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映画が大好きです。いつまでも青臭い映画好きでいたい。 記事は基本的にネタバレありです by 真紅 (言葉を探す人)   ★劇場鑑賞した映画は Instagram にアップしています @ruby_red66 ★Stay Blue

一緒にいたかった~『悪人』

悪人本1 悪人本2


 映画感想: 『悪人 悪人 #2

 朝日新聞紙上に連載され、毎日出版文化賞大佛次郎賞を受賞し、映画化され
たベストセラー長編。文庫本にて読了。上下巻を一気に読んでしまった。

 映画を先に観ていたことで、物語が既に自分の中に取り込まれていたけれど、
映像からもたらされる感情以上の何かが揺り動かされるような。。映画の追体験
にとどまらない、貴重な読書体験だった。未読の方々は是非。

 李相日監督による映画は、とても丁寧に、真摯に作られたことが伺える良作
った。「心が震えるような感動は得られなかった」などという浅はかな感想を書い
てしまったけれど、観た後、何日経っても様々なシーンがフラッシュバックして、
自分ももう一度、あの灯台に戻りたいと感じてしまうような作品だった。祐一
の姿が、心から離れないのだ。

 しかし、原作を先に読んで映画を観た人は納得しただろうか? もし原作が先
だったとしたら、私も祐一のキャスティングにはブーイングだったかもしれない。
原作者の吉田修一は、そんな読み手のイメージ「意味がない」とバッサリ斬る
けれども、それは個人の「思い入れ」なのだから、原作に傾倒した人ほど強いは
ず。意味のない感情だとは、私は思わない。たとえキャスティングに反感を持っ
て映画を観たとしても、先入観を持って鑑賞したことを恥じるほどの熱演を役者
が見せてくれれば、潔く称賛するだけのことなのだから。

 読みながら、祐一のやさしいが故の弱さと孤独に、胸が痛む。光代は、そんな
祐一を包み込むように愛しながら、結局彼にすがって逃げる。二分できない、
裏一体
となった善と悪加害者であり、尚且つ被害者でもある祐一と光代。遅過
ぎた出逢
いは孤独な魂を引き寄せ、打算のない愛と、新たな罪を生む。

 地方都市に生きる、社会的弱者たちの閉塞感や、絶望感がどうしようもなく胸
に迫る。祐一が犯した罪を肯定するわけでは決してないけれども、読めば読む
ほど、私には祐一が悪人だとは、どうしても思えない。彼は「罪人(つみびと)」
ではあるけれども、悪人ではない。弱い人間を利用したり、あざ笑ったり、晒し
ものにしたりする「彼ら」
のほうが、よっぽど悪人だと思うのだ。殺された佳乃の
父の怒り
が、祐一でなく増尾に向いたのも納得できる。

 幸せになりたかっただけなのに。祐一も、光代も、上手く生きられなかった
だと思う。ただただ、悲しいけれど。

 ( 『悪人』 吉田修一・著/朝日新聞出版・2009)
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テーマ : オススメ本
ジャンル : 小説・文学

2010-09-21 : 読書 : コメント : 12 : トラックバック : 2
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悪人
芥川賞作家・吉田修一の同名ベストセラー小説の映画化。九州で起きた殺人事件、その犯人の男と、男が出会い系サイトで知り合った女が愛し合い出口の無い逃避行を繰り広げる。主演は『ノーボーイズ、ノークライ』の妻夫木聡と『女の子ものがたり』の深津絵里。共演に岡田将...
2010-09-21 23:31 : LOVE Cinemas 調布
「悪人」吉田 修一 引き込まれて読んだけれど・・・
凄く引き込まれて、一気読みしてしまいました。どうなるんだろう?と、ページをせかせかとめくらせる力量が有りました。しかし、う~ん、どうも・・・あんまり好きな小説ではなかったかもしれません。
2010-09-23 08:50 : ポコアポコヤ
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真紅さま こんにちは!
「新聞連載中にちゃんと読んでおけばよかったぁー!」と今になってたいへん悔んでいる小説です。まして映画化されこのように世間の耳目を集める超話題作となったからにはなおさら後悔・・・e-443。ただ連載中はこの小説と一緒に毎回掲載されていた現代美術家・束芋さんの描くイラストがあまりにグロテスクで(汗)、当時は新聞の掲載頁を開くのも嫌な毎日だったのでした。先日、束芋さんへのインタビュー記事を読んで知ったのですが、やはり連載当時は朝日新聞社にはこの「悪人」についてかつてない反響があったそうです。そしてその大半が「絵が気持ち悪いから手で絵を隠して小説を読んでいる」という苦情だったそうですよ(笑)。
文庫版のこの2対のカバーはとってもいいですね。主人公ふたりの逃避行中の表情でしょうか。小説『ノルウェイの森』が出たときの、あの赤と緑に負けない強烈な印象です。
この文庫版には束芋さんのイラストは掲載されてないと思いますので、私も後悔している暇があったら今こそ読んでみよう!と思います。
ご紹介ありがとうございますe-415
2010-09-21 22:36 : メグ URL : 編集
携帯からこんにちは!
原作も読んだんですね☆映画観てレビュー書くに追われ本最近読んでないケド良さそうだな
悪人でなく 罪人ってまさに!そうでしたね~
2010-09-22 11:27 : mig URL : 編集
メグさん、こんにちは! コメントありがとうございます。
私、新聞小説って読めないんですよ。イラチだから、続きが気になって健康に悪そうで・・・^^;
しかし、束芋さんのイラストってそんなにグロかったんですね。
何なに、その苦情~。爆笑してしまいました。
大阪ではつい最近まで束芋展が開かれていたのですが、『悪人』の挿絵の原画も展示されていたそうです。
行かれた方は、と~ってもよかった!っておっしゃってましたけど、少数派なんですかね(汗)。
で、このカバーなんですが実は「帯」なんですよ~、ビックリ!
帯裏には「オマケ」もありまして、ちょっと得した気分かな♪
あ、イラストはありませんので、どうぞご安心下さい。そして、是非読んでみて下さいませ。
2010-09-22 20:13 : 真紅 URL : 編集
migさん、こんにちは~。携帯からコメントありがとう♪
原作、オススメですよ~。物語はもうわかってるので、ドンドン読めるしね。
長編だけど読み易いですよ、是非是非!
2010-09-22 20:16 : 真紅 URL : 編集
お邪魔します~
原作を読んでしまったので映画はどうしようかな・・・と迷ってしまったの。
公開時かな、舞台あいさつで
妻夫木君が声詰まらせてしまいましたよね。
いろいろな思いが込み上げてきたんでしょうね。
ああ・・やっぱり純粋な人、いい人なんだなって
感じてしまって。
そういうものみてしまうと映画の祐一にまで繋がってしまい、余計、肩入れしてみてしまうような気もしたわ。でも俳優の熱演は素晴らしいと聞くのでいつかはみたいなって思うわ。
2010-09-22 20:26 : みみこ URL : 編集
みみこさん、こんばんは! コメントありがとうございます~。
いやいやみみこさん、「いつか」じゃなくてこれは「今」観なくちゃダメ!(笑)
でも、原作読んだ方が躊躇する気持ちってわかりますわ。。
イメージがあるもんね。でも、映画はよくできてますから大丈夫ですよ。
妻夫木くん、そうそう、もう~~~好青年やねんから~~~って。
深津さんももちろん素晴らしかったし国際的な評価も受けているけれど、ブッキーも何らかの形で評価されて欲しいなって思いました。
ロングランすると思うから、いつか時間できたら観てみて下さいね♪
2010-09-22 20:48 : 真紅 URL : 編集
映画を見ると原作が読みたくなる・・
更にはもう一度映画を観たくなる・・
そんな作品ではないでしょうか?

妻夫木くんが強く切望して手に入れた役だから・
プレッシャーも勿論あったでしょうが、
かなり苦労したんだと思いますよ。
演技は、樹木希林や柄本明さんらと
比べられると可哀そうな気もします。

映画「悪人」の方にはトラバ出来ないようで・・
2010-09-22 22:36 : sanae URL : 編集
真紅さん、こんにちは~!
映画とコレと、2つとても余韻を一杯与えてくれたんだな・・っていうのが伝わって来たわ~。
私も映画そのうち見るからね!!
でも正直、ツマブキ君と深津ちゃんって、今までにもドラマ(タイトル忘れた。自動車教習所のやつ)と、映画でカップルを演じてるのを見てるせいか、馴染みの仲でツーカーの処とかあるのかもね。

それよか、ハルフウェイ!遂に見たのね?
感想拝見したけど、そうなんだよね~あの女子、なんか好きになれないよね(^^ゞ
2010-09-23 08:48 : latifa URL : 編集
真紅さん、こんばんは。
映画観てきました。本年屈指の日本映画でした。

殺人犯は、最後まで殺人者らしく殺人未遂の振る舞いを、
殺人犯を連れまわした悪女は、あくまで被害者として生きて、
殺人犯の祖母は、世間に謝罪するまで帰らぬマスコミに対して土下座し、
被害者の父親は、不幸な娘に今日も事故現場に花をたむける。

それぞれが、最後は「不本意な」行動となっていく怖さ。「本心」と「世間の眼」の間で揺れ動く人間の性。

本は購入しました。さて映画では描かれていない大学生の最後は、どんな「不本意な」行動をとるのか、興味深々です。
2010-09-23 19:39 : 筆致 刻久 URL : 編集
sanaeさん、こちらにもコメントありがとうございます。
映画を観てすぐ、これは原作を読まねば・・・!と思いました。
映画も、そうですね再見したいです。でもちょっと重いかな。。。

妻夫木くんも、自分のイメージや演技を壊したい時期に祐一と出逢ったのでしょうね。
彼は「いい人」代表のイメージなので、それが苦しい時もあるのでしょうね。。
本当に苦労したんだと思います。監督が厳しかったようですね。
でも、十分その苦労は報われているのかも。。
2010-09-23 22:53 : 真紅 URL : 編集
latifaさん、こんばんは! コメント&TBありがとう~。
どちらもいい作品だったけど、私は小説の方がより感動が大きかったかな~。
映画はね、岡田くんが凄い悪いヤツで巧いよ~~是非観てあげてね!
ブッキーとふかっちゃんって、『ザ・マジックアワー』で共演してた気が。。
その、自動車教習所のドラマって知らないよ?! そんなドラマがあったとは。。

で、ハルフウェイ、、、うふふふふ観たよ!観ましたとも!!
ず~っと前から録画してたんだけど、観終わったらすぐ削除してしまった(爆)。
な~んだ、北乃きいの映画じゃん。と思ってしまったわ。。ゴメン
2010-09-23 23:02 : 真紅 URL : 編集
筆致刻久さん、こんばんは! コメントありがとうございます。
本年屈指の映画、今年を代表する映画ですね。

そういえば、この映画って幸せそうな人が一人も出てきませんでしたね。。
登場人物皆が孤独で、空回りしていると言うか。。。
筆致さんは光代が悪女と映ったのですね。冷静に考えればそうなんですよね。
あと、殺された佳乃こそが一番不本意ですね。

私も、珍しく(というか図書館の予約数が凄いことになっているので待ち切れず)文庫上下を購入しました。
今頃読まれてるかな、、私は、小説の方が更に好きかも?です。
2010-09-23 23:10 : 真紅 URL : 編集
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