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映画が大好きです。いつまでも青臭い映画好きでいたい。 記事は基本的にネタバレありです by 真紅 (言葉を探す人)   ★劇場鑑賞した映画は Instagram にアップしています @ruby_red66 ★Stay Blue

殉愛~『北京故事 藍宇』

北京故事

 映画藍宇(ラン・ユー)原作小説。インターネット上に覆面作家の作品とし
て発表され、賛否両論を巻き起こしたという問題作。

 映画を観て、どうしようもなく心惹かれた私だけれど、何点か疑問に思うところ
はあった。その答えを探しに、80年代後半の北京の街を訪れてみることにする。
冒頭、あれから三年後。捍東ったらいきなり再婚してるよ! あり得ない・・・。
いや、陳捍東のあのキャラクターならあり得るかも、と気を取り直す。

 映画では、捍東は正月に藍宇を自宅に招き、家族の皆に紹介している。捍東
が逮捕されたときも、藍宇と捍東の仲は公然のように見えた。21世紀の今以上
に、偏見と差別意識が強かったであろう80年~90年代の北京で、捍東の一家
は特別にリベラルだったのだろうか?
 原作では、一家の長男であることや、老いゆく母の言葉にプレッシャーを感じ
る捍東の姿や、家族の偏見が生々しく描かれている。特に、捍東の妻・林静平
が藍宇を陥れた所業は強烈。捍東に何度諭されても、「僕は結婚なんかしない
!」
と応える藍宇に涙してしまう。

 離婚した捍東は再会した藍宇に、「彼氏はいるの?」と尋ねる。藍宇は「彼は
学生で、海外にいる」
と曖昧に答える。この言葉は真実なのか? 原作では、
捍東がその「彼」を目撃する場面や、藍宇の部屋で写真を見つける場面がある。
しかし、「僕はあなたが好きなだけだ!」という、藍宇の言葉に嘘はない

 原作小説は捍東の一人称で描かれているため、当然ながら捍東の視点から
見た藍宇
しか描かれない。藍宇の視点から描かれた『北京故事』が読みたい
思うのは私だけだろうか。

 ねぇ藍宇、初めて捍東を見たとき、どんな感じだったの? 彼のどこが一番
好きだった? 捍東はどんな身体つきをして、どんな表情を見せるの? 捍東
と一緒にいて、ずっと不安だった? それとも、ずっと幸せだったのかな。 どう
して「来世ではこういうふうにしない」って言ったの? 捍東は、天国でも地獄で
も、君と一緒にいたいって神様にお祈りしているんだよ・・・。


 最初から最後まで、映画で描かれるよりずっとずっと、捍東は藍宇に執着して
いる
ように思えた。家族や会社や、「世間体」に囚われていた分、捍東の方が
は深かったのかもしれない。男同士だとか、同性愛だとかではなく、ただ「人間
同士」
が愛し合うことが、これほどの苦難と葛藤を伴うなんて・・・。それでも、「現
世では後悔してない」
と言った藍宇。彼のはどうしようもなく捍東を求め、どん
な困難も二人の愛を砕くことはできなかった。死でさえも

 ( 『北京故事 藍宇』 北京同志・著/九月・訳/講談社・2003)
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テーマ : 恋愛小説
ジャンル : 小説・文学

2010-10-31 : 藍宇熱 : コメント : 10 : トラックバック : 1
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北京故事-藍宇-
映画藍宇(ランユー)の原作となった,中国のインターネット小説。もともとは過激な描写も満載だったらしいが,後に出版される際には「藍宇」と改題,加筆修正され,過激な描写は一部割愛されたそうで。 映画の記事にも書いたが,原作の文章から匂い立つ藍宇の魅力は格別
2010-11-01 22:17 : 虎猫の気まぐれシネマ日記
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おはようございます。
「殉愛」って良いタイトルですねえ……。

『藍宇』の脚本家魏紹恩 (ジミー・ガイ)さんは、映画のシナリオを書くのときにこの原作は2回ぐらいしか読まなかったというようなことをインタヴューで言っていて、ちょっとびっくりした記憶があります。
原作にあったエピソードをそのままその通りに使うのではなく、時間や場面を変えてコラージュしていて、「なるほどこういうふうにアレンジしたのか」と、映画と原作を比べてみるとなかなかに興味深いです。
「ああここは是非とも胡軍と劉燁で映像化して欲しかったのに!」的なエピソードも多々あるのですが(藍宇が熱出して捍東が看病するところとか)、語弊を恐れずに言えば良くも悪くも「女のすなるBL」である原作を、男性でありゲイである視点から読み換え、素っ気ないほど潔く美しくまとめた關錦鵬はやっぱりすごい!と思いました。

原作での捍東母や静平の藍宇への所業について、「女性として共感する」と書かれていたかたがいましたが、妻であり母である「女」ってああいう下品なことも平然と出来る生き物なのか!と、母にも妻にもなった経験が無い私は唖然とするばかりです。映画で捍東が実家に藍宇を連れて行く場面では「友人の弟」というふうに紹介していますから、さすがの捍東もお母さんや弟妹の前で「この子と寝てます」とは言えなかったのだろうと思われます。刑務所面会場面とか出所祝いの場面では、捍東妹とその旦那にはすでに公認という空気ですけど、やっぱりあれは藍宇があんまりにも天使な子なので(笑)彼らもほだされちゃって、かわゆく思うようになっちゃったんだ、と。妹を演じているのが実生活での胡軍さんの嫁ってあたりにちょっとずきずきします……。

>藍宇の視点から描かれた『北京故事』

これはちょっと考えたことがありませんでした。
でも、考えてみれば自分がこの映画についてああだこうだ思い悩んだり、ぐだぐだ文章を書いているのはすべて、何処かにある「藍宇の視点から描かれた『北京故事』」を探り当てたい、という闇雲な情熱によるものなのかも知れません。
2010-11-01 10:53 : レッド URL : 編集
あまり、カキコミはしないのですが、いつも楽しく拝見してます。
同じ関西圏に住んでいるせいか、同じ時期に同じ映画を観ておられることが多いようで、勝手に親近感を持たせていただいてます。

実は、この本をもう2年くらい探しています。
いえ、買ったんです。
で、家にあるはずなのですが、行方不明……
今回、真紅さんの記事を拝見してますます読み返したくなりました。
でも、どこにあるのやら……

片付けられない子な自分がほとほと不憫です。
2010-11-01 17:50 : まーちゃん URL : 編集
レッドさん、こんばんは! コメントありがとうございます。
藍宇は、どうしても愛に殉じたとしか思えないのですよ。。
彼が愛したのは、生涯捍東ただひとり。だと信じています。
身も心も捧げる、、って言うは易し、行うは難し、ですよね。

私は原作のある映画を観て原作を読むと、大抵原作のほうがいい、と感じるのですが、『藍宇』は映画のほうが断然よかったです。
省略されてわかりにくい部分も確かにありますが、そこは観た者の想像(あるいは感性)に委ねる。
それでいいんじゃないかと思います。
それに、この映画には「省略の美」があると思うんですよね。
藍宇が熱を出す場面、、そうですね! あそこは慌てふためく捍東が観たかったですね。
泣きそうになってる捍東。。うるうる
魏紹恩 (ジミー・ガイ)さんも、ゲイの方なんでしょうか?

原作の静平は酷過ぎですよね。。共感?! まさか!
そこまでして何で結婚するの? と思いますよ。捍東が魅力的だから? お金目当て?
まぁ、「人を呪わば穴二つ」と言いますから・・・。
で、捍東妹を演じている女優さんが胡軍様の奥様だと知った時、私も腰を抜かしそうになりました。
う~~~~ん、俳優って凄いなぁ。。もしかして、監視役?(爆)。
でも、あの方が胡軍様の奥方なのですね。。う、うらやまし過ぎる。。。
りうくんも、今年結婚したんですよね。もうパパだとか?! 想像できませんね。
私の中で、彼は永遠に藍宇です。多分。

捍東の視点から描かれた藍宇はどうしようもなく魅力的ではあるのですが、同時にミステリアスでもあります。
原作を読んで、いくつかの疑問点はクリアされたのですが、藍宇をめぐる「謎」はますます深まったような気さえしています。
私も、これから永遠に藍色宇宙を彷徨うことになるのかもしれません。御同輩!
2010-11-01 19:40 : 真紅 URL : 編集
まーちゃんさん、こんばんは! コメントありがとうございます~。
私も、時間がなくてコメントはほとんど失礼している状態です。
親近感、ありがとうございます~。もう、どんどん持っちゃって下さい(笑)。

私は、この本なんと図書館で借りています。
版元でももう品切れのようで、ネットの中古市場では高値がついているようですね。
映画も観られたのですよね? 映画を観て原作が読みたくなる気持ち、すっごくわかりますよ~。
私も、どこにしまったかわからない本やDVD、山ほどあります。。
どうか見つかりますように♪
2010-11-01 19:46 : 真紅 URL : 編集
こんばんは

藍宇の視点から書かれた「北京故事」
私もぜひ読んでみたいですね。
ただ,私にとっては捍東目線で綴られた
ミステリアスで,ありえないほどに愛する能力に長けた藍宇が
本当に好きなので
そんな藍宇の魅力のすべては
かえって謎のままにしておきたい,という気持ちもあります。
それくらい,私にとって「藍宇」という人物は
「愛する」ことにかけては
まさしく神のような存在にまでなっているのかも。
もしかしてもはやBBMを超えている・・・?と
思うこともしばしばの「罪な」作品です。
しかし「藍宇」目線の原作をもし読んでしまったら
それはそれでまたどっぷりと
これまで思い至らなかった「藍宇」の新しい魅力に
そして捍東への愛の深さに
打ちのめされるほどの感動を覚えるのでしょうねぇ。
2010-11-01 22:15 : なな URL : 編集
ななさん、こんばんは。コメント&TBありがとうございます。
確かに、藍宇って人はなかなか一筋縄ではいかない人物かもしれないですね。
でも、その謎めいたところも「知り過ぎたら別れる」という捍東の「宣言」に対する予防線だったのかもしれません。
結局、彼の行動は全て捍東への「愛」ゆえだった、という気もします。
原作の、藍宇の「僕はあなたが好きなだけだ!」っていうセリフが大好きです。
あのセリフの前後、捍東が藍宇を病院に行かせるエピソードは本当に悲しいです。
捍東・・・ホントにバカなんだから、、どうして藍宇にあんな辛い思いさせたのさ!と詰め寄りたくなりますね。
ああ~~私もまだまだ「どっぷり」です(笑)。
2010-11-02 21:48 : 真紅 URL : 編集
ロムしてる者ですが。。メイキングのご感想アップお待ちしてます。
2010-11-06 02:27 : 通りすがり URL : 編集
通りすがりのかた! コメントありがとうございます&お待たせして申し訳ないです~。
もう書いてはいるのですがなかなかアップが追い付かず・・・。
今日これからアップいたしますのでStay tuned!
2010-11-06 18:01 : 真紅 URL : 編集
真紅さん、こんにちは^^
こちらにも。
原作読んだのね~。
で、沢山の方々のコメントも読ませてもらったよ。
え~~~あの女優さんが、リアル妻だとは、、、びっくり!知らなかった・・・。
真紅さんの、「監視役」ってのは笑っちゃった、でも確かに、この2人凄く親しくなり、本当に現実にもやばい雰囲気になりかけてたっぽいもんね・・・。

あと、私も気になっていた部分が書かれていて嬉しかったわ。本当にランユーには新しい彼がいたのか?いると嘘を言ったのか?ってところ。そうか~一応いるにはいたんだね?

この映画、凄いファンの方々が一杯いるんだね。映画見た後、みなさんのコメントとか記事とか読ませてもらったら、更にこの映画の評価と、見て良かった~って気持ちとが増しました(^○^)
2010-11-30 17:25 : latifa URL : 編集
latifaさん、こちらにもありがとう~^^
原作、ソッコーで図書館で借りて読んだよ。貸出期間延長までしてたよ(笑)。
そうなんだよ~、妹役が奥さんだったなんてねぇぇ。。
俳優さんって凄いと思わん? 役の中ではその役を生き切ってさ~、でまた日常生活に戻るなんて。。
でも、この作品ではさすがに戻るのに半年以上かかったらしいけど。。

映画だと、藍宇が嘘ついてる(見栄張ってる?)みたいにも見えるもんね、新しい彼のこと。
原作だと、捍東の方が藍宇に超ゾッコンなんだよ。。もちろん藍宇もなんだけど、映画以上にそう感じる。
でも、私は原作より映画のほうが断然好きなんだ。。そう感じるって珍しいことなんだけど。
ああ~、ホント今すぐ藍宇が観たい~。
後ほど伺いますね。ありがとう~。
2010-11-30 20:13 : 真紅 URL : 編集
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