犠牲~『スリング・ブレイド』
母親とその不倫相手を殺害したために、施設に収容されていた知的障害者カール
(ビリー・ボブ・ソーントン)。退院し、25年ぶりに故郷へ戻ったカールだったが、
父親に見放されて行き場がない。そんな彼が、母親と二人で暮らす少年フランク(
ルーカス・ブラック)と出会い、心を開いてゆく。しかし、フランクの母親の恋人
であるドイル(ドワイト・ヨーカム)がフランクと母親を傷つけるのを目にしたカ
ールは、ある決心をする・・・。

この作品を観よう、いや観ねばと思ったきっかけは、先日紹介した『スクリーン
の向こう側』の中で、戸田奈津子氏が「大好きな作品」として解説・紹介されてい
たこと。すごく惹かれてしまった。ビリー・ボブ・ソーントンといえば、『チョコ
レート』やアンジーの元夫、というイメージくらいで、特に興味は持っていなかっ
た、しかし・・・。自作自演の出世作があるとは知っていたが、このことだったの
か。ヤラれた。地味で静謐ながら、心に突き刺さるような物語だ。
最初に書いたあらすじ、これが全てで、後は「こうなるのかな・・?」と思って
いた通りにストーリーは流れてゆく。序盤、薄暗い部屋でカールが語る自らの"history"、
この場面の緊迫感は凄い。ここで一気にこの物語とカールに引き込まれてしまう。
舞台はビリー・ボブ・ソーントンの出身地でもあるディープサウス、アーカンソー州
の小さな町。この辺りは「バイブルベルト」とも呼ばれる地域で、信心深い人が多
い半面、マイノリティに対する偏見や差別主義者も多いらしい。当然、作品の中にも
「聖書(神)」の占める意味合いはとても大きい。
カールは何度か「聖書を読んだ。わかったところもあるし、わからないところも
ある」と言う。これは「正しいところもあるし、正しくないところもある」という
意味なのだろう。作品の中にはいわゆる「罪人(つみびと)」、神に許されず地獄
に落ちると言われている人々がいる。殺人者(カール)、同性愛者、自殺した者。
しかし彼らはそうでない人々より、本当に許されない者たちなのか?この作品はそう
問いかけているかのようだ。そもそも宗教とは、罪人のためにあるべきものじゃな
いのか?
フランクと母親のために、カールは彼らを自分の弟と母親に重ねていたのだろう、
彼らの為に「スリング・ブレイド」を手にするカール。周囲は(殺されようとして
いるドイルですら)そのことにうっすら気付きながら、誰も彼を止めようとはしない。
「犠牲」という言葉が胸に浮かぶ。フランクの母(『遠い空の向こうに』でジェイクの
母親役を演じたナタリー・キャナディ)に「ビスケットを焼いてくれ」と言うカール。
全てが終った後、カラシを付けてビスケットを食べるカール。もう、涙が止まらない。
ほとんど無名だったビリー・ボブ・ソーントンは、この作品でアカデミー主演男優
賞、脚色賞にノミネートされ、後者は受賞している。重いテーマだけに語るのが難
しい作品ではあるが、多くの人にその存在を知って欲しいと思う作品だ。

--------------------------------------
このDVD(レンタル)には特典映像としてビリー・ボブ・ソーントンのドキュメン
タリーが含まれている。それ自体はたいした内容ではなく、様々な俳優、監督仲間
らがビリー・ボブ・ソーントンをたたえる、というお決まりのパターンなのだが、
あるおじさんのクレジットに「スティーブン・ギレンハール」と出てビックリ!
ジェイクの、お父様じゃないの!「ギレンホール」でも「ジレンホール」でもなく
「ギレンハール」でした。お、お義父さま・・←違うって
カールと心を通わせる少年フランクを演じたルーカス・ブラック。『スタンド・
バイ・ミー』のリヴァー・フェニックスも顔負けの眉間の皺を持つこの少年、どこ
かで見覚えが・・、と思っていたら!まぁ、『ジャーヘッド』でCAをナンパしてい
たジェイクの同僚の彼だったとは・・。大きくなったねぇ、と感慨無量。意外な
ジェイクつながりでした。あとジム・ジャームッシュがカメオ出演していて「貴重
なものが観れた」感もあり。
--------------------------------------
田舎町の寒々とした風景、木々の緑、画面のトーンなど、どこかBBMを思い出
させる。差別と偏見、根底に横たわる宗教など、静かで地味ながら観る者に衝撃と
重いメッセージを残すところも、BBMに通じると感じた作品だった。
(『スリング・ブレイド』監督:主演:脚色:ビリー・ボブ・ソーントン/1996・USA)
(ビリー・ボブ・ソーントン)。退院し、25年ぶりに故郷へ戻ったカールだったが、
父親に見放されて行き場がない。そんな彼が、母親と二人で暮らす少年フランク(
ルーカス・ブラック)と出会い、心を開いてゆく。しかし、フランクの母親の恋人
であるドイル(ドワイト・ヨーカム)がフランクと母親を傷つけるのを目にしたカ
ールは、ある決心をする・・・。

この作品を観よう、いや観ねばと思ったきっかけは、先日紹介した『スクリーン
の向こう側』の中で、戸田奈津子氏が「大好きな作品」として解説・紹介されてい
たこと。すごく惹かれてしまった。ビリー・ボブ・ソーントンといえば、『チョコ
レート』やアンジーの元夫、というイメージくらいで、特に興味は持っていなかっ
た、しかし・・・。自作自演の出世作があるとは知っていたが、このことだったの
か。ヤラれた。地味で静謐ながら、心に突き刺さるような物語だ。
最初に書いたあらすじ、これが全てで、後は「こうなるのかな・・?」と思って
いた通りにストーリーは流れてゆく。序盤、薄暗い部屋でカールが語る自らの"history"、
この場面の緊迫感は凄い。ここで一気にこの物語とカールに引き込まれてしまう。
舞台はビリー・ボブ・ソーントンの出身地でもあるディープサウス、アーカンソー州
の小さな町。この辺りは「バイブルベルト」とも呼ばれる地域で、信心深い人が多
い半面、マイノリティに対する偏見や差別主義者も多いらしい。当然、作品の中にも
「聖書(神)」の占める意味合いはとても大きい。
カールは何度か「聖書を読んだ。わかったところもあるし、わからないところも
ある」と言う。これは「正しいところもあるし、正しくないところもある」という
意味なのだろう。作品の中にはいわゆる「罪人(つみびと)」、神に許されず地獄
に落ちると言われている人々がいる。殺人者(カール)、同性愛者、自殺した者。
しかし彼らはそうでない人々より、本当に許されない者たちなのか?この作品はそう
問いかけているかのようだ。そもそも宗教とは、罪人のためにあるべきものじゃな
いのか?
フランクと母親のために、カールは彼らを自分の弟と母親に重ねていたのだろう、
彼らの為に「スリング・ブレイド」を手にするカール。周囲は(殺されようとして
いるドイルですら)そのことにうっすら気付きながら、誰も彼を止めようとはしない。
「犠牲」という言葉が胸に浮かぶ。フランクの母(『遠い空の向こうに』でジェイクの
母親役を演じたナタリー・キャナディ)に「ビスケットを焼いてくれ」と言うカール。
全てが終った後、カラシを付けてビスケットを食べるカール。もう、涙が止まらない。
ほとんど無名だったビリー・ボブ・ソーントンは、この作品でアカデミー主演男優
賞、脚色賞にノミネートされ、後者は受賞している。重いテーマだけに語るのが難
しい作品ではあるが、多くの人にその存在を知って欲しいと思う作品だ。

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このDVD(レンタル)には特典映像としてビリー・ボブ・ソーントンのドキュメン
タリーが含まれている。それ自体はたいした内容ではなく、様々な俳優、監督仲間
らがビリー・ボブ・ソーントンをたたえる、というお決まりのパターンなのだが、
あるおじさんのクレジットに「スティーブン・ギレンハール」と出てビックリ!
ジェイクの、お父様じゃないの!「ギレンホール」でも「ジレンホール」でもなく
「ギレンハール」でした。お、お義父さま・・←違うって
カールと心を通わせる少年フランクを演じたルーカス・ブラック。『スタンド・
バイ・ミー』のリヴァー・フェニックスも顔負けの眉間の皺を持つこの少年、どこ
かで見覚えが・・、と思っていたら!まぁ、『ジャーヘッド』でCAをナンパしてい
たジェイクの同僚の彼だったとは・・。大きくなったねぇ、と感慨無量。意外な
ジェイクつながりでした。あとジム・ジャームッシュがカメオ出演していて「貴重
なものが観れた」感もあり。
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田舎町の寒々とした風景、木々の緑、画面のトーンなど、どこかBBMを思い出
させる。差別と偏見、根底に横たわる宗教など、静かで地味ながら観る者に衝撃と
重いメッセージを残すところも、BBMに通じると感じた作品だった。
(『スリング・ブレイド』監督:主演:脚色:ビリー・ボブ・ソーントン/1996・USA)
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いつもどおりのネタバレですが「アラバマ物語」のネタバレもしていますのでご了承ください。 テレビでちらりと見てひどく気になっていた映画なのだがタイトルも出演者も知らず長い間そのままになっていた。やっと最近になってそれがマット・デイモン出演の「すべての美し
2006-10-30 00:00 :
藍空放浪記
監督のビリー・ボブ・ソーントンは俳優としてかなり有名だと思うが、この初監督映画の「スリング・ブレイド」は、監督・脚本・主演など三役をこなしている。
俳優として有名な人は、監督ではうまくいかないのがこの世界の常識とまではいかないまでも、失敗(駄作)に終わ...
2008-07-24 12:37 :
Patsaks
コメントの投稿
真紅さん、こんにちは。
『スリングブレイド』・・・。公開時に観て、ものすごく落ち込みました。で、落ち込んだということだけ鮮明に覚えていました。真紅さんの記事を拝読してああ、こんな話だったなあと思い出しました。
‘そもそも宗教とは、罪人のためにあるべきものじゃないのか?’
全く同感です。全ての人を等しく愛し、許す、そういうものであるべきなんじゃないの?といつも思います。罪を犯すものが人間という存在なんじゃないのかなあ、なんて。宗教には全然詳しくないのでこんなことを言う資格はないのかもしれませんが・・・。
うーむ、似合わないけど真面目に考え込んでしまいそうです~。それではこの辺で。
『スリングブレイド』・・・。公開時に観て、ものすごく落ち込みました。で、落ち込んだということだけ鮮明に覚えていました。真紅さんの記事を拝読してああ、こんな話だったなあと思い出しました。
‘そもそも宗教とは、罪人のためにあるべきものじゃないのか?’
全く同感です。全ての人を等しく愛し、許す、そういうものであるべきなんじゃないの?といつも思います。罪を犯すものが人間という存在なんじゃないのかなあ、なんて。宗教には全然詳しくないのでこんなことを言う資格はないのかもしれませんが・・・。
うーむ、似合わないけど真面目に考え込んでしまいそうです~。それではこの辺で。
かいろさん、こんにちは。コメントありがとうございます。
この作品、公開当時観られたのですね!さっすが~、かいろさんですわ。
落ち込む気持ち、わかります。かなり重い、後を引く作品ですね。
それでも観てよかったと思います。ビリー・ボブ、ちょっとエロなおじさんかと思っておりましたがとんでもない!スゴイ才人ではないですか。。
宗教に関しては私も全くの門外漢で、だからこの映画に限らず、洋画は完全には理解できてないと感じることが多いです。
10年前の作品ですし、コメントはつかないかなと思っておりましたが、お話できてよかったです。
かいろさんに感謝です、ありがとうございました。またお話しましょう!
この作品、公開当時観られたのですね!さっすが~、かいろさんですわ。
落ち込む気持ち、わかります。かなり重い、後を引く作品ですね。
それでも観てよかったと思います。ビリー・ボブ、ちょっとエロなおじさんかと思っておりましたがとんでもない!スゴイ才人ではないですか。。
宗教に関しては私も全くの門外漢で、だからこの映画に限らず、洋画は完全には理解できてないと感じることが多いです。
10年前の作品ですし、コメントはつかないかなと思っておりましたが、お話できてよかったです。
かいろさんに感謝です、ありがとうございました。またお話しましょう!
重く切ないけれど、人の愚かさや優しさや愛情や・・そんなものを感じることができる作品だと思いました。
ビリー・ボブ・ソーントンのカメレオン俳優ぶりに圧倒されました!
ビリー・ボブ・ソーントンのカメレオン俳優ぶりに圧倒されました!
Dさま、こんにちは。コメントありがとうございます。
いい作品ですよね、これ。『隠れた名作』という感じでしょうか。
ビリー・ボブ見直しました・・、凄い役者さんなんですね。『シンプル・プラン』未見なので狙ってます(笑)。
また覗いてみて下さい、ありがとうございました。
いい作品ですよね、これ。『隠れた名作』という感じでしょうか。
ビリー・ボブ見直しました・・、凄い役者さんなんですね。『シンプル・プラン』未見なので狙ってます(笑)。
また覗いてみて下さい、ありがとうございました。