fc2ブログ
映画が大好きです。いつまでも青臭い映画好きでいたい。 記事は基本的にネタバレありです by 真紅 (言葉を探す人)   ★劇場鑑賞した映画は Instagram にアップしています @ruby_red66 ★Stay Blue

初アーヴィング~『未亡人の一年』

20060927092427.jpg20060927092455.jpg

 世界的ベストセラー作家ジョン・アーヴィング。映画化された彼の作品は
ホテル・ニューハンプシャー』『ガープの世界』『サイダーハウス・ルール』を観
ているが、長い長い原作には今まで手が出せず、自称「ハルキスト」の割には
村上春樹訳の『熊を放つ』も未読。先日ドア・イン・ザ・フロアを鑑賞したことで、
やっと長年の「目の上のコブ」を手に取ることができた。

 読み始めてまず、その簡潔にして明瞭な文体に驚かされた。アーヴィングとい
えばとにかく長編、大長編だから、文章もさぞ長文・難解だという先入観を持っ
ていたのだ。考えてみれば、長文・難解な文体の作品がこれだけ世界的に受け入
れられるわけがないのだが・・。思い込みって恐ろしい。

 物語は、1958年夏のロングアイランドから、1990年のニューヨーク、アムステ
ルダム、そして1995年、37年の時を経て秋、再びロングアイランドで幕を閉じる
主な登場人物は主人公ルース、ルースの父テッド、母マリアン、マリアンに恋す
エディ、ルースの親友ハナ。彼らの37年間に渡る「愛と追憶の日々」を綴った
作品だ。映画ドア・イン・ザ・フロアは、この物語の約3分の1を映像化した
ものだが、ほぼ原作通り、忠実に映画化されている。そして映画で描かれる結末
の後、世界的人気作家となった36歳のルースを軸に、エディとの再会、父テッド
との愛憎、母マリアンの不在、作家としての葛藤、結婚への迷い、息子の誕生と
夫の死、再婚、感動的なラストへと物語は流れていく。

 登場人物の中で、私はエディに一番心惹かれた(感情移入したのはルースだっ
たけれど)。純粋で朴訥で大ボケで、人生でたった一つの愛を信じ、慈しみ続け
るエディ
。そのせいか、彼の登場しない中盤、アムステルダムの飾り窓地区での
ルースの体験などは退屈に感じられた。この辺りをコンパクトにまとめたなら、
もっとすっきりとした作品になるのだろうが、この長さが「アーヴィング節」の
真骨頂であり、ファンにはたまらない部分なのかもしれない。ルースに与えられ
た余りにも過酷な人生、特に「最後の悪い恋人」スコットとのエピソードなどは
読み進むことを躊躇してしまうほどだが、アーヴィングはこれを「少しばかりの
不運
」と呼び、ルースに少しずつ、愛を学ばせていく。そしてこれだけの長大な
ストーリーを、大団円のハッピーエンディングに持っていく力技はさすが。最終
章「七十六歳のマリアン」を読むためだけにこの長いページをめくってきたのだ
としても、本を閉じたあと、決して後悔はしないはずだ。これは愛の物語であり、
愛とは決して後悔しないこと」であるはずだから。

 都甲幸治氏による「訳者あとがき」も素晴らしい。私は単行本を借りて読んだ
が、文庫も出ていて訳が一部訂正されている模様。文庫版を買うかもしれない。

 ★おまけ~絶対実現不可能・勝手にキャスティング~
     ルース:ケイト・ブランシェット
     エディ:ライアン・ゴズリング
     ハナ :レイチェル・ワイズ
     アラン:ジェリー・ブラッカイマー
     ハリー:イーサン・ホーク

(『未亡人の一年ジョン・アーヴィング著/新潮社・2000
         "A Widow for One Year"by John Irving/1998・USA)
関連記事
スポンサーサイト



テーマ : 海外小説・翻訳本
ジャンル : 小説・文学

2006-09-27 : 読書 : コメント : 6 : トラックバック : 2
Pagetop
彼らが生きている~ブロークバック・マウンテン#16 «  ホーム  » 最後に辿り着く場所~『コールドマウンテン』
trackback

この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)
未亡人の一年/ジョン アーヴィング
未亡人の一年〈上〉ジョン アーヴィング John Irving 都甲 幸治 新潮社 2005-08by G-Tools未亡人の一年〈下〉ジョン アーヴィング John Irving 都甲 幸治 新潮社 2005-08by G-Toolsな・・・長かった…。著者の作品は「サ
2006-09-27 11:24 : しょ~との ほそボソッ…日記…
未亡人の一年
『未亡人の一年』~A Widow for One Year~ジョン・アーヴィング著 都甲幸治・中川千帆訳 新潮文庫1958年、4歳の少女ルースは両親の寝室から聞こえてくる奇妙な音に目覚め、母とアルバイトの少年エディの情事を目撃した。死んだ兄たちの写真が貼り巡らされた家。浮気をく
2006-11-01 23:15 : 終日暖気
Pagetop
コメントの投稿
非公開コメント

真紅さん、こんにちは。
キャー!お読みになったのですね、『未亡人の一年』!やっぱり真紅さんの記事を拝読するとすぐにわたしも読みたくなってしまいます~。真紅さんマジック?
後回しにしてはいるものの気になってしかたがなく、本屋さんで出だしとあとがきを何度も読んでいるわたしなのですが、一番躊躇している本当の理由は、‘辛い終わり方だったらどうしよう?’ということでした。でも考えてみれば、わたしが知っているアーヴィングの作品で辛いだけの幕切れだったものなんてなかったんだ、うん。しかも“大団円のハッピーエンディング”なんて!これでもう安心して読めます~。それに“人生でたった一つの愛を信じ、慈しみ続ける”なんて、これは誰かさんたちのことではないですか~~~!!!
真紅さん、ご紹介いただいてありがとうございました!この秋は映画に読書に忙しくなりそうです~ウフフフフ~。
それではこの辺で。
2006-09-27 10:52 : かいろ URL : 編集
かいろさん、こんにちは。コメントありがとうございます。
大丈夫、安心して読んでいいですよ(笑)。ラストが本当に素晴らしかったです。
主人公の救い方にやさしさがあって、暴力描写もキツイですが人間としてのアーヴィングは明るいほうを向いているんだ、と信じられてよかったです。
巷間言われていることですが、やはり村上春樹の作品と似ていると思いました。アーヴィングのほうが強引な感じですが。
かいろさんオススメの『ガープ』も読んでみたいですが、まずは『熊を放つ』を探してみますね。
またお話しましょうね。それからメールもありがとう。お互いマイペースでいきましょう。ではでは。。
2006-09-27 16:25 : 真紅 URL : 編集
真紅さま、こんばんは♪
先日はtb再トライしてくださったのですね。しっかり届いておりました。ありがとうございます♪ただ、今度は私のほうがダメみたいで・・。また日を置いて改めて挑戦してみますね。
さて・・。土日でようやく読み終えることができました。私も初アーヴィング読了作品だったのですけど、すごくよくてびっくりしてしまいました。
また他の作品も読んでみようかと思います。
映画の役者の面影は、なぜかちっとも思い浮かびませんでした。
ではでは、また、お邪魔させてくださいね。
2006-10-31 00:08 : 武田 URL : 編集
武田さま、こんにちは。コメントありがとうございます。TBもお手数かけてすみません。
いい男バトンのTB、届いたようでよかったです。全くダメなわけではないとわかり、希望が湧いてきました(笑)。
さて。お読みになったのですね~!ようこそ、J.アーヴィングワールドへ!!
とか言って、私次に『熊を放つ』読もうとして挫折してしまいました、あまりの字の小ささに(笑)
でもかいろさんオススメの『ガープ』は読んでみたいです。
私も文庫本、買おうかなぁ。
ではでは、早速お邪魔いたしますね。ありがとうございました。
2006-10-31 00:52 : 真紅 URL : 編集
真紅さん、初めまして。武田さんの所から参りました、ルカと申します。
こちらでも未亡人の一年のレビューが読めて嬉しかったので、ついお邪魔致しました。
アーヴィングは決して難解じゃないんですけど、その脱線しまくりの長文ゆえ読みづらい面もあって、敬遠されている方も多いのかもしれないですね。未亡人の一年はそういう意味では読みやすい方だと思います。
真紅さんのキャスティング、こちらでも是非見てみたいです!
「熊を放つ」、文字が小さかったですか・・・。単行本のって見た事ない気がしますねー。
村上春樹の訳文は良かったですよ!私は結構好きでした。
それでは、とりとめもないコメントになってしまいましたが。失礼します。
2006-11-02 23:48 : ルカ URL : 編集
ルカさま、初めまして!武田さまのお宅でお名前をお見かけしておりました。
拙ブログにお越しいただき、コメントありがとうございます。
来ていただけてすごく嬉しいです。いらっしゃいませ~♪
アーヴィング、全て読まれているのですか? 凄いな~。
私はこれが初だったのですが、確かに読みやすかったですね。
映像が先だったのでとっつきやすかったですし。
他の作品も読みたいですが全部長いので(笑)、ちょっと躊躇してしまいます。
でも『ガープ』は是非読んでみたいです。『熊を放つ』も再挑戦してみようかな?
また是非遊びにいらして下さいね、いつでもお待ちしております。
ではでは、ありがとうございました。
2006-11-03 07:48 : 真紅 URL : 編集
Pagetop
« next  ホーム  prev »

What's New?

真紅

Author:真紅
 Cor Cordium 
★劇場鑑賞した映画の感想はインスタにアップしています@ruby_red66

Archives

Search this site

Thank You!