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映画が大好きです。いつまでも青臭い映画好きでいたい。 記事は基本的にネタバレありです by 真紅 (言葉を探す人)   ★劇場鑑賞した映画は Instagram にアップしています @ruby_red66 ★Stay Blue

伝説のはじまり~『鰐~ワニ~』

鰐


 CROCODILE


 漢江の橋の下に住むホームレスヨンペ(チョ・ジェヒョン)は、川に身投げした
遺体から財布を抜き取ったり、同じくホームレスの少年にガムを売らせたりして
糊口をしのぐ「悪い男」。ある日、若い女が川に身を投げる。彼女を助け上げ、陵辱
するヨンペ。女は別の男の名を呼ぶ。「ジュノ・・・」。

 韓国の鬼才「忠武路のワニ」ことキム・ギドク監督デビュー作。昨年日本でも
遂に劇場初公開され、ギドクマニアの間で大きな話題となった作品をようやくDVD
にて鑑賞。水辺、小動物、青、痛み、怒り、性と生。映画デビュー作ながら、現在
に至る「ギドクテイスト」満載の一作。主演はギドクの初期作品に欠かせない存在
であり、「ギドクのペルソナ」とも呼ばれたチョ・ジェヒョン。若い。

 デビュー作でこんな作品を撮ってしまったら、当時は本国でさぞかし毀誉褒貶
凄まじかっただろう。男は常に凶暴で粗雑で激高していて、自分よりも弱い立場
のもの(女、老人、少年)から惜しみなく奪う。暴行を受け、一度は死を覚悟した
女は助けられ、さらなる暴行を受ける。しかしヒョンジョンという名の女はそこから
去ることなく、男と老人、少年と四人の奇妙な共同生活を始める。言葉少なに
うっすらと笑みさえ浮かべ、同じラーメンの鍋を囲むのだ。

 普通に考えてみれば、こんな酷い話もない。「女をバカにしてんのか!」という
声が聞こえてもおかしくはない。しかし、そんな(私の)小賢しいフェミニスト的感覚
を吹き飛ばしてしまうほど、ギドクの映画には恐るべきパワーがある。一度嵌ると
抜け出せない、麻薬のような中毒性。この魅力は、一体何なのだろう?

 私が初めて観たギドク作品は『悪い男』だった。トラックが遠景になってゆくあの
ラストシーンを観た時の衝撃は忘れられない。「こ、これは究極の恋愛映画だ!」
という思いと、そう思う自分への戸惑い。以来、私はギドクのになった。

鰐2

 本作は、ストーリーとしては分かり難い部分(子どもを使った殺し屋が突然出て
来たり、ヨンペが牢獄からすぐに解放されたり)があったり、ご都合主義的な流れ
になってしまっている部分もある。しかし、そんなの全てを帳消しにしてしまうほど、
幻想的で印象的な美しい場面がある。の上では常に苛立っているヨンペが、
の中で見せる穏やかで安らいだ表情
。ゴミが浮き、濁って見える川も、潜ってしまえ
ば清らかで美しい。その「青い世界」こそが、人間本来の棲家だと言いたげに。

 漢江に架かる大きな橋が見えて、グエムル-漢江の怪物-を思い出す。
ギドクは最先端のVFXも巨額の製作費も使うことなく、これからも怪物よりも恐ろ
しい「人間の業」
を描き続けてゆくのだろう。ついて行きますよ。

『鰐~ワニ~』監督・脚本:キム・ギドク
        主演:チョ・ジェヒョン、ウ・ユンギョン/1996・韓国)
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テーマ : 韓国映画
ジャンル : 映画

2008-03-10 : BD/DVD/WOWOW/Streaming : コメント : 12 : トラックバック : 8
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「鰐」キム・ギドク感想と、ラストのシナリオ部分
キム・ギドク監督の初作品「鰐」(Crocodile 악어)1996を見ました。いつものように、韓国版と韓国版のシナリオを見ながらでした。今まで...
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2008-03-30 04:52 :           
鰐 -キム・ギドク-
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2008-04-09 19:37 : y(o)u\'s-films-for-y(o)u
 コチラの「鰐」は、韓国の鬼才キム・ギドク監督の幻のデビュー作です。ガス・ヴァン・サント監督の「マラノーチェ」同様、製作からだいぶ経ってやっと日本で公開されたと言ういきさつがあります。多作なギドク監督ですから、なかなかコンプリートするのが大変ですが、着...
2010-01-28 20:36 : ☆彡映画鑑賞日記☆彡
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非公開コメント

真紅さま~、ついて行きますよ、って言葉が、妙に面白かったです^^ でも、私もそうです。ついて行きます~★
そうそう、麻薬の様な中毒性がありますよね!
どんな作品を作ってくれるのか、毎回楽しみな監督さんです。
オダギリジョー主演の映画、どんな風になってるのかな~?
ブレスの感想、楽しみに待っていますねー
2008-03-10 21:49 : latifa URL : 編集
latifaさま、こちらにもコメント&TBをありがとうございます。
「ついていきます」じゃなくて、「観続けます」の方がよかったですかね(笑)。
でも、ギドクに対しては何か、応援したい・・って気持ちもあるのかな。
一緒について行きましょうね~♪
『非夢』だったかな? オダジョーの映画。もう撮影終わったんですかね。
どんな映画なんでしょうね~、楽しみです!
その前に『ブレス』ですよね、観に行けますように・・・(祈)。
ではでは、またです~。
2008-03-11 09:41 : 真紅 URL : 編集
真紅さん、あにょんはせよ~
デビュー作からこんなにもパワフルでオリジナリティにあふれていて圧倒されましたね。
本作を観たら、ギドクがグエムルに対して発言をせずにいられなかったことが理解できました。
さて、ブレスは5月公開ということでこれまた楽しみです♪
2008-03-11 12:55 : かえる URL : 編集
真紅さま、こんばんは!
この作品、つたない感じがしますでしょう?
物語的に、要らない部分もあったり、ついていけなかったりしますし、音楽としてはちょっとイケてなかったりして。。。

その一方で、後から考えても、常に常に強烈な印象があって、薄れることかないんですよ。ギドク作品て。不思議ですよね。
心の奥底にある、しまっておきたい何かに似ているんです。

この作品なんてまさに、川底に思いが沈みこんでしまいましたでしょう。
私の思いも、一緒にココに居そうですよ。
2008-03-11 18:18 : とらねこ URL : 編集
絵画のようなラストが凄いです
ギドク監督
私も最初に観たのが『悪い男』でした
困りました、自分の感情を整理できなかったから(汗)

素手で心を鷲づかみにされたような
恐ろしいまでの衝撃が残る監督作品、私もついていきます~~


2008-03-12 09:10 : D URL : 編集
かえるさま、あんにょん~♪ コメント&TBをありがとうございます。
オリジナリティ、そうですね~。このパワー、一体どこから湧いてくるのでしょう。
私はちょっと『グエムル』には乗れなかったので、ますますギドク寄りになってしまいます。
『ブレス』、もう待ち切れません~、期待でいっぱいです。
楽しみですね、ではでは~。
2008-03-12 09:30 : 真紅 URL : 編集
とらねこさま、こんにちは~。コメント&TBをありがとうございます。
そうですね、まだケツアオな感じというか、未熟さも感じますね。
音楽!そうそう、もう「え?!」って笑いそうになったような・・・。
ギドクの魅力って、その捉えどころのなさかもしれないですね。
作品ごとに似たようなテーマであり、だと思うと急に裏をかかれるような作品だったり・・・。
心の奥底にある、しまっておきたい何か・・・。それは「情念」とか、そんな感じかな?
私も、実は川底の住人なのかもしれません。
あー、早くコンプリートしたいな~。
ではでは、またお伺いしますね!
2008-03-12 09:36 : 真紅 URL : 編集
Dさま、こんにちは~。コメント&TBをありがとうございます。
この作品、ご覧になっていたのですね!
『悪い男』、衝撃でしたよね。。ホント、凄い監督ですよ。。。
うれしい~、Dさまもご一緒ですね♪ 私も、ず~っと観続けたいです。
後ほどお伺いしますね。ではでは~!
2008-03-12 09:43 : 真紅 URL : 編集
お邪魔します~
デビュー作品からギドクテイスト満載だと
なんだかうれしくなってしまいますね。こうやって
色々見てから最初に戻ってみるという
鑑賞方法はいいですよね。
色々な発見があるしね。
↑に挙げているグエムル・・・未見なんですよ。
ちょっとああいう路線は苦手で・・
やっぱり怪物より人間の恐ろしさの方が見応えありますものね・・。
2008-03-13 09:35 : みみこ URL : 編集
みみこさま、こんにちは。コメントとTBをありがとうございます。
そうなんです、デビュー作がなかなか公開されませんでしたものね。
なんと言っても『悪い男』が強烈でしたから・・・。
もっと早い方は『魚』ですよね。あれもどんだけ~ってくらい凄いですが。
『グエムル』はね、評判いいですよね。
私は個人的に乗れなかったのですが、ポン・ジュノ監督も新作は絶対に観たい方です。
ギドクももちろん、これからも観続けたいですね♪
ではでは、またです~。
2008-03-13 16:42 : 真紅 URL : 編集
おぉ~!そうですかぁ。
真紅さんの初ギドクは「悪い男」かぁ。
あれも強烈だよねぇ。
あたしは「魚と寝る女」です。
やっぱり初期の頃の方がヒドイっちゃ~ヒドイお話なのだけど、
個人的には初期の方が好みだったりします。
2010-01-28 20:38 : miyu URL : 編集
miyuさん、こんにちは~。コメントとTBをありがとうございます。
そう、『悪い男』。あれめっちゃ衝撃作だったな~、自分の中では。
でも『魚と寝る女』もたいがいやんね(笑)。痛いよね。。
私も、ここ数作のギドクの作品にはちょっと「?」な部分があります。
なんか、主人公が男前過ぎる、とか(笑)。
でも、次回作待ってるんだよね、これが・・・。
2010-01-28 22:30 : 真紅 URL : 編集
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