アメリカの良心~『アラバマ物語』

1930年代、アメリカ南部「ディープサウス」アラバマ州の田舎町。正義感の強い
町の弁護士アティカス・フィンチ(グレゴリー・ペック)は、暴行事件で逮捕され
た黒人青年トムの弁護を引き受ける。黒人に対する偏見と差別、閉鎖的な町の白人
たちの無言の圧力にもめげず、人間の尊厳を貫く彼の姿を、子ども達の視点から描
いた作品。ハーパー・リーのピューリッツァ賞受賞小説『アラバマ物語』が原作で
あり、この小説はアメリカでは大変ポピュラーであるらしい。主演のグレゴリー・
ペックはこの作品でアカデミー主演男優賞を受賞、また本作の主人公アティカス・
フィンチは、2003年にアメリカ映画協会が発表した「最も偉大な映画のヒーロー」
第1位に選出されている。
この作品を観ようと思ったきっかけは、ジェイクが原作のファンで、愛犬に主人
公の名前「アティカス」と名付けていると知ったことが一つ。もう一つは、原作者
ハーパー・リーがトルーマン・カポーティの幼馴染であり、本作に登場するアティ
カスの子ども達の友人ディルは、カポーティがモデルだと知ったから。映画『カポ
ーティ』にもこの映画の話が出てくるらしい。
★以下ネタバレします★
モノクロの古い映画を久しぶりに観た。子ども達の暮らしぶりを中心に描かれる
前半はどうってことないのだが、トムの裁判が始まるあたりから俄然面白くなり、
最後の最後まで目が離せない。前半部分で、フィンチ家の隣人ブーが子ども達の好
奇心の的、謎めいた存在として提示され、ラストでその謎が明かされるところがな
んとも言えない。ブーはロバート・デュバルが演じており、本作が彼の映画初出演
作だという。デュバルは同じくディープサウスが舞台の『スリング・ブレイド』に
も出ていたなぁ。

グレゴリー・ペックは、真面目で実直で正義感の強い役どころがピッタリはまっ
ている。真夏でもスーツを着て、ネクタイをきっちり締めている様には「暑くない
んかな~」とも思ったが(笑)。アクションも恋愛も宇宙人も出てこない、とって
も地味なこの作品の主人公が「最も偉大なヒーロー」に選ばれるアメリカは、意外
にもそう捨てたものではないのかも、と思えてくる。またアティカスの子、ジェム
とスカウト兄妹、特に勝気で真っ正直なおてんば娘スカウトがいい。フィンチ家の
黒人メイドキャロルが亡くなった母親の代わりに家事をこなし、スカウトを厳しく
躾けるところも、子ども達が父親を「アティカス」とファーストネームで呼ぶこと
と合わせ、フィンチ家のリベラルな家風を象徴しているようで印象的だ。
白人の弁護士が、圧力にめげず黒人被告の弁護をする、というストーリーに、マ
シュー・マコノヒーが主演したジョエル・シューマッカーの『評決のとき』のよう
な作品なのかな?と思っていた。陪審員制度の問題や罪と刑罰のバランスなど、否
応なしに考えさせられてしまうところは同じだけれど、結末は全く違う。裁判が閉
廷するとき、白人は一階席に座り、黒人は二階席で立ち見、という状況の中、法廷
を去るアティカスを黒人全員が見送る場面はじんと来る。また『アラバマ物語』と
いうタイトルに、子ども向けの家族愛の物語かな?と思ってしまうが、これも全く
違う。原題は“To Kill a MockingBird”、映画の中に“a sin to kill a mockingbird”
というセリフがあり、そこから採られている。
しかしこの作品、DVDが500円で買えるって凄いことだと思う。買おうかな。。
いい作品です。原作も、是非読んでみたいと思いました。
(『アラバマ物語』監督:ロバート・ミリガン/
主演:グレゴリー・ペック/1962・USA)
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- 名匠アン・リーの原点~『推手』 (2006/10/16)
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1962年 アメリカ監督:ロバート・マリガン出演:グレゴリー・ペック、メリー・バ
2006-10-24 17:46 :
銀の森のゴブリン
1930年代のアラバマ州を舞台に、人種差別と闘いながら正義を貫こうとする白人弁護士の姿を描く社会派ドラマ。グレゴリー・ペック、メアリー・バダムほか出演。
2006-11-05 23:15 :
DVDジャンル別リアルタイム価格情報
ハーパー・リーのピューリッツァ賞受賞小説『ものまね鳥を殺すには』を原作に、名匠ロバート・マリガン監督が詩情豊かに描く社会派ヒューマン映画の秀作。1930年代、黒人差別がはびこるアメリカ南部で、白人少女を暴行した罪で起訴された黒人を弁護することになったフィ
2006-11-28 02:15 :
1-kakaku.com
コチラの「アラバマ物語」は、ピューリッツァー賞を受賞したハーパー・リーの「ものまね鳥を殺すには」をロバート・マリガン監督、アラン・J・パクラ製作で映画化した社会派ドラマです。1932年のアラバマ州を舞台に、6歳の1人の少女スカウト(メアリー・バダム)の視点
2009-08-11 22:06 :
☆彡映画鑑賞日記☆彡
コメントの投稿
真紅さん★グレゴリー・ぺックと言えば、私にとっては何と言っても「ローマの休日」!それから「白鯨」とか「オーメン」でした。でもぺックが亡くなったとき、日本の新聞が訃報記事と一緒に掲載した彼の写真はこの「アラバマ物語」の主人公を演じているときの写真でした。彼の真の代表作はこの作品だったのですね。「“アメリカの良心”を描いた代表的作品」といわれる「アラバマ物語」のタイトルとあらすじを私が知ったのは、このときの、ぺックの死によってでした。今は500円でこのDVDが手に入るのですか!私も買いますっ(笑)。
ジェイクがこの映画の原作のファンだなんてステキな話ですね。きっと映画も見ていることでしょう。「アメリカの良心」とは要するにヒューマニズムを大切にすることなのですって。昔、淀川長治氏が言っていらした。
「ヒューマンだったらどんなに楽しく生きられるか。アメリカの映画はそういう映画なの。アメリカという国は全部寄り合いだから、みんな他人同士だから、そこに愛がなかったら暮らせない。ヒューマンがいちばん大切なの。フランスは恋の映画。イギリスはサスペンス。イタリアは親子兄弟。アメリカはヒューマン映画がいちばんなの」
私も是非この映画を見て、“アメリカの良心”を体感し「ヒューマンな愛がいちばん大切よ」と堂々と言ってみたくなりました。真紅さん&ジェイクさんのご推薦とあらば(笑)!
ジェイクがこの映画の原作のファンだなんてステキな話ですね。きっと映画も見ていることでしょう。「アメリカの良心」とは要するにヒューマニズムを大切にすることなのですって。昔、淀川長治氏が言っていらした。
「ヒューマンだったらどんなに楽しく生きられるか。アメリカの映画はそういう映画なの。アメリカという国は全部寄り合いだから、みんな他人同士だから、そこに愛がなかったら暮らせない。ヒューマンがいちばん大切なの。フランスは恋の映画。イギリスはサスペンス。イタリアは親子兄弟。アメリカはヒューマン映画がいちばんなの」
私も是非この映画を見て、“アメリカの良心”を体感し「ヒューマンな愛がいちばん大切よ」と堂々と言ってみたくなりました。真紅さん&ジェイクさんのご推薦とあらば(笑)!
2006-10-11 11:57 :
メグ URL :
編集
メグさん、こんにちは。コメントありがとうございます。
日本では『ローマの休日』がダントツ人気ですが、アメリカではこの作品がペックの代表作のようですね。
オスカー受賞していることもあると思います。
原作も、アメリカでは「聖書の次に」読まれているらしく、学校の教材として使われることも多いようです。
日本ではあまり知られていませんよね。私も未読なので、読まねばと思っています。
淀川さんの各国映画論、さすが言い得て妙ですね~!
DVDが500円ってすごいですよね、安過ぎ(笑)。書店なんかに置いてあるのご存知ですか?
私は旧い映画はあまり観てないので、思わず買い込みまくりたくなります。
ご覧になったらまた是非感想をお聞かせ下さいね。ではでは、ありがとうございました~。
日本では『ローマの休日』がダントツ人気ですが、アメリカではこの作品がペックの代表作のようですね。
オスカー受賞していることもあると思います。
原作も、アメリカでは「聖書の次に」読まれているらしく、学校の教材として使われることも多いようです。
日本ではあまり知られていませんよね。私も未読なので、読まねばと思っています。
淀川さんの各国映画論、さすが言い得て妙ですね~!
DVDが500円ってすごいですよね、安過ぎ(笑)。書店なんかに置いてあるのご存知ですか?
私は旧い映画はあまり観てないので、思わず買い込みまくりたくなります。
ご覧になったらまた是非感想をお聞かせ下さいね。ではでは、ありがとうございました~。
真紅さん コメントをいただきありがとうございました。
僕がこの映画を最初に観たのはテレビの日曜洋画劇場でした。「他人の靴を履いて歩き回って見なければ、他人の気持ちは分からない」という意味のせりふを引用して、そこにこの作品のヒューマンな姿勢が表れていると解説していたことを覚えています。
差別される側に立って考えろということですが、60年代の公民権運動以前の作品ですから、原作にしても映画にしてもこのような主張をするのは勇気がいったことでしょう。「ローマの休日」と並ぶグレゴリー・ペックの代表作と言って間違いないと思います。
僕がこの映画を最初に観たのはテレビの日曜洋画劇場でした。「他人の靴を履いて歩き回って見なければ、他人の気持ちは分からない」という意味のせりふを引用して、そこにこの作品のヒューマンな姿勢が表れていると解説していたことを覚えています。
差別される側に立って考えろということですが、60年代の公民権運動以前の作品ですから、原作にしても映画にしてもこのような主張をするのは勇気がいったことでしょう。「ローマの休日」と並ぶグレゴリー・ペックの代表作と言って間違いないと思います。
ゴブリンさま、初めましてこんにちは!拙ブログにお越しいただき、コメントありがとうございます。
TBもいただきありがとうございました。こちらから届かないようで、すみません。
子どもからの視点というのを巧く利用して、差別の問題を鋭く指摘した作品ですよね。
一見、子ども向きの物語かと思わせて、リベラルなメッセージのある作品でした。
敢えてモノクロの映像にしているのも、懐かしい感じを出すのに成功していると思います。
ではまた遊びにいらして下さい、私からも伺います。ありがとうございました。
TBもいただきありがとうございました。こちらから届かないようで、すみません。
子どもからの視点というのを巧く利用して、差別の問題を鋭く指摘した作品ですよね。
一見、子ども向きの物語かと思わせて、リベラルなメッセージのある作品でした。
敢えてモノクロの映像にしているのも、懐かしい感じを出すのに成功していると思います。
ではまた遊びにいらして下さい、私からも伺います。ありがとうございました。
へぇ~最も偉大な映画ヒーローとは意外のような。
でも、分かりますね。
アメコミとかのヒーローものとは一味もふた味も違うけど、
アメリカの理想の父親像だろうなぁ~って
印象をとても受けましたね。
でも、分かりますね。
アメコミとかのヒーローものとは一味もふた味も違うけど、
アメリカの理想の父親像だろうなぁ~って
印象をとても受けましたね。
miyuさん、こんにちは~。コメントとTBをありがとうございます。
そうなんですよ~、こんなにも地味なお父さんがアメリカのヒーローなんですよ実は!!
子どもたちがお父さんのことをファーストネームで呼んでるのがすっごく印象的でした。
いい映画ですよね~、大好きです。
そうなんですよ~、こんなにも地味なお父さんがアメリカのヒーローなんですよ実は!!
子どもたちがお父さんのことをファーストネームで呼んでるのがすっごく印象的でした。
いい映画ですよね~、大好きです。