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映画が大好きです。いつまでも青臭い映画好きでいたい。 記事は基本的にネタバレありです by 真紅 (言葉を探す人)   ★劇場鑑賞した映画は Instagram にアップしています @ruby_red66 ★Stay Blue

抱きしめたくなる小さな本~『優しい子よ』

     20060831155203.jpg

 大崎善生の作品との出会いは『聖の青春』でした。幼い頃から患う腎臓病と戦い
ながら名人を目指し、志半ばで逝った故・村山聖九段の評伝であり、大崎善生の
ノンフィクションデビュー作です。ドキュメンタリーやTVドラマとして放映もさ
れた話題作でしたから、ご存知の方も多いと思います。主人公の、壮絶でいてどこ
かユーモラスな生き様に胸を打たれたし、それ以上に作者の温かい視線が印象的な
作品でした。
 その後講談社ノンフィクション賞を受賞した『将棋の子』を経て、小説家デビュー
作であり吉川英治文学新人賞を受賞した佳作『パイロットフィッシュ』を読む頃に
は、大崎善生は私にとって「新作が出ればとりあえず読んでみる作家」となりました。

 作品は全て読んでいるけれども、もちろん、良作ばかりというわけではありません。
ノンフィクションは全て素晴らしいと思うのですが、小説となると首を傾げたくなる
ような作品もあるし、正直「もうこの人の小説はいいわ」と思ったこともあります。
それでも彼の新作が出るとまた手にとって読み始めてしまうのは、『パイロットフィ
ッシュ
』を読んだ時の、何ともいえない切なさのような愛おしさのような気持ちが
忘れられないからなのかもしれません

優しい子よ』は、ノンフィクションと小説の間に位置するような私小説です。しか
し読者のほとんどは、ノンフィクションとしてこの小説を捉えるでしょう。主人公で
ある大崎善生やその妻(元女流棋士の高橋和さん)は実名で登場するし、あとがきに
書かれた年表の出来事そのものが、4つの物語として描かれているのですから。
 そしてこの作品を読んだ後、おふたりの結婚のニュースを聞いたときにうっすらと
感じていたように、『パイロットフィッシュ』もある意味私小説だったのだ、と理解
しました。19歳という二人の年齢差、二匹の犬の名前、小さな出版社の編集者であり、
退社を決意する主人公「山崎」。当時から恋人であった(のでしょう)奥様に向けた
小説だったのだと思います。プロポーズでもあったのかな?

 出会いと永遠の別れ、死と生(または誕生)をめぐる4つの物語。特に表題作であ
る『優しい子よ』は全編号泣警報発令ものであり、『誕生』そして『あとがき』にも、
作者の優しさが溢れています。大崎善生は息子に対し「優しい子になってくれ」と呼
びかけていますが、この二人の子どもであるなら、優しい子、優しい人にならない
わけがない、と心から思うのでした。

 これは優しい人が書いた優しい小説であり、理不尽な別れに心を引き裂かれた、
残された者たちのためのレクイエムでもあります。抱きしめたくなる、小さな本

(『優しい子よ大崎善生・著/講談社・2006)

追記:大崎善生の小説『アジアンタムブルー』が映画化され、今冬公開される模様
   です。こちらはかなり悲しい小説です。
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テーマ : 文学・小説
ジャンル : 小説・文学

2006-08-31 : 読書 : コメント : 8 : トラックバック : 0
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メッセージありがとうございました。
どうか1人でも多くの方の心の中で茂樹が生き続けてくれることを願っています。
2006-09-01 23:36 : やまと@本物 URL : 編集
やまとさま、初めまして。拙ブログに訪問していただき、コメントありがとうございます。
茂樹くんのこと、勿論憶えておきます。それからやまとさまの足が痛まないよう、私も祈っていますね。
ご自愛下さいませ。ありがとうございました。
2006-09-02 00:05 : 真紅 URL : 編集
こちらにも。パイロット&アジアンタム~
は読んだことがあるんですよ。
本のパッケージも素敵でしたし、
文体が好みだったので、結構気に入って
おります。映画化は不安も感じますが楽しみです。
表題の作は未読ですが、とっても惹かれます。
今度探して見たいです。
2006-09-14 15:18 : みみこ URL : 編集
みみこさま、こちらにもコメントありがとうございます。
大崎さんはやさしいお人柄が文体ににじみ出ていて、私も大好きです。作品よりも、ご本人のほうが好きかも(笑)。
ノンフィクションのほうが巧い(と私は思う)方なので、『優しい子よ』はとってもよかったです。
機会がありましたら是非読んでみて下さい、またお話できたらうれしいです。
ではでは、ありがとうございました。
2006-09-14 16:23 : 真紅 URL : 編集
お邪魔します。読みました。
ご紹介してくださってありがとうございます。
今まで作者のプライベートな部分を知らなかった
ので、今回のこの本でより身近に感じることができるようになりました。他の小説を読むとまた違った思いがわいてくる気がします。
私の感想はたいしたことないのですが
TBさせてくださいね。
2006-11-08 11:44 : みみこ URL : 編集
みみこさま、こんにちは。コメントありがとうございます。
読まれたのですね~、いかがでした? 気に入っていただけたらうれしいのですが。。
こうして自分の好きなものについて書き、それを気に留めて手にとって下さる方がいる、って本当にうれしいですね。
う~ん感動です(涙)
みみこさまのお宅にも伺いますね。ありがとうございました。
2006-11-08 13:59 : 真紅 URL : 編集
真紅さん~こんにちは!
聖の青春、将棋の子、両方ともレビューが無かったので、こちらにおじゃましました。
以前、真紅さんが、将棋の子も面白いですよ~っておっしゃっていた通り、すんばらし~作品でした。今年の小説NO1になってしまいそうな勢いでした。
真紅さんは、大崎さんの本凄く色々読んでいらっしゃるんですね~(インデックスを見て気がついた)
私も2冊を読んで、すっかりこの大崎さんのお人柄が優しい人だな~!!と好きになってしまい、次はどの小説を読んだらいいだろう?と考えていた処だったんです。
この「優しい子」は、ご自身の事を書かれているっぽいのかな? ご本人について、もっと知りたいと思っていた処なので、次は、これにしようかな?^^
2009-04-20 13:21 : latifa URL : 編集
latifaさま、こんにちは~。コメントありがとうございます!
わーい、大崎さんのノンフィクション読まれたのですね♪
よかったでしょう? 両作とも評価されているし、ファンも多い作品だと思います。
早くも今年のベストだなんて・・・。気に入っていただけてうれしいです。
そうなんです、私は大崎さんの本は出版されたら取りあえず読むんですよ(笑)。
彼の文章よりも、お人柄が好きかもしれない・・・。
本当に、優しい方ですよね。
小説は、正直『パイロットフィッシュ』しかオススメできないなぁ(爆)。
『優しい子よ』はね、フィクション/ノンフィクションの中間といった感じです。
よければ読んでみて下さいね!
ではでは、後ほど感想を読みに伺います~。
2009-04-21 11:21 : 真紅 URL : 編集
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