美しき男たち、愛のかたち~『モーリス』
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 20世紀初頭、英国。ケンブリッジ大学の学生であるモーリスジェームズ・ウィルビー
は、知性に満ちた美しい青年クライヴヒュー・グラント)と出会い、互いに惹かれ合う。
卒業後も親交を深める二人だが、同窓生のリズリー(マーク・タンディ)が同性愛者として
逮捕されたことでクライヴはモーリスから身を引き、上流階級の娘と結婚する。自らのセク
シャリティと当時の社会的モラルとの間で苦しむモーリスを、クライヴの別荘の猟場番アレ
ック
ルパート・グレイヴス、ルイ・マルの『ダメージ』でジュリエット・ビノシュの婚約
者を演じて記憶に残る)が見つめていた・・・。

 もう20年近く前の作品である。初見。マーチャント・アイヴォリーフィルムヒュー・
グラント
、同性愛がテーマということで、これは見逃してはいけない作品だと思い続け、や
っと鑑賞することができた。今回はビデオだったが、restored version無修正版)、
ボカシなし。

★以下ネタバレします★
 
 21世紀の現在、同性婚が認められている英国で、この作品が描いている時代には同性愛は
犯罪であり刑罰の対象
だった、という事実にかなりショックを受けた。優秀で切れ者、将来
を約束されていた上流階級のリズリーが実刑を受け、人生を棒に振るのを目の当たりにした
クレイヴ。彼が取ったその後の行動は、彼の社会的立場や出自を考えると、当時としては当
たり前の選択だったのだろう。財産や政治家としての将来と名声、その全てを奪われる恐怖
クレイヴは「冷酷で非人間的」というよりも、モーリスとはあくまでプラトニックだったこ
とを逃げ道にした「欺瞞に満ちた小心者」として描かれている。彼の同性愛傾向も、所詮は
頭でっかち」な憧憬にすぎなかったのかもしれないと思う。
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 一方、クレイヴによって自らのセクシャリティに目覚め、悩み苦しむモーリス。身体的に
異常ではと悩み主治医にかかり、内にたぎるエネルギーを発散するためにボクシングにのめ
り込み、精神科医の前で横たわる。出口の無い暗闇でもがき苦しむような、彼の苦悩は胸に
迫る。そんな彼を救ったのは、労働者階級の若者アレックだった。彼によって初めて肉体的
な歓び
を知るモーリス。しかしここで英国の階級社会が影を落とす。本来ならば交わること
のない、いわゆる「身分違い」の恋。周囲の目を気にし、脅迫されるのではと猜疑心でいっ
ぱいだったモーリスも、アレックの真っ直ぐな瞳に接するうちに、次第に身体だけでなく
神的
にもアレックに寄り添っていく。最後はクレイヴと決別し、アレックとの人生を決意す
るモーリス。ハッピーエンドではあるけれど、私はこの二人のその後が心配だった。ベン・
キングズレー
扮する精神科医が言うように、二人でフランスかイタリアへ逃げて、幸せに暮
らせればいいなと思いつつ。

 公開当時、本作に対する評価はどのようなものだったのだろう。同性愛というテーマがク
ローズアップされがちだと思うが、出身階級や社会的モラルと、自分の心の声とをどう折り
合いをつけて生きていくか、それが本作の真のテーマであるようにも思った。対照的な生き
方を選んだクライヴとモーリス、幸せだったのはどちらか。ラストのクライヴの表情に答え
はあるのかも知れない。しかしそれは彼らの人生が終るとき、彼らしか知り得ないのだと思
う。

 若き日のヒュー・グラントの、輝くばかりの美しさ。それはフィルムに焼き付き、永遠に
残る。そこにも、この作品の素晴らしさがあるのではないだろうか。

(『モーリス』監督:ジェームズ・アイヴォリー/主演:ジェームズ・ウィルビー
          ヒュー・グラントルパート・グレイヴス/1987・英)
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テーマ:色あせない名作 - ジャンル:映画

[2006/10/05 21:42] | DVD/WOWOW | トラックバック(3) | コメント(13) |
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コメント
真紅さん、初めまして。
真紅さんのレビューは、ストーリーの背景まで視野に入っていて素晴らしいですね!
「アナザーカントリー」と前後して見た記憶があります。
真のテーマはやはり真紅さんの書いていらっしゃる通りと、私も思います。
また伺わせてくださいね。
[2006/10/06 00:17] URL | lime-fizz #- [ 編集 ]
lime-fizzさま、初めまして。拙ブログにお越しいただき、コメントありがとうございます!
私は『アナザー・カントリー』は未見なのですが、コリン・ファース出演作なので近々観たいと思っております。
また是非お越し下さいませ。私も伺いますね。ありがとうございました。
[2006/10/06 00:48] URL | 真紅 #V5.g6cOI [ 編集 ]
真紅さん、こんにちは。
TBとコメントありがとうございました。

男性同士の愛を描いた作品を観たのが、実はこれが初めてで、
経験値ゼロの状態では、最初はびっくりして思わず後ずさりしそうになりました(恥)。
でも、この1作で、理由も階級も体裁も何も関係なく理屈でもなく、
男が男(女が女を)を愛することがあるんだ、そういう愛の形があるんだ…と
素直に信じるようになりました。
登場人物のそれぞれの生き方に、多くのことを感じられた一方で、
ヒュー・グラントってこんなに綺麗な人だったんだ、と
改めて感じた作品でした。

男性同士の愛と同時に、やや重いテーマを扱った『司祭』も
是非、ご覧になっていただきたいです。
[2006/10/06 09:32] URL | 悠雅 #eoZXlpkA [ 編集 ]
おはようございます。私も映像で同性愛を観たのは、この作品が初めてだと思います。
草原での2人のキスシーン(クライブに拒絶されるんでしたっけ、、?)は、美しかったです。
クライブは繊細で、アレックは野性的でしたね、、わざと対照的なキャラクター設定なんでしょうが。ハッピーエンドでしたが、その後の2人の人生はどうなっていったんでしょうか?

最近購入した、「TITLE」とゆう雑誌(建築本ではないですが、よく建築特集をしているので、、今回も建物探訪が主なのですが、、、)の最後のほうに映画記事があり、このアイボリー監督の最新作「上海の伯爵夫人」で共演のレイフ・ファインズと真田広之の対談が載っていました。カズオ・イシグロ原作なんですね、、興味深いです!アイボリー監督は、気の合った俳優はその後も起用するそうで、監督いわく「ヒロ(真田)の演技は素晴らしい!この秋にクランクインする新作では、私の常連でもあるアンソニー・ホプキンスとヒロは共演してもらう予定なんだ!」とあり、こちらも興味深いです!
[2006/10/06 09:58] URL | sumisu #- [ 編集 ]
悠雅さま、sumisuさま、コメントありがとうございます。コメントレスをまとめさせて下さい。

☆悠雅さま
TBもありがとうございます。
私も昔はLGBT関連の映画には及び腰だったので、ほとんど観てないんです。
今になって観て、20年も前にこの作品が作られていたことに驚きでした。
ヒースもジェイクも勇敢だと感じましたが、この作品の俳優達も皆凄いですね。プロです。
『司祭』ですか、どんな作品なのでしょう??楽しみです~、悠雅さまのオススメとあらば、観なければ!
では、また遊びにいらして下さいね。ありがとうございました。

☆sumisuさま
私も、二人のその後がとても気になりました。あの社会状況では、あのまま二人で海外移住でもするしかないですよね。
『上海の伯爵夫人』は楽しみにしている作品なのですが、上映館が少ないので劇場で鑑賞できるかは微妙なのです。
脚本がイシグロなのですよね~。
しかし真田広之さん、すっかり国際俳優ですね!彼は背が低いのに、演技力で相当、評価されているのですね~。
アンソニー・ホプキンスと共演ですか、楽しみです、どんな作品なんだろう。。
では、またお話しましょう。ありがとうございました。
[2006/10/06 10:19] URL | 真紅 #V5.g6cOI [ 編集 ]
こんにちは。「モーリス」良い映画でしたね~。私もこの夏、見たばかりなんです。公開当時はヒュー様人気でけっこう話題になってました。で、引いてしまって、、、美形が苦手だったんです、昔は。20年も前にこのような映画が作られていたのに驚きました。
逃げ場のないモーリスの苦悩、そこに現れた愛することに率直なアレク、苦悩というより恐怖のためにモーリスの愛を受け入れられなかったクライブ、3人の演技が素晴らしい。特にラストのクライブの表情。真紅さん、私はあのシーンでヒュー・グラントに対する見方が変わりました(勿論好い方にです)。
「アナザー・カントリー」も同時期に見ましたが、登場人物が当時の社会では思想的異端者と性嗜好異端者であるという、長い物語の序章という印象でした。
[2006/10/06 12:35] URL | kママ #7iSbDyII [ 編集 ]
kママさま、こんにちは。コメントありがとうございます。
やっぱり観たくなりますよね、『モーリス』。私も観てよかったと本当に思います。
三人の主人公の演技、私も素晴らしいと思いました。
私はヒュー様、元々好きなんですけど、彼って若い頃から演技が老成してますよね。
彼がブレイクしたのは『フォー・ウェディング』だと思っていたのですが、そのずっと前からこんないい作品に出ていたのですね。。
当時のヒュー様人気、私も実感したかったです。
『アナザー・カントリー』も絶対観ますね!コリン・ファースの若い頃、楽しみです♪
ではでは、またいらして下さいね。ありがとうございました。
[2006/10/06 14:04] URL | 真紅 #V5.g6cOI [ 編集 ]
真紅さん、こちらにも失礼いたします。

「モーリス」取り上げてくださってありがとうございます。
この映画、BBMの次点くらいに嵌りました。通算20回以上観たような気がします。映画館に日参状態でした。
BBMのように涙にくれるとか、胸締め付けられる、といったことがなかったのは、なにげにハッピーエンドだったから?でしょうか。モーリスとアレックの先行きは不安ではありましたが、2人共前向きなところが「どうにかなるさ」って気がしたので。
それでも、私、モーリスはやはり本当はクライヴが好きで、できたらずっと一緒に居たかったんじゃないかと思うんです。

BBMを観るようになって思い出すのは、最後にモーリスが消えた夜の闇を見つめるクライヴの表情に、BBMと共通する何かがあるような気がするということで、私、それは真紅さんがおっしゃってる「若さとイノセントの喪失」ではないかと思ってるんです。

ジャックとイニスには遠く及ばないにしろ、モーリスとクライヴも多くの時間を互いに特別な感情を持ちながら過ごしたことでしょうし、長い月日の中で、「古くからのよき友人」的な意識しか持てなくなっていクライヴにとって、モーリスからの突然の別れとその言葉は、彼の人生を問い直させる言葉でもあったのではないかと思えるのです。それが、クライヴにとってあの夜窓の外を見つめていた間だけのことだったとしても、あの瞬間の彼の表情には、最後の諍いの後で走り去るイニスの車を見送るジャックやクロゼットに掛けられた2枚のシャツに言葉をかけるイニスの表情と共通する何かが確かがあると思えてしまうのです。

ちなみに、私は、ジェームズ・ウィルビー大好きの超極少数派でした。あの金髪と長い足、タキシード姿のスタイルの良さ、素敵~と思ってたの
に、世間ではヒュー・グラントの美しさばかりが評され、連れに至っては「クライヴの髪型すっげえいいな。俺も今度はあの髪だな」。ああ、あの頃ブログがあったなら同士が見つかったかもしれないのに、と思わず遠い目になる「モーリス」なのでした。
[2006/10/08 17:34] URL | 沙斗魔 #- [ 編集 ]
沙斗魔さん、こちらにもコメントありがとうございます。
20回以上、凄いですね~!確かにすごく魅力のある作品だと思います。
J・アイヴォリーの世界というか、英国上流中産階級の雰囲気っていいですよね~。。うっとり。
そうですね、私もモーリスはクライヴの事は絶対「忘れられない人」だと思います。
あんな風に決別したし、アレックもいるけど、心の中にはいつまでもクライヴがいると思います。
あのラストのクライヴの表情、ホントによかったですね。
ヒュー・グラントうまいわぁ、さすがぁ、とヒュー様ファンの私はまたまた感心してしまったのです。
う~ん、確かにジェームズ・ウィルビー好きなのは少数派?かもしれません?
私はルパート・グレイブスも結構好きです。
そして『モーリス』一緒に観に行った方がいるのですね~、いいな~、フフフ♪
ではでは、またお話しましょうね。ありがとうございました。
[2006/10/08 19:32] URL | 真紅 #V5.g6cOI [ 編集 ]
真紅さん、
またTBできないみたいですね。なぜなんだろう?
この映画は私も好きです。同性愛うんぬんより、イチモツが・・・じゃなくて、英国の当時の生活とか人生観がわかって面白いですよね。
[2006/10/09 21:25] URL | チュチュ姫 #- [ 編集 ]
チュチュ姫さん、こんにちは。コメントとTBありがとうございます。
今私ももう一回トライしたらTB成功!やった~~。。でも続けてはできない。何でや??
イチモツ・・、ハハハ。
何と言っても、この頃は同性愛者は犯罪だった、というのがすっごいショックでした。
だからモーリスとアレックのその後が心配だったな~。。
ではでは、また懲りずにTBもしてみますね。ありがとうございました。
[2006/10/09 23:28] URL | 真紅 #V5.g6cOI [ 編集 ]
素敵なレヴューですね!!

そうなんですよねぇ~
記事を読んでいて、この作品のいろんなシーンがよみがえってきました。
また見たくなってしまったので、週末レンタルショップに行こうかなぁ~(笑)

今日は無事TBできました!!ラッキ~
[2006/10/14 05:00] URL | D #k0GcsowQ [ 編集 ]
Dさま、こんにちは。コメントありがとうございます。TBも成功!やった~頂きました!
この作品、DVDは絶版のようですね。私もレンタルだったのですが、ビデオでした。
DVD、復刻したら絶対売れると思いませんか?私も買うかも(笑)。
ヒュー様が美しいですよね、是非再見なさって下さいませ!
ではでは、またお話しましょう。ありがとうございました。
[2006/10/14 12:57] URL | 真紅 #V5.g6cOI [ 編集 ]
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いつまでも青臭い映画好きでいたい。愛おしい映画と、忘れがたき本たち。ときどきカフェとか。 記事は基本的にネタバレあり。 どうぞご贔屓に♪

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