詩の魂は蝶の夢を見る~『夜になるまえに』

BEFORE NIGHT FALLS
キューバからアメリカに亡命し、ニューヨークで自由を得ながら47歳の若さで
この世を去った作家、レイナルド・アレナスの自伝小説の映画化。極貧の幼少時代
から詩作の才能を現していたレイナルドはキューバ革命を経て、カストロの社会主義
政権下で成長する。芸術家は「反革命分子」として迫害される国で、同性愛者でも
あったレイナルドは逮捕・投獄される・・・。
2000年のヴェネチア映画祭に於いて、男優賞と審査員グランプリをW受賞した
名作。主演はご存知スペインの名優、『ノーカントリー』で遂にオスカー・ウィナー
となったハビエル・バルデム。監督は『潜水服は蝶の夢を見る』のジュリアン・シュ
ナーベル。
つい先日、フィデル・カストロはキューバ国家評議会議長を退任する旨の声明
を発表した。東西冷戦、ソ連の国家崩壊、アメリカによる経済制裁といった国際
情勢の波にもまれながらも、半世紀に及ぶ社会主義独裁体制を貫いたキューバ
という国。そこで生まれた「詩の魂」は、生きながら葬られることを拒否し、果てし
ない自由を求めた。

キューバ情勢については全く詳しくはないけれど、この映画に描かれているよ
うな迫害が「革命」の名の下に行われていたことに、驚きと怒りを憶える。独裁者が
才能ある人間から芸術を奪おうとしても、抑圧されたエネルギーは力を蓄え、更
に優れた芸術を生む。
レイナルドの生き様は、私たちに「芸術は死なない」ことを教えてくれる。作家は
人間の最後の職業だと誰かが言っていたけれど、プライバシーも灯りもない監獄
の中で、ただ紙とペンを持ち、言葉を綴り続けたレイナルドは徹頭徹尾、作家以外
の何者でもない。たとえ友人の言葉を盗んででも、作家で在り続けようとするその
執念!

この映画では、ジョニー・デップが女装の囚人と同性愛者の軍人という二役で
出演していることでも興味津々だった。ジョニーはどんな役柄でも怜悧な美しさ
を醸し出し、特別な才能とオーラを持った俳優だと改めて感じる。そして私がジョ
ニー以上にその登場に驚喜したのが、レイナルドの初恋(?)の少年カルロスを
演じたディエゴ・ルナ!出演しているのは知らなかったので、若き日の彼が観ら
れてうれしかった。
亡命後のレイナルドの生活は詳細には描かれないが、キューバで暮らしていた
時よりも幸せだったとは決して言い切れないだろう。自由には代償が伴う。病に
倒れたレイナルドが、保険がないことで病院から追い出されるのが何とも切なく
やり切れない。彼を看取ったラサロ・ゴメス・カリレス(オリヴィエ・マルティネス)
が、脚本で本作に参加しているのにもまた感動してしまう。
政治的な「反カストロ」よりも、「芸術の自由」を訴えるメッセージをより強く感じ
た作品。耐え難い痛み、絶望、闘い、渇望、終焉。片時も芸術への憧れを失わな
かった一つの魂が、ハビエル・バルデムの名演と詩的に描き出された映像により、
見事に甦っている。
(『夜になるまえに』監督:ジュリアン・シュナーベル/
主演:ハビエル・バルデム、オリヴィエ・マルティネス/2000・USA)
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テーマ : この映画がすごい!!
ジャンル : 映画
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ハビエル・バルデム、2000年のアカデミー主演賞ノミネート作品。レイナンド・アレナス、キューバの亡命作家を、確かな演技力で魅せている。ハビエル・バルデムってば、顔がメチャ濃くて・・・目も口も超~大きくて、鼻はそびえ立つ彫刻か、モアイ像か、てなぐらいに大作り...
2008-03-01 14:39 :
レザボアCATs
日記:2008年8月某日 映画「夜になるまえに」を見る. 2000年.監督:ジュリアン・シュナーベル(つい最近「潜水服は蝶の夢を見る」を見た). 出演:ハビエル・バルデム(レイナルド・アレナス),オリ
2008-08-08 22:48 :
なんか飲みたい
コメントの投稿
真紅さま、こちらの作品も、ジュリアン・シュナーベルの監督作品として、なかなかの出来だったと思いませんか♪
そうなんですよ、ハビエル・バルデムが出演していて、そのために手に取ってみたのでした。
レイモンド・アレナスにしろ、ジョン・ドーにしろ、バスキアにしろ、
ジュリアン・シュナーベルにとって、男の人生の真の勇気ある姿、というものをまっすぐに見つめる人なのだろうか、と思います♪
そうなんですよ、ハビエル・バルデムが出演していて、そのために手に取ってみたのでした。
レイモンド・アレナスにしろ、ジョン・ドーにしろ、バスキアにしろ、
ジュリアン・シュナーベルにとって、男の人生の真の勇気ある姿、というものをまっすぐに見つめる人なのだろうか、と思います♪
とらねこさま、こちらにもコメント&TBをありがとうございます。
これは、ハビエルさん熱演でしたね。
今旬(?)の、キューバに関するお話でもあり、興味深かったです。
ジュリアン・シュナーベルの描く映画は、今のところ全て実在の人物が主人公なのですね。
皆、アーティストであり、「真の勇気ある」男たちなのでしょうね。
『バスキア』面白くないのですか? うーん、でもいつか観たいです。
ではでは、またお伺いしますね。
これは、ハビエルさん熱演でしたね。
今旬(?)の、キューバに関するお話でもあり、興味深かったです。
ジュリアン・シュナーベルの描く映画は、今のところ全て実在の人物が主人公なのですね。
皆、アーティストであり、「真の勇気ある」男たちなのでしょうね。
『バスキア』面白くないのですか? うーん、でもいつか観たいです。
ではでは、またお伺いしますね。
ごめんね、記事あげていたんですね。遅くなりましたけど、コメント。
これ原作読まれました?
まだだったら是非読んで欲しいわ。
ハビエルが検閲所かな真っ赤なパンツはいてオカマ歩きするシーン、上手いなって思った。
原作読むとどれだけの弾圧をかいくぐってきたか、痛いほどです。<映画はいま一つと言うところだったかな>
これ原作読まれました?
まだだったら是非読んで欲しいわ。
ハビエルが検閲所かな真っ赤なパンツはいてオカマ歩きするシーン、上手いなって思った。
原作読むとどれだけの弾圧をかいくぐってきたか、痛いほどです。<映画はいま一つと言うところだったかな>
シュエットさま、こちらにもコメントをありがとうございます。
原作は読んでいないのですよ。映画より凄い弾圧なのですか・・・。
ハビエルは凄い俳優さんですね。『海を飛ぶ夢』もビックリでしたが、『ノーカントリー』では炸裂していました。
出国のときに、「ホモセクシュアルだ」って申請するんですよね。
映画としてはバランスが悪かったのかな? でも『潜水服~』にしろ、ジュリアン・シュナーベルの志は素晴らしいと思います。
ではでは、またです~。
原作は読んでいないのですよ。映画より凄い弾圧なのですか・・・。
ハビエルは凄い俳優さんですね。『海を飛ぶ夢』もビックリでしたが、『ノーカントリー』では炸裂していました。
出国のときに、「ホモセクシュアルだ」って申請するんですよね。
映画としてはバランスが悪かったのかな? でも『潜水服~』にしろ、ジュリアン・シュナーベルの志は素晴らしいと思います。
ではでは、またです~。