被害者にはなれない~『悪人』 #3

映画『悪人』を観たとき、何故か心に引っかかるシーンがあった。祐一の母(余貴
美子)が祐一の祖母(樹木希林)に詰め寄るシーン。祐一が、自らを捨てた母に会
っていたのかと驚く祖母に、母は言う。「あの子、ギリギリの生活しよる私から、会う
たんびに金せびるとよ。千円、二千円と」
どうして、祐一はそんなことしたんだろう? 母に償って欲しかったのか。それと
も母の狂言なのか。それとも、本当にお金が欲しかったのか・・・。映画を観終わっ
ても祐一を悪人だとは全く思わなかった私だけれど、このシーンの解釈だけは謎
だった。しかし原作を読んで、その謎が解けた。
祐一は佳乃や光代と会う前に、ファッション●ルス勤務の女性にのめり込んで
いた。その女性と互いの母親の話をしていたとき、祐一は言う。「欲しゅうもない
金、せびるの、つらかぁ」 「・・・でもさ、どっちも被害者にはなれんたい」と。
この場面は、妻夫木聡も「原作で一番好きなシーン」に挙げているように、極め
て重要な、本作の「肝」であると思う。祐一の母の嘆きと「対」になっていると言って
もいい。この言葉を知って初めて、それまでは推測に過ぎなかった祐一の思いが
わかる。彼が、何故光代を殺そうとしたのかが。
映画では、このヘ●ス嬢のエピソードを丸ごとカットしているため、祐一という
人間の不可解さが描き切れていないように思う。映画の尺を考えれば仕方のな
いことかもしれないが、せめて光代との会話に置き換えてでも取り入れて欲しか
った大切なセリフだ。
自らを犠牲にして、大切なものの立場や拠り所を守ろうとする祐一。それは
打算でも憐憫でも反省でもなく、彼自身の、自然な心のありようなのだ。

- 関連記事
-
- 侍の道~『十三人の刺客』 (2010/09/27)
- 被害者にはなれない~『悪人』 #3 (2010/09/24)
- 悪役~『悪人』 #2 (2010/09/17)
スポンサーサイト
コメントの投稿
またまた今頃のコメで・・・
この作品は地元ロケもあったせいか・
とても気にかかった作品で2回見て来ました。
見るたび、細かい演出が発見出来る作品かも知れませんね。
1回目ではさら~っと見てたシーン・
冒頭のガソリンスタンドで、これから佳乃に会える喜びを
隠しきれない微かな笑みを2回目では見てとれました。
妻夫木くんの一番好きなシーンも含めた
完全版で見てみたいですね。
この作品は地元ロケもあったせいか・
とても気にかかった作品で2回見て来ました。
見るたび、細かい演出が発見出来る作品かも知れませんね。
1回目ではさら~っと見てたシーン・
冒頭のガソリンスタンドで、これから佳乃に会える喜びを
隠しきれない微かな笑みを2回目では見てとれました。
妻夫木くんの一番好きなシーンも含めた
完全版で見てみたいですね。
sanaeさん、こちらにもありがとうございます。
2回ご覧になったのですね。何度でも観られる、何度でも観たいと思える作品が、真の名作だと思います。
この映画はとても丁寧に作られた、今年の邦画を代表する作品だと思います。
深津ちゃんの評価が高く、賞なども獲得していますが、最近妻夫木くんも何か受賞したようで、よかったな~と思いました。
↑に書いたエピソードについて何ですが、脚本段階からカットされていたのか、かなり疑問に思っています。
原作者の吉田さんも脚本に携わっているだけに。。。う~ん、謎です。
2回ご覧になったのですね。何度でも観られる、何度でも観たいと思える作品が、真の名作だと思います。
この映画はとても丁寧に作られた、今年の邦画を代表する作品だと思います。
深津ちゃんの評価が高く、賞なども獲得していますが、最近妻夫木くんも何か受賞したようで、よかったな~と思いました。
↑に書いたエピソードについて何ですが、脚本段階からカットされていたのか、かなり疑問に思っています。
原作者の吉田さんも脚本に携わっているだけに。。。う~ん、謎です。