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映画が大好きです。いつまでも青臭い映画好きでいたい。 記事は基本的にネタバレありです by 真紅 (言葉を探す人)   ★劇場鑑賞した映画は Instagram にアップしています @ruby_red66 ★Stay Blue

「Ture」でなく壮絶な「REAL」~『シティ・オブ・ゴッド』

ナイロビの蜂』のフェルナンド・メイレレス監督の前作で、世界をアッと驚かせた
というこの作品。普段は観ないジャンルの映画だが、監督に敬意を表して鑑賞する。
 ブラジル映画といえば、ウォルター・サレスの『セントラル・ステーション』しか
観た記憶がない。これはちょっと地味だけれど、カサヴェテスの『グロリア』が元ネタ
か?とも思われる大好きな作品。すると『シティ・オブ・ゴッド』のオープニング・
クレジットでウォルター・サレスの名前が出てきて驚いた(製作総指揮であるらしい)。

 「シティ・オブ・ゴッド」とは、物語の舞台となるブラジルの貧民街。そこで育った
幼いギャングスター達によって繰り広げられる、終わりなき暴力、強盗、殺人
写真家を夢見る少年ブスカペを語り部に、綿密に組まれたストーリーを、時間軸を
バラバラにしながらスピーディな展開で描いてゆく。主な登場人物は、ギャングの
ボスにのし上がるリトル・ゼ、その相棒ベネ、彼らに対抗するセヌーラ一派。
 基本的には、果てしない暴力の連鎖と憎悪の再生産を描いているのだが、少年達
の友情や恋への憧憬、喪失感なども描かれ、「ギャング映画」でありながら「青春群像
の側面も併せ持ち、僅かな救いとなっている。

 冷酷に殺人を繰り返すリトル・ゼに対し、相棒のベネが「お前も恋人を作れ」と言う
場面が心に残る。他人を蹴落とし、のし上がることでしか生きられないリトル・ゼ
には、他人を「愛する」という意味が終生わからなかったのだろう。敵か、味方か。
やるか、やられるか、それだけだ。迷子のようなリトル・ゼの表情。そこには相棒を
失う寂寥感と、愛への飢餓感が滲んでいる。

 打ちのめされるように画面を凝視しつづけていたら、ラストで「BASED ON REAL STORY
とクレジットが出る。これはただの「実話」でなく、「REAL」=「現実」なんだ。
 感動したわけではない。共感などできるわけがない。涙も出ない。ただただ、凄い
映画
。凄まじい現実。

 悲惨で正視できないような現実を描きつつも、乾いた空気感と美しく凝った映像
そしてあまりに完璧な構成とで、不思議と後味は悪くない。いや、悪くないなどという
中途半端な言葉ではなく、監督の志と力量にただ脱帽、と言うべきかもしれない。
 
 ブラジルといえば、サンバ、ボサノヴァ、セレソン、アイルトン・セナくらいの
イメージしかなかった。地球の裏側で、今この時も起こり続けているだろう惨劇。
僅か2時間余りでその現実を世界に知らしめるこの作品を、傑作という以外にどう
形容すればいいのだろう。フェルナンド・メイレレス監督の次回作が待ち遠しい。

(『シティ・オブ・ゴッド』監督/フェルナンド・メイレレス、
 主演/アレクサンドル・ロドリゲス、レアンドロ・フィルミノ/2002・BRASIL)
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テーマ : 映画感想
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2006-06-12 : BD/DVD/WOWOW/Streaming : コメント : 6 : トラックバック : 2
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シティ・オブ・ゴッド
(ネタバレしてないつもりですが…)60年代末のブラジル、リオ郊外のスラム街。名前は「神の街」。黄色い大地には、その大地と同じ色の壁の上に橙色の屋根を被った平屋が大地を埋め尽くすように整然と並んでいる。その夥しい数の平屋は一軒一軒が小さく、どれも皆同じ...
2007-06-13 00:14 : Have a movie-break !
シティ・オブ・ゴッド@我流映画評論
前回紹介した「バス174 」に続き、同じくブラジル映画「シティ・オブ・ゴッド」を紹介します。まずはストーリーを・・・60年代後半のブラジル、リオデジャネイロ郊外の公営住宅「シティ・オブ・ゴッド」に 集まった貧しい少年たちは、強盗、殺人にも手を染めるチンピラばか
2007-10-12 16:16 : ジフルブログは映画・音楽・札幌グルメを紹介|GFL BLOG
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真紅さん、こんにちは。
「シティ オブ ゴッド」・・・。
雑誌などでかなり高評価なのはよく知っていたのですが、どういう映画なのか知れば知るほど観る決心が鈍ってしまって、結局公開時には観ないで終わってしまいました。そしてレンタルビデオ屋さんでも何度も手にとっては棚に戻すということを繰り返していたのですが(気になるんなら観れ!と自分でつっこみたくなります・・・)、やっぱり観ることにします!感想をもし書けたら真紅さんのところにTBさせてくださいませ~。(予約TB???)それでは今日はこの辺で。
2006-06-12 22:16 : かいろ URL : 編集
かいろさん、こんにちは。コメントありがとうございます。
この作品に関しては、私もかいろさんと同じような気持ちで長い間未見でした。
『ナイロビの蜂』の拙エントリにいただいたウンジュンさんという方からのコメントで、この作品は「必見」であるとのご意見をいただき、鑑賞する勇気?が出ました。
もしよかったらコメント欄参照してみて下さい。
確かに、(一般的な意味で)女性向けの映画ではないと思います。でもたまにはこういった作品も観て、地球の裏側に今この時、起こっていることに思いを馳せることも必要かな、と思いました。
先日も、サンパウロで大きな事件がありましたよね。本当に、現実なんですよね。
機会があれば観てみて下さいね。映画的には本当によくできている(完成度の高い)映画だと思いますし。その節はTBもお待ちしております。
ではまた覗いてみて下さいね。ありがとうございました。
2006-06-13 01:06 : 真紅 URL : 編集
これは・・・
凄い・・・ですよね!

いいとか悪いとか。映画としてどうとか・・
そんな感想を言うのが可笑しいくらい、スゴイ

あの太陽の日差しすら感じる映像
妙に軽快で気分が高揚する音楽
そんななかで起きる現実の世界

言葉で表現できません
そして「ナイロビの蜂」
ほんとうにすごいです
2007-04-19 23:59 : D URL : 編集
Dさま、こんにちは~。コメントありがとうございます。
ご覧になったのですね!私もこの映画には度肝を抜かれました。
すごく悲惨な現実を描写しているのですが、映像がスタイリッシュですよね。
編集も素晴らしくいい。
そして間違いなく青春映画である・・・。
本当にすごい映画です。
メイレレス監督の次回作、早く観たいです!
ではでは、またお話しましょう~。
2007-04-20 15:48 : 真紅 URL : 編集
真紅さん、こんにちは。
真紅さんのおかげでまた心に残る映画に出会えました♪
映る現実が確かに衝撃でしたが
あまりにも映像が美しいというか、その感覚に痺れました。
そしてその手法でこの過酷な現実を描いて見せてくれる映画に感動しました。
>地球の裏側で、今この時も起こり続けているだろう惨劇…
そうですよね、このままでいいのか…という大切なメッセージですよね。
気が付きませんでしたが、サレスが総指揮でしたか。
『セントラルステーション』私も好きです♪
TBさせて頂きました。
2007-06-13 00:30 : fizz♪ URL : 編集
fizz♪さま、こんにちは。コメント&TBをありがとうございます。
いえいえ、おかげだなんてとんでもないです。。
そうなんですよね、映像・編集、ものすごくスタイリッシュな映画ですよね!
監督・スタッフの勇気に感動です。
ブラジルは、きっと今でもこの映画で描かれた状態とあまり変わっていないのではないでしょうか?
考えさせられます。
『セントラル・ステーション』はいい映画ですね。趣味合うね~(笑)
ではでは、また遊びに来て下さい!
2007-06-13 09:42 : 真紅 URL : 編集
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