この親にして~『母』
母

 プロレタリア文学者として『蟹工船』を著し、30歳にして虐殺された小林多喜二
の母、セキ
。彼女の言葉を通して多喜二が生きたあの「時代」を描写する、三浦
綾子
の長編小説。

 三浦氏の小説は『氷点』くらいしか読んだ記憶がない。しかし小林多喜二の母
について書かれている本、とlatifaさんにオススメいただいて、読んでみました。
秋田弁の告白体で書かれているのだけれど、非常に読み易く、心動かされる本
でした。

 「あんなひどい殺され方をしなければなんないほど、そんなに多喜二の考えは
悪い考えだったんべか」
。母を思い、家族を思い、貧しい人を助けたい、いい世
の中が来てほしい
。ただそれだけを願って小説を書いた多喜二が、どうして殺さ
れなければならなかったのか。才能とやさしさに溢れた息子を喪った、母セキの
慟哭の念は察して余りある。しかし彼女は声高に息子の無実を叫ぶでなく、ただ
「自分にはわからない」とつぶやく。この本には、当時過激な思想とされ、弾圧
対象だった共産主義思想については何も書かれていないし、それが正しいとも、
間違っていたとも書かれていない。しかし少なくとも、多喜二が明るく高潔で、私
利私欲に走るような人物ではなかったことだけは、痛いほど伝わってくる。彼は
生涯を「小さき者」に捧げたのだと。

 「信仰は一人一人別々であっていいんですよ。その一人一人の信仰をお互い
に大事にすることが大切なんですよ」


 多喜二の義兄、藤吉のこの言葉は、よりよい社会を作るための真理が語られて
いると思う。「信仰」は、様々な言葉に言い換えることができるだろう。信条、思想、
考え方。みんなちがって、みんないい。しかしこの当たり前のことが許されなかっ
た時代
があったことを、命を賭して他者のために生きようとした若者がいたことを、
私たちは決して忘れるべきではないだろう。

 (『母』三浦綾子・著/角川文庫・1996)
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[2009/07/29 09:04] | 読書 | トラックバック(0) | コメント(4) |
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コメント
真紅さん~こんにちは!
この本は、まさかこんな内容だとは全然知らずに手に取って、思わず涙がじわじわ来て、まずいっ!!(なんと読んでいたのは会議中)と焦った本です(^^ゞ
多喜二さん、あの世から下を見下ろして「今更になって、僕の本が話題になってるなんて」って思っているかな・・・。
絵画とかだと、死んだ後に絵の値段が高騰したりするけれど、作家さんは、そういうのが無いね・・・
[2009/07/29 17:26] URL | latifa #SFo5/nok [ 編集 ]
latifaさん、こんにちは。コメントありがとう~。
それから、この本のご紹介もありがとうございました。
全く知らない本だったので、読んでみてよかったです。
母としては、涙なしには読めない本ですね。。
私も、多喜二は今の日本を見てどう思ってるかな~、と思いました。
著作権は50年で切れるんだっけ? でも、読み継がれることが作家さんにとっては一番うれしいことでしょうね。
天国で、幸せに暮らしてて欲しいな~。
[2009/07/29 19:35] URL | 真紅 #V5.g6cOI [ 編集 ]
こんばんは。♪
ごぶさたしております。(ぺこり)
二人綾子さん(三浦さんと曾野さん)の
著作はほとんど入れ込んで読ませていただきました。
おまけにとても影響も受けて、現在の私を
為しているかも知れません。^^
三浦さんは亡父と一時期同じ某病院で入院されてましてね、
夫の光世さんと病室の廊下をいつも並んで
歩いていらっしゃいまして、ある時、父を見舞った帰りに
バッタリ廊下で鉢合わせしたことがあります。
印象的だったのはどなたか知り合いの方にでも
私の顔が似ていたのでしょうか、三浦さんが
ジーッと私から目線をはずさずそして目礼されたことを鮮やかに覚えています。
初期の「塩狩峠」、映画化には絶好のテーマと
描写ではないかと私は思いますがね。
三浦さんのすばらしい言葉を集めた
「言葉の花束」も大好きです。
ご興味がありましたら、オススメしたいです。
真紅さん、素敵な記事、いつも感謝です。
[2009/08/06 19:51] URL | vivajiji #kzLu3bv6 [ 編集 ]
viva jijiさん、こんにちは~。コメントありがとうございます♪
コメントいただくのはお久しぶりですね~。
二人綾子さん・・、そういえばお二人ともキリスト教徒でいらっしゃいますね。
姐さんは宗教とは無縁な印象を受けるのですが、二人綾子さんに影響を受けたとは・・。
少し意外な感じがします。
ウチの母が曾野さんが好きで、私も影響を受けて何冊か読みました。
『太郎物語』とか、『神の汚れた手』とか。。
発言的には過激(?)な方ですよね。
そう言えば旦那さんは三浦朱門さん、、つながりを感じますね。

三浦綾子さんは旭川のイメージがあるのですが、札幌にいらしたのですね。
お父様と同じ病院にいらしたとは。。奇遇ですね。
私ならミーハー根性丸出しで「愛読者です!」とか騒いでそうです(笑)。
旦那さん(光世さん)の献身も有名ですよね、口述筆記されていたとか。。
↑この本も、光世さんにすすめられて書いた、とあとがきで述べておられました。
『塩狩峠』は有名ですね、しかし私は未読だと思います。
『言葉の花束』ですか、是非探してみますね。

いえいえ、素敵、などとお褒めいただきありがとうございます。
夏は忙しいのですが、なんとかマイペースに記事アップできたらな、と思っています。
姐さんもご自愛下さいね!
[2009/08/06 23:36] URL | 真紅 #V5.g6cOI [ 編集 ]
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