企て、もしくは迷走劇~『ブレス』
ブレス2


 BREATH


 カリカリと、壁を引っ掻く歯ブラシの耳障りな音。囚われ、死を待つ男たち。。

 夫の浮気に苦しむ主婦(チア)は、死刑囚チャン・ジン(チャン・チェン)
獄中で自殺を図ったことを知る。チャンの面会刑務所を訪れた彼女は、一面識
もなかったチャンに惹かれて・・・。

 キム・ギドク14作目となる本作は、台湾のスター張震チャン・チェンを主演に、
またしても痛々しい愛の顛末を独自の感覚で描いている。ギドク作品は好んで
観るが、劇場鑑賞するのは今回が初めて。張震チャン・チェンとギドクのコラボ
ということで、随分前から楽しみにしていた作品だったのだが・・・。
今回初めて、ギドクに対して「引いた」。今までの作品ならどんな残酷描写でも、
突っ込みどころ満載でも受け入れられたし、自分の中で消化してきたつもりだっ
た。だけど、今回だけは首をひねってしまった。ちょっとショック・・・。

ブレス

 その「引き」は、あの人妻の行動があまりにも唐突で理解不能だったから。彼女
場違いな服装とテンションで歌い出したとき、思いっきり爆笑できたらよかった
のかもしれない(間違いなく一人で観ていたら笑っていたと思う)。しかし、劇場
内のあまりに張り詰めた冷たい空気に、反応することができなかった。全く似合
わないミニのワンピースを着て、やけっぱち気味に唄う彼女の姿は痛い!
灰色の面会室に張り巡らされた極彩色の壁紙を、ビリビリとはがし焼却していた
のは、彼女自身の「過ぎ去った季節」を葬っていたのだろうか。

 そして、気になるのは彼女を刑務所内に招き入れた保安課長の視線。監視モニ
ターに映る影
、彼は一体、何者なのか? 我々の疑心が頂点に達したとき、電源
の落ちたモニターにくっきりと映し出されるそのサングラス姿は・・・。キム・ギドク!
全ては彼の企てであるという種明かしなのか、この映像世界を支配しているのは
自分なのだという威嚇なのか。その意図が量りかね、虚構と現実の折り合いをつ
けるべき接点が見つけられず、戸惑うばかりだった。人妻の迷走は、ギドク自身
迷走なのか。それとも、彼が仕掛けたなのか・・・。
 
 監獄の中、無言で繰り広げられる男同士の愛憎。人妻と死刑囚の関係よりも、
そちらの方がより「ギドクの世界」だったように思う。夫と娘という「戻るべき場所」
がある主婦よりも、よりほかに行き場のない、若い囚人の嫉妬や欲望に、より
リアルを感じる。チャン・ジンを見つめる彼の、流れる一筋の涙が切な過ぎる!
息の根を止める。それは愛が反転したところに生まれる殺意だ。

 張震チャン・チェンは期待に違わぬ熱演。死刑囚の残酷さや孤独、生への執着
などを、セリフなしで表現する目力が凄い。撮影期間は僅か4日で、初めは凄い
プレッシャーを感じたという。

 男を愛する女、もしくは男を愛する男の情念と、愛されるものの身勝手さを描
いていながら、こんなにも「わからない」と感じたギドク作品は初めてだ。次回作
は我らがオダギリジョー主演。さて、どうなりますか・・・。

ブレス3

 (『ブレス』監督・製作・脚本:キム・ギドク/2007・韓国/
        主演:チャン・チェン、チア、ハ・ジョンウ、カン・イニョン)
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テーマ:韓国映画 - ジャンル:映画

[2008/06/03 09:53] | 映画 | トラックバック(10) | コメント(10) |
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コメント
真紅さま~こんにちは!
ここんところ、また扁桃腺炎をぶりかえしてしまって不調です・・・。で、今日は仕事休んで家にいたので、即やって来ました~。
 いや~~なんか、嬉しいっす!!真紅さまが上で書いていらっしゃること、そのまんま私が思った事なのだもの!! 
うまいこと言葉で表現出来なかった所まで、しっかりクッキリ表現されている~~~ヾ(≧∇≦)〃
割と他の方々には軒並み評判が悪くなかったので、ん~私だけかなあ・・・と思っていたら、真紅さまのこのレビューを拝見し、なんかほっとしたような気持ちです☆
こんな風には決して思いたくは無いけれども、ギドク監督も、もうマイナーな監督さんではなく、世界で名の知れる人気・評判とも高くなってきて、昔の様なほとばしるパワー(良い意味でも悪い意味でも「コレが俺の作りたいものだーっ!」という)が、若干薄れて来たとしたら・・・・という懸念というか、不安も・・・・

実は今朝「大人は判ってくれない」の記事も、コメントは残さずでしたが、しみじみと拝見させて頂いちゃっていました☆ 私、この映画は、かなり好きで自分のお気に入り映画に殿堂入り(爆)してる作品なのですよ。ジャンピエールレオ君が可愛らしく、内容も切なくて、しかもトリューフォー監督の実体験を織り込んで作られたとか・・(別にトリュフォー監督のファンって訳じゃ無いのですけれども)
まとめて長くなってスイマセン^^
[2008/06/03 10:50] URL | latifa #SFo5/nok [ 編集 ]
latifaさま、こんにちは~。コメント&TBをありがとうございます!
まぁ、扁桃腺炎が!!高い熱がでるのですよね。。
抗生剤を飲めばよくなると聞くのですが、菌がしぶとかったのでしょうか?
どうぞご無理のないように、お大事に!ゆっくりなさって下さいね。

私も、latifaさまの記事を拝読して、「同じだな~」と思いましたよ。
この作品、ものすっごく期待していたんです・・・。しかもギドク初・劇場鑑賞だし。
今までずっとDVDだったので、ギドクと自分との間、もしくは周りに他人がいる、って状況がよくなかったのかな?と思ったり。
この映画、確かカンヌに出品されていたのですよね。
まさに世界の巨匠になりつつあるから、今は過渡期なのかなぁ・・・、と思ったり。
でも、今後も観続けたい監督さんですよね。常に気になる存在です。

おお、『大人は判ってくれない』殿堂入りですかー!
アントワーヌ役の男の子って、ずっとトリュフォーの映画に出続けたんですよね。
ある意味、監督の分身なんでしょうね。いい顔してるな~、と思いながら観ていました。
あと『潜水服は蝶の夢を見る』でこの映画の音楽が使われていたらしいのですよ。
だから確認の意味もあって、観てみたんです。

体調不良なのに、来て下さってありがとうございました♪
私もまた遊びに行きますね!ではでは。
[2008/06/03 20:22] URL | 真紅 #V5.g6cOI [ 編集 ]
真紅さん、こんばんは。
いや~私はまるでダメでした。
全てを理解できなくても好きな作品はいくらでもありますが、この作品に関しては
理解できない部分がどうにも気持ちが悪く、私にとっては居心地の悪い作品でした。
前回観た「絶対の愛」も私とは波長があわず、(感想を書くことすらしていません)残念です。
あの主演の2人の関係よりもチャンと若い囚人の関係の方が断然見ごたえありましたね。
[2008/06/03 23:11] URL | sabunori #JalddpaA [ 編集 ]
真紅さん、あンにょん。
私は人妻の行動や思いには意外と心寄り添えたので、そっち寄りな部分ではわりと面白く見ることができたのですが、チャン・チェンの見せ場があんまりなかったような感じで残念でありました。
この2枚の写真めちゃめちゃエロティックで芸術的ですね!
こういうイメージとは全然違う映画でしたかな。
チャン・チェンの手が美しいー
[2008/06/03 23:13] URL | かえる #- [ 編集 ]
sabunoriさま、こんにちは~。コメントとTBをありがとうございます。
そうなんですか!記事ではそんなに「ダメ」感はなかったですよ、各方面(?)に配慮されたのでしょうか。
確かに、居心地の悪さは常に付き纏うギドク作品ですが、今作は私もちょっと・・・でした。
そのことに自分で戸惑っているほどです。何故なんだ~。。
しかし、『絶対の愛』以前の作品も観ていただきたい気もします。
ではでは、気を取り直してまたお伺いしますね!
[2008/06/04 08:56] URL | 真紅 #V5.g6cOI [ 編集 ]
かえるさま、あんにょんハセヨ! コメント&TBをありがとうございます。
人妻も「監獄」にいたのだなぁとは思うのですが、あのやけっぱち熱唱には共感できませんでした。
チャン・チェンくんは身体表現のワークショップに参加して役作りをしたそうです。
真摯ですよね~、大好き♪

たまたま変わったポスターを見つけたので、画像はポスターにしてみました。
そうそう、手がいいよね。『The Hand』やっぱりカーウァイ最高、って違うか・・・。
ではでは、またお伺いします~。
[2008/06/04 09:02] URL | 真紅 #V5.g6cOI [ 編集 ]
こんばんは、真紅さん。
あれ、これそんなにこれまでの作品と違いますかね?
自分は、「いつもと変わらないギドク」に思えてしまったんですよね。

私にはむしろ、アメリカに渡って、いきなり、とても分かりやすい脚本を書いちゃうウォン・カーウァイや、
それまでの自分の劣化版コピーのような作品を作ってしまったスザンネ・ビアの方が、
よっぽど「今までと違う」んじゃないかと思っちゃったんですよね。
まあその方が商売上手なのかもしれませんが。
[2008/06/04 19:24] URL | とらねこ #.zrSBkLk [ 編集 ]
とらねこさま、こんにちは。コメントとTBをありがとうございます。
そうなんですよ、そこが問題なんです・・・。
ギドクが今までと変わらないのだとしたら、変わったのは私の方なんでしょうか?
う~~~~ん。。
しかし、初期の頃の猛烈な「怒り」「憎悪」は影を潜めていますね。
ギドクは「観客に温かく柔らかい手で握手を求めている」という記事もありました。
次の作品では、私もしっかり彼の手を握り返せれば・・・と思います。
ではでは、またです。
[2008/06/05 09:05] URL | 真紅 #V5.g6cOI [ 編集 ]
真紅さん、こんばんは。
キム・ギドクは『うつせみ』で一区切りつけたのではないか。と、ぼくは考えています。それ以降の作品は、とくに前作と今作は、それ以前の作風とはずいぶん違った仕上がりになっている。なので、以前のような味わい方ができないんですよね。でもいい監督だと思うし、これからもしばらくつきあっていきたいと思ってるんですけど。
[2008/06/09 21:38] URL | Ken-U #- [ 編集 ]
Ken-Uさま、こんにちは。コメントとTBをありがとうございます。
現時点では、やはり『うつせみ』がギドクの最高傑作でしょうか。
あの作品を撮り終えたことで、ギドクも新しい道を模索しているのかもしれませんね。
前作もそうですが、ちょっと観客を戸惑わせるというか、反応を試しているような感じを受けますよね。
私は今回、初めてギドク作品に懐疑的になってしまったわけですが、もちろん今後も追いかけて行きたいと思っています。
是非ご一緒しましょう。
ではでは、後ほどお伺いしますね。
[2008/06/10 14:53] URL | 真紅 #V5.g6cOI [ 編集 ]
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