余りに理不尽な〜『残虐記』
残虐記

 少女拉致監禁事件の被害者だった作家が、手記を残して失踪した。そこには、
事件の真実が綴られているのか? 実在の事件に触発されて書かれた、直木賞
作家桐野夏生による長編。柴田練三郎賞受賞作

 桐野夏生の小説は、生々しい描写、湿度の高い文章という印象がある。その
湿度を生むのは、血や汗という人間の体液だ。心の闇に分け入り、人間の行動
や感情、悪意や衝動
を形作るものの正体を暴き、描き切ろうとする作家・桐野
夏生の意欲覚悟戦慄さえ覚える。人間の「関係性」という迷宮に挑むその
姿勢は、孤高な戦士のようでもある。

 望まないままに極限状態に置かれた人間が、生きる希望として残されるはず
「想像力」「記憶」潜水服は蝶の夢を見るの中で、ロックトイン・シンド
ローム
に陥った主人公ジャン=ドミニク・ボビーはそれらを蝶の羽根として、
自由に羽ばたいた。しかし本作の主人公は彼とは逆に、「想像力」「記憶」
囚われ人となり、自由とも希望ともどんどん遠ざかってゆくかのようだ

 子どもであったり、女性であったりする「存在」それ自体が「欲望」標的
なり、悪意と邪念の中で汚される不条理残虐と言うには余りにも理不尽な
弱者の運命
に、読後しばし、言葉を失くす。

 (『残虐記』桐野夏生・著/2007・新潮社)

テーマ:文学・小説 - ジャンル:小説・文学

【2008/05/09 09:11】 | 読書 | トラックバック(0) | コメント(0)
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