日本一のメートル・ドテル~『世界一の映画館と日本一のフランス料理店を山形県酒田につくった男はなぜ忘れ去られたのか』

1976年10月29日、山形県酒田市に未曾有の大火が起こる。火元となったの
は、かつて淀川長治も絶賛した、グリーン・ハウスという映画館だった。
この長い長い題名のノンフィクションは、出版当時から気になってはいた。忘れ
かけていたところに、先日読んだ片桐はいりのエッセイ『もぎりよ今夜も有難う』
にこの映画館の話が登場して、やはり読んでみようと思った。
弱冠二十歳で映画館の支配人となり、その徹底したサービス精神で唯一無二
の映画館を作った男、佐藤久一。客を喜ばせることに命を捧げた彼の、波乱の
人生が描かれる。実は佐藤が映画館の支配人として生きたのは14年ほどで、
その倍以上の時間を、フランス料理店の支配人として過ごしている。
佐藤の、客をもてなすための過剰なまでのサービスと、旬の素材を生かした料
理を作るための執念には頭が下がる。しかし、彼は商売人には不可欠の「バラン
ス感覚」を欠いた人物だった。損得抜きで客にサービスすれば、その店の経営が
破綻してしまうことは自明の理。佐藤は並外れた情熱を持った「夢追い人」ではあ
っても、経営者としては二流以下だったのだ。
日本中の食通をうならせるレストランの支配人として君臨しながらその地位を
追われ、亡くなったときには簡易保険の二百万しか残せなかった男。しかし、グ
リーン・ハウスがあの大火の火元になったことも含めて、彼が今も酒田の人々
の記憶に残る人物であることは間違いない。長い長い題名とは、矛盾するけれ
ども。
( 『世界一の映画館と日本一のフランス料理店を山形県酒田につくった男はなぜ
忘れ去られたのか』 岡田芳郎・著/講談社・2008)
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真紅さま こんにちは!
今回ご紹介くださった本、ものすごく興味そそられました。
「山形県酒田市」と聞くといまだに「大火!」という印象が頭に浮かびます。本当にものすごい大規模火災でした。でも、その火元が洋画専門の映画館だったとは。
拝見したこのブログを元に、この本について、酒田大火について、そして佐藤久一氏とお店について、いろいろ検索してさまざまなことを知りました。この本は地元でベストセラーになったそうですね。私もぜひ探して読んでみよう!
勉強になります、真紅さん ありがとう\(^o^)/
今回ご紹介くださった本、ものすごく興味そそられました。
「山形県酒田市」と聞くといまだに「大火!」という印象が頭に浮かびます。本当にものすごい大規模火災でした。でも、その火元が洋画専門の映画館だったとは。
拝見したこのブログを元に、この本について、酒田大火について、そして佐藤久一氏とお店について、いろいろ検索してさまざまなことを知りました。この本は地元でベストセラーになったそうですね。私もぜひ探して読んでみよう!
勉強になります、真紅さん ありがとう\(^o^)/

2010-10-22 13:55 :
メグ URL :
編集
メグさん、こんにちは。コメントありがとうございます。
お久しぶりですね、お元気でしたか?
この本、出版当時書評も出たりして結構話題になっていたんですよ。
気にはなりつつ未読のままだったのですが、文庫にもなっているんですね~。
私は関東以北は縁のない、東北地方には全く行ったことがない人間なのですが、山形県って行ってみたいな~と思っています。
『おくりびと』も山形が舞台なんですよね。。
難解なところもなく、すっと読める本ですので、是非読んでみて下さい!
お久しぶりですね、お元気でしたか?
この本、出版当時書評も出たりして結構話題になっていたんですよ。
気にはなりつつ未読のままだったのですが、文庫にもなっているんですね~。
私は関東以北は縁のない、東北地方には全く行ったことがない人間なのですが、山形県って行ってみたいな~と思っています。
『おくりびと』も山形が舞台なんですよね。。
難解なところもなく、すっと読める本ですので、是非読んでみて下さい!
真紅さま こんにちは。こちらにもおじゃまいたします。
この本(文庫版)、やっと書店でみつけて読みました。
佐藤久一については本当に何も知らなくて、そのドラマティックな生涯に、まるで冒険小説を読むような思いでページをめくってしまいました。
この佐藤久一も、家族・仲間たちにはとてつもない苦労と迷惑をかけて、近くにいたらホントに困り者ですが(吉行淳之介に近い部分もありますね(^^ゞ)フランス料理店にかける情熱にただただ感嘆してしまいます。でもいくらなんでも原価率70%超って・・・これでは経営の維持は無理ですよね。情熱に負けて何かを見失った人生。そして久一の人生もそうですが、久一に魅せられたこの著者の思いいれもまた並々ならぬものがあって、特に最後の方は「私の人生は自分を賭けるほどめりこむものがなかった、毎日が平穏だったが、決断をすべて先送りして、生きるということに真剣でなかった」などということを書いていて、なんだかとても心を揺さぶられました。
「でもやっぱり平々凡々の平穏の中に堅実な幸福はあるんだ」と思います。
のちに再評価はあったものの「料理を作ったのは久一ではないから」との理由で栄誉をうけられなかったというエピソードに悲しさを感じました。(アメリカだったら、ハリウッドが映画化する人物でしょうけれど、日本では・・・無理でしょうね)
私にとって(昔ニュースで見た酒田の大火の記憶とともに)忘れられない一冊となりました。真紅さんがこちらでご紹介してくださらなかったら佐藤久一のことは一生知ることはなかったと思います。ありがとうございました
この本(文庫版)、やっと書店でみつけて読みました。
佐藤久一については本当に何も知らなくて、そのドラマティックな生涯に、まるで冒険小説を読むような思いでページをめくってしまいました。
この佐藤久一も、家族・仲間たちにはとてつもない苦労と迷惑をかけて、近くにいたらホントに困り者ですが(吉行淳之介に近い部分もありますね(^^ゞ)フランス料理店にかける情熱にただただ感嘆してしまいます。でもいくらなんでも原価率70%超って・・・これでは経営の維持は無理ですよね。情熱に負けて何かを見失った人生。そして久一の人生もそうですが、久一に魅せられたこの著者の思いいれもまた並々ならぬものがあって、特に最後の方は「私の人生は自分を賭けるほどめりこむものがなかった、毎日が平穏だったが、決断をすべて先送りして、生きるということに真剣でなかった」などということを書いていて、なんだかとても心を揺さぶられました。
「でもやっぱり平々凡々の平穏の中に堅実な幸福はあるんだ」と思います。
のちに再評価はあったものの「料理を作ったのは久一ではないから」との理由で栄誉をうけられなかったというエピソードに悲しさを感じました。(アメリカだったら、ハリウッドが映画化する人物でしょうけれど、日本では・・・無理でしょうね)
私にとって(昔ニュースで見た酒田の大火の記憶とともに)忘れられない一冊となりました。真紅さんがこちらでご紹介してくださらなかったら佐藤久一のことは一生知ることはなかったと思います。ありがとうございました

2010-12-13 21:25 :
メグ URL :
編集
メグさん、こちらにもコメントありがとうございます。
この記事、憶えていて下さってありがとうございます。
でも、なかなか面白い本でしたでしょう?
私も全く知らない人物の評伝だったのですが、こんな人生を送る人もいるのだなぁ、、と感慨深く読みました。
著者も、かなり思い入れがあるようでしたよね。
でも、このように新聞の書評に取り上げられ、文庫化された本を書いた方の人生はそれはそれで素晴らしいんじゃないか、って凡人の私なんかは思うのですがね。
儲けを出して財をなすことはできなかった佐藤氏ですが、このように人々の心に残る人生だったことも素晴らしいと思います。
幸せって人それぞれですよね、、傍から見れば悲惨と思える人生でも、本人は結構あっけらかんと幸せだったりするかもしれないし。
「平々凡々の平穏の中に堅実な幸福はある」その通りですね。
晩ご飯が温かければ、もうそれだけで幸せなのかも。
こちらこそ、コメントありがとうございました。
この記事、憶えていて下さってありがとうございます。
でも、なかなか面白い本でしたでしょう?
私も全く知らない人物の評伝だったのですが、こんな人生を送る人もいるのだなぁ、、と感慨深く読みました。
著者も、かなり思い入れがあるようでしたよね。
でも、このように新聞の書評に取り上げられ、文庫化された本を書いた方の人生はそれはそれで素晴らしいんじゃないか、って凡人の私なんかは思うのですがね。
儲けを出して財をなすことはできなかった佐藤氏ですが、このように人々の心に残る人生だったことも素晴らしいと思います。
幸せって人それぞれですよね、、傍から見れば悲惨と思える人生でも、本人は結構あっけらかんと幸せだったりするかもしれないし。
「平々凡々の平穏の中に堅実な幸福はある」その通りですね。
晩ご飯が温かければ、もうそれだけで幸せなのかも。
こちらこそ、コメントありがとうございました。