昔、高校生だったすべての人へ~『リンダ リンダ リンダ』
 奈良で起こった自宅放火事件の犯人の少年に対し、「論語ではなくブルーハーツ
を届けたい
」という投書が少し前の新聞に載っていて、とても心に残った。ブルー
ハーツって、今でも多くの人の心の支えなんだろうなぁ・・と思う。私自身は彼ら
にさほど思い入れはないけれども、それでも何曲かは唄える。『TRAIN-TRAIN』が
一番好きかな。いわゆる「ブルーハーツ世代」でなくとも、この映画にシンパシー
を感じる人は多いのではないだろうか。高校時代、学園祭、手紙(メモ)での呼び
出し、誰もいない廊下、靴箱、自転車置き場。あの頃の空気が丸ごとそこにあって、
全く嘘臭くない。ただの「ゆるい青春映画」とだけ評するにはあまりにももったい
なく感じてしまう、心に残る作品だ。

 学園祭を明日に控えた芝崎高校。ささいな出来事から軽音楽部の女子が仲違いし
てしまい、学祭での演奏をやる/やらないという瀬戸際に追い込まれてしまう。
ドラムの響子前田亜季)、ベースの関根史織)、本来はキーボードなのにな
りゆきでギター担当の香椎由宇)らは、韓国人留学生のソンペ・ドゥナ)を
ヴォーカルに引き込んで・・という、学祭のステージまでの三日間の彼女達を描く。

 カセット(!)に入っていたブルーハーツに盛り上がるところ、ソンがヘッドフ
ォンをつけたまま泣くところ、ラストの観客の熱狂など、これはやっぱりブルーハ
ーツじゃなきゃ成り立たないな、と随所で思わせる。ソンが漫画で日本語を覚えて
いるところ、やけに存在感のあるダブリの先輩が制服のスカートの下にジャージ
なんていうのもすごくリアルだ。

 バンドメンバー4人、それぞれいい味出しているのだけれど、やはり魅力的なのは
ソンを演じたペ・ドゥナと、一番怖くて一番優しい(つまり中森明菜キャラ?)恵
だ。ペ・ドゥナは『仔猫をお願い』が最高だったが、この作品でもちょっと外した
やや不思議ちゃんキャラの少女をまさしく等身大で素直に表現していると思う。誰も
いない体育館のステージでメンバー紹介をする彼女からは、孤独だった留学生活の
中でやっと仲間を得た喜びが溢れている。恵を演じた香椎由宇は、その存在感と美
しさ
(ほぼスッピンで演じていると思う)で圧倒的。前田亜季も高校生らしいかわ
いらしさを、えなりかずき似の関根史織も、口数は少ないがここぞという時のまとめ
役を自然体で演じていて、4人それぞれの制服の着こなし着崩し)方のように、そ
れぞれの個性が自然に際立っている

 一番印象に残る場面は、洗面所の鏡のシーン。恵とソンが鏡に向かいながら、そ
れぞれお互いに感謝の言葉を口にする。韓国語と日本語、通じないはずなのにお互
いがお互いの気持ちを理解していて、心が通じ合っているのだ。ソンがある男子に
呼び出され、韓国語で告白される場面で、言葉は通じているはずなのに気持ちが通
じない様と対になっているシーンでもあり、ふたりの表情が素晴らしい。改まって
向かい合うよりも、同じ方向を見て話そうよ、という日韓に対する監督のメッセージ
なのかもしれない。

 ブルーハーツのヴォーカル、甲本ヒロトの実弟である甲本雅裕が軽音楽部の顧問
として顔を出し、いい味出しているのもニヤリとさせる。「あっという間に終る本番
より、こういう時間のほうが後で残るんだよね
」という望のセリフ。高校時代がバラ
色だった人、受験に失敗して失意の日々だった人、なんとなくダラダラ過ごしてしま
った人、全ての人がどこか共感することができて、あの時間、あの場所へと少しだけ
還ることができる作品だと思う。もちろん、あの少年にとっても。

(『リンダ リンダ リンダ』監督・山下敦弘/
         主演・ペ・ドゥナ、前田亜季、香椎由宇、関根史織/2005)
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テーマ:心に残る映画 - ジャンル:映画

[2006/08/20 01:03] | DVD/WOWOW | トラックバック(4) | コメント(8) |
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コメント
tbありがとう。
関根詩織さん、わりと可愛かったなあ。えなりかずきはないでしょ(笑)
[2006/08/20 03:14] URL | kimion20002000 #y32QDcNk [ 編集 ]
kimion20002000様、こんにちは。こちらでは初めましてです。お越しいただきコメント&TBありがとうございます。
ベースの彼女、えなりかずきに似てませんか?私の眼がおかしいのかなぁ(笑)
『グエムル』は、・・・・、なのですか。すっごく期待していたのですが~、、、。
気が向いたら観てみます。
また遊びにいらして下さい。ありがとうございました。
[2006/08/20 11:28] URL | 真紅 #V5.g6cOI [ 編集 ]
真紅さん、こんにちは。
この映画わたしも大好きです~。女の子の物語って何があるかなあと最近考えていたのですが、これがありましたね!真紅さん、ありがとうございます。
わたしはずばりバンドブーム世代(?)です。ブルーハーツはそんなに好きじゃなかったけど。わたしはユニコーンというバンドが好きだったのですが、劇中で‘ダブリの先輩’が弾き語りで演奏する『素晴らしい日々』という曲は、ユニコーンの曲なのです。思わぬところで彼らの曲に再会できて、映画館で声を上げそうになりました。この映画を観た方は、きっとみんなそれぞれの‘素晴らしい日々’に思いを馳せたのではないかしら、なんて。
男の子の物語もいい。女の子の物語もいい。なんだか‘青春映画’をもっともっと観たくなってきてしまいました~。
それにしてもえなりかずき、なるほどです!そして甲本さんは甲本ヒロトの弟さんだったのですか!!!そしてそして『グムエル』は面白いそうですよ~?
それではこの辺で。
追伸:例の件についての記事、書いてもいいのでしょうか?というより書いた方がいいですか?とりあえず下書きだけでもしてみます~。
[2006/08/20 20:33] URL | かいろ #- [ 編集 ]
かいろさん、こんにちは。コメントありがとうございます。
奥田民生って本当に歌がうまいですよね。ユニコーン、カラオケでよく男の子が唄ってました(遠い目)。
例の件、う~ん、著作権の問題とか、ですかね??よくわからないけど、トリビアっぽい新事実(?)があったらネタ元は明かさずにでもこっそり教えて欲しいな~と思ったりしますが・・・。
記事にするかどうかはかいろさんのご判断にお任せしますよ。もちろん「私だけの秘密♪」にしていただいても全然OKですよ~。
女の子の物語なら『仔猫をお願い』もいいですよ。あと『17歳のカルテ』とか、いろいろありますよね。
またお立ち寄り下さいね。ありがとうございました。
[2006/08/21 02:49] URL | 真紅 #V5.g6cOI [ 編集 ]
こんにちは!私もこの作品、よかったです。
特に鏡のシーンは秀逸だったと私も感じました。
>同じ方向を見て話そうよ
というメッセージ、いいですね。ホントにそう思います。
日韓という観点から見ても確かにそうですし
そもそも若い頃の人間関係って、向かい合うより
並んでいる方が気持ちが通じ合うのではないでしょうか。
同じものを見て、一緒に進んでいく、みたいな。
そういう感じも受けました。
いずれにせよ、高校時代をもうずいぶん前に過ごした私には
懐かしい、ちょっと痛痒いような気持ちになる素敵な映画でした。
[2006/09/10 10:05] URL | mambotaxi #sqP2p4pA [ 編集 ]
mambotaxiさま、こんにちは。コメント&TBありがとうございます。
この作品、なんとも言えない空気感が絶妙でした。それってやっぱりペ・ドゥナが持っている独特の雰囲気に負うところが大きいのでしょうか。
ホント、素敵な作品でしたね。『グエムル』も観に行かねば。。
ではでは、また遊びに来て下さいね。ありがとうございました。
[2006/09/10 19:33] URL | 真紅 #V5.g6cOI [ 編集 ]
おじゃまします。
「空気人形」がきっかけで最近ペ・ドゥナのファンになったので、彼女の過去の出演作品を見ています。この映画のペ・ドゥナもキュートでした。真紅さんは本当にたくさんの映画をご覧になっているんですね。これから少しずつ読ませていただきます!
[2009/12/18 23:01] URL | Bell Bottom Blues #1VuCtGsk [ 編集 ]
Bell Bottom Bluesさん、こんにちは! コメントありがとうございます。
映画をこんなにたくさん観られるようになったのは、学生時代以来でここ数年なんですよ。
だから名作、旧作、観てない作品いっぱいあります。決してシネフィルではないんです。
でも、映画大好きです!!ペ・ドゥナさん、いい女優さんですよね☆
この作品も大好きです~。
[2009/12/19 21:44] URL | 真紅 #V5.g6cOI [ 編集 ]
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NO.137「リンダ リンダ リンダ」(日本/山下敦弘監督)
単なる学園ドラマがなぜ、僕たちに元気をくれるのだろう?いったいなぜ、この単なる学園映画に、50歳を過ぎた僕まで、元気にしてくれるような要素があるのだろう。観終わった僕は、しばらく、「リンダ リンダ」の歌詞を頭にめぐらせながら、そう思ったものだ。「ブルーハー
[2006/08/20 03:12] サーカスな日々
「リンダリンダリンダ」
[:映画:]  リンダリンダリンダ冒頭、あまり説明的でないために入りづらかったが、文化祭2日前にメンバーの一人が指を骨折して演奏ができなくなり、それを非難したボーカルも喧嘩別れで脱退したため、解散寸前の女子高生ロックバンド、という状況がわかってからあっという間
[2006/09/10 09:47] That's the Way Life Goes
「リンダ リンダ リンダ」 思い出す、不器用だったあの頃
忘れていた高校生の頃を思い出しました。 そういえばブルーハーツも、ジッタリンジン
[2007/10/20 22:10] はらやんの映画徒然草
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[2009/12/31 07:27] memphis blues again
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いつまでも青臭い映画好きでいたい。愛おしい映画と、忘れがたき本たち。ときどきカフェとか。 記事は基本的にネタバレあり。 どうぞご贔屓に♪

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