存在証明~『ふたりの証拠』

おばあちゃんの家に一人戻ったリュカ(LUCAS)は、茫然自失の日々を過ごし
た後、党書記局のペーテルと知り合う。大晦日の夜、ヤスミーヌと彼女の赤ん坊
を、リュカは家に招き入れる。
アゴタ・クリストフ『悪童日記』の続編にして、三部作からなる第二作。『悪童日
記』に衝撃を受け、すぐにこの続編も読了してしまった。構成は異なるが、感情
や装飾を排した、透明な水のような文体は変わらず、人間存在の絶望や葛藤、
悲哀は重みを増している。そして前作に劣らぬ衝撃の、読む者を混乱に陥れる
ラスト。凄い小説です。
冒頭から、少々戸惑ってしまった。何故、あれほど一心同体だった「ぼくら」の
別離を、誰も訝しがらないのか。どうして、誰よりも聡明なはずのリュカが「白痴」
と呼ばれているのか。謎は謎のままに、リュカはヤスミーヌと、彼女の赤ん坊マ
ティアスと暮らし始める。そしてリュカの兄弟の名は、クラウス(CLAUS、LUCAS
のアナグラム)だと明かされる。
不具であるマティアスを溺愛するリュカ。リュカに対する激しい愛憎と独占欲
に苛まれるマティアス。彼もまた「書く」ことを始め、本屋のヴィクトールは「すべ
ての人間は一冊の本を書くために生まれてきた」と言い、リュカは夫を亡くした
図書館員のクララを求める。クラウスを永遠に待ち続けながら・・・。
物凄く飛躍した妄想だと自分でもわかっているのだけれど、この物語を読み
ながら私の頭に浮かんでいたのは、萩尾望都による漫画『ポーの一族』なの
だった。リュカも、クラウスもマティアスもバンパネラではないし、永遠の命を
有するわけではない。しかし、私には彼らの関係が、エドガーとメリーベルと
アランの関係にダブってしまったのだ。彼らの持つ浮世離れした妖気や、ヨ
ーロッパの街並みの雰囲気が、そう感じさせたのだろうけれど。
「死者はどこにもいなくて、しかもいたるところにいる」 そして、生きている
人たちは帰ってくる。クラウスは帰って来た、そしてリュカは、何処にいる?
( 『ふたりの証拠』 アゴタ・クリストフ/著、堀茂樹・訳、早川書房・2001)
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アゴタ・クリストフの訃報を今日知った。
2011年7月27日逝去。享年75。
わたしにはかけがえのない作家さんで、一番好きな小説はと訊かれたら『ふたりの証拠』を先ず挙げると思 ...
2011-07-31 19:50 :
菫色映画
全て内容ネタバレで書いていますので、注意です!
2015-12-21 15:56 :
ポコアポコヤ
コメントの投稿
こんにちは~♪
感想をアップされたんですね~
>読む者を混乱に陥れるラスト。凄い小説です。
本当にそうですよね!!読んでいて混乱するんですよ。「何が起こっている?何かが変・・・」って思いながらもページを捲る手が止まりませんでした。
で、、、第三の嘘で、またまた混乱します。
三作目読了後の真紅さんの考えを聞きた~い!
感想をアップされたんですね~
>読む者を混乱に陥れるラスト。凄い小説です。
本当にそうですよね!!読んでいて混乱するんですよ。「何が起こっている?何かが変・・・」って思いながらもページを捲る手が止まりませんでした。
で、、、第三の嘘で、またまた混乱します。
三作目読了後の真紅さんの考えを聞きた~い!
由香さん、こんにちは~。コメントありがとうございます。
そうなんですよ~。これまたまたラストで「!!!」とやられてしまいました。
今『第三の嘘』途中なんですが、ホント読んでいて「え?ええ?」って感じで混乱しますね。
最後、この物語どう収束するんだろう~~、ワクワクドキドキします。
全て読んだら感想まとめたいと思ってます、どうなることやら、、ですが。
私も由香さんの意見が聞きたいです~。またよろしくお願いします♪
そうなんですよ~。これまたまたラストで「!!!」とやられてしまいました。
今『第三の嘘』途中なんですが、ホント読んでいて「え?ええ?」って感じで混乱しますね。
最後、この物語どう収束するんだろう~~、ワクワクドキドキします。
全て読んだら感想まとめたいと思ってます、どうなることやら、、ですが。
私も由香さんの意見が聞きたいです~。またよろしくお願いします♪
真紅さん、親身なコメントをありがとうございました。
本当になんて偉大な作家さんが亡くなられてしまったのか……。
『ふたりの証拠』と「ポーの一族」ってたしかに何か相通じるものがありますね。
あの誰も中に入ることのない雰囲気。
わたしは、『ふたりの証拠』に限って言えば、リュカはクラウスであり、クラウスはリュカであった、“彼ら”は一人しかいなかったのだと思いました。
まあ三部作を読めばそれの矛盾点は生じますが……。
アナグラムの同じ名前を持つ兄弟の謎は永遠に解けないままとなってしまいました。
とにかくこんな作品を生み出してくれた女史にとても感謝しています。
真紅さんのレビューでその気持ちが強まりました。
本当になんて偉大な作家さんが亡くなられてしまったのか……。
『ふたりの証拠』と「ポーの一族」ってたしかに何か相通じるものがありますね。
あの誰も中に入ることのない雰囲気。
わたしは、『ふたりの証拠』に限って言えば、リュカはクラウスであり、クラウスはリュカであった、“彼ら”は一人しかいなかったのだと思いました。
まあ三部作を読めばそれの矛盾点は生じますが……。
アナグラムの同じ名前を持つ兄弟の謎は永遠に解けないままとなってしまいました。
とにかくこんな作品を生み出してくれた女史にとても感謝しています。
真紅さんのレビューでその気持ちが強まりました。
リュカさん、こんばんは! コメント&TBありがとうございます。
アゴタ・クリストフが亡くなったとは。。なんとも偉大な作家を喪ってしまいましたね。
この三部作を読んだ時の衝撃はハンパなかったです。
しかし、私の頭では混乱してしまい、結局『第三の嘘』の感想は書けずじまい。。
リュカとクラウス、同一人物説は私も考えました。
しかし、『第三の嘘』を読んでしまうとそうは断言できなくなってしまうんですよね。。
あの独特の世界観は私も生涯忘れられないと思います。
そして、この三部作を読んですぐに「リュカさんのHNってもしかしてここから?」と思いました。
どこかでお話したと思いますが、私はクラウスを頂きたかったわ。。
これから遅れ馳せながら、彼女の未読の作品を読んでいきたいと思います。
謹んでご冥福をお祈りします。。
アゴタ・クリストフが亡くなったとは。。なんとも偉大な作家を喪ってしまいましたね。
この三部作を読んだ時の衝撃はハンパなかったです。
しかし、私の頭では混乱してしまい、結局『第三の嘘』の感想は書けずじまい。。
リュカとクラウス、同一人物説は私も考えました。
しかし、『第三の嘘』を読んでしまうとそうは断言できなくなってしまうんですよね。。
あの独特の世界観は私も生涯忘れられないと思います。
そして、この三部作を読んですぐに「リュカさんのHNってもしかしてここから?」と思いました。
どこかでお話したと思いますが、私はクラウスを頂きたかったわ。。
これから遅れ馳せながら、彼女の未読の作品を読んでいきたいと思います。
謹んでご冥福をお祈りします。。