命のつながり~『海を飛ぶ夢』
海を飛ぶ夢


 MAR ADENTRO


 事故により、20数年間寝たきりで過ごすことを余儀なくされた男性が、「尊厳ある生」
を求めて闘う、スペインの実話に基づく物語。主演のハビエル・バルデムはその演技
が絶賛され、監督・脚本のアレハンドロ・アメナーバルとともに数々の賞を受賞した。
また、アメナーバルは編集・音楽まで担当している。まさに恐るべき才能! アカデミ
ー賞外国語映画賞受賞作品


 こういった「尊厳ある生き方とは?」という主題の物語は、観る人の立場によって様々
な評価がなされると思う。本作も、公開当時は絶賛とともに否定的意見もあったに違い
ない。自ら死を望む主人公ラモン・サンペドロ。彼の生き方を、あなたはどう感じただろ
うか。


 若い男性が首から下の機能を全て失う、という悲劇。一体、どれほどの絶望感と
後悔
が彼を苛んだだろう。諦観に包まれたラモンの穏やかな微笑みは、多くの女性
たちを彼の元に引き寄せる。

海を飛ぶ夢2

 尊厳死支援団体のジェネ不治の病を抱える弁護士のフリア、孤独なシングルマザ
ーのロサ
、義理の姉で、ラモンを「本当の息子のように」献身的に介護するマヌエラ
ロサに電話するラモンをフリアが詰問し、ラモンの介護に手を貸そうとするロサにいい
顔をしないマヌエラ。彼を巡る、女たちの不思議な関係。実際、ラモンには少なくとも
5人の恋人がいたのだという。

 車椅子を嫌い、外出をせず自室でのみ過ごすラモンが、想像の世界で自由に羽ばた
く場面
が美しく感動的だ。韓国映画『オアシス』の名場面を思い出す。窓を飛び出し、森
を越え、大好きな海で愛するフリアを抱き締める。この浮遊感、映画館で観たかったな
と思う。

海を飛ぶ夢3

 観ている途中から涙が止まらなかった。生きるってどういうことだろう?

どうして、ニュースで聞く見ず知らずの人の死に胸が痛むのだろう? 人はどうして
死を恐れるのだろう? 身体の自由を失ったとき、死を望むのは許されることなのだ
ろうか?

 
 ラモンの言葉は哲学的で、心にダイレクトに響いて観るものを揺さぶる。彼は言う、
「死は生の一部であり、我々の中にあるのだ」と。だから自分が死を望むことは、生の
尊厳を守ることだと
。そんな彼を全否定する神父「絶対に死ぬことは許さない」と怒
りをぶつける兄。「彼が望むことが大切」と静かに見守るマヌエラ。ラモンと旅立つ日
約束しながら、夫の元で生を全うすることを選ぶフリア。

 自ら死を選んだラモンも、記憶を失いながら生きるフリアも、どちらが善くてどちら
が悪い、という二分法では片付けられない問題だと思う。人の数だけ人生はあるし、
死もある。どんな生き方、死に方を選択するのも自由だともいえるし、与えられた生
を全うすべきだという考えもある。それぞれが、否定されたり、非難されることなく
尊重されるべきなのだ、と強く思う


 命は繋がっているのだと思う。それは家族の中で単に「血」が繋がっているという
次元ではない。人種も宗教も時代も越えて、命は繋がっている。だから誰かの「死」
は、私自身の死でもある。生命の源である、そこへいつも還りたかったラモン。
彼の死と、ジェネと弁護士の間に新しく生まれた命を同時に描くことで、監督も「命
のつながり」
を描きたかったのではないだろうか。そしてそこにはいつも「海」があ
る・・・。


 年若い甥、ハビを見守るラモンの眼差しと、彼に贈った言葉が胸に迫る。ラモンの
乗った車を、目に涙を浮かべて追いかけるハビ。命だけでなく、愛情もまた確かに、
繋がっている。


『海を飛ぶ夢』監督・製作総指揮・脚本・編集・音楽:アレハンドロ・アメナーバル
      主演:ハビエル・バルデム、ベレン・ルエダ/2004・スペイン、伊、仏)
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テーマ:考えさせられた映画 - ジャンル:映画

[2008/02/12 09:30] | DVD/WOWOW | トラックバック(11) | コメント(14) |
<<Valentine's day, 2008. | ホーム | 浜野佐知さんを知っていますか~『女が映画を作るとき』>>
コメント
 真紅さん、こんにちわ
 「海を飛ぶ夢」は以前DVD鑑賞して内容ははっきり覚えてないですが、とてもいい映画、考えさせられる映画だったなあという感想を持っています、(最近見たのでは「ある愛の風景」のような)もう1度絶対に見たい映画です。(きっと初見時より好きになりそう)
 これ系の映画にありがちな主人公が頑張りすぎる映画でなくてよかった、飾り気のない正直な演出や脚本で、面倒を見る側の兄たちの心情もちゃんと描かれていて、
 主役のスペイン人俳優は「ノーカントリー」の助演男優ですよね、アカデミー特集番組でのインタビューの時は渋いイケメン?でしたね。「ノーカントリー」も楽しみなんです。(コーエン兄弟好き「ファーゴ」好き)
[2008/02/12 13:06] URL | イニスJr #- [ 編集 ]
お邪魔します~
色々な人たちが、それぞれの立場で
生きること、死ぬことを考えていましたよね。
どの人に肩入れするかでまた感想も変わってきて。そういう意味では、奥深い映画だと
思いました。命はつながっている・・という
真紅さんの言葉に、大いに頷いて
しまいました。悲しいだけで映画では
なかったですね。
ハビエル・バルデムの変わりようにビックリ~~でした☆
[2008/02/12 15:37] URL | みみこ #- [ 編集 ]
これは解釈の難しい作品ですね。「死によって僕は生きる」、そう謳う主人公の気持ち。僕には解りません。毎日、毎日が辛かったのでしょう。一生寝たきり・・・。だからこそ、死によって、自分を解放したかった。海を泳ぎたかった。
[2008/02/12 16:08] URL | マキシ #- [ 編集 ]
イニスJrさま、こんにちは。コメントありがとうございます。
おっしゃる通り、とてもいい映画でした。考えさせられますね。
DVDには監督コメンタリも付いていたのですが私は聴けてないのですよ。
若いのにとっても才能ある監督さんなので、是非聴いてみたいです。
ラモンの周囲の人たちがいろんな考えを代弁していましたね。
そうなんです、『ノーカントリー』の前にこれが観たくて(笑)。
『夜になる前に』も観ないといけないのですが、時間が・・・。
『ノーカントリー』3月ですよね。私も楽しみです!
ではでは、またお話しましょう~。
[2008/02/12 16:42] URL | 真紅 #V5.g6cOI [ 編集 ]
みみこさま、こんにちは。コメント&TBをありがとうございます。
そうですね、監督もラモンが正しいと位置づけているわけでもなく、それぞれの人の立場や考えを描いていたと思います。
でも、周りはみんな揺れましたよね。最後まで、徹頭徹尾揺れなかったのはラモンだけだったかもしれません。
確かに、悲しいだけでもなく、人生の美しさや素晴らしさも感じられました。
ハビエル・バルデム、いい俳優さんですよね。『ノーカントリー』観れるといいのですが。
ではでは、またお伺いします!
[2008/02/12 16:47] URL | 真紅 #V5.g6cOI [ 編集 ]
マキシさま、初めましてこんにちは!コメントありがとうございます。
確かに、観る人の立場によって解釈が変わってくる映画だと思います。
ラモンは車椅子が嫌いで、家にこもっていたことも死への願望を強めたのかもしれないですね。
でも、彼に「外へ出ろ」と言うのも酷のような気もするし・・・。
「死んだら何も無い」と言っていたのも心に残りました。
考えさせられる映画だったと思います。
よろしければまた遊びにいらして下さいね。ではでは。
[2008/02/12 16:52] URL | 真紅 #V5.g6cOI [ 編集 ]
真紅さま~、この映画は色々な事、考えさせられました・・・。
今の日本では、認められない尊厳死を、世界の中で幾つかの国は許可しているんですよね・・・。
私的には、日本も、尊厳死を認めてくれる方がいいな・・って思っています。

そうそう!私もね、潜水服・・を見に行こうと、前から楽しみにしていたんですよ。
でもね・・・おすぎが、あちこちで、すんごい強力お薦めしてるのが、密かにあんまり嬉しくなかったりします。
[2008/02/12 20:08] URL | latifa #SFo5/nok [ 編集 ]
コメ&tbありがとう。
とても考えさせられる映画でしたね。
「死」は死者の側にはなく、残された側の記憶の中にあります。
しかし、死の直前の選択は、意識がある限り、その人間の選択の範囲にあると思います。
[2008/02/12 22:45] URL | kimion20002000 #y32QDcNk [ 編集 ]
真紅さん こんにちは~♪
この作品、こうした障害のある人物をメインに持ってきていながら、いわゆるきれいごとだけで描いていないところに感銘しました。
尊厳死という難しいテーマでもありましたが、それを超えてとっても深い作品でしたよね。
[2008/02/13 16:10] URL | なぎさ #- [ 編集 ]
latifaさま、こんにちは。コメント&TBをありがとうございます。
お返事が遅くなってごめんなさい!
本当に、難しい問題だと思います。自分がそうなったら、家族がそうなったら・・・。
考えるとなかなか答えはでないですよね。
私も、尊厳死は認めて欲しいと思う派かもしれないです。

おす○さん、『潜水服』そんなに強力プッシュしてるんですかー!
私はピー○さんの方が「いいのよ~」とおっしゃっているのをチラリと観ました。
まぁ、彼ら(彼女ら?)は「賑やかし」ですから、割り切って楽しみに観ましょうね♪
ではでは、またお伺いします~。
[2008/02/14 14:07] URL | 真紅 #V5.g6cOI [ 編集 ]
kimion20002000さま、こんにちは。こちらこそコメント&TBをありがとうございます。
確かに、誰もまだ今生では死んだことがなんですよね。だから死は想像の中にしかないのですよね。
直前の選択。意識がなくなる前に意思表示しておくことが大事だと思います。
少なくとも、私はそうしたいです。
ではでは、またお伺いします。
[2008/02/14 14:10] URL | 真紅 #V5.g6cOI [ 編集 ]
なぎささま、こんにちは~。コメント&TBをありがとうございます。
そうなんです、「尊厳死」がテーマなんですが、生きることと死ぬこと、命について本当に考えさせられました。
まさに「生きている不思議、死んでゆく不思議」でしたよね!
こういう作品、また観たいです~。
ではでは、またお伺いしますね!
[2008/02/14 14:21] URL | 真紅 #V5.g6cOI [ 編集 ]
ゴメンね、こちらにも、毎日来れないから見過ごしてしまって(ペコリ)
これは「死ぬ事由」本当jに考えさせられた。生きるのです、と言葉で言うのは簡単だけど……
俺が面倒見ると、気持ちは分かるけど、感情論で弟を説得しようとする兄に比べて、彼が何をするのか全てを知って、義弟の思いを確実に受け止めて、黙って彼を見送る兄嫁。この潔さは女の潔さだなって思ったわ。
[2008/03/19 22:02] URL | シュエット #- [ 編集 ]
シュエットさま、こちらにもありがとうございます。
いえいえ、いつでもどの記事にでも大歓迎ですよ♪
この映画、男と女で受け止め方が微妙に違うかも?と私も思いました。
やっぱり、マッチョな考え方をする傾向のある方は、ラモンを受け入れられないのかな、と・・・。
お兄さんは経済的な柱ではありますが、現場を担っているのは女、兄嫁ですからね。
女の方が現実的といわれますが、それは分担の違いでもあるのかもしれませんね。
なんか、ジェンダー論みたいになってしまいましたが・・・。
素晴らしい映画だったと思います。沁みました。
ではでは!
[2008/03/20 10:30] URL | 真紅 #V5.g6cOI [ 編集 ]
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