パンクは死なず~『ペルセポリス』
ペルセポリス


 PERSEPOLIS


 パリ、オルセー空港。望郷の念にかられた一人の女性がやってくる。彼女が空港
のベンチで回想する、自身の思春期イラン激動の時代。監督であるマルジャン・
サトラピ
自伝的グラフィック・ノベルを原作とする、革命や戦争という時代の波に
翻弄
されながらも、両親と祖母の愛情に支えられ精神の自由を失わなかった一人
の少女の成長物語。2007年、カンヌ映画祭で審査員賞を受賞、ゴールデングローブ
では外国語映画賞、アカデミー賞では長編アニメ賞ノミネート(レミーの強敵?!)
されている話題作。ペルセポリスとは、ギリシア語でペルシアの都市のこと。

 ヨーロッパのアニメ作品を、劇場鑑賞したのは初めてかもしれない。ジブリやピク
サーによる色鮮やかで実写以上の臨場感を持つCGアニメを見慣れているからか、
モノクロでシンプルな描線の画がとても新鮮に感じられた。また、アニメは吹き替え
で観る機会が多いせいか、画面に集中しながら字幕を読むのに少しだけ戸惑って
しまう。今回はフランス語版での鑑賞だったが、英語版ではショーン・ペンイギー
・ポップ
が参加しているという。より「パンク」な仕上がりになっているのではないかな。
そちらも観て(聴いて)みたいと思う。

ペルセポリス2

 革命国家間の争いで、傷ついたり翻弄されるのはいつも一人ひとりの人間たち。
石油利権武器貿易が戦争を引き起こしているという現実。飲酒や西洋文化を禁じ
られ、抑圧されながらも知恵と勇気を絞り、逞しく生き抜く市井の人々。それらが
一人の等身大の少女の目線で、ユーモアたっぷりに綴られてゆく。

 主人公マルジの祖母が、人生の節目節目で彼女にかける言葉が胸に沁みる。
「いやな思いをしたら、相手が愚かなのだと思いなさい」「一度目の結婚は予行演習、
二度目はもっと素晴らしくできる」
大切なのは世間体ではなく、常に自分自身に対し
公明正大であること。志半ばで死んでいった者たちのことを忘れないこと。自分が
今、生かされていることを感謝すること・・・。

 また、登場する女性たちがヴェール(スカーフ、チャドル、マグナエ)に対して強い
反発を抱いていることも印象的だった。パリ、ジュテーム「セーヌ河岸」に出て
きた少女は「自分の意思で」ヘジャブをかぶっていたけれど、マルジたちはヴェール
女性に対する抑圧の象徴だと感じている。度々出てくる「ヴェールを被り直せ」
いう言葉。その度に、マルジの中で「ここは自分の居場所ではない」という思いが
膨らんでゆく。

ペルセポリス3

 マルジは最後に「自由は代償を伴うもの」と悟る。祖国との決別は、家族との決別
でもある。人生の師であった祖母を喪っても、彼女は自身が「イラン人」であることに
誇りを持ち、これからも自分の居場所を探し続けるのだろう。生きるということは、死者
と語ることだということ。マルジの胸の中で、祖母は死ぬことはない。ジャスミンの花
咲き、香り続けるように。ド下手な『アイ・オブ・ザ・タイガー』には大爆笑。原作も、是非
読んでみたいと思います。

『ペルセポリス』監督・脚本:マルジャン・サトラピ、ヴァンサン・パロノー
          原作:マルジャン・サトラピ/声の出演:キアラ・マストロヤンニ、
               カトリーヌ・ドヌーヴ、ダニエル・ダリュー
/2007・仏、米)
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テーマ:ヨーロッパ映画 - ジャンル:映画

[2008/02/02 16:19] | 映画 | トラックバック(11) | コメント(17) |
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コメント
真紅さま、こんばんはv-284
チャドルを被る話、『パリ・ジュテーム』を思い出してしまいましたよね。私もです。
女性で、綺麗な髪を出すことが出来ない、というのは、なんだか異国である私からしてみたら、とてももったいないことのように思えます。

私も、あのど下手な『アイ・オブ・ザ・タイガー』には笑いました。BGMのああいう使われ方は、珍しいかもしれませんね☆
これは見て良かった、と思える映画でした。フランス語でパンクというのもなかなかクールでよかったですね。
[2008/02/02 22:57] URL | とらねこ #.zrSBkLk [ 編集 ]
真紅さんTBとメッセージありがとう。
サトラビ監督って、素敵な方ですね。イランではやはり住めなかったでしょうね。彼女のご両親もとても精神的には辛い思いで過ごしているでしょうね。表現の自由を奪われるって、キューバ革命後のカストロ政権下でもでも「苺とチョコレート」や亡命作家レイナルド・アレナスを描いた「夜になるまえに」などでも描かれていて。なんでも自由な日本の平和ボケ痛感します。「苺とチョコレート」は見られました?ゲイのアーティストと共産主義者の青年のあったかい友情を描いた作品。好きな作品です。
[2008/02/03 11:42] URL | シュエット #- [ 編集 ]
とらねこさま、こんにちは~。コメント&TBをありがとうございます。
『パリ、ジュテーム』では、あまりにも女の子がかわいかったので「もったいない・・」と思った私です。
でも、「そうか、自分の意思」なのか・・・と納得もしたのですが、この映画では全く逆でしたね。
同じイスラム圏の女性でも、いろいろですよね。それが当たり前なんですが。。

私も、とっても観てよかったと思っています☆
アニメって軽んじられてしまうところがあると思うのですが、実写以上に心に響いたり、アニメにしかできない表現もありますもんね。
ではでは、またお伺いします~。
[2008/02/03 11:59] URL | 真紅 #V5.g6cOI [ 編集 ]
真紅さん、こんにちは♪
私も原作を読んでみたくなりました。
おばあちゃんの言葉はマルジだけではなく、全ての人に聞かせたい言葉ですね~。
正しい目を持つ人というのは宗教とか文化に関係なくいるんだな~と思いました。
下手すぎる「アイ・オブ・ザ・タイガー」には大笑いしちゃった。
[2008/02/03 12:04] URL | ミチ #0eCMEFRs [ 編集 ]
シュエットさま、こんにちは~。こちらこそコメント&TBをありがとうございます。
寒いですね~、しかも雨ってテンション下がりまくりです。。
素晴らしいご両親でしたね。国を出ても「タクシーの運転手と掃除人にでもなるのか」っていうセリフも考えさせられました。
移民(難民)は知識レベルが非常に高い人でもブルーカラーで働かざるをえない、と『こわれゆく世界の中で』のコメンタリでアンソニー・ミンゲラが語っていたのを思い出しました。
『苺とチョコレート』確か以前もオススメいただきましたが、まだ観てないんです!
『夜になる前に』は『潜水服~』の前に観ておかないと・・・と思いつつ。。
またお伺いしますね。ではでは~。
[2008/02/03 12:04] URL | 真紅 #V5.g6cOI [ 編集 ]
ミチさま、こんにちは~。コメント&TBをありがとうございます。
寒いですね~、ミチさまのところは雪ではないでしょうか。
あんな素敵なおばあちゃんがいて、マルジは幸せですよね。。
おばあちゃんの言葉を映画にして、多くの人に伝えようとしたマルジも素晴らしいです!
『虎の目』もう、ヤケクソで(笑)。面白かったですね。
ではでは、またお伺いします~。
[2008/02/03 12:10] URL | 真紅 #V5.g6cOI [ 編集 ]
真紅さん、こんばんは。
今日は実写のイラン映画を観てきましたー。、
戒律の厳しい国に暮らすことは本当に大変だなぁとしみじみ思います。
でも厳しさを経験してこそ、到達できる世界もあるのかもしれませんね。
アニメーションは(も)ハリウッドものよりも、フランスやチェコのものがお気に入りの私ですー。
[2008/02/03 23:44] URL | かえる #LkZag.iM [ 編集 ]
真紅さん、こんばんは☆
とても素敵な成長物語でしたね。
過去があってこそ、現在の自分がある。
そして自由を得ることは、その土台の上に成り立つのですよね。
キアラのアイ・オブ・ザ・タイガーをはじめ、爆笑ポイントも色々ありましたし(笑)
そしてお祖母ちゃんの気骨溢れるコメントの
数々も印象的でした。
英語版のイギー・ポップは、一体誰の役なのでしょうか??
[2008/02/04 23:42] URL | sally #- [ 編集 ]
かえるさま、こんにちは。コメント&TBをありがとうございます。
レスが遅くなりました、ごめんなさい!

実写のイラン映画、いいですね!麻生さんの主演作かな?
日本にいると、自由で楽な部分が多いのですが、多様な文化や価値観の存在に気付きにくくなりますよね。
映画がそこを補ってくれていると感じます。
ハリウッドや日本以外のアニメも、今後は観ていきたいです!
ではでは、またお邪魔しますね。
[2008/02/05 09:16] URL | 真紅 #V5.g6cOI [ 編集 ]
sallyさま、こんにちは!コメント&TBをありがとうございます。
マルジは、イランではとても恵まれた環境にいたと思うのですが、そこに決して甘えてなかったことに好感しました。
『虎の眼』以外にも腋毛ユラユラとか、王子だった彼氏が振られた途端ブ男になるところとか、もう、爆笑でした。
でも、おばあちゃんの言葉にジーンとして、中東の歴史にも触れられて・・・。
いい映画でした。お得映画ですね(笑)。
イギーは、投獄されたマルジの叔父さん役のようですよ。どんな感じでしょうね、興味あります。
ではでは、後ほどお伺いします~。
[2008/02/05 09:26] URL | 真紅 #V5.g6cOI [ 編集 ]
「潜水服~」からみで。
「夜になるまえに」のハビエル・バルデム主演の「海を飛ぶ夢」は見られたっけ?比較的最近作(でもないかな)だから見られてると思うんだけど…。こちらは尊厳死、死ぬ権利を扱った作品でテーマは違うけど主人公のおかれた状況は「潜水艦~」とよく似ている。もし未見ならこちらもオススメだわ。
[2008/02/05 16:39] URL | シュエット #- [ 編集 ]
真紅さん、続きいいかな?
ヴェールのこと。
宗教的な意味合いもあるんですよね。
「パリ、ジュテーム」では、異国の地にあって自らの民族のアイデンティティを示すものとして彼女は被っている。民族、宗教、そして個人の意思。
単純には括れない問題ですよね。
[2008/02/05 16:48] URL | シュエット #- [ 編集 ]
シュエットさま、こんにちは。再びのコメントありがとうございます!
『海を飛ぶ夢』未見です!ハビエル・バルデムは『ノーカントリー』で「思わず笑ってしまうほど怖い殺人鬼」を演じているそうで、これも観ないと~、と思っていました。
数年前、もう韓国映画「しか」観ない時期があって、いろいろと見落としてるんですよ。

ヴェールは、そうですね、宗教的な意味合いが強いと思います。
マルジは、イスラム教を国教とする国で、(精神的に、心の中では)無宗教だったということなのでしょうか。
ドライヴしながらヴェールを外したり、おばあちゃんが「早くマグナエを外しなさい」と言う場面などがとても印象的だったんです。
宗教の自由って、当たり前のことじゃないんですよね。
そんなことも考えさせられる映画でした。
ではでは、またお伺いします。
[2008/02/05 17:31] URL | 真紅 #V5.g6cOI [ 編集 ]
真紅さん、こんばんは★
ともすれば重くなってしまう題材ながらマルジの明るい性格とシンプルながら味のあるアニメーションでおしつけがましくないステキな作品でした。
好きだった男の子と別れた途端、彼の顔が変化しているのがツボで。
それにしてもおばあちゃんはステキでしたね。
[2008/02/14 20:59] URL | sabunori #JalddpaA [ 編集 ]
sabunoriさま、こんにちは~。コメント&TBをありがとうございます。
そうですね、すごく重い内容なのに、アニメという手法で軽やかに見せてくれました。
味がある、本当にその通りですね。
王子から超ブ男への変化、私も笑いました。
原作との違いなんかも、できたら記事にしたいと思います。
ではでは、またお伺いします~。
[2008/02/15 09:24] URL | 真紅 #V5.g6cOI [ 編集 ]
このコメントは管理人のみ閲覧できます
[2008/02/26 21:56] | # [ 編集 ]
管理人宛に鍵コメント下さった方へ。ありがとうございました。
ご紹介いただいた本のことは知りませんでした。
是非探して読んでみたいと思います。
ではでは!
[2008/02/27 08:53] URL | 真紅 #V5.g6cOI [ 編集 ]
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