きっつい、きっつい、芸の肥やし~『必死のパッチ』

「いやぁ、まだこんなアホな子がおったんやねぇ・・・大変よかったですぅ」
落語家・桂雀々の自叙伝。11歳で母親が家出し、父親も蒸発。ライフラインの
止められた家で、借金取りに怯えながら、たった一人で生き抜いた中学時代。
2002年、29年ぶりの母との再会をプロローグに、落語と出逢い、桂枝雀に入門
するまでを描く。帯には「はっきり言ってホームレスの方が楽でした」と麒麟・田村
裕がコメントを寄せている。
『ホームレス中学生』では、家族が「解散」した田村裕が「亡くなったお母さんの
ところへ行きたい」と、「生」よりも「死」に惹かれた部分が印象的だったし、無理も
ないことだと涙した。しかし、本書の松本貢一少年は違う。あくまで「生きること」
しか考えず、ギリギリの状況でも「必死のパッチ」で頑張る。凄いよ。
ちなみに「必死のパッチ」とは昨年、阪神・矢野選手がお立ち台で使ってすっか
り全国区(?)になった言葉。関西における「一生懸命」の最上級語であると、本書
では説明されている。
親に捨てられ、先輩に罵られ、打ちのめされた貢一少年が「落語」と出逢い、水
を得た魚のように活き活きと落語に魅せられてゆく姿。天職と言えば簡単だけれど、
自分の試練を「落語の神様が、ボクを落語に出会わせるために仕組んだ」と彼は
言う。その爽やかなまでの強さ、ひたむきな前向きさに涙し、心打たれない人が
いるだろうか。
願わくば、枝雀師匠と過ごした内弟子時代の話も読んでみたかった。それって
『ホームレス中学生』+『赤めだか』で、最強の自叙伝間違いなしだったのに!
続編で是非、お願いしたいです。
(『死のパッチ』桂雀々・著/幻冬舎・2008)
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