土に生きる~『牛の鈴音』

OLD PARTNER
韓国の農村。70歳を過ぎた老夫婦と共に農作業に従事する、40歳になる
雌牛がいた。老いて骨と皮になった牛は、余命一年と宣告されるのだが・・・。
韓国で大ヒットしたドキュメンタリー。2010年の始めに、素晴らしい映画を
観ることができた。
映画は、おじいさんとおばあさんが寺院にお参りしているシーンから始まる。
足の不自由なおじいさんが、長い長い階段を上り、手にした鈴の音に耳を澄ま
す。うつろな瞳、土で汚れた指。透明な鈴音だけが鳴り響く・・・。

風に吹かれる木よりも無口なおじいさん、愚痴ばかり言う達者なおばあさん。
「楽させておくれよ」「惨めな人生だよ」 ボヤキまくりで、不平タラタラのおばあ
さんが笑える。でも、おじいさんがかまう老牛に嫉妬する姿は、とってもかわい
い。
(牛のために)農薬もまかず、機械も使わず、土にはいつくばって作業する老
夫婦の姿は、荘厳でさえある。何が起ころうと、毎日毎日土を耕し、手仕事を休
むことはないふたり。夜明けとともに目覚め、日が暮れると眠る。テレビはあって
も観ることもなく、古びたラジオが生活の友だ。ただ淡々と月日は流れ、ここには
韓国特有の「過剰」で「濃厚」な情念は存在しない。
それなのに、おじいさんとおばあさんの牛への愛情は、強く強く伝わって来る。
言葉はなくても、こき使っているように見えても。これが「背中を見せる」という生
き方なのだな、と思う。

牛が逝っても、慟哭はない。しかしおじいさんは牛の鈴を外した時、万感の思
いを込めていたのだと思う。瀕死の歩みで牛が運んだ薪が映されると、泣けて
泣けて仕方なかった。(映画館だから)たくさんの人がいて我慢したけれど、自宅
で観ていたら、声を上げて号泣したかもしれない。牛は土に還り、季節は巡り、
そこにまた花が咲き、新しい命が生まれる。業を背負い、休むこともなく病や老
いを引き受け、無言のうちに「働くことが生きること」なんだと教えてくれたおじい
さん・・・。
参った。絶対、絶対、かなわない。
( 『牛の鈴音』 監督・脚本・編集:イ・チュンニョル)
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trackback
韓国の田舎に暮らす老夫婦の日常を追ったドキュメンタリー。 79歳のチェ爺さんは、40歳という年取った牛を飼っていて、それに荷車や鋤を引かせて畑仕事をしている。長年連れ添ったイ婆さんも、年老いた体で農作業。 チェ爺さんの左足は、子どもの頃の針治療の失敗で、...
2010-01-11 22:14 :
シネマ大好き
その老いぼれ牛は、お爺さんと一緒に30年も働き続けた。
京都シネマにて鑑賞。「牛の鈴症候群」と呼ばれる社会現象を起こしたドキュメンタリーだということもまったく知りませんでした。おそらく一昔前なら、ここまでブレイクしなかったのではないかと思うのです。殺伐...
2010-01-11 23:55 :
銅版画制作の日々
2008年:韓国映画、イ・チュンニョル監督&脚本&編集、チェ・ウォンギュン、イ・サムスン出演。
2010-01-12 00:00 :
~青いそよ風が吹く街角~
韓国で異例の大ヒットとなったドキュメンタリー映画『牛の鈴音』。
韓国の田舎の自然の中、自然と対峙しながら懸命に生きる老人の姿に、“現代人が忘れていた何か”を思い出させてくれます。
無口なお爺さんと、文句ばっかり言っているおばあさん、ヨロヨロしながら...
2010-01-12 07:40 :
Viva La Vida!
韓国ではミニシアター系とかインディペンデントとかいう作品がヒットすることはほぼないといっていいのに1位になったというドキュメンタリー。自分も足の障害などでガタがきているお爺さんが、もう普通なら寿命を越えているような年寄り牛を耕作や草運びなどに使う。効率...
2010-01-14 00:00 :
しぇんて的風来坊ブログ
毎日、野良仕事を欠かさない年老いた父。
「こき使われてばっかりだ」と愚痴り続ける母。
『牛の鈴音(すずおと)』は、2人の日常を綴る...
2010-01-15 19:02 :
映画のブログ
「牛の鈴音」を見ました。
農薬も使わず、トラクターも使わず。
昔と同じように牛を使って田んぼを耕し、手作業で雑草を除去し、手作業で...
2010-02-14 17:21 :
memphis blues again
'08年、韓国監督・脚本・編集:イ・チュンニョルプロデューサー:コー・ヨンジェ撮影:チ・ジェウ音楽:ホ・フン、ミン・ソユン素晴らしい映画を見た、という満足感でいっぱいだ。ここにあるのは、最低限のものだけ。現代文明に住む私たちが、当然のように享受しているも
2010-02-15 16:21 :
レザボアCATs
原題ウォナンソリ韓国の片田舎、老い耄れの牛と一緒に暮らす老い耄れの夫婦の一年と少しを追うドキュメンタリー。監督・脚本・編集:イ・チュンニョル出演:チェ・ウォンギュン、イ・サムスン対象が動きの無いものであるためか、カット割が非常に凝っている。それだけでは...
2010-03-04 23:12 :
再出発日記
鈴音ひとつで解り合える。同じ速度で歩いてく。
老いぼれ牛と爺さんの、奇跡のような“生きる絆”
誰も彼らを引き離すことなんてできなかった。
かけがえのない、人生のパートナーだったから。
『牛の鈴音』 英題:OLD PARTNER
2008年/韓国/78min
監督・脚本
2010-04-01 11:58 :
シネマな時間に考察を。
「ウルフマン」
「牛の鈴音」
2010-09-22 16:59 :
Akira's VOICE
韓国で観客動員数累計300万人という大ヒットを飛ばし、インディペンデント映画初の興行成績第1位、歴代最高収益率を誇る感動のドキュメンタリー。農業の機械化が進む中、牛とともに働き、農薬も使用...
2010-10-29 17:28 :
サーカスな日々
☆☆☆☆★(9点/10点満点中)
2008年韓国映画 監督イ・チュンニョル
ネタバレあり
2011-03-19 21:19 :
プロフェッサー・オカピーの部屋[別館]
コメントの投稿
真紅さま
ご覧になったのね~!
私もこの作品去年の映画紹介で観て
ぜひ観てみたいと思っていました
例によって真紅さんの記事を読ませて戴いてはいないのですが
最後の
>参った。絶対、絶対、かなわない。
に真紅さんの感動が現れているのだと思います
私も絶対観たいです!
ご覧になったのね~!
私もこの作品去年の映画紹介で観て
ぜひ観てみたいと思っていました
例によって真紅さんの記事を読ませて戴いてはいないのですが
最後の
>参った。絶対、絶対、かなわない。
に真紅さんの感動が現れているのだと思います
私も絶対観たいです!
2010-01-13 17:35 :
Maria URL :
編集
Mariaさん、こんにちは~。コメントありがとうございます。
はい、これは今年の初映画で、2日に観ました。
よく行くミニシアターだったので行き易かったのと、韓国で大ヒットしたドキュメンタリー、というのに惹かれました。
そのミニシアターでは支配人さんがブログをされていて、とてもいい映画だと紹介されていたんですよ。
連日満席だそうですよ、やはりいいものは皆さんよくご存知なのですね。
DVDででも、是非ぜひご覧くださいね~。
はい、これは今年の初映画で、2日に観ました。
よく行くミニシアターだったので行き易かったのと、韓国で大ヒットしたドキュメンタリー、というのに惹かれました。
そのミニシアターでは支配人さんがブログをされていて、とてもいい映画だと紹介されていたんですよ。
連日満席だそうですよ、やはりいいものは皆さんよくご存知なのですね。
DVDででも、是非ぜひご覧くださいね~。
真紅さま
またまたお久しぶりです。私もこの映画気は入りました。なんと言っても真紅さんが年末の挨拶に使われているあの写真のシーンが素晴らしいですよね。あの一瞬の場面に自然の成り行きと人間の愛情がいっぱい詰まっているような宇宙を感じました。
またまたお久しぶりです。私もこの映画気は入りました。なんと言っても真紅さんが年末の挨拶に使われているあの写真のシーンが素晴らしいですよね。あの一瞬の場面に自然の成り行きと人間の愛情がいっぱい詰まっているような宇宙を感じました。
2010-01-23 23:59 :
Bean URL :
編集
Beanさん、こんにちは。コメントありがとうございます。
あの場面、美しかったですね。
この映画はドキュメンタリーとはいえ様々な映画的技巧が凝らされていると思うのですが、本当にシンプルで素晴らしかったと思います。
宇宙、そうですね、繋がっているのですよね。。
あの場面、美しかったですね。
この映画はドキュメンタリーとはいえ様々な映画的技巧が凝らされていると思うのですが、本当にシンプルで素晴らしかったと思います。
宇宙、そうですね、繋がっているのですよね。。
真紅さん、こんにちは!
本日やっと「牛の鈴音」をみることができました。シネマート心斎橋では今週木曜日までの上映なので、今日しかチャンスがなかったんです~。
昨日会社帰りに同じシネマートで「過速スキャンダル」を見たのですが、韓国映画をたくさん上映している映画館なのですねぇ。(真紅さんはシネマートよく行かれますか?)
>瀕死の歩みで牛が運んだ薪が映されると、泣けて泣けて仕方なかった。
私も同じでした。
なんでこんなに感動的なのか、全く説明ができないのですけど、涙があふれてきてしかたがありませんでした。
本日やっと「牛の鈴音」をみることができました。シネマート心斎橋では今週木曜日までの上映なので、今日しかチャンスがなかったんです~。
昨日会社帰りに同じシネマートで「過速スキャンダル」を見たのですが、韓国映画をたくさん上映している映画館なのですねぇ。(真紅さんはシネマートよく行かれますか?)
>瀕死の歩みで牛が運んだ薪が映されると、泣けて泣けて仕方なかった。
私も同じでした。
なんでこんなに感動的なのか、全く説明ができないのですけど、涙があふれてきてしかたがありませんでした。
Bell Bottom Bluesさん、こんにちは。コメントとTBをありがとうございます。
シネマート、私は会員になっていますよ。支配人さんのブログも読んでいます。
あそこでしか観られない映画もありますし、2番館的なミニシアターでもありますよね。
『(500)日のサマー』もリーブルより遅れて上映しますし。。
頑張ってほしい、応援している映画館です。
この映画はドキュメンタリーなんですが、編集が巧いですよね。
あの薪は反則でしょう。。泣きました。
シネマート、私は会員になっていますよ。支配人さんのブログも読んでいます。
あそこでしか観られない映画もありますし、2番館的なミニシアターでもありますよね。
『(500)日のサマー』もリーブルより遅れて上映しますし。。
頑張ってほしい、応援している映画館です。
この映画はドキュメンタリーなんですが、編集が巧いですよね。
あの薪は反則でしょう。。泣きました。
こんにちは。
この作品、真紅さんもお気に入りになられたとのこと、去年の年末の記事を読んでとっても嬉しかったです!
なんだか私、最近記事の更新が滞ってしまって・・・。
すいません。遅れましたが、TBさせていただきますね。
この作品、真紅さんもお気に入りになられたとのこと、去年の年末の記事を読んでとっても嬉しかったです!
なんだか私、最近記事の更新が滞ってしまって・・・。
すいません。遅れましたが、TBさせていただきますね。
とらねこさん、こんにちは! コメントとTBありがとうございます。
近頃お忙しいのでしょうか? いやいや、今までがコンスタント過ぎたのかもですよ?
マイペース、マイペース。。
と、この映画の牛とおじいさんも心の中で繰り返していたのかも。。
最強コンビでしたね。おばあさんもある意味、最強でしたが。。
近頃お忙しいのでしょうか? いやいや、今までがコンスタント過ぎたのかもですよ?
マイペース、マイペース。。
と、この映画の牛とおじいさんも心の中で繰り返していたのかも。。
最強コンビでしたね。おばあさんもある意味、最強でしたが。。