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映画が大好きです。いつまでも青臭い映画好きでいたい。 記事は基本的にネタバレありです by 真紅 (言葉を探す人)   ★劇場鑑賞した映画は Instagram にアップしています @ruby_red66 ★Stay Blue

天才作家、渾身の著~『冷血』

20061012174959.jpg

 1959年、カンザス州ホルカム村で起きた一家四人惨殺事件。トルーマン・カポー
ティ
が5年の歳月をかけて事件を取材し、その圧倒的な筆力でノンフィクション文学の
先駆けとなった
本作。映画『カポーティ』はこの作品の執筆過程のトルーマン・カポ
ーティ
を描いており、小説冒頭には映画にも登場するカポーティのパートナー、ジャ
ック・ダンフィーと友人ハーパー・リーに献辞が捧げられている。

 長い小説を読み終わったことに対する、ただの満足感なのかもしれない。それでも、
凄惨で救いの無い、人間の暗部を描いた作品であるにもかかわらず、良質の作品を読
んだ時の「何ともいえない読後感」に満たされた。被害者一家の生活、牧歌的なホル
カムの人々、犯人達の生い立ち、事件当日の顛末、逮捕と裁判をめぐる日々、そして
最後の日。作者は感情を排した静かな筆致で事件に関わる全てを丹念に描写すること
で、読むものの内に恐怖をヒタヒタと忍び込ませ、犯罪の不条理を浮かび上がらせる。

 読みながら、マイケル・ギルモアの『心臓を貫かれて』を思い出さずにはいられな
かった。殺人犯である死刑囚を、身内の視点から一族の血の歴史と絡めて描き出した
この作品、翻訳は村上春樹である。村上氏はカポーティ好きを公言しているし、カポ
ーティの作品の翻訳もしている(『クリスマスの思い出』『誕生日の子どもたち』)。
村上氏が『心臓を貫かれて』を訳したのも、ノンフィクション『アンダーグラウンド
約束された場所で』を著したのも、この『冷血』の影響があったのではないかと思
うのは考えすぎだろうか。

 全てが終わり、静寂が戻ったホルカムに一抹の風が吹くラストシーンは、人の世の
無常
を感じさせて胸に残る。

 映画『カポーティ』の予習のつもりで、泥縄式に読了した本書であったが、予想以
上に読み応えのある作品だった。1967年に初訳が出た後、40年近くたった2005年
新訳が出たことを考えても、後世に残すべき傑作であることは間違いないだろう。
映画に興味が無い、観る予定のない人にとっても、優れた文学作品として「読む価値
は余りある作品だと思う。かく言う私も村上訳以外のカポーティの小説は未読である
が、映画と併せてカポーティその人にも大変興味を持った。できる限りの作品に触れ
てみたいと思う。

20061012175008.jpg★文庫版もあります(宣伝に駆り出されるPSH

(『冷血トルーマン・カポーティ著/佐々田雅子・訳/新潮社・2005
 "In Cold Blood" by Truman Capote/1965/USA )
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テーマ : 海外小説・翻訳本
ジャンル : 小説・文学

2006-10-12 : 読書 : コメント : 6 : トラックバック : 0
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非公開コメント

真紅さん、
面白そうですね。読んでみたいなあ。

そうそう、TBの設定、またちょっといじってみました。良かったらトライしてみてください。
2006-10-12 21:20 : チュチュ姫 URL : 編集
チュチュ姫さん、こんにちは。コメントありがとう。
これ、読ませますよ。是非読んでみて、英語で! 翻訳もこなれてて読み易かったけど、やっぱ英語で読むのが一番よね。
TB、次の記事で早速トライしてみますね。ではでは~。
2006-10-13 01:07 : 真紅 URL : 編集
こんにちわ!
真紅さん・・・ホントにすみません。コメントいただいておきながら、お返事がいまさらになってしまいました・・・。ホントにごめんなさい!!

今、冷血を読んでいる途中なんです。本当は小説を読んでからこの作品を観れば、もっと感じ方が違ったかもしれない・・・と少し後悔しているんだけれど。
文学史上最高の傑作と呼ばれる作品を書き上げたカポーティという人物とその苦悩。やっぱりこの映画と小説の両面からじゃないとその真髄には迫れないようなきがして、焦って読み進めています(苦)。
でも、この映画から感じたことをそのまま小説とリンクさせて読むのもまた一つの感じ方かもしれない。

ホフマンのあの壮絶な演技がいまだに頭にこびりついて離れないんです。全体的にとても単調で静かな作品だったけれど、そこにある底知れぬ苦悩や葛藤が心に重くのしかかる映画でした。
2006-10-24 15:49 : 睦月 URL : 編集
睦月さま、こんにちは。コメントありがとうございます。
『カポーティ』でのPSHの演技は、確かにただの「モノマネ」なんかではない、凄みを感じさせるものでしたね。
私もあの作品はかなりよかったと思います・・。地味だし静かな映画ですが、語りかけてくるものが鋭いんですよね。
『冷血』は分厚いし重苦しい本ですが、読み終わったら得るものは必ずあると思いますので頑張って下さい。
読後感はそう悪くないですよ。ではでは。
2006-10-24 17:16 : 真紅 URL : 編集
真紅さま、こんばんは♪
コメントいただき、ありがとうございました。
(TB相変わらずすみません・・)
>、優れた文学作品として「読む価値」
は余りある作品だと思う。
ほんまですね。こんなに読み応えのある問題作だったのか・・と驚きました。「インファマス」、なるべく公開されるとよいですよね~。「冷血」は借りてみようかなーと思いますが、怖そうなので躊躇しております。
2007-02-14 23:20 : 武田 URL : 編集
武田さま、こんにちは。コメントありがとうございます。
『インファマス』はDVDストレートでもとにかく観たいですね。
私は『冷血』は観てないんですが、『カポーティ』は凄い映画でした。
ほとんど満席でびっくりしたのを憶えてます。
武田さまの映画の感想も楽しみにしておりますね♪
ではでは、また伺います。
2007-02-15 01:58 : 真紅 URL : 編集
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