愛を探して~『トランシルヴァニア』
トランシルヴァニア



 TRANSYLVANIA


「どうして心が惹かれるの?」

 フランスから強制送還された恋人のミラン(マルコ・カストルディ)を探しに、ジン
ガリナ(アーシア・アルジェント)
は彼の故郷である、閑散としたトランシルヴァニア
の村へやって来る。「何しにここへ?」「愛を探しに」
しかし、再会したミランはジンガリナを拒絶し、絶望と混乱の中で音楽だけが鳴り
響いていた。


ベンゴに続き、トニー・ガトリフ監督作品2作目。本作でも、監督のルーツである
ロマの音楽と風俗が、映像の中に叩きつけられるように盛り込まれている。そして、
荒涼としたトランシルヴァニアの風景。本作は大阪では11月半ばにひっそりと公開
されていたが、こんなに早くDVD化されるとは、うれしい驚き。愛を喪って道には
ぐれ、自らの内なる激情と折り合いがつけられないジンガリナと、彼女に寄り添い
ながら共に生きようとする強い風のような男・チャンガロ(ビロル・ユーネル)
二人の自由な魂の彷徨、トランシルヴァニアを巡る「愛より強い旅」が描かれる。

トランシルヴァニア3

 ミランの子を身籠るジンガリナは両手の10本の指全てに指輪をはめ、左手の平
には「お守り」だと言う目のタトゥーを入れている。自分へと流れ込む全ての感情・
視線を拒絶し、今にも爆発しそうな彼女の生き様が危うすぎる。「悪魔がいる!」
と叫んで森でのた打ち回るジンガリナ。痛々しく、孤独過ぎて目を背けたくなる。
ジンガリナを演じたアーシア・アンジェルトが、エキセントリックでエモーショ
ナル
なヒロインに、はまり過ぎるほどはまって見事。祈祷を受けた後、彼女は「ど
うしても心惹かれる」ロマの女に成り切ったように見える。

 チャンガロを演じるビロル・ユーネルも、粗野な中年男のようでいて、純粋さ
と弱さ、やさしさを併せ持つ男を演じてなんとも魅力的。彼が作る料理の荒々し
いこと!玉ねぎを叩き潰し、トマトをぶち込み、レシピなんかクソ食らえ!とい
う感じ。それでもジンガリナのために、シャンデリアを灯すロマンテイストも持
ち合わせているのだ。

 彼もジンガリナもロマ民族ではない。しかし定住をよしとせず、村から村へさ
すらう姿
はロマそのもの。二人のあてもない旅は、差別を受けたり、熊に遭遇し
たり、おじいさんの自転車を運んだり・・・。少しずつ膨らんでいくジンガリナの
お腹とともに続いていく。

トランシルヴァニア2

 トランシルヴァニアが真っ白な雪に閉ざされようとした頃、新しい生命が生ま
れようとする。動揺し、タバコの吸い口が逆になっているのも気付かないチャン
ガロの表情がいい。ギターを持った熊の人形に導かれて、ジンガリナの元へ帰る
チャンガロ。彼を迎えるラストのジンガリナの微笑みは、憑き物が落ちたように
清々しく、神々しくさえ見える。彼女が何故トランシルヴァニアという土地に惹
かれたのか。その答えはやさしげな視線の先にある。

『トランシルヴァニア』監督・脚本・音楽:トニー・ガトリフ/2006・仏/
   主演:アーシア・アンジェルト、ビロル・ユーネル、アミラ・カサール)
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テーマ:ヨーロッパ映画 - ジャンル:映画

[2007/12/11 09:31] | DVD/WOWOW | トラックバック(8) | コメント(12) |
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コメント
激しい映画ですよね。
本来人が持っている情熱的な思いは、都市生活でボンヤリと過ごしている間に、失われてしまうんだろうか、って思ってしまいました。
本当は感じているはずのエモーションの全てを、そのままの純粋さでぶつけてゆく姿には、いやというほど心が響いて共鳴してしまいました。
こんな風に生きたいなんて思ってしまったりします。本来の人間の生活って気すらしてしまいました。
ギドクの世界観にしろ、このトニー・ガトリフにしろ、世界観が出来上がってる映画人っていいですね。
本当のアーティストによる作品て気がします。
[2007/12/11 17:16] URL | とらねこ #.zrSBkLk [ 編集 ]
真紅さま~こんにちは!
昨日だったか一昨日だったか、真紅さまのところに来た時、この下の記事「ベンゴ」のところを、ちらっと読ませて頂いて(未見だし、知らない映画だったのですが、何かソソられるものがあったので)、で、あら~何か「トランシルバニア」みたいなニオイのする映画ねーって思っていたんです。

今、またさ~っと読み直したら(未見の映画の場合、いつもそんな風に読むクセがあるんです^^)、最後のところに、ちゃんと監督名が書かれているのにー!!そうか、同じ監督さんだったのね。
真紅さま、ここのところ、ガトリフ監督作品をたて続けにご覧になられているのねー。
私も過去の作品、見たいのだけれど、全然レンタルショップに置かれていないのー!

この映画、雰囲気のある映画だったというか、なんというか、好きとか嫌いとかじゃなくて、印象に残る映画でした。
[2007/12/11 18:04] URL | latifa #SFo5/nok [ 編集 ]
映画にもトランシルヴァニアという土地にもかなりこころ惹かれました。
ラストの出産の意味は深かったですね。
[2007/12/11 23:21] URL | Cartouche #- [ 編集 ]
真紅さん、こんばんは。
早速ご覧いただき嬉しいです。
今作は素早くDVD化してくれてよかった。
「愛より強い旅」は一体いつ・・・・。
ロマン・デュリス好きとしては同じルーマニア舞台の「ガッジョ・ディーロ」もオススメですー。
ガトリフ作品は映画としてはちょっと邪道なのかもしれないけど、良作か否かそういうのは抜きで、この上なくmy Favouriteなのです。
ガトリフ、クストリッツァ、アキン作品に通じる熱さがたまらなく好きですー
[2007/12/12 00:43] URL | かえる #LkZag.iM [ 編集 ]
とらねこさま、こんにちは。コメント&TBをありがとうございます。
この作品、オススメいただきありがとうございました。
トニー・ガトリフの映画はこれからも観ていきたいです。
都市で生活する私たちは、「生命力」が失われつつあるのでは・・と思いますね。
きっと、土や風や音楽と離れすぎているせいなのかもしれませんね。
音楽もCDではなくて、ライヴな音楽から。
ジンガリナとチャンガロにはそれがありました。
トニー・ガトリフは、生きるってどういうことなのかわかっているのだと思いました。
出産と同じで生易しくはないですが・・・。
「本当のアーティスト」その通りですね。
ギドクの作品も観たので、またお邪魔します。
ではでは!
[2007/12/12 13:13] URL | 真紅 #V5.g6cOI [ 編集 ]
laifaさま、こんにちは~。コメント&TBをありがとうございます。
おお、さすが嗅覚が鋭い!そうなんです、トニー・ガトリフはいきなりだと置いて行かれるかもよ、とおっしゃる方がいて、先に『ベンゴ』を観ました。
フラメンコが最高でしたよ~、きっとlatifaさまお好きなのではないかな。
私も本当に観たいものは見つからないのですが、いくつかレンタルショップの棚に発見したのです。
これから少しずつ観ていきたいな~と思ってます。

この映画は、そう、人間の本能に訴えかけるところがあるから、好き嫌いじゃなく心に残るのかもですね。
ではでは、またお伺いします~。
[2007/12/12 13:17] URL | 真紅 #V5.g6cOI [ 編集 ]
Cartoucheさま、初めまして。ご訪問&コメントありがとうございます。
ラストのジンガリナの表情、素晴らしかったですね。
今後ともよろしくお願いいたします。ではでは~。。
[2007/12/12 13:19] URL | 真紅 #V5.g6cOI [ 編集 ]
かえるさま、こんにちは~。コメント&TBをありがとうございます。
はい、実はレンタル開始日に借りてしまいました(笑)。
『愛より強い旅』は映画賞獲ったりしてる作品なのですよね?
どうしてDVDにならないんでしょうね、、権利関係がねじくれたりしてないといいのですが。
『ガッジョ・ディーロ』、探せども探せどもないのですよ~(泣)。
ガトリフ作品、まだ2作ですけれど、邪道と言うより作家性が濃いですね。
「我が道を行く」でいいのではないでしょうか?
クストリッツァも東欧の方ですよね、『パレスチナ・ナウ』で読んだような気が・・。
またいろいろ教えて下さいませ!ではでは~。
[2007/12/12 13:24] URL | 真紅 #V5.g6cOI [ 編集 ]
真紅さん,TBとメッセージありがとう。風邪で引きこもっている間に、たくさん映画観られていること!ぼちぼち読ませていただきますね。私は最近は60年代70年代の作品をもう一度見直している。青臭いときって本当に何を見ていたんだろうって思う。見直してみると、こんなに素敵だったんだ!って痛感しきりです。ブログって、こんな風に見た思いを文字にしてのこせていけるからいいですよね、観ているだけでなく言葉にしていくことで、もう一度自分の中で作品を捉え返せますものね。いっぱいいっぱい素敵な映画に出会いたいものですね。、
[2007/12/12 23:27] URL | シュエット #- [ 編集 ]
シュエットさま、こんにちは!コメント&TBをありがとうございます。
復活されたようで、よかったです~。ぶり返さないようにどうぞご自愛下さいね。
確かに、ブログに何かを残すというのは、自分の頭の中を整理するという意味でとてもいいことだと私も思っています。
流されるように、ただ作品を消費していくだけでなく、言葉にすることで新たに見つけられる部分もありますし。
出会いって大きいですよね。シュエットさまとの出会いも、今年は大きな喜びでした。
ではでは、またお伺いしますね~。
[2007/12/13 09:46] URL | 真紅 #V5.g6cOI [ 編集 ]
真紅さん コメントありがとうございます。
「ベンゴ」をご覧になったのですね。僕は前から観たいと思っているのですが、ガトリフ作品はレンタル店にあまり置いていないし、アマゾンでは高値が続いているのでなかなか観る機会がありません。「ラッチョ・ドローム」も観たい。
「トランシルヴァニア」はとにかくパッションと音楽が満ち溢れている。ジンガリナは体から思いっきり感情を発散しています。それがかえって爽快です。衣装を替えてからはどう見てもロマにしか見えません。あの濃い顔がキャラクターにぴったりです。
[2008/02/20 00:14] URL | ゴブリン #2YYP0Fkg [ 編集 ]
ゴブリンさま、こんにちは。こちらこそコメント&TBをありがとうございます。
確かに、ガトリフの作品はレンタルにはあまりないですし、DVDにもなっていないものもありますよね。
『ベンゴ』や『モンド』を観ることができたのは幸運でした。
『ラッチョ・ドローム』や『ガッジョ・ディーロ』も観たいのですが・・・。
『愛より強い旅』も早くDVD化して欲しいです。
本作は音楽はもちろん、主演二人の魅力が大きかったですね。
二人ともロマではないのに、精神的に近いものを持っているのでは、、と思わせる素晴らしい演技だったと思います。
TBが不調で残念ですが、また伺わせて下さいね。
ではでは!
[2008/02/20 10:36] URL | 真紅 #V5.g6cOI [ 編集 ]
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[2010/06/27 19:19] ☆彡映画鑑賞日記☆彡
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いつまでも青臭い映画好きでいたい。愛おしい映画と、忘れがたき本たち。ときどきカフェとか。 記事は基本的にネタバレあり。 どうぞご贔屓に♪

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