郷愁~『小さな中国のお針子』

BALZAC ET LA PETITE TAILLEUSE CHINOISE
「何がお前を変えた?」 「バルザック」
1971年、文化大革命下の中国。知識階層は「反革命分子」とされ、山奥の貧村
へ「再教育」の名の下に下放されていた時代。医者の息子であるルオ(チェン・クン)
とマー(リィウ・イエ)も、その過酷な試練にさらされていた。そんな二人の前に、
山向こうの村からやってきた美しいお針子(ジョウ・シュン)が現れる・・・。
在仏中国人作家ダイ・シージエの原作『バルザックと小さな中国のお針子』を、
著者自身が脚色・監督した作品。瑞々しい自然を美しく捉えた映像、琴線に触れ
る恋、若さゆえの痛みと芸術への憧憬が、柔らかなヴァイオリンの調べとともに
情感込めて描き出される珠玉の佳編。この映画大好きです!
文革の時代の物語は悲惨で重いものが多く、あまり好んでは手に取らない。
本作も、ルオとマーが苦役に従事させられる冒頭は胸が痛む。しかし、お針子が
登場した途端、物語は活き活きと、軽快に動き始める。

電気もなく、時計すら存在しないような山奥の村。都会っ子のルオとマーには、
世界の果てに置き去りにされた気分だったことだろう。唯一の救いはマーが奏で
るヴァイオリンと、お針子に読み聞かせる西洋小説だった。
リィウ・イエとチェン・クンの二人がとてもいい。長身で控えめなマーと、虚弱だ
が小賢しいルオ。お針子への思いを真正面からぶつけるルオ、恋心を内に秘め、
何十年も抱き続けるマー。特に監督の実体験が投影されたリィウ・イエの繊細な
演技、低音のナレーション、何度か繰り返される「ぶっかっち」(結構ですよ、お構
いなく)が快く響く。
二人の青年に囲まれたお針子も、天秤にかけるような真似はしない。ルオと結
ばれ、バルザックを好きになり、マリンルックが僻村に溢れる場面は微笑ましい。
文盲で無学な村長たちも、映画の話を聞きたがり、モーツァルトのメヌエットを
美しいと感じることができる、愛すべき温かいキャラクターだ。悲惨な時代であ
っても、人々の良心的な感情やユーモアを損なうことなく描き出しているところ
にも好感する。

お針子を助けたいと産婦人科を訪ね、医師の朗読する小説の一節に涙するマー。
あの時代、どんなに求めても得られなかった「自由」への渇望。「生まれ変わった」
お針子のために、悲しい記憶を甦らせる音楽を封印するため、身体の一部以上の
存在であるヴァイオリンを売ったマー。お針子を変えたのはバルザックではなく、
友情と愛情のために、自らを犠牲にすることも厭わないマーの思いやりだったの
かもしれない。
三峡ダム建設のために、沈み行く再教育の村。パリのマー、上海のルオ、そし
て香港に去ったというお針子の思いは、永遠に湖底に留まる。辛い記憶、封印し
てきた過去は去り、ノスタルジーだけが恋の輪郭をなぞり続ける。。
そして、彼女なくしてはこの映画の成功はなかったとさえ思える、ハマリ役の
ジョウ・シュン。永作博美に似ているといつも思うけれど、長い髪を切り、前髪
を縛った彼女は「千秋」に見えてしまった。
(『小さな中国のお針子』監督・原作・脚本:ダイ・シージエ/
主演:ジョウ・シュン、リィウ・イエ、チェン・クン/2002・仏、中国)
- 関連記事
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trackback
昨日のレディース・デイ・・・「ウィンター・ソング」観てきました♪
純愛映画というイメージが漂っているけれど、
結構生々しいお話であり...
2008-04-30 16:34 :
ちょっとお話
小さな中国のお針子
¥4,441
BALZAC ET LA PETITE TAILLEUSE CHINOISE
フランス 2002年
ジョウ・シュン、チュン・コン、リィウ・イエ、ワン・シュアンバオ、ツォン・チーチュン??
監督・脚本・原作:ダイ・シジエ 『中国、わがいたみ』
【ストーリ
2008-04-30 21:47 :
映画を観よう
「山の郵便配達」に映像とか雰囲気が若干似てるな~と思いましたが、内容は全然違っていました(当然だけれど)
風景は、すごく綺麗で、山水画の様な緑と嶮しい山、霧、階段など映画館で見たらさぞ素晴らしかっただろうな~と思いました。
何というか、まあ普通に面白く...
2008-04-30 21:57 :
ポコアポコヤ
〈小さな中国のお針子〉…題名も何だか魅力的です。監督が原作者だというのも興味が湧きます。〈文化大革命〉時代の中国は色々な形で作品になる現代です。
出演: ジョウ・シュン (小さな小針子)
チュン・コン (ルオ)
リィウ・イエ (マー)
2008-05-13 17:20 :
Maria
中国の植物学者の娘たちの,ダイ・シージエ監督作品。原作は同じくシージエ氏のフランス語の著作「バルザックと小さな中国のお針子」だそうだ。 解説: 1971年、文革の嵐が吹き荒れる中国。青年マー(リウ・イエ)とルオ(チュン・コン)は医者を親に持つことから、反革...
2009-03-09 20:57 :
虎猫の気まぐれシネマ日記
コメントの投稿
お邪魔します~
真紅さんの感想を拝見してあらためて
この作品の良さがわかったように思います。
お針子を変えたのはマーの思いやり・・・
って、深いわ~~~。
彼女・・・可愛かったですよね。
↑写真でみて再確認。
千秋にもそういえば・・・。。。
童顔っていいな~~~笑
真紅さんの感想を拝見してあらためて
この作品の良さがわかったように思います。
お針子を変えたのはマーの思いやり・・・
って、深いわ~~~。
彼女・・・可愛かったですよね。
↑写真でみて再確認。
千秋にもそういえば・・・。。。
童顔っていいな~~~笑
2008-04-30 16:32 :
みみこ URL :
編集
そうですね♪
すごく胸がキュンとした作品でした♪
真紅さんの記事を読むと、心に引っかかっていた表現できない気持ちがスッと解けていくようです♪
真紅さんの記事を読むと、心に引っかかっていた表現できない気持ちがスッと解けていくようです♪
真紅さま、こんばんは~。
確かに千秋にも似てる!
この映画、細部は忘れてしまっていますが、欧米人が撮った中国映画・・って雰囲気があったな~と記憶しています。
確か25日くらいに、「中国の植物学者の娘たち」がレンタル開始になったので、ぜひぜひ借りて見てみたい!と思っています。
確かに千秋にも似てる!
この映画、細部は忘れてしまっていますが、欧米人が撮った中国映画・・って雰囲気があったな~と記憶しています。
確か25日くらいに、「中国の植物学者の娘たち」がレンタル開始になったので、ぜひぜひ借りて見てみたい!と思っています。
みみこさま、こんにちは。コメントとTBをありがとうございます。
監督は「一冊の本がいかに人の人生を変えうるか」が描きたかったテーマだと語っていらっしゃるのですが、やっぱり人と人との触れ合いが一番だと思うんですよね。
童顔で小柄な人、私も羨ましいですよ~。
ちなみに私は、どちらにも当てはまりません。。
ジョウ・シュンみたいな人って、50代くらいになっても「可愛い」ですよねきっと! いいな~。。
ではでは、またです~。
監督は「一冊の本がいかに人の人生を変えうるか」が描きたかったテーマだと語っていらっしゃるのですが、やっぱり人と人との触れ合いが一番だと思うんですよね。
童顔で小柄な人、私も羨ましいですよ~。
ちなみに私は、どちらにも当てはまりません。。
ジョウ・シュンみたいな人って、50代くらいになっても「可愛い」ですよねきっと! いいな~。。
ではでは、またです~。
Dさま、こんにちは~。コメントとTBをありがとうございます♪
これは胸キュンですよね~。
私もなかなか感じたことを表現しきれないですが、感動した映画はなんとか記事にして伝えたい!って思います。
後ほどお伺いしますね、ではでは~。
これは胸キュンですよね~。
私もなかなか感じたことを表現しきれないですが、感動した映画はなんとか記事にして伝えたい!って思います。
後ほどお伺いしますね、ではでは~。
latifaさま、こんにちは~。コメントとTBをありがとうございます。
千秋は、初めて思いました。やっぱ永作ちゃんですよね~。
四川省の田舎の人たちを、あんまり泥臭く描いていなかったですよね。
衣装とかもかわいかったし。。あのマリンはとってもかわいかった!
そうなんです、その映画、もうDVDのレビューをアップされてるブロガーさんがいらして、私も観たいな~と思ってました!
『長江哀歌』も未見なんで、早く観たいです~。
ではでは、またお伺いしますね~。
千秋は、初めて思いました。やっぱ永作ちゃんですよね~。
四川省の田舎の人たちを、あんまり泥臭く描いていなかったですよね。
衣装とかもかわいかったし。。あのマリンはとってもかわいかった!
そうなんです、その映画、もうDVDのレビューをアップされてるブロガーさんがいらして、私も観たいな~と思ってました!
『長江哀歌』も未見なんで、早く観たいです~。
ではでは、またお伺いしますね~。
真紅さま
この真紅さまのレヴューの photo を観た時から観てみたいと思っていました。ヤット観る事が出来ました。良い作品でした。ヴァランスがとれています。映像、ストーリー、音楽、色々なエッセンスが詰め込まれているのに、主軸の三人から外れる事無くユッタリとした流れで描かれていました。〈ノスタルジーだけが恋の輪郭をなぞり続ける〉なる程、真紅さまらしい素敵な表現ですね。
私にとってもお気に入りの一作となりました。
この真紅さまのレヴューの photo を観た時から観てみたいと思っていました。ヤット観る事が出来ました。良い作品でした。ヴァランスがとれています。映像、ストーリー、音楽、色々なエッセンスが詰め込まれているのに、主軸の三人から外れる事無くユッタリとした流れで描かれていました。〈ノスタルジーだけが恋の輪郭をなぞり続ける〉なる程、真紅さまらしい素敵な表現ですね。
私にとってもお気に入りの一作となりました。
2008-05-13 17:29 :
Maria URL :
編集
Mariaさま、こんにちは~。コメントとTBをありがとうございます!
ご覧になったのですね。気に入られたようでとてもうれしいです♪
悲惨な時代の物語なのに、どこか牧歌的な雰囲気もある素敵な映画だと私も思います。
こういう、一人の人をずーっと、ず~っと想い続ける。。。っていう話に弱いんですよ。
「愛を胸に秘める」っていうのが・・。ううう。
ではでは、後ほどお伺いしますね~。
ご覧になったのですね。気に入られたようでとてもうれしいです♪
悲惨な時代の物語なのに、どこか牧歌的な雰囲気もある素敵な映画だと私も思います。
こういう、一人の人をずーっと、ず~っと想い続ける。。。っていう話に弱いんですよ。
「愛を胸に秘める」っていうのが・・。ううう。
ではでは、後ほどお伺いしますね~。
こんばんは
その後,体調はいかがでしょうか?
私は劇場鑑賞は控えて代わりにDVD三昧の日々です。
この作品も最近やっと最後まで観ました。
いつもなぜか途中でやめていたのですよ・・・
ラストに近づくほどに,しみじみと心に沁みる作品なのにね・・・・。
リウ・イエにプラトニック・ラブを演じさせたら
右に出るものはおりません。
そんな役ばかり3作も観ましたが
どの作品の彼の演技もそれぞれ切なくて。
大好きな俳優さんです。
この物語,「お針子」という題でも
主演はマーですね・・・・
この監督さんの作品は中国を扱っていても
どこかヨーロッパ風の雰囲気がただよい
それは監督さんがフランス在住の方だからでしょうけど
「中国の植物学者の娘たち」もとってもよかったです。
その後,体調はいかがでしょうか?
私は劇場鑑賞は控えて代わりにDVD三昧の日々です。
この作品も最近やっと最後まで観ました。
いつもなぜか途中でやめていたのですよ・・・
ラストに近づくほどに,しみじみと心に沁みる作品なのにね・・・・。
リウ・イエにプラトニック・ラブを演じさせたら
右に出るものはおりません。
そんな役ばかり3作も観ましたが
どの作品の彼の演技もそれぞれ切なくて。
大好きな俳優さんです。
この物語,「お針子」という題でも
主演はマーですね・・・・
この監督さんの作品は中国を扱っていても
どこかヨーロッパ風の雰囲気がただよい
それは監督さんがフランス在住の方だからでしょうけど
「中国の植物学者の娘たち」もとってもよかったです。
2009-03-09 20:55 :
なな URL :
編集
ななさま、こんにちは~。コメントとTBをありがとうございます。
体調、私はまぁまぁなんですが、家族が大怪我したりして大変です。。
DVD三昧、いいですね~。
実はテレビも壊れていて、DVDを観られません(爆)。
画像がめちゃめちゃ悪くて・・・。
早く買い換えたい~。一刻も早く!!!
買ったのはいいけど観てないDVDが溜まってます。
PCの調子も悪くて、DVD再生できないんですよ。。ああ~~。
と、愚痴ばっかりになってしまいましたが・・・。
この映画大好きです。
ななさんが初見って意外です。
リウ・イエいいですよね~。彼の声が好きだな~。
『中国の~娘たち』も観たい観たいと思いつつ・・。テレビ買い替えたら観ます(笑)。
ではでは、後ほどお伺いしますね~。
体調、私はまぁまぁなんですが、家族が大怪我したりして大変です。。
DVD三昧、いいですね~。
実はテレビも壊れていて、DVDを観られません(爆)。
画像がめちゃめちゃ悪くて・・・。
早く買い換えたい~。一刻も早く!!!
買ったのはいいけど観てないDVDが溜まってます。
PCの調子も悪くて、DVD再生できないんですよ。。ああ~~。
と、愚痴ばっかりになってしまいましたが・・・。
この映画大好きです。
ななさんが初見って意外です。
リウ・イエいいですよね~。彼の声が好きだな~。
『中国の~娘たち』も観たい観たいと思いつつ・・。テレビ買い替えたら観ます(笑)。
ではでは、後ほどお伺いしますね~。