何処にも行けない~『大人は判ってくれない』

LES QUATRE CENTS COUPS
フランソワ・トリュフォーの長編デビュー作。パリの街で、親に見捨てられる
少年を描いたモノクロの傑作。カンヌ映画祭において監督賞を受賞し、彼は
弱冠27歳にして「ヌーベル・ヴァーグ」の寵児となった。本作には、トリュフォー
自身の実体験が投影されているという。
ケン・ローチの『SWEET SIXTEEN』の感想記事に、「ラストシーンで『大人は
判ってくれない』を思い出した」というコメントをいただいていた。気になりつ
つ、手持ちのDVDにてやっと鑑賞。コメントをいただいた方、ありがとうござい
ました。確かに、ケン・ローチも意識したのではと思わせる場面でした。
ヌーベルヴァーグやトリュフォーについて、私は語る言葉を持っていない。
だからこの映画を観て、感じたことを率直に書きたいと思う。邦題は意訳ら
しいけれど、名訳だと思った。

この映画に出てくる大人たちは、どうして揃いも揃ってこんなにもイラついて
いるのだろう? アントワーヌ(ジャン=ピエール・レオ)の母、継父、教師、看守
たち。皆彼を邪険に扱い、厄介者として忌み嫌う。街の女たちは出産時の体験を
殊更悲惨なものとして語り、4人目の子どもを産むという話を聞いて「ぞっとする」
と言い放つアントワーヌの母。
日本は特別子どもを可愛がる慣習の国だと聞いたことがあるが、かといって
欧米の子どもが皆、アントワーヌのような成育環境ではないだろう。彼はごく
普通の、いたずら好きな少年に見えるし、お手伝いも宿題もやろうとしている、
バルザックを読む本好きだ。学校をサボって回るローターに乗るアントワーヌ
が、遠心力で吹き飛ばされそうになっても無邪気に笑っている場面が物悲しい。
去り行くパリの街の灯に涙する彼に、胸がいっぱいになる。
「大人は誰でも昔は子どもだった。しかしそのことを憶えている大人は、いくら
もいない」と言ったのは『星の王子さま』のサン・テグジュペリ。そういえば彼は
フランス人で、ファーストネームは「アントワーヌ」だ・・・。

そしてラスト、海に向かって走りに走るアントワーヌ。あんなに見たかった
海なのに、そこは行き止まり、それ以上もう何処にも行けない。。カメラを見
据えるアントワーヌに「FIN」の文字が被さる幕引きは、忘れられない名場面だ。
自戒しよう。 忘れていないか? 子どもの頃のことを。
成っていないか? 子どもの気持ちを忘れた大人に。
(『大人は判ってくれない』監督・製作・脚本:フランソワ・トリュフォー/
撮影:アンリ・ドカエ/主演:ジャン=ピエール・レオ/1959・仏)
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あこがれ・大人は判ってくれない〔フランソワ・トリュフォー監督傑作選1〕ポニーキャニオン
1959フランス
監督・制作・脚本:フランソワ・トリュフォー
音楽:ジャン・コンスタンタン
出演:ジャン=ピエール・レオー他
このところ映画づいているのは、某TSU○AY...
2008-06-03 04:54 :
Mani_Mani
LES QUATRE CENTS COUPS
1959年/フランス/97分
山田宏一著「<増補>トリュフォー、ある映画的人生」を読んで、堪らず観たくなり、マイシネマのDVD観ました。何度も観ているけれど、この本を読んでから観ると感慨一入です。
フランソワ・トリュフォー
26歳
長編
2008-07-14 14:56 :
寄り道カフェ
コメントの投稿
こんばんは
この映画とジャン・ヴィゴ「操行ゼロ」はなんとなくせっとで思い出されるんですが、フランスの初等教育ってあんなに強圧的だったのかなあ?と驚いてしまいました。
ラストシーンは秀逸ですよね~
この映画とジャン・ヴィゴ「操行ゼロ」はなんとなくせっとで思い出されるんですが、フランスの初等教育ってあんなに強圧的だったのかなあ?と驚いてしまいました。
ラストシーンは秀逸ですよね~
manimaniさま、こんにちは!コメントとTBをありがとうございます。
『操行ゼロ』という映画は初めて知りました。子どもが主人公なのですね。
なんか軍隊みたいでしたよね、あの学校。。サボりたくもなりますよね~。
後ほどお伺いしますね、ではでは~。
『操行ゼロ』という映画は初めて知りました。子どもが主人公なのですね。
なんか軍隊みたいでしたよね、あの学校。。サボりたくもなりますよね~。
後ほどお伺いしますね、ではでは~。
続けてやってまいりましたが・・・
真紅さん、あのね、
真ん中のお写真のね
レオさんの後ろのお子ね
ケヴィン・ベーコンがガキンチョだったら・・・に、
似てなぁ~い?
そして
その後ろの子ね、
スティーヴ・ブシェミの面影を
醸し出していると見えるのは
・・・・わたくしだけかしら~(爆!)^^
こんなコメントでごめんなさいね~
ササササ~~~~~(あとずさり・・・)♪
真紅さん、あのね、
真ん中のお写真のね
レオさんの後ろのお子ね
ケヴィン・ベーコンがガキンチョだったら・・・に、
似てなぁ~い?
そして
その後ろの子ね、
スティーヴ・ブシェミの面影を
醸し出していると見えるのは
・・・・わたくしだけかしら~(爆!)^^
こんなコメントでごめんなさいね~
ササササ~~~~~(あとずさり・・・)♪
viva jijiさま、こちらにもコメントありがとうございます~。
で・・・、ぎゃははははは~~~~、言えてる~~~~、似てる~~~!!
いやー、全然気付きませんでした!
ふたりとも似てるーー!!
レオくんしか目に入ってませんでしたよー。
彼、いい顔してますよね。
楽しいコメント、ありがとうございました♪
で・・・、ぎゃははははは~~~~、言えてる~~~~、似てる~~~!!
いやー、全然気付きませんでした!
ふたりとも似てるーー!!
レオくんしか目に入ってませんでしたよー。
彼、いい顔してますよね。
楽しいコメント、ありがとうございました♪
遅まきながら本記事にコメントを。
ラストシーンは、映画「ビハインド・ザ・サン」で主人公が因習深く閉塞した世界から抜け出たあのラストに通じると思うわ。「どこにも行けない」っていうより、海岸にたったアントワーヌは重いけど、解放感に通じるものではないかなって思う。
現代でもアントワーヌが感じていた疎外感って、今も、子供たちの逞しさも失われかけている今の方がもっと深刻課も知れないねはないね。
アントワーヌ君その後のヘタレぶり大好きだよ。
ラストシーンは、映画「ビハインド・ザ・サン」で主人公が因習深く閉塞した世界から抜け出たあのラストに通じると思うわ。「どこにも行けない」っていうより、海岸にたったアントワーヌは重いけど、解放感に通じるものではないかなって思う。
現代でもアントワーヌが感じていた疎外感って、今も、子供たちの逞しさも失われかけている今の方がもっと深刻課も知れないねはないね。
アントワーヌ君その後のヘタレぶり大好きだよ。
シュエットさま、こちらにもコメントありがとうございます。
そういえば、『ビハインド・ザ・サン』も海に出逢うシーンでラストでしたね!
私は観る前から『SWEET SIXTEEN』が頭にあったので、否定的に捉えてしまったのかもしれません。
でも、あのカメラを見据えるラストの表情は、明るく見えなかったんですよね・・。
今の子のほうが、きっと閉塞感は大きいでしょうね。
いや、大人もきっとそうではないでしょうか。。
『世間は判ってくれない』みたいな・・・。
ではでは、またです。
そういえば、『ビハインド・ザ・サン』も海に出逢うシーンでラストでしたね!
私は観る前から『SWEET SIXTEEN』が頭にあったので、否定的に捉えてしまったのかもしれません。
でも、あのカメラを見据えるラストの表情は、明るく見えなかったんですよね・・。
今の子のほうが、きっと閉塞感は大きいでしょうね。
いや、大人もきっとそうではないでしょうか。。
『世間は判ってくれない』みたいな・・・。
ではでは、またです。
山田宏一氏のトリュフォー関連の本を読んで、急に観たくなり、記事アップしました。
もう何度観てるでしょうね、この映画!
TB貼りました。
もう何度観てるでしょうね、この映画!
TB貼りました。
2008-07-14 14:59 :
シュエット URL :
編集
シュエットさま、こんにちは。再びのコメントとTBをありがとうございます。
この映画何度もご覧になっていらっしゃるのですね。
私も、また観てみたい作品です。
後ほどお伺いしますね!ではでは。。
この映画何度もご覧になっていらっしゃるのですね。
私も、また観てみたい作品です。
後ほどお伺いしますね!ではでは。。