『人セク』の呪縛~『論理と感性は相反しない』

「作家は、処女作に向かって成熟する」という言葉を聞いたことがある。
第一作に書き手のエッセンスは凝縮されるものだし、如何にデビュー作を
超える作品を生み出すか、苦闘している作家は多いだろうと思う。
本作は、山崎ナオコーラ氏初の書き下ろし短編集。全体に一貫したテーマ
があるわけではなく、人が出てこない話だったり、年表形式だったり、著者本人
としか思えない人物が登場したり。かなり実験的な試みをしつつ、各編がどこ
かで繋がりを持つ手法を採る、なかなかの覚悟を持って書かれた労作だと
感じた。
しかし。同時に、文藝賞を受賞し、芥川賞候補にもなった『人のセックスを
笑うな』で華々しくデビューした著者にとっても、デビュー作にして傑作である
処女作の呪縛は相当、大きいのだろうとも感じてしまった。身を削るように、
書くことしかできないと腹を括ったような著者の姿勢には、痛々しささえ感じ
てしまう。
映画化され、大ヒットしたことも記憶に新しい『人セク』は、本当にいい小説
だと思う。『カツラ美容室別室』にはガッカリしたけれど、あの処女作とこの
短編集を書いた山崎さんなら、これからも読み続けたいし、応援しようと思
った。
次は長編に期待してます。
(『論理と感性は相反しない』山崎ナオコーラ・著/講談社・2008)
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装幀は名久井直子。装画は宇野亜喜良。書き下ろし短編集。さくさくと楽しく読めました。
神田川歩美や矢野マユミズの日常をさまざまな時間...
2008-05-04 02:01 :
粋な提案
論理と感性は相反しない
# 出版社: 講談社 (2008/03)
# ISBN-10: 406214588X
評価:72点
好きか嫌いかといわれれば、かなり好きな部類に入る短編集。
面白いか面白くないかといわれれば、個人的に非常に興味深く読めた本。
人に薦められるか薦められないかとい
2008-09-01 13:07 :
デコ親父はいつも減量中
コメントの投稿
こんばんは。
実験的な試みと覚悟、感じられましたね。
ライトな語り口なのに、不思議な力強さがあってぐいぐいと引き込まれてるような感覚でした。
次は長編でしょうか?楽しみですね。
実験的な試みと覚悟、感じられましたね。
ライトな語り口なのに、不思議な力強さがあってぐいぐいと引き込まれてるような感覚でした。
次は長編でしょうか?楽しみですね。
藍色さま、こんにちは。コメントとTBをありがとうございます。
かなり自身の内面に踏み込んで書かれた小説のように感じました。
そう感じさせる力量のある方なのかもしれませんね。
次は是非是非、感動モノの傑作長編!期待しましょう~。
ではでは、また何か読みましたらお邪魔させて下さい!
かなり自身の内面に踏み込んで書かれた小説のように感じました。
そう感じさせる力量のある方なのかもしれませんね。
次は是非是非、感動モノの傑作長編!期待しましょう~。
ではでは、また何か読みましたらお邪魔させて下さい!