男前!な映画人たち~『シネマ、シネマ、シネマ』
 梁石日の小説・エッセイは何冊か読んでいるが、どの作品も例外なく面白く読め
る。本作もその分厚さ(388ページ)に一瞬たじろぐが、あっと言う間に読了してし
まった。私小説かつエンタテインメントとして、上質の作品だと思う。

 題名が表している通り、ストーリーは映画をめぐる「エトセトラ」である。小説家
である主人公・ソンヨンスの元に、ある日自作の映画化の話が持ち込まれる。映画
製作にまつわる様々な逸話、騙す人、騙される人、一本の映画が何年もかかって完成
するまでの関係者の苦労、製作現場での過酷な撮影風景、完成した映画を配給・上映
にこぎつけるまでの紆余曲折・・などなどが、作者の体験を元にテンポよく描かれて
いく。

 登場人物や作品名を、誰が、どの作品がモデルなのか類推するのも面白い。主人公
・ソンは勿論作者の梁石日であり、『クレイジーホース』は小説『タクシー狂騒曲』、
映画『月はどっちに出ている』である。映画監督・申勝鉉は崔洋一、小説『肉親』は
血と骨』などなど、実際の映画製作をめぐる裏話を知るような面白さもある。一番
印象に残るエピソードは、金策に困ったソンと製作会社社長・李允和(この人物は
シネカノン社長・李鳳宇だと思われる)が、静岡まである経営者のもとに赴く場面だ。
映画製作に協力して欲しい、と言うソンと李に対し、借用書もなしで五百万円を援助
するその経営者の男前っぷり。その後に詳述される映画『アパッチ族』(『夜を賭けて』)
の製作過程で、映画とはいかに金がかかるものか、ヒットするか、配給できるかさえ
もわからないままに製作陣の気力と情熱で作り上げるものであるかがわかるだけに、
金の貸借でなく「気持ちの問題」で資金協力をする経営者の姿勢には胸打たれる。
また、日韓合作映画『ファミリー』(『家族シネマ』)の撮影現場での、国民性の違い
による両国スタッフのいざこざ、両者の間に立って孤軍奮闘する在日スタッフの苦労
リアルに描かれている。殴り合い、いがみ合いながらも、結局彼らを結びつけるの
もまた映画という魔法なのだ。

 どうして、人はこれほどまでに映画に惹き付けられるのか。スティーブン・ソダー
バーグ
が『トラフィック』でアカデミー賞監督賞を受賞した時の、彼のスピーチが
とても印象に残っている。彼は言った、「僕は芸術無しでは一秒も生きられない」。
映画がこの世になくても、人は息をすることはできるだろう。しかし、映画という
芸術無しには、息はしていても生きてはいけない人が、この世界にはたくさんいる。
そしてこの小説に描かれる映画人たちも、映画無しでは生きられない人々なのだ。

 特に美文でもなく、ストーリーも完璧とは言い難いが、梁石日の文体には何故だ
か惹き付けられる。それは彼の破天荒に見えて繊細で、自分のルーツや夢を忘れな
人間性の魅力に他ならないだろう。まさしく「男前」な梁石日の、映画への愛
詰まった作品だ。

(『シネマ、シネマ、シネマ梁石日・著/光文社/2006)
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[2006/08/18 20:49] | 読書 | トラックバック(1) | コメント(1) |
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[2006/08/19 19:02] | # [ 編集 ]
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『シネマ・シネマ・シネマ』 梁石日と映画の素敵な関係 
 面白かったぁ~。 偶然に本屋で手にとって、買ってから、読み終わるのが惜しくて惜しくて……。 家では読まずに外出時の細切れの時間の中でのみ読むようにしてたんですが、それでも面白くてわずか数日で読み終えてしまいました。 梁石日さんの小説は、『血と骨』など、
[2006/08/18 23:07] 海から始まる!?
真紅のthinkingdays


いつまでも青臭い映画好きでいたい。愛おしい映画と、忘れがたき本たち。ときどきカフェとか。 記事は基本的にネタバレあり。 どうぞご贔屓に♪

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