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映画が大好きです。いつまでも青臭い映画好きでいたい。 記事は基本的にネタバレありです by 真紅 (言葉を探す人)   ★劇場鑑賞した映画は Instagram にアップしています @ruby_red66 ★Stay Blue

世界はこんなにも美しい~『モンド』

モンド3


 MONDO


 南仏の海辺の町に、黒い瞳と黒い髪を持つ一人の少年がやって来る。何処から
来たのか、家族はいるのか、誰にも、彼自身にもわからない。少年の名は「モンド」。
雑踏を彷徨い、海岸や庭先で眠り、市場をうろつく彼は、いつのまにか町の人々
心に溶け込んでゆく・・・。

 フランスの作家、ル・クレジオ『海を見たことがなかった少年~モンドほか少年
たちの物語』
の一編を、トニー・ガトリフが映像化した作品。画面から溢れそう
な南仏の光、雨水や波、沈む夕日、雑草の葉脈の一筋まで、瑞々しく自然を捉え
た映像が素晴らしい。ロマの少年である「モンド」、彼を彩るロマ音楽の調べも、ど
こか懐かしくやさしく響く。大人はもちろん、子どもでも十分理解可能なストー
リー
ではあるが、詩的で哲学的な作品でもある。それでいて心の奥、深い部分に
沁み渡り、忘れ難い印象を残す佳作。今、心が少し弱くなっている全ての人に観
て欲しい。愛する人との別離を経験したり、大切な人を喪ったり、家庭や学校で
疎外され、自分にはどこにも居場所がないと思っている人に。世界はこんなにも
美しく輝いていて
、誰もが心の中に「思い出の石」を持っていることを思い出させ
てくれるはずだから。
 私ももちろん、何度でも観たい。原作も読みたいと思う。こういう映画こそが、
真の意味でスピリチュアルな作品なんじゃないだろうか。超オススメです。

モンド1

 何と言っても、モンドの笑顔が素晴らしい。彼に微笑みかけられると、誰でも
その瞳の虜にならずにはいられないだろう。自然と共に生き、自由を謳歌してい
るように見える彼。しかし、時折見せる物憂げな表情や暗い瞳、「ボンジュール、僕
を養子にして」
という言葉に切なくなる。港で釣りをする「船のない水夫」や、時折
英語をしゃべり、つがいの鳩とともに生きるホームレスの「ダディ」、不法移民であ
「大道芸人」。どこか世間から距離を置いて生きている彼らと、モンドは心を通わ
せる。小宇宙のような彼らを取り巻く世界と、幸福な季節は永遠に続くかのよう
に思われたけれど・・・。

 そこには、「あっ!!」と驚く一瞬が待っている。

 モンドを屋敷に迎え入れるティ・チンも、カルフールのある町にはどこかそぐ
わない風貌の女性。「お前を待っていたのよ」「どこにも行かないで」それでもモンド
は安住することなく、孤独を愛するように路地へと飛び出してゆく。

 ストリートに生きるモンドを見ながら、トランシルヴァニアヴァンダナを思
い出さずにはいられない。ジンガリナと共に生きる道を選ばず、彼女の元を走り
去ったヴァンダナ。もしかしたら、彼女もモンドと同じ「生き物」だったのかもしれ
ない。

 トニー・ガトリフは、その作家性が色濃く作品に投影される映像作家だと思う。
描きたいテーマへのアプローチは全く違うけれど、どこかキム・ギドク作品にも
共通する、独特の個性を感じる。彼らは映画作家としては異端なのかもしれない、
それでも彼らの描く「世界=MONDO」に、どうしようもなく惹かれ、囚われてし
まうのだ。。抗いようのない、その圧倒的なパワーに。

モンド4

 はみ出し者を受け入れない世界は、徐々に荒廃してゆく。それは、枠に囚われ
ない人間を疎外する「非寛容の精神」が、諸刃の剣となって世界を傷つけるからなの
だろう。失って初めてわかる、ささやかで大切なものの存在。でも、きっと・・・。
信じて待っていれば、必ずまた会えるだろう。扉を開き、信じて待つものの元へ
と訪れるだろう。


”Toujours beaucoup”

『モンド』監督・脚本:トニー・ガトリフ/原作:ル・クレジオ
                主演:オヴィデュー・バラン/1996・仏)
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2008-01-08 : BD/DVD/WOWOW/Streaming : コメント : 6 : トラックバック : 3
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うお~~~~!!懐かしいっ!!!
そうだ、そうです、この子でした。うん、うん。
キラキラした映像、そうそう・・・たしか、水に映ってる自分を見ているシーンだったか・・・、海だか、井戸だかの、水の中にモンドが入っているんだったかな・・?そういうシーンがあったような。(お恥ずかしい・・・殆ど忘れちゃってる自分に、呆れてます・・)
音楽ももの哀しい、たしか中東系のがかかってた・・・と思うんですが(さだかではない・・・・(^^;)

こういう、詩的に見せてくれる系の映画って、結構好きです~。しかしながら、今一度見てみたいです(見なければ!と思ってます)
2008-01-08 16:57 : latifa URL : 編集
latifaさま、こちらにもコメント&TBをありがとうございます。
10年以上前の映画ですが、かなり前にご覧になったのですね。
いろんな国の映画をご覧になっておられて、本当に凄いな・・・と思っています♪
モンドが海の中に入るシーン、ありましたよ。
とっても詩的な映像でしたよね~、綺麗で引き込まれました。
音楽もロマ音楽だと思います、トニー・ガトリフさんですから。。
原作、図書館で探してもらっています。←何でも図書館頼み^^;
何度でも観たい、素晴らしい映画ですね。
ではでは、またお伺いします~。
2008-01-08 17:19 : 真紅 URL : 編集
モンド
先日はTB&コメありがとうございました。
ガトリフ作品の中でも『モンド』1,2を争う
大好きな映画です。
映像を見るだけで、主演のあの子の深い瞳をみるだけど泣けてくるほど。
またお邪魔します。
2008-01-25 12:54 : 泉美咲月 URL : 編集
泉美咲月さま、初めまして。コメント&TBをありがとうございます。
『モンド』本当に素晴らしい作品でした。
原作も読みましたが、驚くほど忠実に映像化されているのですね。
また落ち着いたら、ガトリフ作品を探して観たいと思っています。
私も、また伺わせて下さいね。ではでは・・。
2008-01-25 19:30 : 真紅 URL : 編集
おお~、さすがに真紅さんは良い映画観られてますね。わたしはこの作品、ジャケット写真しか見たことがなかったのですが、最近深夜テレビでかかったのでチェックしてみました。
この映画を観て、本当に世界は美しい、と感じました。そしてあの幸せな時間が悠久に続くと思いきや、あのオチが待っていてかなりびっくりしました。
トニー・ガトリフ。この名前はこれからも覚えておこうと思います♪
2009-02-15 21:38 : リュカ URL : 編集
リュカさま、こんにちは~。コメントとTBをありがとうございます!
ええ~、この映画深夜TVでやったんですか!? チェックしてなかったな~。
これはDVD欲しいと思っている映画です。
あのオチ(というかあれ)、ビックリしましたよね。。
原作も読んだのですが、あれはガトリフの解釈なのかなと思いました。
原作者はノーベル賞受賞者ですからね~、多くの方に観ていただきたい映画ですね!
ではでは、またお伺いします~。
2009-02-16 19:34 : 真紅 URL : 編集
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