波間の彼方に~『幻の光』
幻の光

 生後三ヶ月の幼い息子と自分を遺し、自殺した夫。生まれ育った尼崎から、
能登
の海辺の町に後妻として嫁いだゆみ子(江角マキコ)は、永遠に答えの出な
い思いに囚われる。 「あの人は、何故死んでしまったのだろう・・・?」

 宮本輝の原作小説を映像化した、是枝裕和監督の長編デビュー作第52回
ヴェネツィア国際映画祭
において金のオゼッラ賞を受賞、1995年キネマ旬報ベ
ストテン第4位
と、国内外で評価の高かった作品。浅野忠信が出演していること
もあり、長い間、ずっと「観たい」と思い続けた映画だった。予想以上の映像美
心をざわつかせる印象的な音楽素晴らしい作品です。長編第一作にしてこの
完成度とは、、是枝監督、凄いです。

 原作は、主人公ゆみ子の告白体の一人称小説。映画を観てから改めて原作
を読み返してみると、映画が原作を最大限に尊重していると感じた。阪神尼崎
の踏切、奥能登の海鳴り。若い夫婦のつましいアパート暮らし、海辺の古い家。
深緑がかった陰影の濃い映像、固定カメラ、数少ないセリフ。ラスト近くにゆみ子
が感情を爆発させるまで、彼女の心の揺れや残してきた想い、どうしようもない
悔いが、静かに、ゆっくりと浮かび上がる。

 原作がそうであるように、この映画は何らかの「解」を提示するために撮られ
たのではないと思う。人は何故死に、生きるのか。生きることと、「暮らす」こと
とは違うのか。人はどうして誰かを「想う」のか。その想いが、断ち切れないの
は何故なのか・・・。
どこにも、答えなんかない。ただ、波の彼方に幻の光が見
えるだけ。永遠に。

幻の光2

 本作で、一躍人気女優となった江角マキコ。明るいイメージでモデル出身の
彼女はこの静謐な物語にはミスキャストのようにも思えるけれど、虚空を見つ
める表情が思いのほか、いい。期待の浅野忠信は、表情のアップもなく一度も
振り返ることもなく、ただ去って行くミステリアスな存在。しかし、声だけはいつ
もの浅野くん。彼の離婚のニュースはショックだった。。あんなにCharaのこと大好きだった
浅野くんなのに(涙)。。


 映画に引き込まれるうちに、奇妙な既視感に捉われた。「この映画は・・・、
侯孝賢ホウ・シャオシェンの映画じゃないのか?」 線路と電車、光差す緑の
風景。印象的な音楽は、『恋恋風塵』と同じ陳明章チェン・ミンジャンによるも
の。是枝監督って、ホウ・シャオシェンが好きなんですね。

 人間にとって「死」とは、抗い難い誘惑になり得るのかもしれない。それで
も、冬が過ぎ春が来て「いい日和」になると、全ては解き放たれてゆく。季節
は巡り、人は生き、幼子は成長する。変わらない風景の中に、いつしか
甦る。

幻の光3

 (『幻の光』 監督:是枝裕和/原作:宮本輝/1995・日本/
          主演:江角マキコ、内藤剛志、浅野忠信、柄本明
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[2009/07/28 09:25] | DVD/WOWOW | トラックバック(2) | コメント(4) |
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コメント
こんばんは。
わたしも最近この映画を見ました。
深夜テレビでかかったのですが、余韻をブチ切りにしてしまったエンドロール丸ごとカットが悲しかったです。
でも作品は良かった…(しみじみ)。
真紅さんの仰る通り、理詰めの映画じゃないんですよね。
「幻の光」に誘われて前夫は逝ってしまったのか。答えを探すことをやめたからラストでゆみ子はいい日和の中で微笑んでいられるようになったのかもしれないですね。
ホウ・シャオシェンはほとんど作品を観たことがないのですが、この作風に通じるものがあるんですね。食わず嫌いしていないでチェックしなくては、です。
[2009/07/29 22:00] URL | リュカ #- [ 編集 ]
リュカさん、こんにちは~。コメントありがとう~♪
最近映画観に梅田に行けないので、リュカさんちにお邪魔できないわ~、悲しい~。。
で、この映画だけど、私も深夜TVで録画したのを観たんですよ!
最近家では録画した邦画を観てるんです(HDDを整理するために)。
記事にしてないのがいっぱいあるんだけど、どうしよう? もういっか?(笑)
そうそう、いっつもエンドロール、カットされるよね~。
ホント、しみじみいい作品で、観ることができてよかったと心底思いました。
ホウ・シャオシェンは私も片手くらいしか観てないんですが、いいですよ。
是枝監督は、彼の映画を参考に映画撮ったんだな~って思いました。
是非是非、ご覧になってみて下さい♪
[2009/07/29 22:35] URL | 真紅 #V5.g6cOI [ 編集 ]
真紅さん~こんにちは!
この映画のレビュー、無いかなぁ~って探そうとしたところ、真紅さんちで発見!!!

そうっか~、この監督さん、ホウシャオシェン監督のファンなんだね。なんか解る気がする。
映像は凄く印象に残るし、芸術的だな~と思ったんだけれど、内容は、浅野君が・・って処が衝撃的で、ありゃ~ショックだわ・・・立ち直れないわ・・・ってじわじわ来た・・・。
でも、ちょっと長いかな・・・・って思っちゃう処があって(イカン、、) 3つ☆にしちゃった(^^ゞ
[2009/11/16 08:46] URL | latifa #SFo5/nok [ 編集 ]
latifaさん、こんにちは~。コメントとTBありがとう~。
これね、ずっと観たかったんですよ。。
で、私はとっても好きだったんだけど、是枝監督の中では「雇われ仕事」という感覚みたい。
監督はホウ・シャオシェンのこと、「父」っていうくらい尊敬されているみたいね~。
浅野君、謎めいた役どころでしたね。。でもピッタリだったな~。
☆3つですか、私は4つくらいかな?
後ほど伺いますね~。
[2009/11/16 18:11] URL | 真紅 #V5.g6cOI [ 編集 ]
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「幻の光」 感想
是枝裕和監督の初監督作品ということで見てみました。 なんというか・・・映像とかに凄くこだわって撮影されたんだな・・・というのは解った...
[2009/11/16 08:43] ポコアポコヤ 映画倉庫
幻の光(1995)
宮本輝原作、是枝裕和監督、江角マキコ、内藤剛志、浅野忠信、柏山剛毅、渡辺奈臣、木内みどり、柄本明、桜むつ子、赤井英和、市田ひろみ、寺田農、大杉漣。是枝裕和監督の長編デ ...
[2011/07/30 19:22] 佐藤秀の徒然幻視録
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いつまでも青臭い映画好きでいたい。愛おしい映画と、忘れがたき本たち。ときどきカフェとか。 記事は基本的にネタバレあり。 どうぞご贔屓に♪

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