聖なる空間~『呉清源 極みの棋譜』
呉清源


 THE GO MASTER


 中国・北京に生まれ、その天賦の才を買われ14歳で囲碁修行のために来日した
呉清源(ご せいげん)。川端康成を始めとする文豪に愛され、昭和囲碁界最強の
打ち手
と呼ばれ、囲碁界に革新をもたらした天才棋士である。激動の昭和を生き、
90歳を越えた今も囲碁の研究に邁進する彼の人生を綴った伝記ドラマ。監督は
中国の「第五世代」の一人、田壮壮。囲碁には全く明るくなく、田壮壮監督作品も
初見、ただただ主演の「アジア映画界若手ナンバー1」こと張震チャン・チェンくん
観たさという不純な動機で鑑賞したが、参りました。スクリーンが暗転して場内
が明るくなった時、打ちのめされたような感覚を憶えた。素晴らしい作品です。
衣装・プロダクションデザインはワダエミが担当している。

 その青緑がかった映像は限りなく丹念に写し撮られ、やわらかな光に包まれて
幻想的でさえある。細部にまで行き届いた繊細さ。張震が体現する呉清源の静謐
な佇まい
に、映画全体が支配されているかのようだ。

呉清源2

 対局中、対戦相手が昏倒しても、自分自身の「勝負の世界」から決して顔を上げ
ない、呉清源の凄まじいまでの囲碁への執念。まさしく勝負のであり、その姿
「非人間的」でさえある。そう、彼はもはや人間や俗世間を超越した、仙人のよう
に見えるのだ。彼はススキの野原や海辺にはとても調和しているが、街中ではど
こか落ち着かなく見えてしまう。そしてその街中で、彼は後遺症によって棋力を
奪われることになる交通事故に遭遇する。

 人間的な感情や煩悩を超越してみえる呉清源も、戦前、戦中の対日関係の悪化
による、帰化人としての苦悩があったのだろう。生死を賭した、息詰まるような
孤独な対局の果てに、心の拠りどころとして新興宗教にのめりこんでいく彼の心
葛藤、囲碁と距離を取ろうとする微妙な心の揺れが、少ないセリフの中で丁寧
に描かれてゆく。

 中国映画でありながら日本が舞台である本作には、日本人俳優も数多く出演し
ている。中でも、呉清源を公私に渡ってバックアップした棋士・瀬越憲作を演じ
柄本明がいい。原爆の爆風を受けても、何食わぬ顔で防空頭巾を被り「対局を続
けましょう」と言う彼の演技。人間離れした棋士たちの生態を、飄々と軽々とみせ
てくれる。童顔の野村宏伸が川端康成、というキャスティングだけはちょっと首
を傾げるかもしれない。

 神秘的とも言えるその映像世界は、観る人によっては「退屈」で、「睡眠作用」も
あったりするのかもしれない。しかしそれは田壮壮監督が観客に媚びず、自らの
世界観を信じて真摯に、誠実に自らの作品と向き合っている証ではないだろうか。


『呉清源 極みの棋譜』監督:田壮壮/原作:呉清源『中の精神』/
      主演:張震チャン・チェン、柄本明、伊藤歩/2006・中国、日本)
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[2007/12/01 11:22] | 映画 | トラックバック(8) | コメント(14) |
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コメント
きゃー!真紅さま、凄く良かったのですね。
うむ~、それなのに、なんだか申し訳ないですが・・・ でも!そういう違った感想同士が腹を割って?話せる!っていうのは良いもんです♪

私は、どうも期待した様な内容の映画じゃなかったので(もっと天才的な才能の部分で、おおっ!と思わせてくれるシーンがあるだろう・・とか思っちゃったんです・・)、それと、宗教関係にのめりこんで・・・・その後・・・という部分が結構大きく扱っていて、そこがあまり私にはピンと来なかったんです・・・残念でした。

でも、チャン・チェン君は、すてきでした~~♪
(締めくくりはソレかい?↑)
[2007/12/01 17:57] URL | latifa #SFo5/nok [ 編集 ]
真紅さま
この作品観ていらしたんですね。興味あります。
今回も観ない様に観ているのですが、川端康成が野村宏伸っていうところだけ目につきました。
エッ ! 川端先生はただ者じゃぁ無いし、眼孔鋭い方ですよ。
彼に演じきれるのかしら…なんて。
チャンスあったら観てみたいと思います。

[2007/12/01 18:29] URL | Maria #lCtfuzkM [ 編集 ]
真紅さま、こんばんはv-255
ご無沙汰しております。
すっかり街はクリスマスの雰囲気に彩られていますが、真紅さまのブログも、クリスマスらしいですね!

この作品ですが、真紅さまはそれほどまでに、気に入られたのですね。
私は、この静謐さが心にスーっと沁みてくるようにも感じましたが、部分的には、もっと寄って撮って欲しい箇所がいくつかあり、もっと人物の表情が見たくて、欲求不満になることもありました。
[2007/12/01 22:42] URL | とらねこ #.zrSBkLk [ 編集 ]
真紅さん、こんばんは。
ふふふ、相当気に入られましたね!
わかりますわかります。
観客に媚びない田壮壮監督の作品作りに好感すら持ちました。
淡々と描かれる物語ですがそれだからこそ呉清源という人物の苦悩や魅力が際立ったように思います。
張震の静かで凛とした佇まいは呉清源そのものに見えました。
[2007/12/02 00:49] URL | sabunori #JalddpaA [ 編集 ]
真紅さん♪
TB&コメント、ありがとうございました。
知る人ぞ知る地味な公開で、
作品も淡々と描かれていましたが、
不思議な緊張感を感じました。
・・・チャン・チェンの魅力のせいかな?
[2007/12/02 09:45] URL | ひらで~ #- [ 編集 ]
latifaさま、こんにちは~。コメントとTBをありがとうございます。
いえいえ、感想は人それぞれですから!
特にこの映画は、退屈と感じられても無理はないと思いますし。
確かに、囲碁の対局も始まりは丁寧に描かれますが勝敗はほとんど描写されませんよね。
(囲碁が分かる方には分かるのだと思いますが)
監督の描きたかった部分はその辺りではなかったようですね。
私だって動機は「チェン・チェンくんが観たい!」それだけですから(笑)
いい役者ですよね~、大好きです彼。
ではでは、またお伺いしますね~。
[2007/12/03 08:54] URL | 真紅 #V5.g6cOI [ 編集 ]
Mariaさま、こんにちは。こちらにもコメントありがとうございます。
チャン・チェンくん観たさで鑑賞しましたが、作品自体の素晴らしさにも圧倒されてしまいました。
ただ、野村宏伸さんだけは・・。彼って童顔なので、あの大文豪という感じは申し訳ないですがなかったです。
長身のチェン・チェンくんに釣り合うようにキャストされたのかな?と思いました。
DVD化された後にでも、是非ご覧になってみて下さいませ。
ではでは、またお話しましょう~。
[2007/12/03 08:58] URL | 真紅 #V5.g6cOI [ 編集 ]
とらねこさま、こんにちは。コメントとTBをありがとうございます。
もう12月ですよ~、早いですね。今年は特に秋が短かったので、あっと言う間でした。

そうなんです、『マイティ・ハート』ではあんなに眠くなった自分なのですが、この作品は全く眠くもならず。
確かに、人物の表情は横顔が多かったような気がしますね。
役者に演技をさせていなかったというか、自然に流れるように撮られていたような気がしました。
私は、観て本当によかったと思いました♪
ではでは、またお伺いします~。
[2007/12/03 09:04] URL | 真紅 #V5.g6cOI [ 編集 ]
sabunoriさま、こんにちは。コメントとTBをありがとうございます。
そうなんです~、この映画物凄く好きでした!
いや、好きと言うよりも圧倒された、と言う感じでしょうか・・。
観るものに感情移入させない監督の作り方は、呉清源の囲碁と同じく「非人情」かもしれないのですが、そこに凄みを感じてしまったのです。
チャン・チェンくん、よかったですね。日本語も頑張っていましたし!
彼は「佇まいの人」ですね。これからも期待です。
ではでは、またお伺いします~。
[2007/12/03 09:10] URL | 真紅 #V5.g6cOI [ 編集 ]
ひらで~さま、こんにちは♪ コメント&TBをありがとうございます。
この映画、地味ですが割と全国的に公開されているのですよね。
チャン・チェンくんは無口で淡々とした役がはまりますよね~。
私は彼のデビュー作を観ていないのです。いつか観られることを願っているのですが・・。
『息』も楽しみですね。
ではでは、またお伺いします~。
[2007/12/03 09:13] URL | 真紅 #V5.g6cOI [ 編集 ]
真紅さん

単調でありましたが、退屈も眠くもならなかったです。この呉さんのことは全然知らなかったんですが、ものすごくドラマチックな人生ですよね。でも映画はあくまで人生を観客として客観視していて、呉さんの精神世界までは覗かないように作られてるように感じました。
チャン・チェンはすごく好感持てる感じでしたよ!大阪が気に入ってまた来てくれたらいいですね。
[2008/03/06 20:33] URL | kazupon #mQop/nM. [ 編集 ]
kazuponさま、こんにちは♪ コメント&TBをありがとうございます。
呉清源さんのことは私も全く知らず、映画自体もセリフが少ないし分かり難い部分はあったのですが、素晴らしい映画だったと思います。
映像や、あとおっしゃるように客観的な視点ですね。淡々としつつ物凄くドラマちっくな人生を描くという。
チャン・チェンくん、どのブロガーさんも称えられてますよね!
人柄がいいんですね~。うれしいですね~♪
彼の新作もまたスクリーンで観たいと思ってます!
ではでは、またお伺いします~。
[2008/03/07 11:06] URL | 真紅 #V5.g6cOI [ 編集 ]
真紅さん、こんにちは~
囲碁はちっとも知らない私ですが、映像に引き込まれ、人物に魅了されました。
勝負師と言うより芸術家のように繊細な清源さんでしたよね。
しばらく観てなかったのですが、チャン・チェンは今やすっかり役者さんなのですね~
『春の惑い』も映像美でした。
TBさせてください。
[2008/09/13 02:41] URL | fizz♪ #0HzTjQFo [ 編集 ]
fizz♪さま、こんにちは~。コメントとTBをありがとうございます。
映像に力がある映画ですよね。観終わったとき「凄い!」と思いました。
この映画、大阪で賞を獲って、チャン・チェンくんが来阪してくれたんですよ!
なのに、私は会いに行けなかったんです・・・。号泣!!
ホント、素敵な青年ですよね。
今はオダジョーが田壮壮監督作に参加していて、撮影中なんですよね。
すっごく楽しみです~。
ではでは、後ほどお伺いします!
[2008/09/13 17:26] URL | 真紅 #V5.g6cOI [ 編集 ]
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