境界線を越える~『シリアの花嫁』
シリアの花嫁



 THE SYRIAN BRIDE


 1967年第三次中東戦争以来、イスラエルに占領されているゴラン高原。そ
の小さな村で、境界を隔てたシリアへ嫁ごうとする娘がいた。結婚式当日、花嫁
のモナ(クララ・フーリ)
も、その姉アマル(ヒアム・アッバス)も浮かない表情。
彼らにとってシリアへの入国は、今生の別れを意味していたのだった。

 劇場公開を観逃した本作は、どうしても観たかった作品。大好きな女優、ヒア
ム・アッバス
が主演だから。気品と憂い、哀感が滲み出る瞳の表情が素晴らしい
女優さん。高圧的で男尊女卑的思想の夫と「もはや会話もない」アマル。しかし
彼女は、秘かに自立への道を模索していた・・・。

 ゴラン高原に住む人々は、シリアへの帰属意識が高いためにイスラエル国籍
の取得を拒否
していて、無国籍状態なのだという。境界線をはさんで、親族と
声器(!)
を使って会話しているのを観て、心底驚いてしまった。こんなの悲し過
ぎる、酷過ぎるよ・・・。

シリアの花嫁2

 国際情勢政治のことは、個々人にはどうしようもないし、様々な国の様々
な思惑があるのだろう。アマルたちの父・ハメッドのように、何年も投獄されて
家族を犠牲にしても、信条を曲げない人もいる。しかしほとんどの市井の人々
は、妥協を重ねて生きているのだろう。自らの家族と、生活を守るために。

 国家と男社会二重に抑圧されながら、子どもたちのために忍従生活を余儀
なくされていたアマル。幸せを掴めない姉を気遣うモナ。女が生きていくために
は、家族と身を裂かれるような別れをしてまで、「結婚」という道を選ぶしかない
のかと、暗澹たる気持ちになる。モナの不安を思うと、泣けて、泣けて・・・。

シリアの花嫁3

 しかし、落ち込みがちな私の心を揺さぶったのはやはり、ラストシーンのヒア
ム・アッバス
なのだった。全てが徒労に終わるかに見えた夕暮れ、たった一人、
花嫁姿で境界線を越えてゆく妹。その姿にしながらも、夕陽を背に境界線を
去る姉、アマル
。茫然と、悲しみに打ちひしがれた表情は、やがて柔らかい微笑
みに変わる。たとえ女でも、一人でも歩いてゆけるんだ。自らの幸せを掴み取る
ために。ヒアム・アッバスの、凛とした美しさ、希望を湛えた口元。私も、勇気
もらったような気がした。

 ( 『シリアの花嫁』 監督・製作・脚本:エラン・リクリス
        主演:ヒアム・アッバス、クララ・フーリ/2004・仏、独、イスラエル)
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[2010/04/12 11:27] | DVD/WOWOW | トラックバック(8) | コメント(4) |
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コメント
初めまして!
弊記事までTB有難うございました。

ご芳名は、懇意にさせて戴いているvivajijiさんのところで存じ上げておりましたが、昨年の途中まではTBができませんでした。
その後ぼつぼつTBさせて戴いているものの、自分の記事を書くのに一生懸命で、なかなかコメントにまでは至りません。

家族の事情等あり、今後もコメントは難しいと思いますが、今後ともよろしくお願い致します。

本作は凄く良い映画なのに、観た方は少ないようですね。残念です。
[2010/04/12 23:44] URL | オカピー #jHSMZ1/Y [ 編集 ]
アッバスさん、素晴らしいですよね!
彼女を知って、その後、この映画をチェックしたわけですが、いい映画でした。
本年度暫定1位(今年の映画じゃないんですけど)。
彼女の演技力なしでは、表情を追いつづけるようなラストシーンは、できないでしょう。
[2010/04/13 07:30] URL | ボー #0M.lfYJ. [ 編集 ]
オカピーさん、こんにちは。こちらこそコメントとTBありがとうございます!
vivajiji姐さんやシュエットさん宅で、私もお名前は存じておりました。
TB、FC2は不通のブロガーさんが多く、ご迷惑をおかけしてすみません。

さてこの映画、私もとても観たかったのですが劇場には行けませんでした。
確か東京でも大阪でも単館上映だったと思います。
こういう良質の映画を、もっと多くの方と共有したいですね。

私も時間の制約があり、なかなかコメントまで残すことができないのですが、こちらこそ今後ともどうぞよろしくお願いいたします!
[2010/04/14 08:39] URL | 真紅 #V5.g6cOI [ 編集 ]
ボーさん、こんにちは! コメント&TBありがとうございます。
ヒアム・アッバスは、中近東やヨーロッパ映画でよく見かけて、いつの間にか大好きな女優さんになっていました。
とどめを刺したのが『扉をたたく人』です。
あのラストシーン、本当に素晴らしかったですね。忘れられないシーンになりそうです。
[2010/04/14 08:42] URL | 真紅 #V5.g6cOI [ 編集 ]
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