哀しみの青~『キムチを売る女』
キムチを売る女


 GRAIN IN EAR
 
 芒種



 中国の田舎町で、息子を一人で育てながら無許可でキムチの露天商をする朝鮮族
の女性、チェ・スンヒ(リュ・ヨンヒ)。男たちによって蹂躙される彼女の孤独な生き様を、
乾いたタッチで静かに見つめるアート映画青みがかった映像、少ないセリフ、性と
暴力、春をひさぐ女たち
キム・ギドク作品と大いに通じるものを感じた。作家性が強く
エンタメ性は皆無
であるため、賛否が分かれることは必至。監督は自らも朝鮮族であ
る中国のチャン・リュル

 タイトルからして韓国映画だとばかり思っていたが、映画の最初のセリフ、子どもたち
の唄う歌がどうも韓国語に聴こえない。ここでやっと、これは中国の朝鮮族を描いた
作品
なのだと気付く。

 数年前、韓国語を習っていたときの先生が朝鮮系の中国人女性だった。彼女は
留学中の学生であったから、半年ほど通ったところで先生の卒業と共に講座は終わ
ってしまった。「お前は朝鮮族なんだから、ハングルを覚えなさい」息子のチャンホ
厳しく躾けるスンヒを見ながら、先生のことを少しだけ思い出してしまった。

キムチを売る女2

「テレビでしか見たことがなかった」と言われてしまうほどに、マイノリティである
朝鮮族。夫は人を殺めて罪を受け、母子で故郷を離れたことがほんの少し、スンヒ
の口から語られる。スンヒはシングルマザーであり、露天商の許可証も、テレビも
ない困窮した生活。そこで差し伸べられる手はスンヒの身体を「見返り」として求め、
工場で働く同胞の男キム愛人関係となりながらも、無残に裏切られる

 映画はしかし、彼女の絶望悲哀も、セリフや表情のアップで追うことはしない。
固定カメラで絵画的なアングルを切り取り、登場人物たちはその枠の中で静かに、
でも確かに生きている。理不尽な運命に翻弄されながらも、スンヒは涙を流したり、
感情をあらわにすることはない。ただ、息子を喪うまでは

 窓枠や鶏、椅子や自転車など、「青」が印象的に多用されている。装飾のない、
シンプルな画面と斬新な構図
が、言葉にならない感情や悪意、憎悪を示唆する。
キム・ギドクのように、監督は映画作りに関しての専門教育を受けていないらしい。
余計な技術や知識がない分、作家性が全面に押し出されたアート色の強い作品
として成功しているのではないだろうか。

 ラストシーンの長回しは圧巻。断ち切るような終わり方も、スンヒの行き場のない
絶望
のようで・・・。しばし、呆然とする。

『キムチを売る女』監督・脚本:チャン・リュル/2005・中国、韓国/
                主演:リュ・ヨンヒ、キム・パク、ジュ・グァンヒョン)
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テーマ:韓国映画 - ジャンル:映画

[2008/03/05 09:42] | DVD/WOWOW | トラックバック(5) | コメント(12) |
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コメント
またまた気になる作品を!!
真紅さんの記事に含まれた作品への愛情が静かに伝わってきます♪
どんな映像なのか・・どんな青なのか・・
すごく気になりました!
[2008/03/06 16:58] URL | D #k0GcsowQ [ 編集 ]
こんばんは。青が印象的でしたのね・・・。
うーん、そのあたりの事はあまり記憶にないです;・・・が、いやに鮮明で渇いた空気感を感じたのは覚えてます。
いわゆる韓流ドラマ的ではない、絵画的な映像が私はすこぶる気に入ったのでした。
カメラがとらえる構図も素晴らしいものがありましたね。
[2008/03/06 21:01] URL | シャーロット #gM6YF5sA [ 編集 ]
真紅さん、こんばんは。
おお、真紅さんは、韓国語を習われていたのですねー。きむちー。
そうそう、キム・ギドクっぽいテイストですよね。
私はこないだ 『トゥヤーの結婚』を観たのですが、主人公の強さを見てか、ふとキムチを売る女のことを思い出してしまったりしました。
アジアといえば、湿度を感じさせるものが多いですが、こういう乾いた感じもまたたまりませんよねー。
[2008/03/06 23:01] URL | かえる #LkZag.iM [ 編集 ]
Dさま、こんにちは~。コメントありがとうございます!
この映画、「どマイナー」なんですけど(笑)、ある映画ライターの方が「韓国アート映画の傑作」として昨年のベスト作に挙げてはったんですよ。
確かに、ものすご~く「アート」な映画でした♪
DVDレンタルされておりますので、是非ご覧下さいませ!
ではでは、またです~。
[2008/03/07 11:00] URL | 真紅 #V5.g6cOI [ 編集 ]
シャーロットさま、こんにちは。コメント&TBをありがとうございます。
映画冒頭に青い窓枠が出てきて、それがもうすごーく綺麗だったんですよ。
乾いた感じも物凄くしましたね。風がいつも吹いているような・・・。
扇風機もずっと回っていましたし。
映像が、一つ一つ画のようでしたよね。「アート映画」ってこういうことを言うのかー、と滅茶苦茶腑に落ちました。
スクリーンで観られて、うらやましいですわ。
ではでは、またお伺いします~。
[2008/03/07 11:17] URL | 真紅 #V5.g6cOI [ 編集 ]
かえるさま、こんにちは~。コメント&TBをありがとうございます。
そうなんです、ちょっとだけハングル習ってたんですよ。
今はフランス語がやりたいです。サヴァ?
『トゥヤーの結婚』、新聞で沢木耕太郎氏が取り上げていたので気になっています。
こちらでももうすぐかな? でも観に行くのは厳しいかな・・。
中国のどの辺りかは明示されてませんでしたが、内陸の砂漠っぽいところでしたね。
麦畑もありましたが、水気はなかったですよね。
なかなかの、アート魂炸裂映画でした。
ではでは、またお伺いします~。
[2008/03/07 11:32] URL | 真紅 #V5.g6cOI [ 編集 ]
真紅さん、こんにちは~
私もちょうど少し前に観たばかりで、印象深い作品でした。
淡々と寡黙な映像に見入ってしまいましたし
ラストの絶望には息が詰まりました。
でも次作もきっと観るだろうなと思うくらい、惹き付けられました。
[2008/03/08 03:45] URL | fizz♪ #0HzTjQFo [ 編集 ]
fizz♪さま、こんにちは!コメントありがとうございます。
DVDでご覧になったのですね。こういう作品がDVDレンタルで観られるって、本当にいい時代だな~と思いますよね。
とってもアートでマイナーですが、力強い作品だったと思います。
ラストはもう、言葉がなかったですね・・・。
アジアンな映画も、これからもたくさん観たいと思っています。
またお付き合い下さいね、ではでは~。
[2008/03/08 10:05] URL | 真紅 #V5.g6cOI [ 編集 ]
tbありがとう。
ロシアの方にも、朝鮮民族がいますね。
昔、ソ連時代の体操選手で、キムという人がいて、僕はわりと、ファンでした。
[2008/03/08 15:21] URL | kimion20002000 #y32QDcNk [ 編集 ]
kimion20002000さま、こんにちは。こちらこそコメントとTBをありがとうございます。
アジア系でも名前でわかりますね。
韓国・北朝鮮はユーラシア大陸の一部で、地続きですから移民が多いのでしょうか。
この映画では、祖先の食文化や言語を大切に守っている印象でしたね。
[2008/03/10 08:05] URL | 真紅 #V5.g6cOI [ 編集 ]
真紅さん、今晩は。
この映画はとても良くできていると思うのですが、ほとんど娯楽性がないせいか取り上げている人が少ないのが残念です。
真紅さんはラストを絶望的と受け取りましたか。確かに僕も最初はそんな印象を受けたのですが、何でも解釈しないと気がすまない病に取り付かれているので、アレコレ考えているうちに希望的な解釈にたどり着きました。
アート色の強い映画ではありますが、淡々とした中に残るごつごつした後味の正体を突き止めようと頭を絞ってみました。もっと感覚的に受け止める方がふさわしい鑑賞態度なのかもしれませんが、身についた癖は取れないもので・・・。
[2008/03/28 18:54] URL | ゴブリン #2YYP0Fkg [ 編集 ]
ゴブリンさま、こんにちは。コメントとTBをありがとうございます。
ほとんど娯楽性がない、「アート映画の極北」と言わせていただきます(笑)。
こういう映画がDVDレンタルで観られるということに感動します。
いい時代ですね~。
もっと、いろんな方に観ていただきたいですよね。
タイトルがちょっとベタなので、損している部分もあるのかも・・・。

「何でも解釈しないと気がすまない病」そうなんですか~。
しかし、映画を観る上で、自分の感じたこと、胸に残った何かを言葉に置き換える作業って、とても大切な気がします。
消費するように映画を観るのも自由ですが、考えることで見えてくるものも必ずあると思うので・・。
後ほど伺わせていただきますね。ではでは!
[2008/03/28 19:39] URL | 真紅 #V5.g6cOI [ 編集 ]
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[2008/03/28 00:13] 銀の森のゴブリン
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いつまでも青臭い映画好きでいたい。愛おしい映画と、忘れがたき本たち。ときどきカフェとか。 記事は基本的にネタバレあり。 どうぞご贔屓に♪

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