その名前を忘れない~『乙女の密告』
乙女の密告

 圧倒的に女子学生が多い、京都の外国語大学ドイツ語のスピーチゼミに参加
しているみか子は、スピーチコンテストのための暗唱練習に明け暮れていた。与
えられた課題は、『ヘト アハテルハイス(後ろの家)』、即ち『アンネの日記』

 第143回芥川賞受賞作。京都生まれだという著者による、関西弁を駆使した
ーモア小説
であり、「アンネ・フランクを密告したのは誰か?」という謎解きでも
あり、絶滅危惧種である「乙女」生態とアイデンティティの拠り所を模索しよう
とした意欲作でもある。数時間で読み通せる、短編小説と言っていいボリューム
の物語ではあるが、読後、しばしの咀嚼が必要だった。

 ドイツ語学科教授、バッハマン氏「変人キャラ」が凄い。最初はただの「あほ
なおっさん」
でも、みか子にスピーチの本質を悟らせようとする終盤の姿には、
鬼気迫るものがある。

 「乙女の皆さん、アンネ・フランクを正しく思い出してください」

 ユダヤ人であるために、隠れることを余儀なくされたアンネ。彼女は「戦争が
終わったらオランダ人になりたい」
と書いた。わたしは他者になりたい、と。しか
し、彼女はそう望むことで「名前」を失い、疎外される「他者」となった。異質な
存在は、「他者」という名のもとに排除される。ホロコーストは、ユダヤ人たちの
命や財産だけでなく、名前も奪った。その名前を忘れないこと。忘れるというこ
とと戦うこと。二度と悲劇を繰り返さないために。

 ( 『乙女の密告』 赤染晶子・著/新潮社・2010)
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[2010/11/01 19:57] | 読書 | トラックバック(0) | コメント(0) |
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