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映画が大好きです。いつまでも青臭い映画好きでいたい。 記事は基本的にネタバレありです by 真紅 (言葉を探す人)   ★劇場鑑賞した映画は Instagram にアップしています @ruby_red66 ★Stay Blue

哀切の記~『いまも、君を想う』

いまも、君を想う

 2008年6月。評論家の川本三郎氏は、35年間連れ添った妻・恵子さんをガン
で亡くした。出逢い、結婚、三度の引っ越し、旅行、そして病。時系列でなくコラー
ジュ風に、妻との想い出を綴る回想記。川本さんらしい抑制された筆致が、伴侶
を喪った哀しみをくっきりと際立たせる。

 新聞の訃報欄で川本さんの奥様が亡くなったと知り、57歳という若さに驚いた
記憶がある。ファッション評論家だったということも初めて知り、何故か根拠も
なく「おしどり夫婦だったろうに、川本さんは大丈夫だろうか」と心配になったも
のだ。7歳年下で、「やせっぽちでクール」だった妻。悔やんでも悔やみきれない、
慟哭が伝わってくる。

 リリカルで穏やかな評論が印象的な筆者の、意外な一面も知った。取材源を
守ろうとして警察に逮捕され、朝日新聞社を辞めざるを得なかったこと。酒の席
で妻にセクハラする男が許せず、殴ってしまったこと。妻を自宅介護しているとき、
電車で中年女性を怒鳴りつけてしまったこと。そして一番驚いたのは、若い頃は
匿名で、批判的な映画評論を書いていた、ということ。そんな筆者を恵子さんは
「匿名で人の悪口を書くなんてよくない」とたしなめ、それ以来、気に入った映画
や、好きな映画のことしか書かなくなった
のだという。

 恵子さんがどんなにまっすぐで堅実で、才能溢れる美しい女性だったか。そし
て筆者がどんなに妻を愛し、必要としていたか。猫を持て余し、自炊に苦戦し、
欠けていく仲間を悼みながら、それでも生きていかねばならない人間の、根源的
かなしみ。慎み深いこの小さな本に、愛と死の本質が詰まっている。そしてそ
れは、限りなく重いのだった。

 ( 『いまも、君を想う』 川本三郎・著/新潮社・2010)
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2010-07-09 : 読書 : コメント : 6 : トラックバック : 1
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書籍「いまも、君を想う」いかに生きるか、さりげなく自分らしく
「いまも、君を想う」★★★★ 川本 三郎著 、 講談社、2010年5月27日初版 (159ページ ,1,260 円)                     →  ★映画のブログ★                      どんなブログが人気なのか知りたい← 「35年連れ...
2010-08-17 07:27 : soramove
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とてもいい記事ですね。^^
川本さんの著書は何冊か読ませていただき
ましたがそうですか奥様を亡くされていらした・・
川本さん自身まだ60代なのですね~
もっと年齢が上かと思っていました。
60代・・・きっと喪失感は鋭く痛いでしょう。

あたりがやわらかい文章ですが
なかなかどうしてガンコ男のひとりですな彼は。
どんなに都会的な風貌とその筆致でも
こよなくノスタルジーにこだわるその1本気な
気性はやはり陰の奥様の尽力によるところも
あったのでしょう。
ま、オナゴのいなくなった男の寂しさは酷い。
蛇足ですが、その点、オナゴはまんず強い。
バハハハハハ~(笑)
2010-07-10 07:46 : vivajiji URL : 編集
川本さんとは同世代で、共感することも多く、大好きな評論家です。
悪口を書くなというエピソードは、いい話ですね。
2010-07-10 17:03 : 筆致 刻久 URL : 編集
真紅さま こんにちは。
川本三郎さんの著書「アカデミー賞 オスカーをめぐる26のエピソード」(中公新書)という本は、私にとって映画の教科書のような本です。

「アカデミー賞授賞式で受賞者に贈る拍手は「名作を作ってくれてありがとう」の拍手であり、それに対して受賞者も「ありがとう」と答える。世界でいちばん幸福なことは「ありがとう」とひとに言えることなのだと素直に思う」
この本のあとがきで川本さんはアカデミー授賞式についてこのように書いています。
つい数日前、A新聞のインタビューで川本さんがこの本「いまも君を想う」について語っていたのを読み、奥様を亡くされていたことを知りました。
この本を読んで紹介してくださった真紅さん、タイムリーですばらしい♪♪
2010-07-10 18:16 : メグ URL : 編集
vivajijiさん、こんにちは。コメントありがとうございます。
うわぁ~、姐さんにお褒めいただくとは♪ 感謝感激です。
そうなんです、川本さんは60代半ばでいらっしゃるようです。
60代で奥様を亡くされて・・・。お子様もいらっしゃらなかったようですので、本当に「こたえた」ようです。
奥様がまた本当にお美しくて魅力的な方だったようですね。

川本さんってとっても穏やかでやさしい文章を書く方、という印象なのですが、素顔はウェットでかなり「怒りっぽい」んだそうです。
そのことで、奥様には随分たしなめられていたのだとか。。
私も「瞬間湯沸かし器」かつ涙もろい人間なので、すごく親近感がわきました(笑)。
奥様の尽力あってこその川本さんだったのでしょうね。。そのことが溢れんばかりに感じられました。

ハハハ、ホント、女は「逞しい」ですからね~~~。
一人になったほうが、活き活きしてたりして(爆)。
2010-07-12 08:51 : 真紅 URL : 編集
筆致刻久さん、こんにちは。コメントありがとうございます。
そうそう、私たち「川本さん大好き」仲間ですよね♪
匿名の悪口に対して、奥様は「あなたの大好きな西部劇で、後ろから撃つようなもの」とおっしゃったそうです。
これは、こたえますね。。ご冥福をお祈りしたいです。
2010-07-12 08:54 : 真紅 URL : 編集
メグさん、こんにちは。コメントありがとうございます。
私も何冊かは川本さんの著作を読んでいるのですが、その本は存じません。
今度探してみますね。映画の教科書か~、難しくないですよね?(笑)

A新聞のインタビューは、私も読みましたよ。
ホント、タイミングよく、、ハハハ。同じくA新聞での書評も、少し前に掲載されていましたね。
川本さんがその朝日の記者だったこと、本作で初めて知りました。
古巣なんですね。結婚前に辞めざるを得なかったそうですが、奥様(当時は婚約者)はその時
「私は朝日新聞社と結婚するわけではありません」とおっしゃったんだそうです。
なんて男前な発言・・・! 本当に素敵な方だったのですね~。。
私だったら言えるかな、、そんな風に。
2010-07-12 09:01 : 真紅 URL : 編集
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