fc2ブログ
映画が大好きです。いつまでも青臭い映画好きでいたい。 記事は基本的にネタバレありです by 真紅 (言葉を探す人)   ★劇場鑑賞した映画は Instagram にアップしています @ruby_red66 ★Stay Blue

企て、もしくは迷走劇~『ブレス』

ブレス2


 BREATH


 カリカリと、壁を引っ掻く歯ブラシの耳障りな音。囚われ、死を待つ男たち。。

 夫の浮気に苦しむ主婦(チア)は、死刑囚チャン・ジン(チャン・チェン)
獄中で自殺を図ったことを知る。チャンの面会刑務所を訪れた彼女は、一面識
もなかったチャンに惹かれて・・・。

 キム・ギドク14作目となる本作は、台湾のスター張震チャン・チェンを主演に、
またしても痛々しい愛の顛末を独自の感覚で描いている。ギドク作品は好んで
観るが、劇場鑑賞するのは今回が初めて。張震チャン・チェンとギドクのコラボ
ということで、随分前から楽しみにしていた作品だったのだが・・・。
今回初めて、ギドクに対して「引いた」。今までの作品ならどんな残酷描写でも、
突っ込みどころ満載でも受け入れられたし、自分の中で消化してきたつもりだっ
た。だけど、今回だけは首をひねってしまった。ちょっとショック・・・。

ブレス

 その「引き」は、あの人妻の行動があまりにも唐突で理解不能だったから。彼女
場違いな服装とテンションで歌い出したとき、思いっきり爆笑できたらよかった
のかもしれない(間違いなく一人で観ていたら笑っていたと思う)。しかし、劇場
内のあまりに張り詰めた冷たい空気に、反応することができなかった。全く似合
わないミニのワンピースを着て、やけっぱち気味に唄う彼女の姿は痛い!
灰色の面会室に張り巡らされた極彩色の壁紙を、ビリビリとはがし焼却していた
のは、彼女自身の「過ぎ去った季節」を葬っていたのだろうか。

 そして、気になるのは彼女を刑務所内に招き入れた保安課長の視線。監視モニ
ターに映る影
、彼は一体、何者なのか? 我々の疑心が頂点に達したとき、電源
の落ちたモニターにくっきりと映し出されるそのサングラス姿は・・・。キム・ギドク!
全ては彼の企てであるという種明かしなのか、この映像世界を支配しているのは
自分なのだという威嚇なのか。その意図が量りかね、虚構と現実の折り合いをつ
けるべき接点が見つけられず、戸惑うばかりだった。人妻の迷走は、ギドク自身
迷走なのか。それとも、彼が仕掛けたなのか・・・。
 
 監獄の中、無言で繰り広げられる男同士の愛憎。人妻と死刑囚の関係よりも、
そちらの方がより「ギドクの世界」だったように思う。夫と娘という「戻るべき場所」
がある主婦よりも、よりほかに行き場のない、若い囚人の嫉妬や欲望に、より
リアルを感じる。チャン・ジンを見つめる彼の、流れる一筋の涙が切な過ぎる!
息の根を止める。それは愛が反転したところに生まれる殺意だ。

 張震チャン・チェンは期待に違わぬ熱演。死刑囚の残酷さや孤独、生への執着
などを、セリフなしで表現する目力が凄い。撮影期間は僅か4日で、初めは凄い
プレッシャーを感じたという。

 男を愛する女、もしくは男を愛する男の情念と、愛されるものの身勝手さを描
いていながら、こんなにも「わからない」と感じたギドク作品は初めてだ。次回作
は我らがオダギリジョー主演。さて、どうなりますか・・・。

ブレス3

 (『ブレス』監督・製作・脚本:キム・ギドク/2007・韓国/
        主演:チャン・チェン、チア、ハ・ジョンウ、カン・イニョン)
関連記事
スポンサーサイト



テーマ : 韓国映画
ジャンル : 映画

2008-06-03 : 映画 : コメント : 10 : トラックバック : 10
Pagetop
花盛りの男たち~『蜷川妄想劇場』 «  ホーム  » 何処にも行けない~『大人は判ってくれない』
trackback

この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)
「ブレス 息」キム・ギドク 感想 チャン・チェン迫真の演技 
主演の2人、死刑囚を演じるチャン・チェンと、パク・チアの2人の演技で見せる映画でした。 この役に、チャンチェンはぴったり!、こういう...
2008-06-03 10:52 : ポコアポコヤ 映画倉庫
『ブレス』
息苦しさからの解放。 夫との仲がうまくいっていないヨンは、TVで死刑囚チャン・ジンの自殺未遂報道を見て、彼に心惹かれた。鬼才キム・ギドクがアジアのスター俳優チャン・チェンを主演に迎えたというのは興味をそそるもので、ギドクはどんな風にチャン・チェンいじり...
2008-06-03 22:55 : かえるぴょこぴょこ CINEMATIC ODYSSEY
ブレス
それは愛なのか同情なのか 天国なのか地獄なのか 死を目前にした男と5分間だけ死んだことのある女 余命わずかでありながらいくどとなく自殺を図る死刑囚チャン(チャン・チェン:張震)。 一方浮気が発覚しても悪びれる様子もない夫(ハ・ジョンウ)から心が離れて
2008-06-03 22:56 : 龍眼日記 Longan Diary
80●ブレス
キム・ギドクの映画は、そこにしかない魅力と吸引力があって、私にとっては、もはや理屈じゃなくなってしまっている。どこをどう感動したのか、どこに涙腺が緩んだのか、そんな説明は正直あまり意味があるとも思えなくて、「とにかく見れば分かる」としか言いようがないん...
2008-06-04 19:10 : レザボアCATs
「ブレス」:太平一丁目バス停付近の会話
{/hiyo_en2/}建物の壁に大きな木の絵なんか描いて、この建物の持ち主、結構ユニークね。 {/kaeru_en4/}刑務所の面会室の壁に絵を貼るほどユニークじゃないけどな。 {/hiyo_en2/}キム・ギドク監督の新作「ブレス」の話? {/kaeru_en4/}ああ、死刑囚を赤の他人の主婦が訪ね
2008-06-04 20:30 : 【映画がはねたら、都バスに乗って】
ブレス
6月2日(月) 16:10~ シネマート六本木 スクリーン2 料金:1000円(メンズデー) パンフレット:500円 『ブレス』公式サイト なんと初キム・ギドクだ。 いわゆるアジアのアート系の監督は苦手で、台湾の蔡明亮(ツァイ・ミンリャン)はアウト。 そんな中拝見し
2008-06-09 17:19 : ダイターンクラッシュ!!
「ブレス」 飛礫から雪礫へ
キム・ギドク監督 『ブレス』 (シネマート六本木) 英題:『Breath』 男と会うために、女は刑務所へと向かう。 あの時、女はなぜ刑務所に向かうことを思いついたのだろう。行く当てもないまま家を飛び出し、途方に暮れながら、それでもどこかへ向かわなければならなく...
2008-06-09 21:34 : BLOG IN PREPARATION
ブレス
 『愛は、天国と地獄。 だから輝く─ 自殺願望の死刑囚を突然、訪ねてきた孤独な女。白い面会室で彼女がプレゼント したのは、極彩色の四つの季節。それは、叶うことのない<断末魔の恋>の始まり─』  コチラの「ブレス」は、韓国の鬼才キム・ギドク監督が、自殺願...
2009-05-14 20:31 : ☆彡映画鑑賞日記☆彡
mini review 09372「ブレス」★★★★★★★☆☆☆
『絶対の愛』『うつせみ』など繊細(せんさい)かつ大胆な作風でカルト的な人気を誇る韓国の映画監督キム・ギドクが放つ、生と死、そして愛の哀歓をつづる恋愛ドラマ。自殺願望のある死刑囚と、夫の浮気に絶望する主婦の奇妙で温かい関係を描く。『呉清源 極みの棋譜』の
2009-07-17 01:57 : サーカスな日々
『ブレス』'07・韓
あらすじ死刑囚のチャン・ジン(チャン・チェン)は生への希望を捨て一刻も早く死にたいと思っていた。チャンの自殺未遂のニュースを知ったヨン(パク・チア)は見知らぬチャンに同情を覚え刑務所へと面会に行く。ヨンもまた夫の浮気に苦しんでいた。ヨンはたびたびチャン...
2009-08-12 07:57 : 虎党 団塊ジュニア の 日常 グルメ 映画 ブログ
Pagetop
コメントの投稿
非公開コメント

真紅さま~こんにちは!
ここんところ、また扁桃腺炎をぶりかえしてしまって不調です・・・。で、今日は仕事休んで家にいたので、即やって来ました~。
 いや~~なんか、嬉しいっす!!真紅さまが上で書いていらっしゃること、そのまんま私が思った事なのだもの!! 
うまいこと言葉で表現出来なかった所まで、しっかりクッキリ表現されている~~~ヾ(≧∇≦)〃
割と他の方々には軒並み評判が悪くなかったので、ん~私だけかなあ・・・と思っていたら、真紅さまのこのレビューを拝見し、なんかほっとしたような気持ちです☆
こんな風には決して思いたくは無いけれども、ギドク監督も、もうマイナーな監督さんではなく、世界で名の知れる人気・評判とも高くなってきて、昔の様なほとばしるパワー(良い意味でも悪い意味でも「コレが俺の作りたいものだーっ!」という)が、若干薄れて来たとしたら・・・・という懸念というか、不安も・・・・

実は今朝「大人は判ってくれない」の記事も、コメントは残さずでしたが、しみじみと拝見させて頂いちゃっていました☆ 私、この映画は、かなり好きで自分のお気に入り映画に殿堂入り(爆)してる作品なのですよ。ジャンピエールレオ君が可愛らしく、内容も切なくて、しかもトリューフォー監督の実体験を織り込んで作られたとか・・(別にトリュフォー監督のファンって訳じゃ無いのですけれども)
まとめて長くなってスイマセン^^
2008-06-03 10:50 : latifa URL : 編集
latifaさま、こんにちは~。コメント&TBをありがとうございます!
まぁ、扁桃腺炎が!!高い熱がでるのですよね。。
抗生剤を飲めばよくなると聞くのですが、菌がしぶとかったのでしょうか?
どうぞご無理のないように、お大事に!ゆっくりなさって下さいね。

私も、latifaさまの記事を拝読して、「同じだな~」と思いましたよ。
この作品、ものすっごく期待していたんです・・・。しかもギドク初・劇場鑑賞だし。
今までずっとDVDだったので、ギドクと自分との間、もしくは周りに他人がいる、って状況がよくなかったのかな?と思ったり。
この映画、確かカンヌに出品されていたのですよね。
まさに世界の巨匠になりつつあるから、今は過渡期なのかなぁ・・・、と思ったり。
でも、今後も観続けたい監督さんですよね。常に気になる存在です。

おお、『大人は判ってくれない』殿堂入りですかー!
アントワーヌ役の男の子って、ずっとトリュフォーの映画に出続けたんですよね。
ある意味、監督の分身なんでしょうね。いい顔してるな~、と思いながら観ていました。
あと『潜水服は蝶の夢を見る』でこの映画の音楽が使われていたらしいのですよ。
だから確認の意味もあって、観てみたんです。

体調不良なのに、来て下さってありがとうございました♪
私もまた遊びに行きますね!ではでは。
2008-06-03 20:22 : 真紅 URL : 編集
真紅さん、こんばんは。
いや~私はまるでダメでした。
全てを理解できなくても好きな作品はいくらでもありますが、この作品に関しては
理解できない部分がどうにも気持ちが悪く、私にとっては居心地の悪い作品でした。
前回観た「絶対の愛」も私とは波長があわず、(感想を書くことすらしていません)残念です。
あの主演の2人の関係よりもチャンと若い囚人の関係の方が断然見ごたえありましたね。
2008-06-03 23:11 : sabunori URL : 編集
真紅さん、あンにょん。
私は人妻の行動や思いには意外と心寄り添えたので、そっち寄りな部分ではわりと面白く見ることができたのですが、チャン・チェンの見せ場があんまりなかったような感じで残念でありました。
この2枚の写真めちゃめちゃエロティックで芸術的ですね!
こういうイメージとは全然違う映画でしたかな。
チャン・チェンの手が美しいー
2008-06-03 23:13 : かえる URL : 編集
sabunoriさま、こんにちは~。コメントとTBをありがとうございます。
そうなんですか!記事ではそんなに「ダメ」感はなかったですよ、各方面(?)に配慮されたのでしょうか。
確かに、居心地の悪さは常に付き纏うギドク作品ですが、今作は私もちょっと・・・でした。
そのことに自分で戸惑っているほどです。何故なんだ~。。
しかし、『絶対の愛』以前の作品も観ていただきたい気もします。
ではでは、気を取り直してまたお伺いしますね!
2008-06-04 08:56 : 真紅 URL : 編集
かえるさま、あんにょんハセヨ! コメント&TBをありがとうございます。
人妻も「監獄」にいたのだなぁとは思うのですが、あのやけっぱち熱唱には共感できませんでした。
チャン・チェンくんは身体表現のワークショップに参加して役作りをしたそうです。
真摯ですよね~、大好き♪

たまたま変わったポスターを見つけたので、画像はポスターにしてみました。
そうそう、手がいいよね。『The Hand』やっぱりカーウァイ最高、って違うか・・・。
ではでは、またお伺いします~。
2008-06-04 09:02 : 真紅 URL : 編集
こんばんは、真紅さん。
あれ、これそんなにこれまでの作品と違いますかね?
自分は、「いつもと変わらないギドク」に思えてしまったんですよね。

私にはむしろ、アメリカに渡って、いきなり、とても分かりやすい脚本を書いちゃうウォン・カーウァイや、
それまでの自分の劣化版コピーのような作品を作ってしまったスザンネ・ビアの方が、
よっぽど「今までと違う」んじゃないかと思っちゃったんですよね。
まあその方が商売上手なのかもしれませんが。
2008-06-04 19:24 : とらねこ URL : 編集
とらねこさま、こんにちは。コメントとTBをありがとうございます。
そうなんですよ、そこが問題なんです・・・。
ギドクが今までと変わらないのだとしたら、変わったのは私の方なんでしょうか?
う~~~~ん。。
しかし、初期の頃の猛烈な「怒り」「憎悪」は影を潜めていますね。
ギドクは「観客に温かく柔らかい手で握手を求めている」という記事もありました。
次の作品では、私もしっかり彼の手を握り返せれば・・・と思います。
ではでは、またです。
2008-06-05 09:05 : 真紅 URL : 編集
真紅さん、こんばんは。
キム・ギドクは『うつせみ』で一区切りつけたのではないか。と、ぼくは考えています。それ以降の作品は、とくに前作と今作は、それ以前の作風とはずいぶん違った仕上がりになっている。なので、以前のような味わい方ができないんですよね。でもいい監督だと思うし、これからもしばらくつきあっていきたいと思ってるんですけど。
2008-06-09 21:38 : Ken-U URL : 編集
Ken-Uさま、こんにちは。コメントとTBをありがとうございます。
現時点では、やはり『うつせみ』がギドクの最高傑作でしょうか。
あの作品を撮り終えたことで、ギドクも新しい道を模索しているのかもしれませんね。
前作もそうですが、ちょっと観客を戸惑わせるというか、反応を試しているような感じを受けますよね。
私は今回、初めてギドク作品に懐疑的になってしまったわけですが、もちろん今後も追いかけて行きたいと思っています。
是非ご一緒しましょう。
ではでは、後ほどお伺いしますね。
2008-06-10 14:53 : 真紅 URL : 編集
Pagetop
« next  ホーム  prev »

What's New?

真紅

Author:真紅
 Cor Cordium 
★劇場鑑賞した映画の感想はインスタにアップしています@ruby_red66

Archives

Search this site

Thank You!