逞しくて不幸な女~『ワンちゃん』

第138回芥川賞候補作(受賞作は『乳と卵』)。著者は中国籍で、日本の大学に
留学後定住し、母国語でない日本語で小説を書いているという。
主人公「ワンちゃん」は中国出身。遊び人のヒモ夫に愛想を尽かし、と言うよりも
夫の女性問題と底知れぬ金の無心に恐怖を憶え、故郷も一人息子も捨て、逃げる
ように見知らぬ異国・日本に嫁いで来た。閉鎖的な田舎町、無口な夫、「家具のよう
な」夫の兄と同居する毎日に、おしゃべりな姑だけが心の慰め。その姑も入院してし
まう・・・。
男女の機微も何もわからぬまま出来婚し、夫に裏切られ、働きづめに働いても
掴めない幸せ。どこまで逃げても夫が追ってくる、この国には逃げ場が無いと感
じるワンちゃんの絶望が切なく、悲し過ぎて胸に迫る。「そんなに働いて、何かいい
ことあった?」追い討ちをかけるような息子の言葉の残酷さ。
しかし、ワンちゃんは弱く逃げるだけの女ではない。自立すべく、異国で結婚斡旋
業を始めるのだ。応募してくる中国の田舎町の女たちの事情がまた、辛く哀しい。
そしてミイラ取りがミイラになり、更に苦しむワンちゃん・・・。
芥川賞の選評では、日本語が未成熟であるというのが大方の落選理由だった。
しかし小説の核心やテーマ性は多くの選考委員が認めるところで、「中身はある
のに技術がない」という評が的を射ているのだろう。なかなか引き込まれて読んだ。
単行本に併録されている書き下ろし作品『老処女』(しかし凄いタイトルだな)も、
40代半ばで異国に暮らす高学歴独身女子の恋愛妄想があまりと言えばあまりに
痛い。逞しいだけでも、弱いだけでも、美しいだけでも、頭がいいだけでも、子ど
もを産んでも産まなくても、易々と幸せにはなれない。価値観が多様化し、混沌
としたこの時代。女は一体、どう生きればいいんだろう。
(『ワンちゃん』楊逸・著/文藝春秋・2008)
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