もう一度、耳を澄ます~ブロークバック・マウンテン#18
 TVだと細かい音が聴き取れないので、PCにイヤホン字幕なしでDVDを
鑑賞。風の音が聴こえないと、この映画の魅力が半減してしまうと思うから。な
んたって、風=ジャックだから。

 夜明け、まず聴こえてくる風の音、それだけで胸がいっぱいになってしまう。
風の音はもちろん、劇場では聴き取れなかった小さな溜め息や、ハエの羽音まで
聴こえてくる。それにしても、なんて静かな映画なんだろう。

 セリフが少ないという意味ではない。同性愛差別、ヘイトクライム、家庭不和
(離婚)、貧困と、現代が抱える様々な問題を内包しつつ、決して声高に訴える
ことなく
静かに丁寧に、主人公たちの20年間を追っていく。繊細でありながら、
観た後にとてつもなく大きなものを残していく
アン・リーの演出に、今更ながら
圧倒される。

ブロークバック・マウンテン、今観終えたところです。何度観ても良いね。人
が一生を生き抜くことを深く考えさせられます

 劇場で鑑賞し、レンタルリリースと同時にDVDも観た母からのメール。世代
を超えて
、ずっとずっと、静かに支持されていく作品なのだろうと思う。
20061006154846.jpg

 最後の逢瀬で言い合いになってしまう二人。「メキシコ、ああ行ったよ、何か
問題あるか」ジャックに開き直られ、「殺してやる」と言うイニス。堰を切った
ようにジャックが叫び始める前に、もうイニスは泣き顔になっている。

 ジャックの回想として挿入される、「まどろみの抱擁」シーン。立ったまま眠
るジャックを背後から抱きしめるイニスの、これ以上無いほどやさしい声
イニスは(多分ジャックも)気付いていなかったけれど、どれほどイニスはジャ
ックを愛していたか


 ジャックの生家を訪れたイニスに、ジャックが他の男の名を口にした、と告げ
るジャックの父。ショックを受けるイニスの肩に、そっと置かれるジャックの母
の手。このタイミングが絶妙で、母の深い思いやりが伝わってくる。

 ジャックの部屋で窓の外を眺めるイニス。ここでいきなりカメラが切り替わり、
何かに呼ばれたようにクローゼットへと向かうイニス。何度観ても、これはジャ
ックがイニスを導いている
としか思えない。

 シャツを手にしたイニスをじっと見つめ、微かに笑みを浮かべ、黙って紙袋
差し出すジャックの母、「遺灰は家族の墓に埋葬する」と言うジャックの父。こ
の父の言葉の意図を、ずっと解りかねていた。

 重ねられた2枚のシャツは、ジャックの思いの全てであり、生きた証でもある
だろう。ジャックの父にはそのことがわかっていたのだ。
「そのシャツがお前の元にあるなら、もういいだろう? 遺灰はこちらに埋葬さ
せてもらうよ」ジャックの父も、彼なりに息子を愛していたのだろう。

 人が一生を生き抜くこと。たとえ手遅れでも、どんなに回り道をしても、愛に
辿り着いた
イニス。ラスト、窓の外にジャックがいる。失い続けたイニスの人生
を、風がやさしく包み込んでいる
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[2006/10/06 16:01] | ブロークバック・マウンテン | トラックバック(1) | コメント(11) |
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コメント
真紅さん★♯18、お待ちしてました。DVDで何度も見た美しい場面が、これまた美しい文章によって、読んでいる私の脳裏に鮮やかに甦りました。ありがとうございます。

ジャックのお父さんから「イニス・デルマー、あんたの名前は息子からよく聞いていた」と言われ、イニスはすこし(嬉しそうに)微笑む様な表情を見せるのですよね。でも「この春には違う男の名を・・・」と言われ、こんどは表情が少しこわばった様な・・・。ヒース・レジャーの名演技のひとつです。「『そのシャツがおまえの元にあるならいいだろう』・・・彼なりに息子を愛していた・・・」という文章に、真紅さんのこの作品に対する温かい視線を感じました。
「失い続けたイニスの人生」を思い何度も涙がこぼれます。せめて、幾晩もイニスの夢の中にジャックが現れ続けてくれることを祈るばかりです。
名文にいつも感動させていただいてますが♯18は特にステキでした~★
[2006/10/07 01:55] URL | メグ #- [ 編集 ]
メグさん、こんにちは。いつもコメントありがとうございます。
ジャックの生家でのヒースの演技は、本当にわずかな表情の変化でしかないのですよね、見逃してしまいそうなほど。
本当に名演技だと私も思いました。
何度も観ているのに、観るたびに涙が止まりません。涙腺のネジが飛んでしまうようです。
名文なんてとんでもないです。BBMが素晴らしい映画、名作なんですよ。
またいらして下さいね。ありがとうございました。
[2006/10/07 02:12] URL | 真紅 #V5.g6cOI [ 編集 ]
おはようございます。”風”ですか、、以前の真紅さんの記事で風について気がつきましたが、最近、公式BBSでも「イニスがジャックを想う時、いつも風の音がしている・・」とあり、やっぱり
ああ、真紅さんのゆうようにやはり、風=ジャックなんだな、、、と。
最後の逢瀬ですが、前日の夜に最近のお互いの女性関係を平気ではなしているので
「え、、なんで?嫉妬は???」と、かなり困惑したのですが、イニスにとっては、男性関係は許せないんですよね(このあたり、異性愛の私には、想像の及ばない感情です)、、、あれは、そのショックもあっての”泣き”だったんでしょうか?、、、。でも、「殺す」の言葉のあと、すぐ、泣き崩れるなんて、その感情の落差がイニスらしく、そのようなイニスだからこそ、ジャックを惹きつけて離さない、計算のない魅力なんでしょうね。

ジャックの父も、やはり、息子を愛してたんですね、、真紅さんの言葉で納得しました(涙)。
ジャックは山では「俺は料理はダメだ」とありましたが、お母さんがちゃんと料理していた家庭が垣間見えました。イニスは、しざるおえない状況で育ったんでしょうね、、、。

(前の”吹替え・・・”の真紅さんの返事で、関西弁だったのですが、あれ、真紅さん、関西でししたっけ??と思いました。(笑))
[2006/10/07 08:10] URL | sumisu #- [ 編集 ]
sumisuさん、こんにちは。コメントありがとうございます。
風=ジャックというのは一つの見方ですが、そう思って観るといろんな事が見えてくる気がします。
ワイオミングというのは特に風が強い州らしいですね。
私も初見のとき、女性と寝るのは平気でも男性と寝るのは許せないんだな・・とかなりショックを受けました。
イニスは、ホントに計算とは程遠いキャラですよね。そこがまた魅力的なのですが。。
ジャックの父の心理、私もいまいちわかってなかったのですが、今回やっと納得しました。
ジャックのママはいいお母さんですよね。。演技も素晴らしかった。
ではでは、またお話しましょう。ありがとうございました。
(そうです、関西在住なのですよ~)
[2006/10/07 16:06] URL | 真紅 #V5.g6cOI [ 編集 ]
はじめまして。お邪魔します。
私はDVDで初めて最近観ました。映画館へ足を運ばなかった事をこれほど後悔したことはありません。
その後、小説、サントラ、各種雑誌、ブログ、2、公式BBSと手当たり次第既に落ち着いてしまっているBBMの熱を取り戻すべく今にいたります。
本当に今頃で辛いです。真紅さんのBBMのコメントすべて読ませていただきました。いろいろ見回ってきましたが一番感銘を受けました。凄い!こんな遅まきながらの鈍いヤツもおります。どうかまだまだBBM語っていってください!お願いします。「人生は続いても愛は自分の指の間から逃げてしまうことがある」とアン・リーは仰ってました、正に今、私はその状況にあって、そんな時に出会ったこの映画は大変に素晴らしいものであるのと同時に辛く悲しい日々が増してしまっています。いつまで続くのでしょう。助けてほしいくらいです。自分勝手なことばかり長々すみませんでした。
[2006/10/07 16:51] URL | kuku #mQQEfdr. [ 編集 ]
真紅さん、おひさしぶりです。

またBBMを熱く語ってくださって嬉しいです。
何故パパが急に「家の墓に…」と言い出したのかイマイチ分からなかったのですが、そうですよね。
あのシャツがあるんだからいいだろうって。これですっきりしました、ありがとうございます。
[2006/10/07 19:01] URL | びあんこ #w4Ib0zSU [ 編集 ]
kukuさん、びあんこさん、こんにちは。コメントありがとうございます。レスをまとめさせて下さいね。

☆kukuさん
初めまして!拙ブログにお越し下さり、ありがとうございます。
過分なコメントをいただき恐縮しております。
BBMは上映館は少なかったせいもあり(上映されなかった県もあったのでは?)、劇場で見逃した方も多いと思います。
DVDでご覧になった後でも、リバイバル上映などで鑑賞できる機会があればいいのですが。
大きなスクリーンで観たかった、という気持ち、すごくわかりますよ。
ある程度歳を重ね、人生における喪失を感じるときにこの作品に出逢うと、考えるところは多いですよね。
でも、この映画は悲しいだけの映画ではないのです。私も今、そのことについて考えているのですが・・。
BBMに関して、いつになるかわかりませんが新しい記事をアップすると思います。また書きます。
またいらして下さいね。ありがとうございました。

☆びあんこさん
うわ~、お久しぶりです! 実はびあんこさん宅の『モーリス』にもコメントしたかったのですが、TBを受け付けていらっしゃらないようなので断念しました。
字幕なしで観て、初めてジャック父の心情がわかったような気がしました。
これで正解(?)かどうかはわかりませんが、私としてはすっきりした気分です。
また遊びにいらして下さいね。ありがとうございました。
[2006/10/07 20:51] URL | 真紅 #V5.g6cOI [ 編集 ]
真紅さん、こんにちは。

今回も頷いては涙が出てきてしまう、真紅さんのBBM記事、ありがとうございました。

イニスがシャツを見つけて持ち帰ることとジャックの父親の「うちの墓に埋葬する」の言葉の因果関係にまで言及していただいて、真紅さんのお宅で目から鱗がもう何枚剥がれ落ちたことか。

>ジャックの父も、彼なりに息子を愛していたのだろう。

思い返せば、イニスに話しかけるお父さんの目つきも、「あんたが承諾してくれてたら息子の人生もも少し幸せだったかも」な気持ちが滲んでるような気がします。だったら「もっと言ってやって!」と思ってしまうのですが、登場人物の誰一人として必要最小限のことしかしゃべってないですものね、BBMって。

見過ごしてしまいそうな些細な1コマも真紅さんの記事で気づかされることがたくさんあります。
なんかすごく客観的に考えられるような気になったとたん

>ラスト、窓の外にジャックがいる。

風じゃなくて生きた身体でなきゃやだ~!なんてわめきたくなって、結局元の木阿弥になってしまってるのでした。成長できない自分にしばし呆然、です。

最後になって失礼ではありますが、劇場に足を運ばれ、DVDもご覧になって、良い映画とメールしてくださる、真紅さんのお母様、素敵な方ですね。
私、映画館で熟年といわれるよう年齢の方を何人もお見かけしたことがあります。本当に世代を超えて、そして時代を超えて支持されていく作品なのだと思います。

こんなときしかコメント差し上げなくて申し訳ありません。次回のBBM記事も楽しみにお待ちしております。
[2006/10/08 16:02] URL | 沙斗魔 #- [ 編集 ]
沙斗魔さん、こんにちは。コメントありがとうございます。
字幕なしで観て初めて、ジャックの生家での各人の表情や、気持ちが読み取れたような気がしました。
自分なりの解釈ですが、同意していただけたらうれしいです。
必要最小限のセリフでも、字幕があるとどうしても引き摺られてしまいますよね、字幕に。
私の母は映画大好きオバサン(おばあちゃん?)なんですよ。
母にBBMを拒絶されていたらかなり落ち込んだと思いますが、気に入ってもらえてよかったです。
BBMは若い世代よりも、ある程度年齢を重ねた世代のほうが受け入れやすいかもしれませんね。
またいつでもいらして下さいね、お待ちしておりますよ。
ではでは、ありがとうございました。
[2006/10/08 19:20] URL | 真紅 #V5.g6cOI [ 編集 ]
凄い、凄いズボズボはまってますね(笑)
何気にこのページに行き当たり、読ませていただいてます。
少し、いいですか?
ジャックの父親が、遺骨はこちらで…っていった意図だけど…
当時、いや、今でも、ほんの数十年前まではイギリスなどでは同性愛者は2等市民で財産権もまともな市民権も無かった。だから、多分、当時はイニスの父親の話から推察されるけど、同性愛者は人間として認知されない存在だった。だから、だからジャックの父親が家族の墓に、というのは、ジャックを、人間として認めるという事であり、これは当時の価値観としては大変なこと。お前たちの関係も認めているということにも繋がる言葉。息子への愛情以上の、人としての行き方にも通じると思う。初めて自分たち、この関係を認めてくれた人がジャックの父親だということ。そう思うわ。
[2007/08/30 16:04] URL | シュエット #- [ 編集 ]
シュエットさま、こんにちは。コメントありがとうございます。
古い記事を発見していただきうれしいです。
この、ジャック父の意図がずっとわからなかったんですよ。
ブロークバックの山中に撒いて欲しい、というのがジャックの遺志なのに、それを叶えてくれない父の意図はなんなのだろうと。
ジャックは、自分は人間と認められないんだ、家族の墓には入れないんだと思い込んでいたのですね。
本当は人間として父に認めて欲しがっていたジャックですから、家族の墓に入るということはジャックの本当の望みが叶えられたということなのですか・・。
う~ん、物凄くうれしいです。ジャックにとって、これ以上ない喜びかもですね。
イニスもきっとうれしかったでしょうね。よかった・・・。
素敵なご意見、ありがとうございました!ではでは。
[2007/08/30 17:21] URL | 真紅>シュエット様 #V5.g6cOI [ 編集 ]
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