あなたならどうする~『この自由な世界で』
この自由な世界で



 IT'S A FREE WORLD...


 33歳シングルマザー、アンジー(カーストン・ウェアリング)は、職業紹介所
の仕事を突然、解雇されてしまう。男社会に嫌気が差した彼女は、ルームメイト
ローズ(ジュリエット・エリス)を誘い、自ら派遣会社を立ち上げるのだが・・・。

 私の「お父さん」こと英国の名匠、ケン・ローチの最新作脚本ケン・ローチ
作品の語り部ポール・ラヴァーティ
ヴェネチア映画祭において、本作で脚本賞
を受賞している。
「ケン・ローチやなぁ。。」突き放すような幕切れと、短いエンドロールの間に頭を
よぎったのはそれに尽きる。もう、思いっきり「ケン・ローチ印」秀作でした。
しかし、七転び八起きヒロイン・アンジーをどう捉えるかによって、この映画は
好き嫌いが分かれるかもしれない。秀作であることは疑いようがないにしても。

この自由な世界で2


 直情径行型で、無鉄砲なアンジー「躊躇」なんて言葉は、彼女の辞書にはない。
思い立ったら即、実行計画性がなく無防備で、「石橋を叩いても渡らない」くらい
腰が重い自分にしたら、彼女の行動力は凄いとしか言いようが無い。以前、派遣
で働いていた頃
、仲間と「自分たちで派遣会社やろう!」と一瞬、盛り上がったこと
があった。「使われている」立場、即ち搾取されている「損な側」にいることを自覚
したとしても、なかなか彼女のように行動には移せないものだと思う。もちろん、
その当時の自分はアンジーほど「崖っぷち」ではなかったけれど・・・。
 アニマルプリントのコートを着て、大型バイクを乗り回す奔放なアンジー。私は
応援したいと思っていた、あのシーンまでは・・・。「もしもし、移民管理局ですか」

この自由な世界で3

 一度甘い汁を吸うことを憶えたら、その味を忘れることはできないのかもしれ
ない。もう二度と苦い汁を吸おうなど、誰も思わないだろう。大口の派遣会社
組織的に行っていることを、アンジーは身の危険を冒しながら、個人で請け負っ
ているに過ぎない。しかしそれが人間としてどうかと問われたとき、自分は「嘘
つき」
ではないと言い切れるのか。最愛の息子に、自分の職業を誇れるのか?
 それでも彼女は行く、スーツケースを引いて一人、ウクライナへ・・・。アンジー
を演じたカーストン・ウェアリングは初めて観た女優さん。「この自由な」現代の
英国
身一つで生き抜こうともがく、蓮っ葉なようで情の厚い女性熱演している。 

 ケン・ローチはいつもと同じスタンスで、登場人物たちと距離を取る。しかし
その眼差しは、厳しくもやさしく、温かい。観終わった後、やるせないけれども
荒んだ気分に陥ることがない
のは、彼の人間描写の温かさゆえだと思う。
「あなたもご自分で考えてみて下さい」。そう言われたような、この余白素晴ら
しい映画
です。 IT'S A WONDERFUL CINEMA・・・

 (『この自由な世界で』監督:ケン・ローチ/2007・英、伊、独、西、
     ポーランド/主演:カーストン・ウェアリング、ジュリエット・エリス
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テーマ:考えさせられた映画 - ジャンル:映画

[2008/12/04 10:21] | 映画 | トラックバック(11) | コメント(17) |
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コメント
そう決してアンジーって悪い人じゃなかったんですよね。
それだけにとっても痛かったですよね~。
本当秀作だったと思います。
[2008/12/04 11:57] URL | miyu #- [ 編集 ]
miyuさま、こんにちは。コメントとTBをありがとうございます。
アンジー、イランからの移民一家を助けるやさしさもあったのにね。。
アンジーパパの問いかけがホント、痛かったです。
これは今年のベスト入りですね? ではでは、またです~。
[2008/12/04 17:23] URL | 真紅 #V5.g6cOI [ 編集 ]
真紅さん、こんばんは。
カンヌパルムドールの前作に比べると、公開規模が小さくて、ご覧になった方は少ないような感じですが、真紅さんにはしっかと鑑賞していただき嬉しいですー。
ケン・ローチの映画はハッピートーンじゃないんだけど、彼のまなざしの温かさがあるから、決して絶望的な気持にはならないんですよね。
アンジーのたくましさが清々しかっただけに、その後の展開にはやるせない衝撃がありましたけど、辛辣だからこそ、心に響きます。
ニッポン社会もどこに向かうのでしょうかぁぁぁ
[2008/12/05 00:12] URL | かえる #- [ 編集 ]
真紅さん、こんばんは!
TBありがとう!
この作品はマイベストのtopに入れたいくらい素晴らしかったです。水曜の割引ディではありましたが、シアター満員で補助椅子で観ました。すごく座りづらかったのですが映画に夢中であっという間のエンディングでした。あのエンディングには唖然でした。
ケン・ローチは人間の生き様を描くと素晴らしく上手い監督で尊敬しちゃいます。
必死で生きるアンジーを演じるカーストン・ウェアリングもすばらしかったですね!
[2008/12/05 00:28] URL | margot2005 #- [ 編集 ]
かえるさま、こんにちは。コメントとTBをありがとうございます~。
こちらでは、『麦の穂~』も単館公開だったんですよ。
同じ劇場での公開でしたが、東京より三ヶ月も遅れるとは・・・。トホホです。
ケン・ローチは、「厳しいけど、やさしい」方だといつも思います。
理想のお父さん、って感じかな~。顔が、ちょっとビル・ナイに似てないですか?(笑)
もう本当に、あの展開は衝撃でしたね。。
劇場全体が、ヒンヤリした感じしましたもん。あのラストも。
前作でも感じましたが、本当に「今」観られるべき、語られるべき映画だと思います。
ではでは、また伺いますね~。
[2008/12/05 10:08] URL | 真紅 #V5.g6cOI [ 編集 ]
margot2005さま、こんにちは。コメントとTBをありがとうございます!
とっても気に入られたんだな~、って、記事を拝読してうれしくなりました。
ベスト1ですか! おお、それはすごい~。
なんか、皆さんの年間ベストが楽しみだな~。
補助椅子が出たのですか! 私もほぼ満席状態でした。
ケン・ローチ作品の突き放すようなエンディングには慣れているつもりでも、やはり衝撃は大きかったですね。
アンジー役の方は映画初主演だそうですが、ケン・ローチは新人の発掘・演出も上手いですよね。
私も、とっても尊敬している監督さんです。
ではでは、またお伺いしますね~。
[2008/12/05 10:12] URL | 真紅 #V5.g6cOI [ 編集 ]
真紅さん~こんにちは!
私はこの主人公のお姉さんを応援して見ていたんです。基本的に良い人だものね・・・。
その彼女が・・!!っていうのが衝撃でした・・・・。息子の将来も、ちと不安よね・・・。
これ、全く同じ題材を邦画で作ってしまうと、なんだか、暗~くて見たい気がしないんだけれど、イギリスっていうのが、良かったわ・・。日本映画だったら現実的過ぎて、見るに耐えないところがあったりするわ・・・。

ところで、いよいよ12月10日にダークナイトのDVDが発売ですね♪
[2008/12/05 15:50] URL | latifa #SFo5/nok [ 編集 ]
latifaさま、こんにちは~。コメントとTBをありがとうございます。
私もね、応援してましたよ。。アンジーがうちの妹みたいに見えてね~。
私と妹って、全然性格が違うんですよ(容姿は似てますが)。
育てられ方の違いだと思うんだけどね。。
すっごいやり手なんだけど、危なっかしいことするところがソックリ。
妹は子どもいないけどね(笑)。
だから彼女の性格、わかるな~と思いながら観てました。

もう、来週の水曜ですね~。今日TSUTAYAに行ったら、等身大のジョーカーが迎えてくれました。
ではでは、またお伺いします~。
[2008/12/05 19:09] URL | 真紅 #V5.g6cOI [ 編集 ]
このコメントは管理人のみ閲覧できます
[2008/12/05 19:47] | # [ 編集 ]
管理人宛にコメント下さった方、ありがとうございました。
いや~、あそこはね、名前ばっかりで本当に酷いところだったんですよ。
詳しい話は伏せますが、告発してやろうかと思ったくらいでした。
だって、派遣に働かせて社員さん遊んでるんやもん! しかも・・(以下自粛)。
まぁ、かなり前の話ですがね。。今はどうなんだろう。

アドバイスもありがとうございました。
う~ん、確かにそうですね。。でも焦る気持ちが日に日に大きくなっています。
10年後の自分がどうなっていたいのか、しっかり考えて行かないとダメだな~って。
しかし、結局目先のことを考えて妥協しそうな気も・・・。
なんとか頑張ってみますね! ありがとう~。
ではでは、またね~。
[2008/12/05 23:22] URL | 真紅 #V5.g6cOI [ 編集 ]
真紅さん、社会の底辺を描き続けているケン・ローチ。でも「明日へのチケット」とか「それぞれのシネマ」といったオムニバスでは、なかなかユーモア溢れる作品をとっているんだけれど、いざ社会にメスをいれると切れ味が鋭いですね。たた今までの作品にあった慈しみよりも厳しさが表に出ていたと思う。そんな厳しさにイギリス経済、移民問題はここまで来てるのかって思ったわ。「題名のない子守唄」でもウクライナ移民の女性の物語だし、「イースタン・プロミス」のロシアン・マフィアと東欧諸国の移民。作品の枠を超えて時代に対してやるせなさを感じたわ。
[2008/12/19 14:01] URL | シュエット #- [ 編集 ]
そうだ、真紅さん、ケン・ローチの「ケス」ご覧になった? 少年と鷹の交流を描いた素的な物語。ケン・ローチ作品でも好きな作品です。
[2008/12/19 14:04] URL | シュエット #- [ 編集 ]
シュエットさま、こちらにもコメントありがとうございます。
イギリスの移民社会は凄いことになっていますね。
以前テレビのドキュメンタリーを観たのですが、今やロンドンは世界一の他民族都市だとか・・。
『こわれゆく世界の中で』も、東欧から来たロンドンの移民を描いていましたよね。
ケン・ローチの作品は、初期のものは全く観れてないのですよ。
DVD化もされていないですし・・・。どうしてなんでしょうね?
しかし、今回のエリセのように、待望のDVD化!という日が来るかもしれません。
その日まで、首を長くして待っていようと思います。
ではでは、こちらからも伺わせていただきますね。
[2008/12/19 22:33] URL | 真紅 #V5.g6cOI [ 編集 ]
真紅さん

 おはようございます。こちらの作品にもTB&コメントありがとうございました。

いつでもどこにでも口をあけて待ち受けている人生の落とし穴。這い上がろうとしている人ほど落ち込みやすい。

あのアンジーがどうして?そう思わせることによって落とし穴の存在に気づかせ、その落とし穴を生み出す社会の矛盾に関心を向けさせる。

一言で言ってしまえばそういう映画ですが、アンジーが魅力的なだけに、観る側には痛みが伴いますね。ただ2時間座って鑑賞し、ああ良かっただけでは終わらない映画。おっしゃるとおり、正真正銘ケン・ローチ印の映画でした。
[2009/06/07 11:42] URL | ゴブリン #2YYP0Fkg [ 編集 ]
ゴブリンさん、こちらにもコメントとTBありがとうございます。
ケン・ローチの作品は本当に安心して観られますね。
期待を裏切られない、というか。。
観て終わり、ではなく、必ず心の中に何かを残してくれる監督さんだと思います。
カンヌで公開された新作も、とっても観たいです。
サッカー好きな監督が、エリック・カントナを持ってきたところが興味津々です。
公開されるといいのですが。。
ゴブリンさんの「ケン・ローチ論考」も楽しみにお待ちしてますね。
[2009/06/07 23:03] URL | 真紅 #V5.g6cOI [ 編集 ]
こんにちは!お久しぶりです~
DVDでみましたが、ケン・ローチ節健在ですね。
アンジーに共感はできないけれど、ぐいぐいひっぱられてしまいました。
大型バイクをのりまわす姿まではかっちょよかったけど、
欲をかくから~、、

>「あなたもご自分で考えてみて下さい」。そう言われたような、この余白。

ラストの感じもスキです!

[2009/06/16 15:22] URL | アイマック #mQop/nM. [ 編集 ]
アイマックさん、こんにちは! ホント、お久しぶりですね~。
お元気でしたか? コメントとTBをありがとうございます。
ケン・ローチ大好きです。私の「お父さん」です(笑)。
アンジーは、今の成果主義を象徴するようなキャラクターですね。
ああいう「やり手」の女の人って、いますよね。。
ラストは、思わずう~んと唸ってしまいました。
後ほど伺いますね~♪
[2009/06/16 18:29] URL | 真紅 #V5.g6cOI [ 編集 ]
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