人は道を見つける事ができるものなのだとアン・リーは示してくれます。思っていたよりずっといい映画でした。
根底にはBBMに繋がるものが感じられるこの三部作、BBMファンには特におすすめですね。
[2006/10/24 20:21] URL | kママ #7iSbDyII [ 編集 ]
kママさま、こんにちは。コメントありがとうございます。
そう、新作扱いなんですよねこの作品。私もなかなか見つけられず、結局店員さんに聞いてしまいました。
『グリーン・ディスティニー』は、ワイヤーアクション以外あまり印象に残ってないのです。
アメリカではすごくヒットした作品なのですよね。オスカーも獲りましたし。
でも私たち日本人、特にBBM好きにはこちらの初期三部作のほうが人気があるのではないでしょうか。
なんと、マス大山が勝てなかったとは・・。太極拳恐るべし、ですね。私も映画を観て、物凄く習いたいと思いました。
このデビュー作から、深くて強いメッセージがありますよね。
でもってラストはやさしく主人公達を救い、方向性はしっかり示している。
派手さはないんですけど、すごく心に残ります。初期の三部作、どれも大好きで、観られて本当によかったと思っています。
ホントにアン・リーにはやられっぱなしです・・。
またお話して下さいね。ありがとうございました。
[2006/10/25 00:12] URL | 真紅 #V5.g6cOI [ 編集 ]
真紅さん 明けましておめでとうございます。

TBとコメントをいただきありがとうございました。あの一体どうなっているんだという幕開けが秀逸でした。そして朱と陳夫人が街頭で空を見上げるラストシーンがまた希望を感じさせて素晴らしかったですね。非常に身近なテーマを見事なドラマに仕上げていたと思います。太極拳が重要な意味を込められていたことも印象的でした。

既に3作ともご覧になったのですね。何を観ても既にご覧になっている。田舎町に住む身としては後からとぼとぼついてゆくしかありません。

今年もよろしくお願いいたします。
[2007/01/04 21:18] URL | ゴブリン #2YYP0Fkg [ 編集 ]
ゴブリンさま、こんにちは。コメントとTBをありがとうございます。
こちらこそ、今年もどうぞよろしくお願いいたします。

アン・リーの父親三部作は、DVDレンタル化されてすぐ探しました。
どの作品も素晴らしいですよ、大好きです。ゴブリンさまのレビューを楽しみにしております。
映画に限らず文化的な生活を満喫しようと思えば、やはり東京在住者に限りますよね、しかも独身で(笑)
私もいろいろ制約はありますが、自分が出来る範囲で何とか楽しもうと思っています。
今後ともどうぞお付き合い下さいね。ありがとうございました。
[2007/01/05 05:22] URL | 真紅 #V5.g6cOI [ 編集 ]
真紅さん、こんにちは♪
やっと見つけて観ることができました。
感想はできてませんが伺っちゃいました。
監督の現実にしっかりと根を張った視線と
彼の根底にある人間に対する優しい視線が
登場人物ひとりひとりに、エピソードのひとつひとつに描き込まれている様で、見事でした。
ていねいな仕事師アン監督に益々感服しました。
こうしてジャックとイニスの物語がはぐくまれていたのですね。
三部作なのですね。他2作も探して観たいです。
[2007/01/16 00:58] URL | fizz♪ #0HzTjQFo [ 編集 ]
fizz♪さま、こんにちは。コメントありがとうございます。
ご覧になったのですね~!拙記事の最後に書いた「現実的だけどやさしい」これがアン・リーなのでしょうか?
冷徹なところもあるのですけど、ラストでは主人公たちをやさしく救う、これは三部作に共通していました。
だからどの作品も後味とってもいいですよ!どの作品もオススメです。
是非ご覧になってみてね。fizz♪さまの感想、楽しみにしておりますので。
ではでは、私もまたお伺いしますね。
[2007/01/16 05:05] URL | 真紅 #V5.g6cOI [ 編集 ]
観ました!!
人生というものは、とても深く、優しく・・
この作品は、これまで出会ってきた彼の作品の、まさに原点だと思いました。

[2007/01/16 17:58] URL | D #k0GcsowQ [ 編集 ]
Dさま、こんにちは。コメントとTBをありがとうございます。
ご覧になったのですね~。。これDVDで観られるようになって本当にうれしい作品ですよね。
まさしくアン・リーの原点!
Dさま『いつか晴れた日に』お好きなんですよね。私も大好きです♪
後ほどお伺いしますね。ではでは。
[2007/01/17 00:23] URL | 真紅 #V5.g6cOI [ 編集 ]
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