軍神の妻~『キャタピラー』

第二次大戦中の日本。静かな村に、中国戦線に出征していた久蔵(大西信満)
が帰って来る。四肢を失くし、顔は焼けただれ、言葉も失った久蔵を、受け入れる
しか術のない妻・シゲ子(寺島しのぶ)だったが・・・。
ベルリン国際映画祭にて、主演の寺島しのぶが最優秀女優賞(銀熊賞)を受賞
した話題作。観に行きたい、行かねばと思いつつ、酷暑を言い訳に延ばし延ばし
にしていた。超ヘビー級であろう本作の衝撃と痛みを受け止める覚悟もないまま、
観てきました。
予想通りの、あまりにも酷く強烈な、原始的とも言える夫婦の愛憎に、身も心も
固まってしまった感じ。涙も同情も、恐怖も怒りも吹っ飛ばす、甘さのカケラもな
い反戦映画。ガツンと来ました、これは厳しい。若松孝二監督作品は、DVDも含
めて初鑑賞。

考えてみれば、寺島しのぶの映像作品を観るのも初めてなのだった。舞台での
彼女はかなり以前に二度ほど観たことがあるが、梨園のお嬢様らしからぬその脱
ぎっぷり、スッピンで文字通り素顔を晒しての大熱演は、素直に拍手を贈りたいと
思う。
そしてシゲ子の夫を演じた大西信満も、負けず劣らず、真剣勝負の大熱演。そ
の体当たりの演技なしにはこの映画自体が成立しなかったし、寺島しのぶの受賞
もなかったに違いない。
この夫婦の間に流れるヒリヒリとした緊迫感、加虐と被虐、恍惚と悲惨が一瞬で
引っくり返る危うさに、グッタリと消耗してしまった。
「食べて寝て、食べて、寝て、食べて、寝て。それだけでいいじゃない」
逃げ場のない密室で進行する過酷な物語の中で、赤い着物で道化を演じる、画
面の隅にいる男(篠原勝之)の存在だけが、唯一の救いだった。

タイトルの「キャタピラー:Caterpillar」とは、戦車ではなく「芋虫」のことだと
観終わって知り、改めて衝撃を受ける。戦争とは、犠牲者しか生まない不毛の
極みだ。勝者も敗者も、ましてや神もない。この映画を観たなら、もう説明も
解説も説教も要らない。兎に角、戦争はイヤだ。
( 『キャタピラー』 監督:若松孝二/主演:寺島しのぶ、大西信満/2010・日本)
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trackback
主演の寺島しのぶが今年のベルリン国際映画祭最優秀女優賞に輝いた作品。最前線での戦いではなく銃後の戦いを描いた反戦映画だ。監督は『実録・連合赤軍 あさま山荘への道程(みち)』の若松孝二。共演に「実録・連合赤軍」の大西信満、篠原勝之、粕谷佳五、増田恵美らが
2010-09-30 22:21 :
LOVE Cinemas 調布
8月14日公開の映画「キャタピラー」(R15+指定)を鑑賞した。
この映画は第2次世界大戦期の日本を舞台に
赤紙が届き戦地へ向かった1人の兵が名誉の負傷で帰国したが、
帰国した兵は手足を失い、言葉も話せないほどの状況で戻ってきた。
それを介護する妻は軍神を崇...
2010-09-30 22:37 :
オールマイティにコメンテート
会場で購入したパンフです。但し単なるパンフではありません。
上映終了後、主演の寺島しのぶさんと若松孝二監督の舞台挨拶が30分間ありました。
6月25日(金)大阪市中央公会堂にて「キャタピラー」の特別先行上映会が開催されました。残念なことにこの日は雨。で...
2010-09-30 23:23 :
銅版画制作の日々
会場で購入したパンフです。但し単なるパンフではありません。
上映終了後、主演の寺島しのぶさんと若松孝二監督の舞台挨拶が30分間ありました。
6月25日(金)大阪市中央公会堂にて「キャタピラー」の特別先行上映会が開催されました。残念なことにこの日は雨。で...
2010-09-30 23:24 :
銅版画制作の日々
【ネタバレ注意】
江戸川乱歩の『芋虫』とドルトン・トランボの『ジョニーは戦場へ行った』をモチーフにしたという『キャタピラー』に...
2010-09-30 23:37 :
映画のブログ
平和な田園風景を背景に、一組の夫婦の生き様から戦争の愚かしさを炙り出す強烈な反戦映画だ。太平洋戦争末期、シゲ子の夫・久蔵は、盛大な見送りを受けて戦地へと赴くが、手足を失い顔面が焼けただれた姿で帰還する。無残な姿ながら“生ける軍神”として祭り上...
2010-09-30 23:54 :
映画通信シネマッシモ☆映画ライター渡まち子公式HP
公式サイト。江戸川乱歩「芋虫」などをモチーフにした。タイトルの「キャタピラー(caterpillar)」は建設用機材などに使われる無限軌道ではなく、芋虫、または毛虫のこと。若松孝二監督、寺島しのぶ、大西信満、吉澤健、粕谷佳五、増田恵美、河原さぶ、石川真希、飯島大介
2010-09-30 23:54 :
佐藤秀の徒然幻視録
<<ストーリー>>勇ましく戦場へと出征していったシゲ子の夫、久蔵。しかし戦地からシゲ子(寺島しのぶ)の元に帰ってきた久蔵(大西信満...
2010-10-01 01:34 :
ゴリラも寄り道
2010年:日本映画、若松孝二監督、寺島しのぶ、大西信満、吉澤健、粕谷佳五、増田恵美、 河原さぶ、石川真希、飯島大介、安部魔凛碧、 寺田万里子、柴やすよ出演。
2010-10-01 05:08 :
~青いそよ風が吹く街角~
映画に出演した寺島しのぶが、ベルリン国際映画祭で最優秀女優賞を受賞したことで評判の高い『キャタピラー』を、テアトル新宿で見てきました。
(1)映画では、先の戦争の末期、考えられないようなむごい姿となって戦場から帰還した久蔵とその妻シゲ子との、戦時中の生
2010-10-01 06:18 :
映画的・絵画的・音楽的
言葉を失う映画。生ける軍神、化物、黒川久蔵。軍神の妻、貞操の鑑、黒川シゲ子。その全てに込められている「忘れるな、これが戦争だ!」というメッセージ。
これはもはや単なる反戦映画ではなく、日本人として絶対に見るべき、いや世界中の人間が見るべき映画です。なぜ...
2010-10-01 17:54 :
こねたみっくす
2010年8月28日(土) 21:00~ ヒューマントラストシネマ有楽町1 料金:0円(Club-C会員ポイント使用) パンフレット:1000円(買っていない。かなり厚い。シナリオ付き。) 『キャタピラー』公式サイト 最初は、江戸川乱歩の「芋虫」かと思っていた。色々な事情に
2010-10-02 06:17 :
ダイターンクラッシュ!!
主演の寺島しのぶさんが第60回ベルリン国際映画祭最優秀女優賞を受賞したことで脚光を浴びたこの作品がようやく日本での公開日を迎えました。さすがに未公開ってことにはならないだろうとは思いましたけど、公開規模はやっぱり大きくないんですね。寺島しのぶさんはもちろ...
2010-10-02 11:37 :
カノンな日々
1960年代の日米安保反対闘争から72年のあさま山荘での銃撃戦へと至るあの時代、若者たちの生き様を描いた『実録・連合赤軍あさま山荘への道程』から2年。静かな田園風景の中で、1組の夫婦を通して戦争の愚かさと悲しみを描く、若松孝二監督の新境地と言える作品が完成。...
2010-10-02 11:57 :
パピ子と一緒にケ・セ・ラ・セラ
キャタピラー2010年 日本
監督:若松孝二
出演:寺島しのぶ
大西信満
吉澤健
粕谷佳五
増田恵美
河原さぶ by G-Tools
い~も~む~し~ご~ろごろ~
ネタバレ有りです。
シゲ子の夫・久蔵は四肢を切断され、顔半分は焼
2010-10-02 20:28 :
菫色映画
ずっと見たかった映画、やっとレンタル開始になったので速攻で借りて来ました。
2011-04-11 18:09 :
ポコアポコヤ 映画倉庫
☆☆☆(6点/10点満点中)
2010年日本映画 監督・若松孝二
ネタバレあり
2011-11-06 10:34 :
プロフェッサー・オカピーの部屋[別館]
「ザ・ライト -エクソシストの真実-」
「キャタピラー」
2011-11-28 15:36 :
Akira's VOICE
あらすじ頭と胴体だけの姿になって傷痍軍人が、帰還した。勲章をぶら下げ、軍神となって・・・。感想『実録・連合赤軍あさま山荘への道程』の若松孝二監督が江戸川乱歩の『芋虫』に...
2011-12-12 21:28 :
虎党 団塊ジュニア の 日常 グルメ 映...
あらすじ頭と胴体だけの姿になって傷痍軍人が、帰還した。勲章をぶら下げ、軍神となっ
2011-12-12 21:29 :
虎団Jr. 虎ックバック専用機
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>戦争とは、犠牲者しか生まない不毛の
極みだ。勝者も敗者も、ましてや神もない。
この言葉にガツンときました。
本当にそうですね。
軍神と祀り上げられた久蔵の虚しさといったら。
あの狭い世界でこれだけ戦争の悲惨さを訴えられるなんて、監督さんは凄いと思いました。
もちろん賞に恥じない寺島さんの演技も。
元ちとせの歌がずっとぐるぐる頭をまわっています。
極みだ。勝者も敗者も、ましてや神もない。
この言葉にガツンときました。
本当にそうですね。
軍神と祀り上げられた久蔵の虚しさといったら。
あの狭い世界でこれだけ戦争の悲惨さを訴えられるなんて、監督さんは凄いと思いました。
もちろん賞に恥じない寺島さんの演技も。
元ちとせの歌がずっとぐるぐる頭をまわっています。
リュカさん、こちらにもコメント&TBありがとう。
これ観てて、みんなみんな被害者だな、って思ったんですよ。
久蔵も、シゲ子も。あと婦人部の竹槍訓練とか。
みんな真面目に、お上に従ってただけなんですよね。
真面目な人ほど割を食うというか。。
どこまでもストレートな反戦映画だったと思います。
ホント、観たらしばらく来ますよね、鬱々と・・・。
これ観てて、みんなみんな被害者だな、って思ったんですよ。
久蔵も、シゲ子も。あと婦人部の竹槍訓練とか。
みんな真面目に、お上に従ってただけなんですよね。
真面目な人ほど割を食うというか。。
どこまでもストレートな反戦映画だったと思います。
ホント、観たらしばらく来ますよね、鬱々と・・・。
真紅さ~ん、やっと見れた!
・・・・でも・・・・・・・・期待したのとは、違った内容のところがあったわ・・・。
もっと普通の旦那さんかと思いきや、このひと、人でなしじゃないー!!!
なんか、こんな人だったから、気の毒とか思えなくて・・・。
寺島さん、すっごかった。
ムンソリさんを思い出したわ。
ルックス的には、あんまり好きな女優さんではないけれど、演技力はホントに素晴らしかった!!
・・・・でも・・・・・・・・期待したのとは、違った内容のところがあったわ・・・。
もっと普通の旦那さんかと思いきや、このひと、人でなしじゃないー!!!
なんか、こんな人だったから、気の毒とか思えなくて・・・。
寺島さん、すっごかった。
ムンソリさんを思い出したわ。
ルックス的には、あんまり好きな女優さんではないけれど、演技力はホントに素晴らしかった!!
2011-04-11 18:19 :
latifa URL :
編集
latifaさん、こんにちは~。コメント&TBありがとうございます。
これ、DVDになったのね。。最近レンタル全く行けてないです(泣)。
そうそう、このダンナさん酷い奴だったよね~。でも、昔はこれくらいが普通だったんだろうね、きっと。。
ムンソリさん、私の中では別格の女優さんだわ。。最近出演作観てないんだけど。
寺島さんもムンソリさんも、「身体を投げ出す」タイプの女優さんよね。役に。
お二人とも、美人女優とは言えないところも共通してるね~。
これ、DVDになったのね。。最近レンタル全く行けてないです(泣)。
そうそう、このダンナさん酷い奴だったよね~。でも、昔はこれくらいが普通だったんだろうね、きっと。。
ムンソリさん、私の中では別格の女優さんだわ。。最近出演作観てないんだけど。
寺島さんもムンソリさんも、「身体を投げ出す」タイプの女優さんよね。役に。
お二人とも、美人女優とは言えないところも共通してるね~。