お前は逃げられまい~『真昼なのに昏い部屋』
真昼なのに昏い部屋

 在日アメリカ人ケニー・ジョーンズは、同じ町に住む主婦・美弥子さんに恋し
ていた。ジョーンズさんが「フィールドワーク」と呼ぶ散歩を通して、二人の距離
は徐々に縮まってゆくのだったが・・・。

 江國香織さんの新作は、ズバリ「不倫」がテーマの長編小説。私は江國さんの
ファンで、新作が出れば必ず読む。直木賞受賞以降は、執筆ペースが随分ゆっ
くりになって寂しかった。しかし、満を持して放たれた本作は、江國節全開「本
当は怖い不倫のお話」
。日常が静かな狂気の裂け目に侵食されてゆく過程がな
んともリアルで、グイグイ引き込まれて読みました。

 まずはこのカバー、ブックデザインを見て下さい。薔薇の花にレースがあしら
われ、その中心に不気味なゴヤの版画甘さと残酷さが同居する、江國さんの
描く世界観にピッタリな、美しい本に仕上がっています。

 家事や手仕事が大好きで、何事も「きちんとしている」のが好きな主婦・美弥子
さん。私のようなグータラ人間からしたら、宇宙人のようなキャラです。しかし、
正直この美弥子という女性、少々、というかかなり、頓珍漢で常識外れではなか
ろうか。。

 昼日中、ご近所でも一際目立つお屋敷に住む若き社長夫人が、外国人男性と
手をつないで(!)お散歩
してたら、そりゃあ「世間様」が黙っていないでしょう。
「そういうこと」してなかったらいい、ってもんじゃないんですよ美弥子さん。そして
何より、夫のことをよそ様に対してまで「ひろちゃん」って言うのを何とかしてくれ~。
こういう人、「天然」じゃなくて「かまとと」って言うんじゃないだろうか?(暴言)

 大学教師のケニーは、奥さんと長年別居中、友人のナタリーや、元教え子数人
とも「大人の関係」を楽しんでいるらしいから、それはそれは魅力的な男性なので
しょう。しかし結局、籠から逃げ出した小鳥は、もう彼が渇望する「小さきもの」
はなくなっているんですね。おもちゃが欲しいと駄々をこね、それが手に入るとも
う他のおもちゃを見ている、幼子と同じだと感じてしまった。なんとも皮肉な幕切
です。

 夫と離婚して、美弥子は幸せになれるのだろうか? 彼女はきっと、いつまで
もあの家を懐かしく感じるのだろうし、経済的に自立して生きていくタイプにも思
えない。しかし、「世界の外」に出てしまったら、もう二度と元には戻れないのか
もしれないですね。それを「悲劇」と呼ぶかどうかは、また別の話

 ( 『真昼なのに昏い部屋』 江國香織・著/講談社・2010)
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テーマ:オススメ本 - ジャンル:小説・文学

【2010/05/10 12:52】 | 読書 | トラックバック(1) | コメント(0)
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「真昼なのに昏い部屋」江國香織
せめて、きちんとした不倫妻になろう。 満ち足りているはずの生活から、逃れようもなくどんどんと恋に落ちていく。 恋愛を、言葉の力ですべて白日の下にさらす、江國作品の新たな 粋な提案【2013/01/11 17:13】
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