愛を悼む~『ハピネス』

HAPPINESS
幸福
不摂生で自堕落な生活がたたり、肝硬変を患ったヨンス(ファン・ジョンミン)は、
田舎の療養所で肺を患う女性、ウニ(イム・スジョン)と出逢う。互いに惹かれ合い、
一緒に暮らし始めた二人だったが・・・。
ホ・ジノ監督のデビュー作『八月のクリスマス』は、一番好きな映画の一つ。難病
を患った主人公が出逢った人生最後の恋、という本作のモチーフは『八クリ』と通じ
るものがある。しかしどこまでも淡く、「愛」という言葉を口にすることなく別れていっ
た『八クリ』の主人公たちとは違い、ウニとヨンスは愛に身を投じる。本作で描かれ
る愛の痛み、心の移ろいは現実的で、シニカルでさえある。純粋な愛の至福だけ
でなく、その危うさと残酷さをも描き出した秀作。必見、必見、必見!!
ロードショー初日の初回に鑑賞、私にとってホ・ジノ作品が特別なものであるこ
とを再確認した。しかしこの映画、心斎橋と六本木でしか公開されていないのだ。
何とももったいなく、残念。。

ヨンスは酷い男だけれど、彼に惹かれる女の気持ちはよくわかる。何とも言え
ないあの笑顔に出逢ったら、その瞬間、恋に落ちるだろう。しかし母親の膝枕で
甘えるだけの彼は、今まで誰一人、心から愛したことはなかったのかもしれない。
ウニはヨンスに言う、「昔付き合っていた人がいるのよ」。「俺は君が初めての相手
だ」。その言葉は明らかに「嘘」だけれど、案外本音だったのかもしれない。
全身全霊でヨンスを愛する、ウニの献身が切ない。しかしその思いは純粋であ
ればあるほど「重荷」となってヨンスに圧し掛かり、愛は彼女から逃げてゆく。夜の
遊園地で、ヨンスに手を振るウニが流した涙の意味。一緒に絶叫マシンに乗れな
い、自らの虚弱に対する悲しみ。愛する人の笑顔を見つめる幸福、そして、別れ
の予感・・・。
「私が死ぬときはそばにいて」 「お前がいないと生きられない」

流行や華やかさとは無縁のウニに対し、スタイル抜群な都会の女・スヨン(コン
・ヒョジン)。ヨンスが「喉もと過ぎれば」ソウルの夜の街とスヨンの元へ戻ったこと
を責める気はない。ある意味、それは極々「当たり前」の選択なのかもしれない。
ウニがヨンスに求めた、たった一つの約束。その願いが叶うとき、ヨンスは初めて
自らが手放した「幸福」の意味を知ることになる。
「自然派」である監督の過去作を思い出させる場面も満載で、ファンとしてはうれ
しい限り。バスの窓からの風に吹かれるウニ、遺影や葬儀、雪、手渡される小さな
白い花。その花が逆さに吊るされてドライフラワーになっていたり、二人が暮らした
家に飾られていた写真盾が、ウニの枕元に立てかけられていたり。小物を使って
さり気なく心情を描く、監督の繊細な演出が光る。フレームの左右に人物を配し、
奥行きを感じさせるショット、鏡を使ったショットもお馴染みだ。

ヨンスを演じたファン・ジョンミンは大好きな俳優さん。素朴さの中に熱さを
感じさせてくれて、とっても魅力的。薄幸なウニを持ち前の透明感で演じ切っ
たイム・スジョンにも大拍手! 歴代ヒロインのイメージに繋がる、いかにも
ホ・ジノの好みのタイプだな~、という感じ(笑)。そして彼の前作『四月の雪』
では、昏睡状態から死に至る、セリフのない役を演じたリュ・スンス。彼が元気
な姿を見せてくれたことに、監督の「情」を感じてうれしかった。
(『ハピネス』監督・脚本:ホ・ジノ/2007・韓国/
主演:イム・スジョン、ファン・ジョンミン)
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