女性映画の最高峰~『ジュリア』

JULIA
第二次大戦前夜。上流階級に生まれながら、反ファシズム・ナチ抵抗運動に
身を投じた、美しく聡明なジュリア(ヴァネッサ・レッドグレーヴ)。幼なじみの劇作
家リリアン(ジェーン・フォンダ)の視点から描かれる、気高き闘士の壮絶な生涯。
映画好きなら誰でも、「忘れられない映画」というものを心に持っているだろう。
大人になる少し前、テレビの画面や小さなホールで出会い、鮮烈な印象を残し
ていった作品たち。私にとっては、フレッド・ジンネマン監督による、1977年製作
のこの傑作もその一つ。長らくDVD化されていなかった本作を、数十年ぶりに
再見した。感動は全く褪せることなく、心の深い場所から涙が溢れる。マスター
ピース。
アメリカを代表する劇作家、リリアン・ヘルマンの回想録を映画化した本作は、
アカデミー脚色賞、助演男女優賞を獲得している。初見からしばらく経ってその
ことを知った私は、「ヴァネッサ・レッドグレーヴは、あんな短い出演時間でオス
カーを獲ったんだ!」と驚いたものだ。幼かった私は、ベルリンの食堂での、ジュ
リアとリリアンの再会場面しか記憶になかったのだ。しかし、それだけあのシー
ンのインパクトは強烈だった。映画史クラスの名場面だとも言えるだろう。食堂
の奥の席にジュリアを見つけたその瞬間から、もう涙が止まらない。
打算や損得とは、無縁の友情。敬愛以上の絆、迷いなき信頼。テーブルマナ
ーから詩心まで。リリーにとってジュリアは、無二の親友である前に「人生の師」
でもあった。 「子どもがいるの」 「女の子ね? 名前は?」 「リリー」。この短
い会話だけで、リリアンは自分の人生が全肯定されたと感じただろう。幼い日々
を共に過ごしながら、遠く、手の届かない場所に行ってしまったジュリア。彼女
にとっても、自分はかけがえのない、大切な存在だったのだと。

そして、もう一つ重要なシーンがある。ジュリアとリリアンの親密な関係を揶揄
する男友達に対して、リリアンが平手打ちを喰らわすシーン。リリアンは回想す
る。ジュリアに対する自分の感情は、本当に「ただの」友情だったのだろうか?
この感情は、パートナーのダッシュ(ジェイソン・ロバーズ)に対する「愛情」と、
何が違うのか。答えは出ない。しかし、リリアンにはわかっている。自分が心底
愛したもの、自分を形作ったもの、生涯忘れ得ぬものが、誰であるのかを。
タイトルロール「ジュリア」を演じたヴァネッサ・レッドグレーヴの、神々しい
までの輝きは言うまでもない。しかし実質的な主役であるジェーン・フォンダ
もまた、言いようもなく素晴らしい。ヘヴィスモーカーで、激情型の劇作家。
瞳に星が瞬くような、アップの多用にも耐えうる美しさ。彼女にとって、これ以
上のはまり役があるだろうか?
女同士の友情なんて・・・、と、食わず嫌いされる方もいるかもしれない。し
かし、私にとって生涯忘れ難い印象を残すこの映画は、性別や時代を越えて、
人として成すべきこと、守るべき正義と勇気について語っている。ヨローッパの
暗い時代、命を賭して権力に立ち向かった人々がいたことを。そしてもちろん、
サスペンスとしても一級品。未見の方は是非、是非。

( 『ジュリア』 監督:フレッド・ジンネマン/1977・USA/
主演:ジェーン・フォンダ、ヴァネッサ・レッドグレーヴ)
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(1977/フレッド・ジンネマン監督/ジェーン・フォンダ、ヴァネッサ・レッドグレーヴ、ジェイソン・ロバーズ、マクシミリアン・シェル、ハル・ホルブルック、メリル・ストリープ、リサ・ペリカン/118分)
2010-04-09 08:42 :
テアトル十瑠
この画像、以前にもUPしていたような気もするのですが
ちがったかしら?
重複していたらごめんさいね。
先代PCが壊れる前に取り入れてあって彼女の記事には
いつか載せましょうと思っていたジェーン・フォンダといえば
このグリーンづくしのお写....
2010-04-09 11:00 :
映画と暮らす、日々に暮らす。
あらすじ心から敬愛する親友ジュリアが、私に助けを求めている。第二次大戦直前の混乱期、ナチス・ドイツの厳戒体制下のベルリンにリリアンは単身乗り込むが・・・。感想アカデミー...
2010-05-27 20:57 :
虎党 団塊ジュニア の 日常 グルメ 映...
☆☆☆☆☆(10点/10点満点中)
1977年アメリカ映画 監督フレッド・ジンネマン
ネタバレあり
2010-05-28 11:46 :
プロフェッサー・オカピーの部屋[別館]
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拙宅へお寄り下さいまして
ありがとうございます。
ジンネマンの作るものは
「気品」に満ちてますね。
青みがかった夜の背景と白い蒸気、
いかにも重厚な列車の動きに
対比するかのようなフォンダ(リリアン)の
口紅の赤さ・・・・ほんとうに傑作ですね。
真紅さんおっしゃるように
あの奥の席にいるレッドグレーブのたたずまい
を感じさせるだけで巧いなぁ~と思いました。
もちろんキャメラの距離のとり方、照明、演出の
的確さが醸し出すあの雰囲気も神業かも。^^
ありがとうございます。
ジンネマンの作るものは
「気品」に満ちてますね。
青みがかった夜の背景と白い蒸気、
いかにも重厚な列車の動きに
対比するかのようなフォンダ(リリアン)の
口紅の赤さ・・・・ほんとうに傑作ですね。
真紅さんおっしゃるように
あの奥の席にいるレッドグレーブのたたずまい
を感じさせるだけで巧いなぁ~と思いました。
もちろんキャメラの距離のとり方、照明、演出の
的確さが醸し出すあの雰囲気も神業かも。^^
vivajijiさん、こんにちは! こちらこそコメントとTBありがとうございます。
本作、いつか再見したいと願いつつ、数十年ぶりに観ることができました。
そうなんです、あの列車のシーンの数々、特に列車のみを捉えた画は素晴らしかったですね!
ほとんどスッピンのジュリアと、赤いルージュのリリアン。
どちらも甲乙付け難い美しさでした。
賑やかな食堂の中で、ジュリアの周りだけ靄がかかっているみたいにしんとしているんですよね。
音楽もよかったですし・・・本当に後世に残るべき、何度でも観たい傑作だと思います。
二人の女優に最高級の賛辞を送りたいです。
本作、いつか再見したいと願いつつ、数十年ぶりに観ることができました。
そうなんです、あの列車のシーンの数々、特に列車のみを捉えた画は素晴らしかったですね!
ほとんどスッピンのジュリアと、赤いルージュのリリアン。
どちらも甲乙付け難い美しさでした。
賑やかな食堂の中で、ジュリアの周りだけ靄がかかっているみたいにしんとしているんですよね。
音楽もよかったですし・・・本当に後世に残るべき、何度でも観たい傑作だと思います。
二人の女優に最高級の賛辞を送りたいです。