東京の熱い夜~『夜に目醒めよ』

新宿で中華飯店とクラブを共同経営する李学英(ガク)と金鉄治(テツ)。在日
コリアンの二人は、運命共同体とも言うべき強い絆で結ばれている。六本木で
ジャズクラブを新たに立ち上げようとするガクは、不動産業を営む李明淑とそ
の姪、知美に出会う・・・。
梁石日氏の小説を久々に読んだ。これは、文句なしに面白い! 理屈抜きで
没頭してしまった。
思うに、梁石日氏は小説を書き始めたら、登場人物が動くままに物語を進めて
いるような気がする。本作も、主人公はガクとテツのコンビであると思いきや、
物語はガクと、テツの伴侶であるニューハーフのタマゴを中心に展開する。行き
当たりばったりで荒唐無稽だとも言えるが、魑魅魍魎が蠢いていそうな歌舞伎町
や六本木でなら、ありそうな物語だとも思える。
タマゴという人物は、女性よりも美しく、情に厚く、何度裏切られても真実の
愛を求め続けるという痛々しくも魅力的なキャラクターだ。しかし本作の最大の
求心力は、主人公・ガクの虚無的なやさしさとカッコよさに尽きる!
そう、『イースタン・プロミス』のニコライ=ヴィゴ・モーテンセンのような、爆発
寸前の危うさと愛を内に秘めた男なのだ。
愛という不確かで不可解なものに懐疑的だったガクが、たった一つの失いたく
ない思いに目醒めるラストシーンに安堵する。カッコいいとは、こういうことさ。
(『夜に目醒めよ』梁石日・著/毎日新聞社・2008)
- 関連記事
-
- 永遠に消えない悪~『さまよう刃』 (2008/07/11)
- 東京の熱い夜~『夜に目醒めよ』 (2008/07/06)
- 母と娘、かくも複雑な~『シズコさん』 (2008/07/05)
スポンサーサイト
trackback
在日コリアンのアウトローとクラブのママ、女性実業家たちが敵との抗争・陰謀に絡み巻き込まれながらサスペンス仕立てに進行する社会派/恋愛小説。
前半は破天荒なアウトローの鉄治と学英を中心にヤクザ小説+鉄治の愛人のニューハーフのママ「タマゴ」のお色気路線
2008-09-24 22:51 :
伊東良徳の超乱読読書日記