音楽そのもの~『グレン・グールド 27歳の記憶』

GLENN GOULD
OFF THE RECORDS / ON THE RECORDS
20世紀において最も愛され、最も伝説的存在だったピアニスト、グレン・グールド。
彼の生誕75周年の今年、天才の若き日々を記録したドキュメンタリーフィルムが
リバイバル上映されている。村上春樹のデビュー作『風の歌を聴け』の中で、神戸を
離れる主人公「僕」が親友「鼠」に贈ったのが、グレン・グールドのLPレコードだっ
た。その名を耳にすることはあっても、意識しては聴いたことがなかった「孤高の
大天才」の奏でる音楽とは?
オリジナルタイトルから分かるように、この記録映画は前後半30分ずつの二部
構成。前半の「OFF」では、トロント郊外の湖畔の自宅で寛ぐ姿や愛犬と散歩する
姿など、普段着のグレン・グールドの姿が垣間見られる。後半の「ON」では、ニュー
ヨークのレコーディング・スタジオでの演奏・録音風景が記録されている。

若き日の彼の風貌は「癖のある美青年」という感じ。ベン・ウィショーに似ている
と感じた。帽子にマフラー、手袋にコートという出で立ちは、「奇人」「異端児」の
雰囲気そのもの。そして最も驚かされるのは、その演奏スタイルだ。

裸足で背中を丸め、椅子は低く足を組み、ハミング(!)しながら弾いている!
時には空いた片手を宙に浮かせ指揮をとり、陶酔するように頭を仰け反らせる。
彼の「歌声」をマイクが拾うため、録音技師は毎回苦労したという。なんとも奇妙な
体勢ながら、その指先から奏でる音楽の独創的なこと!彼が弾いているというより
もむしろ彼自身が「音楽そのもの」で、指先から音が自然発生的に飛び出している、
という印象を受けた。誰もが、聴いた瞬間に魂を奪われた--、そんな逸話も納得
だ。
32歳で演奏活動から身を引き、50歳という短い生涯を終えるまで、録音活動での
み演奏を続けたというグールド。彼の演奏は、地球外生命体との出会いの為に人類
の遺産を積んで打ち上げられた惑星探査機、パイオニア10号にも収められている。
まさに人類代表、地球の音なのだ。
映画としては60分という短い尺だけに、後半部分の彼の演奏をもっと聴きたい、
という飢餓感を憶える。続きはCDを聴くことにしよう。
(『グレン・グールド 27歳の記憶』監督:ロマン・クロイター、
ウルフ・ケニッグ/音楽・出演:グレン・グールド/1959・カナダ)
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